「未成年者との淫行で逮捕」淫行の定義と逮捕後の弁護
未成年者との淫行(性的行為)で逮捕されるニュースは近年増えており、社会問題となっています。
未成年者を相手とした性的行為は、児童福祉法、児童ポルノ禁止法、青少年保護育成条例といった複数の法令に違反する犯罪として、刑事罰を科される危険があります。
この記事では、これらの法令について、どのような行為が違反となるのかを説明します。
また、未成年者との淫行によって逮捕された場合には、どのように対応すべきなのかについても解説しますので、事件の被疑者になってしまった方やその家族の方も是非ご覧ください。
1.未成年者との淫行・性犯罪に関する法律
未成年者との淫行を処罰する法令について見ていきましょう。
(1) 各都道府県の青少年健全(保護)育成条例違反
各都道府県は、青少年の健全な育成を図ることを目的として、「青少年健全育成条例」又は「青少年保護育成条例」という名称の条例を制定しています。
例えば、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」、「神奈川県青少年保護育成条例」という名称で、都道府県ごとに定められています。
これら条例における淫行について、東京都の場合を例にとって説明しましょう。
例えば、東京都の青少年健全育成条例では、第18条の6に「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為(口淫、肛門性交を指します)を行つてはならない。」と定められ、これに違反すると、「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処せられます(第24条の3)。
①青少年とは
「青少年」とは、18歳未満の者を言います。19歳は含まれません。
②みだらな性行為とは
東京都の条例における「みだらな性行為」とは、他の自治体で用いられている「淫行」という表現と考えてかまいません。
福岡県の青少年保護育成条例に関する最高裁判所判例(※最高裁昭和60年10月23日判決)によると、「淫行」とは、次のように理解されます。
未成年者の同意があっても処罰されることに注意してください。
(ⅰ)広く青少年に対する性行為一般が淫行にあたるのではない。
(ⅱ)青少年を誘惑・威迫・欺罔・困惑させるなど、その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為が淫行である。
(ⅲ)青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性行為類似も淫行である。
(ⅳ)婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある場合は淫行ではない。
そもそも、自己の性的欲望を満足させる対象としか扱っていないのか、真摯な交際なのかは、内心の問題であって、これを明確に区別することは著しく困難です。本人は真剣でも、外から不純交遊と思われるかもしれません。
このため、たとえ相手に対して真剣な恋愛感情があり、その感情に基づく交際関係にあっても、条例違反として処罰される可能性は拭えません。
したがって、どのような経緯であろうとも、18歳未満を相手とした性的行為は厳に避けることが賢明です。
③18歳未満だと知らなかったら
相手が18歳未満と知らなかった場合でも、例えば愛知県の条例のように、過失犯を処罰する規定がある場合には、18歳以上と誤信したことについて過失があれば処罰される可能性があります。
過失の有無は、相手の年齢を確認する義務を尽くしたかどうか(身分証や学生証を確認したか等)で判断されますから、たとえ相手が18歳以上だと嘘をついていたとしても、それだけで直ちに過失がないとされるものではありません。
他方、東京都のように、過失犯の処罰規定がない都道府県では、18歳未満だと知らなかった場合には、処罰されません。
ただし、18歳未満だと知らなくとも、「未必の故意」がある場合は故意犯ですので、過失犯の処罰規定がない都道府県であっても処罰の対象です。この場合の未必の故意とは、「18歳未満かもしれないが、それでもかまわない」という認識のことです。
例えば、相手の容姿が明らかに幼く、通常ならば18歳未満ではないか?と疑う状況があれば、未必の故意が認定される可能性が高くなります。
(2) 児童淫行罪
児童淫行罪は、児童福祉法に定められています。
児童福祉法第34条1項6号では、「児童に淫行をさせる行為」を違法な行為としており、これに違反した場合には、「10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又は懲役と罰金の併科」という厳しい罰則が科されています(60条1項)
①児童とは
児童とは、「18歳に満たない者」のことです(児童福祉法第4条)。19歳は含まれません。
②「淫行をさせる行為」とは
上のように児童淫行罪は「淫行」を「させる行為」を禁止していますから、(a)「淫行」とは何かという点と、(b)「させる行為」とは何かが問題です。
この点、28歳の男性高校教師が、生徒である16歳の女子高校生との性行為で起訴された事件に関する最高裁の判例(※最高裁平成28年6月21日決定)は次のように判断しています。
(a)「淫行」とは、児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為である。児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交又はこれに準ずる性交類似行為は、これに含まれる。
(b)「させる行為」とは、直接・間接に児童に事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為である。
このように、児童福祉法が禁止しているのは、「淫行」それ自体ではなく、18歳未満の者に、例えば教師と生徒という立場を利用するように、何らかの影響力を行使して、淫行に至らせることです。
もともと児童福祉法は、子どもを商品とした管理売春を処罰する法律だったので、「児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者」つまり、買春客を相手に性行為を「させる」ことを禁止しているのです。
ただ、今日では、影響力のある者が、その力を行使して、自分との性行為を行わせることも、「させる行為」に含まれ、処罰されるとするのが判例です。もちろん、被害者が同意していても処罰を免れることはできません。
③18歳未満だと知らなかったら
児童福祉法には、児童淫行罪につき、児童の年齢を知らない場合の過失犯処罰規定がありますが、それは「児童を使用する者」に限り適用されるものです(同法60条3項)。
したがって、18歳未満の者を雇傭する使用者(雇用主)が、18歳以上だと誤信して、「淫行をさせる行為」を行えば、無過失でない限り処罰されますが、使用者でない者は、過失があっても処罰されません。
ただし、「未必の故意」がある場合は故意犯ですので、処罰の対象であることは、上記青少年健全育成条例違反の場合と同じです。
(3) 児童買春罪
金銭を支払ったり、商品をプレゼントしたりして、18歳未満の児童を性的行為を行うと、児童買春罪となります。援助交際と言われるものです。
児童買春罪は、児童ポルノ禁止法(児童買春処罰法)に定められています。
18歳未満の児童本人や、その保護者などに、金銭・商品などの対価を供与したり、供与の約束をして性交、性交類似行為等を行うことを「児童買春」として禁止しており、違反は5年以下の懲役又は300円以下の罰金となります(同法4条、2条2項)。
単に児童買春をしただけの者について過失犯を処罰する規定はないので、18歳未満ではないと誤信していた場合は、未必の故意がある場合を除いて、処罰されません。
ただし、児童の使用者による児童買春のあっせん・勧誘には、過失犯処罰規定があり、18歳以上と誤信したことに過失があれば処罰されます。
(4) 強制性交等罪・強制わいせつ罪・監護者性交等罪・監護者わいせつ罪
強制性交等罪(刑法177条)及び強制わいせつ罪(刑法176条)は、暴行・脅迫を用いて性交、肛門性交、口腔性交(これらを「性交等」と呼びます)、わいせつな行為(性的羞恥心を害する行為)をした場合に成立します。
相手が13歳未満の場合には、暴行・脅迫を用いず、相手方の同意があっても処罰対象になります。
また、13歳以上の者であっても、実の親、養子縁組をした養親、実親の内縁の夫や妻など、18歳未満の者を現に監護する関係にある者が、その立場に基づく影響力に乗じて、性交等に及んだときは監護者性交等罪(刑法181条1項)、わいせつ行為に及んだときは監護者わいせつ罪(同2項)が成立します。
現に監護するとは、法律上の監護権の有無にかかわらず、現実に、生活全般にわたって、継続的に、経済的・精神的に、18歳未満の者を保護し、依存される関係にあり、その意思決定に影響を及ぼしうることを言います。
この場合も、被害者の同意があっても犯罪が成立します。
強制性交等罪、監護者性交等罪の刑罰は、5年以上の有期懲役です。罰金刑はありません。
強制わいせつ罪、監護者わいせつ罪の刑罰は、6月以上10年以下の懲役で、罰金刑はありません。
なお、強制性交等罪および強制わいせつ罪は、次の刑法改正で「不同意性交等罪」「不同意わいせつ罪」に改める方針が固められています。
2.逮捕後の刑事手続きの流れ
では、18歳未満との淫行が発覚し逮捕された場合は、どのような流れになるのでしょうか。
①逮捕
短期的な身柄拘束です。
被疑者を逮捕後、警察は、逮捕から48時間以内に検察官に事件を送致します(送検)。検察官は、送検を受けてから24時間以内かつ身体拘束から72時間以内に、裁判所に勾留請求します。
②勾留決定(原則10日、最大20日)
裁判所の勾留決定によって「勾留」という長期の身柄拘束がスタートします。勾留の期間は勾留請求の日から10日間で、1回10日間の延長が認められ、最大20日間です。
③処分決定(起訴or不起訴)
検察官が処分を決めます。
不起訴になった場合には、刑事手続きは終了です。
起訴された場合でも、略式処分ならば、書類上の手続(略式手続)だけで裁判所によって決められた罰金を支払うことで刑事手続きは終了です。尤も、罰金でも有罪ですので前科がつきます。
通常起訴された場合には、公開法廷での刑事裁判を受けることになります。
また、勾留期間中に処分が決まらない場合、起訴・不起訴の判断を保留して釈放されることもあります(処分保留)。
④起訴後勾留
起訴された場合、通常はその後も身体拘束が続きます。
起訴後の勾留期間は、1回目は2ヶ月間で、その後は、裁判が終わるまで1か月ずつ更新されて裁判が終わるまで続きます。保釈請求は可能です。
⑤裁判
裁判では、執行猶予の獲得を目指すことになりますが、今日、子どもを被害者とする性犯罪に対する対応は非常に厳しいので、青少年保護育成条例違反、児童買春罪以外の場合は、初犯でも実刑になることもあります。
3.逮捕された場合にすべきこと
逮捕された場合にもっとも大事なことは、早急に被害者と示談することです。
逮捕中・勾留中に、被害者と示談できれば、不起訴になる可能性もあります。また、早期に示談ができると、勾留期間の満了前に不起訴の決定が出て、釈放されることもあります。
不起訴になることが難しいと考えられる事案の場合でも、刑事裁判において、執行猶予を得られるように、また、執行猶予も難しい事案であっても、実刑が少しでも短くなるように、情状のための弁護活動が必要です。
裁判での情状の中でも、もっとも重要なのは、被害者の宥恕を受けたかどうか、つまり、示談が成立しているかどうかということになります。宥恕とは、被害者が犯行を許し、刑事処分を望まない、あるいは寛大な処分を望むという意思を表明してくれることです。
もっとも、児童に対する犯罪の場合、示談の相手は保護者になります。
そして、自分の子供が性的な被害に遭えば、保護者が感情的になるのは当然のことです。そのため、示談が難航することも多くあります。
したがって、被疑者としては真摯な気持ちで被害者側に謝罪をする必要がありますが、被害者やその家族は「被疑者の顔も見たくない」と思うのが通常ですので、示談交渉は弁護士に代理人を依頼するのが必須と言えます。
4.性犯罪を犯してしまったら泉総合法律事務所へ
最近では、性犯罪に対する厳罰化の流れがありますから、相手が同意していても、年齢確認をするなど自衛することが重要です。
また、示談交渉相手は保護者となるため、示談成立が難しいことも多いです。よって、未成年に対する性犯罪での示談交渉に慣れた弁護士に依頼したほうがよいでしょう。
18歳未満の者との淫行で逮捕された場合には、早急に示談して、不起訴を獲得するためにも、早めに弁護士に相談してください。
泉総合法律事務所の弁護士は、性犯罪を犯してしまった被疑者の方の弁護も多数承ってきました。初回のご相談は無料となっておりますので、実績豊富な弁護士にぜひ一度ご相談ください。