刑事弁護 [公開日]2018年6月6日[更新日]2021年2月24日

刑事裁判で「弁護士なし」は可能?

刑事事件で正式裁判となってしまった場合、弁護士費用が払えないだろうから、自分だけで裁判を受けようと考えている方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、それは制度上可能なのでしょうか。

以下においては、刑事裁判では弁護人がいなくても良いのか、弁護人なしの場合にデメリットはあるか等ついて解説することとします。

なお、以下では、刑事訴訟法は「法」、刑事訴訟規則は「規」と略記します。

1.刑事裁判では弁護人をつけないことは可能?

捜査段階(起訴前)では、弁護人を選任するかどうかは被疑者の自由となっています(法30条1項)ので、被疑者が弁護人のつくことを望まない限り(※)、被疑者に弁護人がない状態で捜査手続が進められても、法律的には問題がないことになります。

※なお、捜査段階で勾留請求された被疑者、勾留状が発布された被疑者が希望すれば、裁判官は国選弁護人をつけなくてはなりません。これを「被疑者国選」と呼びます(法37条の2)。

しかし、起訴後で下記に該当する場合は、原則として、被告人に弁護人がなければ裁判手続を行うことができません(これを「必要的弁護事件」と呼びます)。
この場合、被告人が私選弁護人を選任しなければ、裁判所が職権で国選弁護人を付することになります(法36条)。

  • 法定刑に死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮がある事件を審理する場合(法289条)・・・殺人罪、強盗罪、窃盗罪など
  • 公判前整理手続又は期日間整理手続を行う場合(法316条の4、316条の7、316条の8、316条の28第2項)。
  • 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件を審理する場合(法316条の29)。
  • 即決裁判手続に係る公判期日を開く場合(法350条の18、350条の23)。

上記以外の場合には、被告人が弁護人のつくことを望まない限り、被告人自らが刑事訴訟の当事者として弁護人のない状態で裁判を受けることができます(これを「任意的弁護事件」と呼びます)。

なお、弁護士白書(2018年度)によりますと、地方裁判所・簡易裁判所共において、ほぼ100%近くの割合で刑事弁護人がついています(※「地裁・簡裁における刑事弁護人(被告人段階)選任率の推移(国選・私選別)」 弁護士白書(2018年版)93頁)。

一方で、刑事弁護人を選任せず公判に臨む被告人もわずかながらいます。

被告人が自ら弁護人を選任しない、あるいは国選弁護人の選任の請求もしない理由としては、被告人が弁護士費用を払えないからということも勿論あるでしょう。
それ以外でも、事実関係等に全く争いがないため、弁護人を選任する必要がないと被告人が判断したケースもあると思われます。

もっとも、弁護人がついていない場合、裁判官は「必要と認めるとき」には、職権で国選弁護人をつけることができる(法37条5号、36条)ので、現実の裁判では、被告人が国選弁護人の選任を希望しない場合でも、ほとんどの場合、職権で国選弁護人を付しています。ですから前述の統計のとおり、ほぼ100%近く弁護人がつく結果となっているのです。

たとえ事実関係に争いがない自白事件であっても、弁護人が被告人に有利な事情を主張することで量刑は変わりますし、適法な刑事手続が行われたか否かをチェックする能力は被告人に期待できず、被告人の権利保護を十分に図るには弁護人の存在が不可欠と裁判所も考えているからです。

2.弁護人なしの裁判のデメリット

事件内容によっては弁護人なしでの裁判が可能とはいえ、実際に弁護人をつけずに裁判に臨むとどのようなデメリットが生じるのでしょうか?

(1) 様々な手続きの手間がかかる

被疑者・被告人のいずれの段階でも、刑事訴訟法上多くの重要な権利が与えられています(接見交通権、勾留理由開示請求権、保釈請求権等)。

その権利を行使するためには、申立てや請求といった手続をとらなければならないことがあります。

留置場や拘置所内には、各手続の書式や記載見本が備えられており、被疑者・被告人自身が申請書類などを作成して、裁判所等に提出することは妨げられません。

しかし、実際に各種の刑事手続を的確に行うには、専門家である弁護人の力が必要なことは言うまでもなく、弁護人がついていないのは、大きなデメリットといえます。

(2) 専門性の欠如

通常、被疑者・被告人本人は法律知識に乏しく、しかも犯罪の嫌疑を受け、身体も拘束されて、心理的・肉体的に大きな負担を背負っています。

他方で、検察・警察は強大な国家組織で、強制的な捜査を行う広範な権限を持っており、被疑者・被告人に対して圧倒的に有利な立場にいます。

このアンバラスを放置すれば、行き過ぎた捜査によって被疑者・被告人の人権を侵害し、冤罪を生む危険があります。

そこで憲法、刑事訴訟法は、被疑者・被告人に各種の防御権を保障したのであり、これら権利を活用するには、弁護人による弁護が必要なのです(憲法37条3項)。

被疑者・被告人に弁護人がついていなければ、被害者と示談をしたり、事実関係を争ったり、有利な法的主張をしたりすることが困難になるので、十分に防御活動が行えません

結果的に、起訴されてしまったり、裁判で厳しい判決が出されたりするなどの不利益を被ることになってしまいます。

(3) 勾留中の接見に支障も出る

被疑者・被告人は裁判官によって、弁護人以外との接見が制限される場合があります(法80条、81条、207条、60条)。

接見が制限された場合、弁護人としか自由に接見ができませんので、家族と連絡を取ることも困難になります。

 

上記のように、弁護人無しで刑事手続きを進めることは、被告人にとって多くのデメリットがあります。

したがって、弁護人のつかない裁判は控えた方が得策と思われます。

3.弁護士費用がなく弁護人をつけられない場合

弁護人なしの場合の唯一の利点は、弁護士費用がかからないということだと考える方がいます。

しかし、これは間違いです。何故なら、国選弁護を利用すれば、多くの場合、費用はかからないからです。

国選弁費用は「訴訟費用」として、裁判所が判決で、その全部又は一部を被告人に負担させることになりますが、被告人が貧困のために訴訟費用を納付することができないことが明らかな場合は負担させないことができます(法181条1項但書)。

多くの場合、被告人に資力があるかどうかは、裁判の証拠(例えば身上調書)から明らかですから、例えば逮捕勾留で職を失って収入がなくなったような場合には、国選弁護費用を負担させないという判決内容となります。

また判決で訴訟費用を負担させられても、その判決が確定した後20日以内に裁判所に対して「訴訟費用執行免除の申立」(法500条)を行えば、費用の全部又は一部が免除されます。

また、仮に国選弁護費用を負担することとなっても、一般的な自白事件(第1回公判期日と判決期日の2回だけで終わるもの)の場合、通常は8万円程度ですので、弁護人抜きで裁判を受けるデメリットと比較するほどの大きな負担ではありません。

[参考記事]

当番弁護士の仕組み〜国選弁護人、私選弁護人との違いは?

4.まとめ

刑事事件で裁判になってしまった場合、被告人が弁護人なしで裁判をするメリットとしては「弁護士費用の節約」しかありません。

刑事手続において弁護人の存在は非常に重要なものなので、できる限り弁護士に依頼するようにしましょう。

泉総合法律事務所には、刑事事件専任の弁護士や、元検事の弁護士が在籍しております。刑事事件の弁護活動には多くのノウハウがございますので、もし被疑者・被告人になってしまったという方は、是非一度無料相談をご利用ください。

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