書類送検された場合に前科・前歴はつくのか?
「○○の容疑で書類送検されました」などとニュースで報道されることは多いです。
よく聞く言葉ではありますが、この「書類送検」とはどのような処分で、また、書類送検がされるとどうなるのでしょうか?
ご自身や家族が刑事事件で逮捕されてしまった場合、「同様に書類送検をされてニュースになったりしないか」「書類送検で前科・前歴がつくのではないか」と心配になる方は多いでしょう。
以下では、書類送検と逮捕の違いや、書類送検されるとどうなるのか(前科・前歴になるのか)などについて説明します。
1.書類送検とは?
(1) 書類送検の意味
刑事訴訟法246条では「司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。」と定めています。
この条文にあるように、原則として警察が犯罪の捜査をしたときは、起訴・不起訴を決定する権限を持つ検察官に、関係書類・証拠物とともに事件を送致しなければなりません。
これを「検察官送致」といい、報道等では「送検」と呼ぶことが一般的です。
送致を受けた検察官は、必要な補充捜査があればそれを行った上で起訴・不起訴の処分を決めます。
つまり、送検されたからといって必ず起訴されるわけではありません。
送検には、警察が被疑者を逮捕して被疑者の身柄と一緒に書類等を検察官に送る場合と、逮捕せずに書類等のみを検察官に送る場合の2種類があります。
実務では、前者について「身柄付き送致」、後者について「在宅送致」と呼ぶことがあります。
これらがそれぞれマスコミ用語等で「身柄送検」「書類送検」と呼ばれているのです。
つまり、 「送検」のうち、被疑者が逮捕されていない場合の「書類」「証拠物」と共にする事件の引き継ぎを「書類送検」と呼びます。
(2) 書類送検と逮捕の違い
「逮捕」は基本的に、被疑者が証拠隠滅や逃亡をするおそれがあると認められる場合に行われるため、それらのおそれがない場合は逮捕されず(身柄送検とならず)に書類送検されるにとどまるでしょう。
例えば、痴漢・盗撮・万引きなどの比較的軽微な犯罪の場合は、犯行を否認していたり定まった住所がなかったりする場合を除き、逮捕されずに書類送検となる場合が多いです。
一方で、いかに身元がしっかりしていて犯行を素直に認めていても、殺人や強盗のような重大事件は逮捕されて身柄送検になるでしょう。
つまり、書類送検と逮捕の違いは、被疑者の身柄が検察官に送致されるかどうかという点にある、と言えます。
数の上では、身柄送検よりも書類送検の方が圧倒的に多いと言えます。
[参考記事]
「送検」とはどういう意味?|身柄送検、書類送検
2.書類送検と前科・前歴の関係
「前科」とは、簡単に言うと有罪となったことの記録です。
正式に裁判を受けて裁判所で有罪判決を宣告された場合だけでなく、略式起訴をされて裁判官から略式命令(罰金刑)を受けた場合も前科になります。
「前歴」とは、被疑者として捜査対象になったものの最終的に不起訴処分となった事実をさします。有罪判決が下されていない場合であっても前歴はつきます。
前科と前歴の違いに関しては、基礎知識の「前科と前歴の違い」をご参考ください。
(1) 書類送検されても必ず前科になるわけではない
書類送検は、言ってしまえば警察から検察庁に事件の書類等が送られた、というだけのことです。
裁判官から有罪判決を宣告されたわけでも、略式命令を受けたわけでもないので、書類送検がされたことがイコール前科になるわけではありません。
書類送検がされて、検察官が正式起訴又は略式命令請求を行い、それらを受けて裁判官が有罪判決又は略式命令を出し、さらにそれらが確定して初めて「前科」となります。
つまり、書類送検がされても、その後不起訴処分となった場合は前科にはなりません。
前科を避けたいならば、書類送検後に不起訴を勝ち取るための活動をする必要があります。
【前科がつくとどうなるのか?】
前科がある場合、就職面接や履歴書などで「前科はありません」と虚偽の申告をすれば、経歴詐称になるリスクがあります。重い経歴詐称であると判断された場合、内定取り消しや解雇などの不利益を被る可能性もあります。前科がつくことで制限されてしまう資格や職業もあります。
海外渡航をする場合、渡航先の国によっては前科があることが入国の障害になることもあるため、事前に確認する必要が生じます。
前科があることで、帰化申請・永住権の申請が困難になる可能性もあります。
(2) 書類送検されると不起訴処分でも前歴は残る
もっとも、不起訴処分となった場合も、警察から捜査されて書類送検されたということは「前歴」として警察の方で記録されます。
前歴があるかどうかは、その後に事件を起こした場合の処分の内容に影響してくる場合があります。
例えば、一度不起訴になった後に再度同じような事件を起こした場合、「前回不起訴だったので今回も不起訴になるだろう」と安易に考えることはできません。
前回の不起訴処分からどのくらいの期間が空いているのかなどにもよりますが、同じような事件の前歴があって再犯をすると、「反省していない」「更生しない」と判断され、正式起訴又は略式命令請求をされて前科がついてしまう可能性がかなり高くなるのが通常です。
【書類送検に付される意見と検察官の判断の関係】
書類送検の際に警察官は、犯罪の事実や情状等に関する意見を付した送致書を検察官に送ります。その中には、被疑者の処分に関する警察官の意見(厳重処分を求める旨やその理由)も記載されています。
これはあくまでも参考資料の1つですが、検察官は、起訴判断に際して送致書の記載を参考にします。実際、警察官の意見と検察官の意見は一致することが多いです。そのため、警察官から受ける取調べでの被疑者の発言や態度は、後の処分に大きく影響すると考えて良いでしょう。
[参考記事]
「厳重処分(処分意見)を付けて書類送検」とは?
3.まとめ
書類送検されただけでは前科はつきませんが、その後起訴処分された場合には無罪判決は1%以下ですので、前科がつく可能性が極めて高くなります。
これを回避するためには、起訴前に犯罪被害者との示談をするなどの弁護活動が重要となってきます。
[参考記事]
刑事事件の示談の意義・効果、流れ、タイミング、費用などを解説
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