性犯罪 [公開日]2018年3月6日[更新日]2024年4月17日

のぞきは何罪?刑罰は?

のぞきは何罪?刑罰は?窃視症という病気の可能性

のぞき(覗き)」という行為について、皆さん聞いたことはあると思います。

「入浴中ののぞき」「女子トイレののぞき」などは犯罪行為となりますが、具体的にどのような罪になるのでしょうか。
また、双眼鏡での「のぞき」や、着替え以外で単に人をのぞき見ることも罪となり逮捕されてしまうのでしょうか。

この記事では、「のぞき(覗き)」の刑法上の罪と、「のぞき」事件の被疑者となってしまった場合の弁護士による弁護方法などについて解説します。

1.「のぞき」の罪とは

「のぞき=覗き」とは、「ひそかにうかがい見ること」です。
冒頭の通り、入浴中の裸の姿を覗いたり、女子トイレを覗いたり、更衣室での着替えを覗いたりすることは犯罪行為となります。

一方、法律的な用語としての解釈では、「何の作為もしないのに、自然に又は偶然に見えてしまったような場合」は「のぞき」には当たりません。

では、のぞき行為はどのような罪に当たるのでしょうか。

(1) 軽犯罪法違反

「窃視の罪」の定義

軽犯罪法1条23号(窃視の罪)は、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」と規定し、これに該当する者は、「拘留(1日以上30日未満)又は科料(千円以上1万円未満)に処せられる」(同法1条柱書)ことになります。

正当な理由がなくて」とは、「違法に」という意味です。
正当な理由があるかどうかは、具体的事案に即して、社会通念により決せられるべきであると解されています。

「その他人が通常衣服をつけないでいるような場所」としては、病院の診察室・処置室等、旅館・ホテルの一室、キャンプ場におけるテント、列車の寝台、船舶の船室、試着室などがあります。
「場所」とは、正確には「場所の内部」の意味です(最判昭57.3.16刑集36・3・260は、「軽犯罪法1条23号の罪は、住居、浴場等同号所定の場所の内部をのぞき見る行為を処罰の対象とするものである。」旨判示しています)。

そうしますと、例えば「高所にいる女性のスカートの内部をのぞき、あるいは、低所にいる女性の胸元をのぞく」などの行為は、軽犯罪法違反に当たらないと解されています(しかし、これらは後述する迷惑防止条例違反にあたります)。

「ひそかに」とは、見られないことの利益を有する者すなわち、のぞき見ようとする相手に知られないようにすることをいいます。
不特定多数の人の面前でのぞきを行っても、見られる者に知られないようにすれば、「ひそかに」のぞき見たことになります。

なお、当然ですが、見られる者の承諾があれば、「ひそかに」には当たりません。

そして、望遠鏡で見ることはもちろん、カメラやデジタルカメラ、ビデオカメラ、それらの機能を備えた携帯電話機によって、ひそかに見ながら写真や動画を撮ることも、「のぞき見る」に当たるものと解されます。
この場合、のぞき窓や機器に映し出された画面を通してのぞいた時点で「のぞき見た」といえるでしょうから、例え目当てのものが見れなくても、その時点で既遂に達したものと解することができます。

隠し撮りを後から再生する行為は「のぞき」?

例えば、カメラやビデオカメラをトイレ内に隠して設置し、行為者が直接視認しないまま隠し撮りや遠隔操作の方法で撮影し、その後、記録媒体を回収してから再生するような場合には、「のぞき見た」と言えるのでしょうか?

この点に関しては、積極・消極の両説があります。

直接視認することによりのぞき見られた場合でも、カメラ等で撮影された場合でも、被害者のプライバシーが侵害されたことには変わりがなく、むしろカメラ等で撮影された場合の方が繰り返し何度も見られたり、第三者にデータが渡ったりする危険性があり、プライバシー侵害の程度が高いことから、人の個人的秘密を侵害するような行為を禁止するという軽犯罪法1条23号の趣旨からは、カメラ等による撮影自体が「見た」に当たり、撮影の時点で既遂となると解される(例えば、東京地判昭4-.3.8判時405・12、東京高判昭43.1.26高刑集21・1・23など)とする積極説と、

盗撮機器を設置して、これにより自動的に盗撮する行為は、「人が見るという行為」が存在しないから、「ひそかにのぞき見る」とはいえないとする消極説です。

なお、盗撮機器を直接操作して見て盗撮する行為は、「人が見る行為」が存在しますから、「ひそかにのぞき見る行為」に該当しますし、自動盗撮機器を設置する段階で対象場所を見ながらピントを合わせれば「人が見る行為」が存在しますから、それは「ひそかにのぞき見た」といえるでしょう。

(2) 迷惑防止条例違反

軽犯罪法が、同号所定の「場所」をのぞき見ることを規制しているのに対し、迷惑防止条例は、人の「身体(姿態)又は下着」をのぞき見ることを規制しており、のぞき見る対象が異なっています。

迷惑防止条例は、各都道府県が制定しています。
条例の名称、「のぞき」に該当する行為内容やその罰則にも、都道府県によって違いがあります。

そして、「のぞき」を禁止する場所が、原則は「公共の場所(不特定かつ多数の人が自由に利用できる場所で、道路、公園、駅、公衆浴場など)」・「公共の乗物(不特定かつ多数の人が同時に自由に利用できる乗物で、汽車、電車、乗合自動車、船舶、飛行機、観光地のケーブルカーやロープウェイなど)」・「公衆(不特定又は多数の人)が出入りする場所」に限られている自治体が多いものの、軽犯罪法と同様の場所を付加している自治体もあり、自治体の条例によっては、同じ場所でも、「のぞき」が不起訴になる場合もあるという問題もあるのす。

ここでは、東京都(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)、神奈川県(神奈川県迷惑行為防止条例)に限定して、条文を確認することとします。

東京都
「何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。」(5条1項柱書)
「前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。」(同項3号)

神奈川県
「何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。」(3条1項柱書)
「前各号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。」(同項3号)
「何人も、人を著しく羞恥させ、若しくは人に不安を覚えさせるような方法で住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服等の全部若しくは一部を着けないでいるような場所にいる人の姿態を見・・てはならない。」(同条2項) 

罰則については、

東京都:6月以下の懲役又は50万円以下の罰金
神奈川県:1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
常習の場合
東京都:1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
神奈川県:2年以下の懲役又は100万円以下の罰金

と規定されています。

東京都のように、「のぞき見」が都道府県の迷惑防止条例に正面から直接規定されていない場合には、「のぞき」が「卑わい行為」に該当するとして処理されている例もあります。

例えば、「神戸市東灘区の道路にある深さ約60cmの側溝にあおむけに寝そべり、格子状のふたの隙間から通行中の30代の女性のスカートの中をのぞき見した」という事案に関し、兵庫県の条例違反(卑わいな言動)の罪に該当するとして、派遣社員の男性(当時28歳)が略式起訴され、罰金50万円に処せられています(神戸簡裁平25.11.19)。

(3) 住居侵入罪

正当な理由がないのに、人の住居又は人の看守する邸宅・建造物・艦船に侵入すれば、住居侵入罪が成立します(刑法130条前段)。
なお、人の看守する店舗や公共建造物などの建物(住所以外の建物)に侵入した場合には、建造物侵入罪といわれます。

住居侵入罪は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金が科せられます。未遂も処罰されます(刑法132条)。

「のぞき」との関係でみますと、人の住居をのぞき見るため、その囲繞地、つまり、庭先などに立ち入った場合は、住居侵入罪が成立します。

[参考記事]

住居侵入罪・不法侵入で逮捕される?間違えて入ったらどうなる?

住居侵入罪と軽犯罪法違反の罪及び迷惑防止条例違反の罪の関係

住居侵入罪と軽犯罪法違反(窃視)の罪の関係は、牽連犯となります(最判昭57.3.16刑集36・3・260)。また、住居侵入罪と迷惑防止条例違反の罪との関係も、牽連犯になると解されます。

牽連犯は、その最も重い刑により処断されます。のぞきの場合は、住居侵入罪に触れる場合はより重い住居侵入罪の刑が適用されるでしょう。

2.「のぞき」事件の弁護方法

「のぞき」行為の事件については、被害者に対する謝罪はもとより、被害者との示談が重要になります。
被害者から警察に被害届が提出される前であれば、謝罪等を通して、事件化を防ぐことも可能になります。

仮に警察に被害が届けられた後であっても、示談をすることによって不起訴の可能性も出てきますので、弁護士を介して被害感情にも配慮した示談をすることが望ましいことになります。

[参考記事]

刑事事件の示談の意義・効果、流れ、タイミング、費用などを解説

また、窃視症が原因と考えられる場合、検察官あるいは裁判官に対し、心療内科での治療を受けるなどして窃視症の克服を通して更生の可能性があることを明らかにすることも重要な弁護活動になります。

3.窃視症とその原因、治療、克服

窃視症とは、人が服を脱いだり、裸でいたり、性行為をしている姿を気づかれることなくのぞき見ることによって性的興奮を得ることをいいます。
性的興奮をもたらすのは、観察している相手との性行為ではなく、観察する(のぞき見する)という行為です。

臨床医学では、6か月間を超えて強い衝動や行動が続いているか、強い衝動や行動によって苦痛や対人関係上の問題を生じているかが、診断基準になっているようです。

「一度検挙されたのにのぞきを繰り返してしまう」「犯罪だと分かっているのにのぞきをやめられない」という方は、この窃視症である可能性があるでしょう。

窃視症の原因としては、幼少期の厳しいしつけやトラウマ、女性へのコンプレックス、現在の仕事のストレス、家庭の事情などが考えられるとされています。

窃視症を克服するためには、その原因を探ることが大事になります。
例えば、原因がストレスであれば薬でストレスを和らげたり、心理療法によって認知の歪みを矯正したりすることによって、のぞき見行為を克服していくことになります。

4.のぞきで逮捕された場合も弁護士へ

痴漢・盗撮と並び、のぞきもまた魔が差して行ってしまいがちと言われる性犯罪の一つです。

刑事事件は、どんなきっかけでいつ自分が被疑者になってしまうか分かりません。
のぞきや痴漢・盗撮で逮捕されてしまったら、すぐに刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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