前科の生活への影響とは~前科者の資格制限、仕事、履歴書、海外旅行

刑事事件弁護

前科がつくと海外旅行はできないのか?|前科者のパスポートとビザ

【この記事を読んでわかる事】

  • パスポートの発行において、前科による影響はあるのか
  • 元受刑者、略式起訴、書類送検、犯罪歴ごとの海外旅行への影響
  • 前科者が海外へ行く場合の各国の対応と注意点

 

過去に刑事事件を犯してしまい、罰金などで前科がついてしまったとします。

この場合、仕事や資格、職業、パスポートはどうなるのでしょうか。海外旅行をすることはできるのでしょうか。

以下においては、前科による生活への影響、ケース別の前科者の海外旅行、犯罪歴の有無にかかわらず、海外旅行における留意点などについて、解説することとします。

1.前科による生活への影響

(1) 前科の刑法上の効果等について

刑の執行を受け終わった者は、他の者と差別されないことを原則とします。

しかし、一定期間内に禁錮以上の刑に処せられたことなどが執行猶予の欠格事由となったり(刑法25条)、再び罪を犯した場合に、累犯の関係を生じたり(刑法56条以下)して、前科があることにより、刑の執行を猶予されないという不利益を受けることがあります。

また、常習累犯窃盗においては、一定期間内に一定の前科があることが要件とされています(盗犯防止法3条)。

(2) 前科による資格制限について

①前科により制限される対象

大麻取扱者や医師などの免許、地方卸売市場の卸売業者や一般貨物自動車運送事業者などの許可、貸金業者や気象予報士などの登録、国家公務員や地方公務員などの官職への就職、弁護士や税理士など当該資格への就職などがあります。

②資格制限を生じさせる前科の内容である罪

大麻取扱者、医師、一般貨物自動車運送事業者、貸金業者、国家公務員、地方公務員や弁護士などのように、罪に限定のないものと、卸売市場法に規定する罪に限定されている地方卸売市場の卸売業者や気象業務法に規定する罪に限定されている気象予報士などのように、特定の罪に限定されているものとがあります。

③資格制限を生じさせる前科の内容である刑の種類

医師や気象予報士などのように、罰金以上の刑とされているものや、国家公務員や地方公務員、弁護士などのように、禁錮以上の刑とされているものなどがあり、さらに、貸金業者や税理士、建築士(一級、二級、木造建築士)などのように、貸金業法や税理士法、建築士法等の一定の罪については罰金の刑とされている一方、その他の罪については禁錮以上の刑とされているもののように、前科の内容である罪に対応して資格制限を生じさせる刑の種類を定めているものもあります。

④前科による資格免許の制限

免許を与えない」などと規定され、地方卸売市場の卸売業者、大麻取扱者、貸金業者、気象予報士、国家公務員、地方公務員、弁護士や税理士、株式会社の取締役や学校法人の役員などのように、前科により必要的に制限されるものと、「免許を与えないことがある」などと規定され、医師、調理師、看護師、栄養士、はり師などのように、裁量的に制限されるものとがあります。

裁量的に制限される資格については、制限を課すか否かを判断する主体は個別法に定められています

例えば、医師については、免許を付与しない処分又は取消しの処分をする主体は、医師法により厚生労働大臣とされており、厚生労働大臣が免許の取消処分をするためには、日本医師会の長や学識経験者らの中から任命された者で構成される医道審議会の意見を聴くこととされています。

⑤前科による資格喪失の有無と資格取得の制限期間

  • 国家公務員、地方公務員、自衛隊員、人権擁護委員、商工会議所の役員は、禁錮以上の刑に処せられますと、直ちにその資格を喪失し、また、禁錮以上の刑の執行猶予期間中及び刑の執行終了まで、資格取得が制限されます。
  • 旅客自動車運送事業者、保育士、社会福祉士、介護福祉士は、禁錮以上の刑に処せられますと、直ちにその資格を喪失し、また、禁錮以上の刑の執行猶予期間中及び刑の執行終了後2年間、資格取得を制限されます。
  • 質屋、行政書士、司法書士、不動産鑑定士は、禁錮以上の刑に処せられますと、直ちにその資格を喪失し、また、禁錮以上の刑の執行猶予期間中及び刑の執行終了後3年間、資格取得を制限されます。
  • 公認会計士は、特定の罪あるいはその他の罪について禁錮以上の刑に処せられますと、直ちにその資格を喪失し、また、禁錮以上の刑の執行猶予期間中及び刑の執行終了後3年間(その他の罪)又は5年間(特定の罪)、資格取得を制限されます。
  • 税理士は、特定の罪について罰金の刑、特定の罪あるいはその他の罪について禁錮以上の刑に処せられますと、直ちにその資格を喪失し、また、罰金の刑については刑の執行終了後3年間、禁錮以上の刑についてはその執行猶予期間中及び刑の執行終了後3年間(その他の罪)又は5年間(特定の罪)、資格取得を制限されます。
  • 建築士(一級、二級、木造建築士)は、特定の罪について罰金の刑、あるいは罪を問わず禁錮以上の刑に処せられますと、直ちにその資格を喪失し、また、罰金の刑については刑の執行終了後5年間、禁錮以上の刑についてはその執行猶予期間中及び刑の執行終了後5年間、資格取得を制限されます。
  • 警備業者・警備員、宅地建物取引主任者、貸金業者、建設業者、古物商、商工会の役員は、禁錮以上の刑の執行猶予期間中及び刑の執行終了後5年間、資格取得を制限されます。
  • 学校の校長・教員、裁判官、検察官、弁護士、保護司、調停委員、教育委員会の委員、中央競馬の調教師・騎手、検察審査員は、禁錮以上の刑に処せられますと、直ちにその資格を喪失し、また、禁錮以上の刑の執行猶予期間中及び刑の執行終了後10年間、資格取得を制限されます。
  • 医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師は、罰金以上の刑に処せられても、資格を喪失するか否か、資格取得を制限される否かのいずれも、裁量的とされています。

(3) 履歴書の記載等について

履歴書の記載等について

最近の履歴書には、前科があることを記載する「賞罰」欄がないものがほとんどのようですが、履歴書に「賞罰」欄を設けられている場合には、企業(雇い主)側の採用基準に犯罪歴が含まれていると考えられますから、前科があれば犯罪歴を記載すべきものと思われます。

もし、前科があるのに賞罰なしと記載したことが後日判明し、就業規則に懲戒解雇事由として「重要な経歴を詐わり、その他詐術を用いて雇用されたとき」などと「経歴を詐称した場合は解雇する」という規定が明確に定められている場合には、社会的な信頼を失うだけでなく、過去の犯罪歴を隠したことを理由として解雇される可能性はあります。

参考:前科があると就職に影響するのか?

以下に、関連する事項について、若干の説明を加えておきます。

  • 採用の面接時に過去の犯罪歴を聞かれた場合には、過去の犯罪歴を正直に申告しなければなりません。
    しかし、採用の面接時に犯罪歴の有無を聞かれない場合には、自ら進んで過去の犯罪歴を申告する必要はないと考えられています。したがって、犯罪歴を申告しなかったからといって、経歴を詐称したということにはなりません。
  • 公判中、処分保留で釈放、不起訴の場合は、犯罪歴に当たりませんので、企業(雇い主)側から過去の犯罪歴を聞かれた場合でも、これらの点について申告する必要はないと考えられています。
  • 執行猶予期間を経過し、また、刑期を終えて10年を経過した犯罪については、刑の言渡しの効力が失われていますから(刑法27条、34条の2)、履歴書の「賞罰」欄に犯罪歴を記載する必要はありませんし、採用の面接時に過去の犯罪歴を聞かれても、犯罪歴はないと答えても問題ないと考えられています。

(4) パスポートの取得について

憲法では、海外渡航の自由が保障されていますから、前科があっても、旅券法13条1項の次の各号に該当する場合でない限り、基本的に、パスポートを取得することができます。

  • これまでに海外で入国拒否、退去命令又は処罰されたことがある者(1号)。
  • 死刑、無期若しくは長期2年以上の刑に当たる罪により起訴されている者、又はこれらの罪を犯した疑いを受け、逮捕状、勾引状、勾留状などが発付されている者(2号)。
  • 禁錮以上の刑に処せられ、仮釈放、刑の執行停止、執行猶予中の者又は刑の執行を受けなければならない者(3号)。
  • 旅券法違反により処罰されたことがある者(4号)。
  • 旅券や渡航書を偽造したり、又は旅券や渡航書として偽造された文書を行使して(未遂を含みます)、刑法により処罰されたことがある者(5号)。
  • 国の援助等を必要とする帰国者に関する領事官の職務等に関する法律(国援法)を適用され、外国から帰国したことがある者(6号)。
  • 外務大臣と法務大臣が協議して、著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者(7号)。

2.ケース別の前科者の海外旅行

ケース別の前科者の海外旅行

(1) 元受刑者の場合

刑の執行を受け終わっているわけですから、旅券法13条1項に規定するパスポートの発給制限事由には該当しませんので、パスポートを取得することができます

しかし、パスポートを取得できたとしても、外国へ入国するには、渡航先の国で入国審査を受けなければなりません。アメリカやカナダ、オーストラリア以外の国では、普通、入国審査で犯罪歴の有無を質問されることはないようです。

短期間の観光旅行の場合、ほとんどの国ではビザなし渡航を利用することができます(ビザの必要な国は下記3のとおり)。

(2) 略式起訴の場合

旅券法13条1項に規定するパスポートの発給制限事由には該当しませんので、パスポートを取得することができます。

そして、略式起訴による罰金刑は、渡航先が、アメリカやカナダ、オーストラリア以外の国であれば、入国審査の対象外となっていますので、短期間の観光旅行の場合、上記⑴同様、ほとんどの国ではビザなし渡航を利用することができます(ビザの必要な国は下記3のとおり)。

(3) 書類送検の場合

旅券法13条1項に規定するパスポートの発給制限事由には該当しませんので、パスポートを取得することができます。

書類送検の段階ですから、どの国が渡航先であれ、短期間の観光旅行の場合、上記⑴同様、ビザなし渡航を利用することができます(ビザの必要な国は下記3のとおり)。

(4) 覚せい剤や窃盗などの犯罪歴がある場合

元受刑者の場合は、上記⑴と同様になります。

執行猶予期間中の場合は、旅券法13条1項3号に該当しますので、パスポートの発給制限事由に該当します。したがって、パスポートを取得できないこともあります。

パスポートを取得できたとしても、外国へ入国するには、渡航先の国で入国審査を受けなければなりません。

普通、入国審査で犯罪歴の有無を質問されることはないようです。短期間の観光旅行の場合、ほとんどの国ではビザなし渡航を利用することができます(ビザの必要な国は下記3のとおり)。

しかし、アメリカやカナダ、オーストラリアでは、薬物などの犯罪歴のある人の入国に厳しい姿勢を取っています。

オーストラリアでは、出入国カードに「犯罪歴がありますか?」という質問があります。

特に問題となるのは、アメリカの場合です。アメリカでは、逮捕歴のある人、犯罪歴のある人には厳しい制限を設けています。

最近、出入国カードに代わって事前のビザ免除プログラム、すなわち電子渡航認証システム(ESTA)が採用されましたが、事前申請の際に「これまでに不道徳な行為に関わる違法行為あるいは規制薬物に関する違反を犯し逮捕されたこと、あるいは有罪判決を受けたことがありますか?」「規制薬物の不正取引をしたことがありますか?」などという質問に応えなくてはなりません。

これらの質問に対する回答が「はい」の場合、ビザなし渡航は認められませんので、事前に審査を経てビザの発給を受ける必要があります。

3.犯罪歴の有無にかかわらず、海外旅行における留意点

犯罪歴の有無にかかわらず、海外旅行における留意点

日本の場合、短期間の海外旅行であれば、ほとんどの国では、ビザなしで渡航することができます(大抵はパスポートと入国の手続に必要な用紙の記入程度で終わってしまいます)。

しかし、アジア圏ではアフガニスタン・イスラム国、インド、カンボジア、北朝鮮、スリランカ、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、東ティモール、ブータン、ミャンマーへの渡航、中近東圏ではイエメン、イラク、イラン、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、シリア、バーレーン、ヨルダン、レバノンへの渡航、アフリカ圏ではアルジェリア、アンゴラ、ウガンダ、エジプト、エチオピア、カメルーン、ガーナ、ギニア、ケニア、ガボン、コモロ、コンゴ、コートジボワール、ザンビア、ジブチ、ジンバブエ、スーダン、タンザニア、ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、ベナン、マダガスカル、マラウイ、マリ、モザンビーク、リベリア、ルワンダ、中央アフリカ、大リビア・アラブへの渡航、東欧圏ではアゼルバイジャン、タジキスタン、トルクメニスタン、ロシアへの渡航、北中米・カリブ圏ではアメリカ、カナダ(空港で入国する場合は電子渡航認証の取得必要)、プエルトリコへの渡航、南米圏ではブラジルへの渡航、オセアニア圏ではオーストラリア、ナウル、パプアニューギニアへの渡航について、ビザが必要になります(事前か現地空港において)。

したがって、短期間の海外旅行であれば、西欧圏及びミクロネシア圏(グアムを含みます)の全部の国でビザなし渡航が認められ、また、アジア圏に限った場合でも、インドネシア、シンガポール、タイ、韓国、台湾、中国、フィリピン、ブルネイ、ベトナム(ただし、ベトナム出国時から30日以内にベトナムへ再入国する場合は、ビザが必要)、香港、マカオ、マレーシア、モルディブ、モンゴル、ラオスについては、ビザなし渡航が認められます。

さらに、アメリカ(ハワイを含みます)やカナダ、オーストラリアへの渡航については、電子渡航認証システム(アメリカはESTA、カナダはETA、オーストラリアはETAS)による渡航許可の事前取得が義務付けられています。

アメリカについては、上記2の(4)のとおり、犯罪歴等に対する回答によってはビザの発給を受ける必要がありますが、カナダ及びオーストラリアについても、過去の犯罪歴によっては、ビザなし渡航は認められませんので、事前に審査を経てビザの発給を受ける必要があります。

なお、アメリカ(ハワイを含みます)への渡航については、犯罪歴の有無にかかわらず、「ビザ免除プログラムの改定及びテロリスト渡航防止法」により、2011年(平成23年)3月1日以降にイラン、イラク、スーダン又はシリアに渡航又は滞在したことがある人は、ビザ免除プログラム、すなわち電子渡航認証システム(ESTA)を利用できませんので、ビザを取得する必要があります。

また、パスポートを取得できても、入国許可の基準は、国によって異なりますし、ビザの要否の規定が変更される場合もありますので、心配な場合には、渡航先の在日大使館、必要であれば渡航国の入国管理局にビザが必要かどうか問い合わせて確認するようにしましょう。

4.まとめ

前科があっても、海外旅行は絶対にできないということはありません。

しかし、前科がある場合、他に様々な不利益があります。刑事事件で逮捕されてしまった場合、まずは早期に弁護士に相談することで、不起訴を獲得し前科を免れることができます。

刑事事件は、お早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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