刑事弁護 [公開日]2021年7月1日

弁護士費用特約は刑事事件にも使えるの?

加入者に「弁護士費用」を補償してくれる、弁護士費用特約付きの保険が普及しています。

代表的な交通事故の損害賠償請求だけでなく、それ以外の離婚事件、相続事件、労働問題などの弁護士費用を補償する保険商品も販売されています。

これらは、いずれも「民事事件」を弁護士に依頼する場合ですが、「刑事事件」の刑事弁護を弁護士に依頼する場合の費用は補償対象となるのでしょうか?

実は、限定的ですが、刑事弁護の費用を補償してくれる保険もあるのです。

この記事では、刑事事件に使うことができる弁護士費用特約付きの保険について説明します。

1.弁護士費用特約(弁護士費用保険)とは?

弁護士費用特約とは、損害保険に付加された特約で、被保険者が何らかの事件を解決するために弁護士を利用し、弁護士費用を支払わなくてはならない場合、その弁護士費用を一種の「損害」と捉え、保険会社が補償してくれるというものです。

弁護士費用特約は、保険会社と保険契約者の間における損害保険契約です。したがって、その内容は各保険商品によって異なりますし、同じ会社の、同じ名称の保険商品であっても、契約時期などにより常に同じ内容とは限りません。

ですから、実際の正確な内容は、その保険契約の約款を確認しなくては分かりませんが、現在販売されている一般的な弁護士費用特約では、おおむね次の費用が補償されます。

  • 法律相談料
  • 弁護士報酬(着手金、報酬金、日当)
  • 訴訟費用、仲裁費用、和解費用、調停費用など
  • 実費(収入印紙代、切手代、コピー代、交通費、宿泊費、通信費など)

2.弁護士費用特約には、どのようなものがある?

一般に普及している弁護士費用特約は、2000年から販売が開始された、自動車保険に付された特約です。交通事故で損害を受けた被害者が加害者に損害賠償を請求する際の弁護士費用を保険会社が補償する保険です。

現在では、これに限らず、次のような保険商品が登場しています。

タイプ 内容
交通事故 交通事故の被害者が損害賠償請求するための弁護士費用を補償する「被害者向け弁護士費用保険」が一般的。
現在では、交通事故の加害者が、その事故で、刑事事件の被疑者・被告人とされたときの刑事弁護費用を補償する「交通事故刑事弁護費用保険」も登場。
一般民事 民事事件(交通事故を除く)一般の弁護士費用を補償する保険。補償対象となる民事事件は保険商品によって様々。
業務妨害対応 業務妨害行為に対応するために事業者が負担する弁護士費用を補償する保険。主に医療機関、介護施設、障がい者施設等が対象。
中小企業向け 事業活動上の民事事件の弁護士費用を補償する保険。補償対象となる事件は、労働事件、知的財産権、不動産問題、債権回収など商品により様々。

実際に販売されている保険商品には、次の例があります。

タイプ 保険会社 商品
交通事故 各保険会社(18社) 被害者向け弁護士費用保険
損害保険ジャパン(株) 交通事故刑事弁護費用保険
一般民事 プリベンド少額短期保険(株) Mikata
フェリクス少額短期保険(株) リーガルPersonal
損害保険ジャパン(株) 弁護のちから
共栄火災海上保険(株) HELP!
業務妨害対応 損害保険ジャパン(株) 業務妨害等対応費用保険
中小企業向け 中小企業福祉共済協同組合連合会 労災費用共済(労働紛争弁護士費用補償)
フェリクス少額短期保険(株) リーガルBiz

弁護士白書(2019 年版)」36頁より、日本弁護士連合会が、弁護士紹介システム(日弁連リーガル・アクセス・センター)を提供する協定を結んだ弁護士費用保険(2019年7月31日現在)

上の表にも記載しましたが、現在、刑事事件の弁護士費用も補償対象とする保険商品を販売しているのは、損害保険ジャパン株式会社だけです。

同社は、それまでなかった刑事弁護費用を対象とする保険を、2019年1月から始めて販売開始しました。

3.損害保険ジャパン株式会社の約款内容

では、損害保険ジャパン株式会社における刑事弁護費用を対象とした弁護士費用保険の内容を見ていきましょう。

この記事では、損害保険ジャパン株式会社がネット上に公開している、個人用自動車保険(商品名「THEクルマの保険」)2021年1月版の約款に基づいて説明をします。

(1) 対象事件は交通事故の刑事事件だけ

損害保険ジャパン株式会社の弁護士費用保険は、①交通事故だけを対象とした「弁護士費用特約(自動車事故限定型)」と、②交通事故に加え、それ以外に発生した日常の事故による人的・物的な損害をも対象とする「弁護士費用特約(日常生活・自動車事故型)」の2種類がありますが、いずれの特約も、刑事弁護費用の対象は交通事故事件に限定しています。

実際の約款をご覧下さい(上記約款152頁)。

刑事弁護士費用条項
第1条(保険金を支払う場合)

(1)当会社は、この条項により、対人事故が発生し、その直接の結果として次のいずれかに該当した場合に、被保険者が刑事弁護士費用等を負担することによって被る損害に対して、刑事弁護士費用保険金を支払います。

① 被保険者が逮捕された場合
② ①以外の場合で、生命または身体を害された者が死亡したとき。
③ ①および②以外の場合で、被保険者が起訴等をされたとき。ただし、略式命令の請求がなされた場合を除きます。

(2)当会社は、この条項により、被保険者が対人事故にかかわる刑事法律相談費用等を負担することによって被る損害に対して、刑事法律相談費用保険金を支払います。

(3)(以下、略)

これを表に整理してみましょう。保険金が支払われるのは、次の場合です。

対人事故(※)が発生し、その直接の結果として、次の(a)(b)(c)いずれかの事態となったこと
(a) 被保険者が逮捕された場合
(b) 被害者が死亡した場合
(c) 被保険者が起訴(少年審判を含む)された場合。但し、略式請求は除く。
被保険者が刑事弁護費用(相談費用含む)を負担したこと

※対人事故:国内で被保険者が自動車の所有、使用、管理に起因して発生した偶然な事故により、他人の生命または身体を害した事故

平たくいえば、交通人身事故で、(a)逮捕されたとき、(b)逮捕されなくても死亡事故のとき、(c)逮捕されない傷害事故でも、被保険者が成人で検察官に公判請求されたとき、または、被保険者が未成年で家庭裁判所に少年審判の開始決定をされたときが、対象となるのです。
ただし、略式請求された場合は対象外であることに注意してください。

[参考記事]

略式起訴・略式裁判で知っておくべきこと|不起訴との違い

また、損害の補償を受けることができる「被保険者」には、次の者が含まれます。

  • 保険契約上、被保険者として指定された者(記名被保険者)
  • 配偶者
  • 同居の親族(配偶者の親族も含む)
  • 別居している未婚の子ども(配偶者の子も含む)
  • 記名被保険者の承諾を得て、車を使用、管理する者

(2) 補償される刑事弁護費用の内容

補償対象となる刑事弁護費用には、次のものが含まれます。

  • 法律相談料
  • 接見費用
  • 弁護士報酬(着手金、報酬金、日当)
  • 裁判所に対して支出した訴訟費用
  • その他、権利の保全・行使に必要な手続をするために要した費用(例えば、コピー代、切手代、交通費などの実費)。ただし、保釈保証金は対象外です。

(3) 補償される金額

補償される金額は、損害保険ジャパン株式会社の約款で定められた「刑事弁護士費用保険金算定基準」にしたがって計算された金額であり、上限額は、1回の対人事故で被保険者1名につき150万円となっています。

ただし、裁判員裁判となり複数の弁護士を選任した場合、弁護士2名までを限度とした弁護士費用が補償され、その場合の上限額は合計300万円となります。

法律相談料は、上記の上限額とは別に、1回の対人事故で被保険者1名につき10万円を上限として補償されます。

(4) 保険金が支払われない場合

刑事弁護費用が補償されないケースもあります。主なものは、次のケースです。

  • 無免許運転
  • 酒気帯び運転、飲酒運転
  • 違法薬物で正常な運転ができないおそれがある状態での運転
  • 盗難車の運転
  • 故意または重大な過失による事故
  • 喧嘩、自殺、その他、故意の犯罪行為(危険運転致死傷罪を含む)による事故

4.刑事事件を弁護士に依頼するメリット

刑事事件の弁護人は、弁護士以外の者にはできません。

刑事弁護人は、被疑者・被告人となってしまった方の利益を最大限守るために活動する法律、裁判の専門家であり、刑事責任を問われる方の味方なのです。

弁護士の刑事弁護活動は多岐にわたりますが、主なものをあげると、次のとおりです。

  • 刑事事件の法律・制度についてのアドバイス
  • 逮捕・勾留された依頼者との接見、家族など外部との連絡役
  • 取調への対応方法の助言
  • 身体拘束の阻止、早期釈放を求めての検察官・裁判官への働きかけ
  • 不当な身体拘束への異議申立
  • 違法な捜査に対する抗議活動
  • 依頼者に有利な事実の調査、証拠の収集
  • 被害者との示談交渉
  • 不起訴や略式起訴を求めての検察官への働きかけ
  • 無罪判決、執行猶予、刑の軽減を求めての法廷活動

交通事故の刑事事件において、特に重要なのが、弁護士による被害者との示談交渉です。

被害者との示談により、①損害賠償金を支払って、被害を金銭的に補償できたこと、②示談書に被害者の宥恕文言(※)を記載してもらい、処罰感情が低下または消失したことが明らかになり、検察官の起訴・不起訴の判断、裁判官の量刑において、加害者に有利な事情として斟酌してもらうことができます。

※宥恕文言:「宥恕」(ゆうじょ)とは「許す」の意味で、「寛大な処分を願う」、「処罰を希望しない」、「宥恕する」などの記載を指します。

加害者が任意保険に加入している場合、保険会社が「示談代行」として、加害者に代わって被害者との示談交渉を行いますが、それは、あくまでも損害賠償金額を確定させるための交渉であって、被害者の宥恕を得るための交渉ではありません。

また、保険会社は、示談交渉にあたってできるだけ自社の負担を減らすよう努力をしますから、かえって被害者の怒りを買い、刑事処分にとっては逆効果という場合も珍しくありません。

このため、交通事故の加害者となって刑事責任が問われる可能性があるなら、できるだけ弁護士を依頼し、示談交渉も任せるべきなのです。

上記の弁護士費用特約を契約している場合には、最初に弁護士に相談する段階からの相談料も補償されますから、是非これを利用するべきです。

また、仮に弁護士費用特約を契約していない場合も、まずは弁護士に相談してください。
相談料は多くの場合30分5,000円程度ですし、初回相談は無料とする法律事務所もあります(当泉総合法律事務所も初回相談は1時間無料です)。

5.まとめ

交通事故を起こしたときに、刑事弁護を対象とする弁護士費用特約に加入しているなら、これを使わないという選択肢はありません。

また、このような特約に加入していないときでも、示談交渉は保険会社任せにせず、弁護士に依頼されることがお勧めです。

泉総合法律事務所では、交通事故の刑事弁護にも注力しています。是非、お気軽にご相談ください。

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