わいせつ物頒布等の罪・わいせつ電磁的記録媒体陳列罪とは
強制わいせつ罪、公然わいせつ罪はよく聞く犯罪ですが、刑法にはその他にわいせつ物頒布等の罪、わいせつ電磁的記録陳列罪というものがあります。
この記事では、わいせつ物頒布等の罪・わいせつ電磁的記録媒体陳列罪とその刑罰、起訴されやすいか等について解説します。
1.わいせつ物頒布等の罪
(1) わいせつ物頒布等の罪の構成要件
刑法175条1項はわいせつ物頒布等罪、2項はわいせつ物有償頒布目的所持罪を規定しています。
刑法175条
1項 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2項 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
わいせつ電磁的記録媒体陳列罪は、刑法175条1項のわいせつ物頒布等罪の一つの類型のことをいいます。
わいせつ物頒布等の罪は①わいせつな「文書」「図画」「電磁的記録にかかる記録媒体」「その他の物」を、②「頒布」又は「公然と陳列」した場合に成立します。
また、③「わいせつな電磁的記録」「わいせつなその他の記録」を④「電気通信の送信により頒布」した場合にも成立します(1項後段)。
①わいせつな文書等、③わいせつな記録
判例や通説的な考え方によれば、わいせつ物頒布等の罪は、健全な性風俗を守るための規定です。
ここから判例は、わいせつとは、いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものを言うとしています(※最高裁昭和26年5月10日判決)。
例えば、性行為や下半身を描写したものは、多くの場合、わいせつ性が認められます。
頒布等の対象となるのは、「わいせつな文書」「わいせつな図画」「わいせつな電磁的記録にかかる記録媒体」「わいせつなその他の物」全てです。
つまり「文書・図画・電磁的記録にかかる記録媒体」は「その他の物」の例示に過ぎず、処罰対象は、「わいせつな物全て」という意味です。
したがって、文書・図画・電磁的記録にかかる記録媒体にどのような物が含まれるかを考えることに実益はありませんが、一般的には、図画には写真、映画などが含まれ、その他の物には、彫刻や録音テープが該当するとされています。
記録媒体とは、わいせつな電磁的記録(わいせつな画像や動画のデータ)が保存されているビデオテープ、DVD、CD、ハードディスク、メモリーカードなどをいいます。
②頒布又は公然と陳列、④「電気通信の送信により頒布」
頒布とは、不特定又は多数人に交付することをいいます。有償無償を問いません。
わいせつな写真を譲渡するような有体物の物理的な占有移転はもちろん、わいせつな画像が保存されたデータを電気通信の送信によって、他人の記録媒体にダウンロードさせたりすることも頒布にあたります。
ただし、この電気通信の送信による「頒布」の対象は、わいせつ写真などの電磁的記録データそれ自体であり(前記③)、データの入ったハードではありません(175条1項後段)。
公然と陳列とは、不特定又は多数人が認識しうる状態に置くことをいいます。実際に認識されたことを要さず、認識される可能性があれば未だ誰も見ていなくとも公然性があるとされます。
わいせつな写真を公共の場に置くことや、写真のデータをサーバーにアップロードして公開した場合やSNSにアップロードした場合には、「わいせつな電磁的記録にかかる記録媒体」を公然と陳列したことになります(この175条1項前段の公然陳列罪は、写真のデータそのものは対象外なので、データを記録したハードディスクなどの記録媒体が陳列されたものと理解するのが判例です(※最高裁平成13年7月16日決定))。
また、2項では有償で頒布する目的での所持・データの保管が禁止されています。無償頒布の目的や、頒布の目的のない所持・データの保管は禁止されていません。
(2) 罰則
175条1項、2項違反は、共に①2年以下の懲役②250万円以下の罰金③科料(1万円未満の金銭の支払)④懲役及び罰金の併科となっています。
このように幅の広い定めとなっていますが、一番厳しいのは④の2年以下の懲役と250万円以下の罰金の併科となっています。
例えば、わいせつ物の頒布等で利益を得ていた場合には、処罰が重くなる可能性が高まります。
2.わいせつ物頒布等の罪で逮捕されたら
逮捕された場合、警察署の留置場で身柄を拘束され、取調を受けます。
48時間以内に検察官のもとに身柄を送られ、検察官による取調を受けます。
検察官がさらに身柄拘束の必要性があると判断したときには、身柄を受けたときから24時間かつ逮捕から72時間以内に裁判所へ勾留請求を行います。
裁判所が勾留を認めれば、勾留請求のときから10日間身柄を拘束されます。捜査の必要がある場合には、さらに10日間の延長が認められます。
つまり、逮捕された場合には最大で23日間身体拘束されることになります。
また、その後起訴された場合には、保釈が認められない限り更に勾留が続きます。
身体拘束が長引いた場合や起訴されて有罪判決が出された場合に、日常生活と将来に与える影響は計り知れません。
不利益を出来るだけ減らすためには、身体拘束を回避したり、早期に釈放してもらったり、不起訴処分を獲得したりする必要があります。
統計によると、令和2年度の公然わいせつ罪・わいせつ文書頒布等罪の起訴率は60.4%でした(起訴1255。不起訴823)。ここ数年は60%前後で推移しています。
窃盗罪や強制わいせつ罪はこれより低い約40%であることを踏まえると、わいせつ物頒布等の罪は立件されてしまえば起訴されやすいと言えるでしょう。
参考:2020年 検察統計調査
社会風俗を害する犯罪であるわいせつ物頒布等の罪には、当該犯行によって利益を侵害されたという、法的な意味での被害者がいません。
もっとも、例えば、他人にわいせつ画像を送りつけた場合や他人の家の玄関にわいせつな彫刻を置いた等の場には、相手は迷惑を被った事実上の被害者と言えます。
また、これらの行為は民法上の不法行為ですから、民事上の法的な被害者として、損害賠償請求が可能です。
そこで、その被害者と示談をすることで、検察官に対して、真摯な反省と事後処理の態度を示せるので、早期釈放や不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。
このような被害者がいない場合には、再犯防止が見込まれることを主張したり、贖罪寄付(一定金銭を慈善団体等に寄付すること)をしたりすることで、有利な処分の獲得を目指します。
3.まとめ
被害者との示談をしたり、身体拘束からの解放を検察官や裁判官に働きかけたりするには、弁護士の力が必要です。
弁護士は、被害者との示談交渉をまとめ、また、検察官や裁判官に意見書を提出するなど、依頼者のために精力的に活動します。
わいせつ物頒布等の罪で逮捕されたら、早急に泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。