日本型司法取引の施行はいつから?メリット・デメリット・課題を解説

刑事事件弁護

司法取引

証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」が日本で取り入れられようとしています。

そもそも、この制度とはどのような内容のものなのでしょうか。日本でこの制度を導入したことで、何かメリットがあるのでしょうか。

以下においては、アメリカの司法取引と日本型司法取引、日本型司法取引の内容、日本型司法取引のメリット・デメリットと問題点、日本型司法取引の課題などに触れながら、日本型司法取引について解説することとします。

なお、以下では、現行刑事訴訟法は「法」、法改正に伴う施行後の刑事訴訟法は「新法」と略記します。

1.司法取引とは

司法取引とは、簡単に言いますと、被告人が有罪を認める代わりに、検察官が犯罪の一部を不問に付すなどして通常より大幅に軽い刑を求刑し、裁判官は有罪無罪の審理を開くことなく有罪判決を言い渡すというものです。

取引とは言いましても、刑を決めるのは本来裁判官の役目ですから、裁判官は、必ずしも検察官と被告人の取引内容に応じた刑を言い渡す必要はありません。

(1) アメリカの司法取引

アメリカでは、起訴された事件の実に8割が司法取引で終了しているという統計があります。また、訴訟手続における当事者のイニシアティブが徹底されているため、裁判官が取引内容と異なる刑を言い渡すことは滅多にないと言われています。

つまり、検察官と被告人にとっては、意図したとおりの判決をその場で得ることができ、裁判所にとっては、ほとんど時間と労力を費やすことなく事件を処理できるという、一見夢のような制度なのです。

結果の予測が難しく、公判審理までに証拠開示等で数年を要するのが当たり前の陪審裁判とは好対照です。ところが、皮肉なことですが、司法取引が陪審裁判と比べて魅力の大きい制度であるがゆえに、無実の被告人が取引を受け入れて有罪になるという危険性も出てきます。

(2) 日本型司法取引

では、日本では、どのような状況にあるのでしょうか。

組織的犯罪においては、首謀者や背後者の関与状況等を含め、事案の解明を図るため、末端の実行者など組織内部の者から供述を得ることが必要不可欠な場合があります。

しかし、現行法には、取調べ以外に供述を得る有効な方法がなく、これに依存せざるを得ない側面があります。

そこで、被疑者の取調べと供述調書への過度の依存を改め、手続の適正を担保しつつ、組織的犯罪等の事案の解明を図るため、取調べ以外の方法で供述証拠等を獲得する手段として、2016(平成28)年の法改正により、「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」(あるいは「捜査・公判協力型協議・合意制度」とも言われます。)が新たに導入されました(施行は2016年6月3日から2年以内の日)。

ところが、この制度は、「司法」権たる裁判所が合意の手続に直接関与しませんので、アメリカの司法取引とは異なっています。そのため、識者からは、「司法取引」という俗称は不正確という指摘もありますので、以下では、「日本型司法取引」と称することにします。

この制度は、一定の財政経済関係犯罪及び薬物銃器犯罪(新法350条の2第2項各号の「特定犯罪」)について、検察官と被疑者・被告人とが、弁護人の同意がある場合に、被疑者・被告人が、共犯者等他人の刑事事件の解明に資する供述をし、証拠を提出するなどの協力行為を行い、検察官が、その協力行為を被疑者・被告人に有利に考慮して、これを不起訴にしたり、軽い罪名で起訴したり、一定の軽い求刑をするなどを内容とする「合意」をすることができるとし、このような両当事者間の協議・合意を通じて、他人の犯罪行為の訴追・処罰に必要な供述証拠等を獲得しようとするものです(新法350条の2以下)。

検察官がこのような合意をすることができる根拠は、公訴権の行使に関する検察官の訴追裁量権(法248条)に求められます。

検察官は、被疑者・被告人による他人の刑事事件についての協力行為を被疑者・被告人に有利に考慮し、訴追裁量権の行使に反映させることができます。この協力行為は、法248条の「犯罪後の情況」に当たります。

そして、このような「取引」を基本とすることから、被疑者・被告人が虚偽供述をして第三者を巻き込む事態が生じないようにするため、制度的手当も講じられています(新法350条の3・350条の4・350条の8・350条の9・350条の15参照)。

そこで、日本型司法取引について、新法の主な条文を概観してみましょう。

2.日本型司法取引の内容

(1) 合意の内容

①合意の主体

合意の主体は、検察官と被疑者・被告人です(新法350条の2第1項柱書)。

②合意の内容

合意の内容は、被疑者・被告人による協力行為と検察官による処分の軽減等です。

㈠被疑者・被告人による協力行為として合意内容とできるのは、他人の刑事事件について、被疑者又は参考人としての取調べに際して真実の供述をすること、証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること、捜査機関による証拠の収集に関し、証拠の提出その他の必要な協力をすることです(新法350条の2第1項柱書・1号)。

ここでいう「他人」は、合意の主体である被疑者・被告人の共犯者や対向犯関係にある者を主に指しますが、そのような関係にない者でも、文言上は「他人」となり得ます。もちろん、法人も「他人」となり得ます。

そして、「協力行為」は、他人の刑事事件の解明に資するものであると同時に、被疑者・被告人自身の事件の解明に資するものでも差し支えないとされています。

真実の供述をする」とは、証拠法の一般的な理解と同じで、自己の記憶に従った供述をすることをいいます。

「その他の必要な協力」には、犯行再現等の実況見分や検証に立ち会うこと、犯行現場等に案内することが含まれると解されています。

㈡検察官による処分の軽減等として合意内容とできるのは、被疑者・被告人の事件について、不起訴処分、公訴の取消し、特定の訴因・罰条による起訴・維持、特定の訴因・罰条の追加・撤回又は特定の訴因・罰条への変更請求、特定の求刑意見の陳述、即決裁判手続の申立て、略式命令請求です(新法350条の2第1項柱書・2号)。

また、合意内容には、被疑者・被告人による協力行為又は検察官による処分の軽減等に「付随する事項その他の合意の目的を達するため必要な事項」を含めることができます(同条第3項)。

③対象事件

この制度は、我が国の刑事司法制度に協議・合意、すなわち「取引」の要素を有する証拠収集手段を正面から導入するものであることに鑑み、対象犯罪は、この制度を用いる必要性が高く利用に適しており、かつ、被害者をはじめとする国民の理解が得られやすいという観点から、政策的に限定されています。

すなわち、上記のとおり、「特定犯罪」(強制執行妨害関係犯罪、偽造関係犯罪、贈収賄罪、詐欺・恐喝罪、横領罪、租税関係法律・独占禁止法・金融商品取引法に規定する罪その他の財政経済関係犯罪として政令で定めるもの、薬物銃器犯罪等)に限定した上(新法350条の2第2項各号)、さらに、死刑又は無期の懲役・禁錮に当たる罪を除外しています(同項柱書)。

この制度を利用するためには、被疑者・被告人の事件と他人の事件の双方が対象事件でなければなりませんが、双方の罪名が異なっていても、また、事実関係の重なり合いがなくても利用は可能と解されています。

④検察官の合意

検察官は、特定犯罪に係る他人の刑事事件について、当該他人の犯罪事実を明らかにするため、合意の相手方となろうとする被疑者・被告人の協力行為により得られる証拠の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状、当該関係する犯罪の関連性の程度その他の事情を考慮して、必要と認めるときに合意をすることができます(新法350条の2第1項柱書)。

ここでいう「関係する犯罪」とは、合意の対象となる被疑者・被告人の事件及び他人の刑事事件に係る犯罪を指します。「関連性の程度」とありますので、この制度が利用される主な場合としては、共犯事件など、両犯罪の間に密接な関連性が認められる場合が想定されるといえます。

そして、「その他の事情」には、余罪の有無やその捜査状況等がこれに当たると考えられています。

⑤弁護人の同意

弁護人の同意がなければ合意をすることはできません(新法350条の3第1項)。

弁護人は、合意の内容を履行する立場にないため、合意の主体ではありませんが、合意は被疑者・被告人の利害と深く結びつく事柄ですから、合意が適正公平に行われることを確保し、被疑者・被告人の利益を保護する趣意から、弁護人の同意が要件となっています。

被疑者・被告人に弁護人がない場合は、合意をすることはできません。

⑥合意の成立のための書面

この合意内容を手続的に明確にするため、合意は要式行為とされ、合意内容を明らかにする書面を作成し、検察官、被疑者・被告人及び弁護人が連署することにより合意が成立します(新法350条の3第2項)。この書面を「合意内容書面」と称します(新法350条の7第1項)。

合意が成立しますと、検察官及び被疑者・被告人は、合意内容を履行する義務を負うことになります。

(2) 合意のための協議の手続

①協議の構成員

この合意をするため必要な「協議」は、検察官、被疑者・被告人及び弁護人との間で行います(新法350条の4本文)。

ただし、被疑者・被告人及び弁護人に異議がないときは、協議の一部を検察官と弁護人のみとの間で行うことができます(同条ただし書)。

被疑者・被告人が虚偽供述をして第三者を巻き込む事態が生じないようにするため、制度的手当の一環として、弁護人が常に協議に関与するのです。

したがって、検察官と被疑者・被告人のみとの間での協議はできません

以上のように、弁護人の役割は重要なのです。弁護人は、協議の開始から合意の成立・不成立となるまで、常に関与します(新法350条の3・350条の4)。

弁護人の責務は、被疑者・被告人の正当な利益を擁護することであり、他人の刑事事件における他人の利益を擁護するものではありませんが、弁護人が協議・合意の過程に一貫して関与することは、虚偽供述による巻き込みを防止する上で、一定の意義を有すると考えられています(弁護士職務基本規程75条等参照)。

②被疑者・被告人の供述

この「協議」において、検察官は、被疑者・被告人に対し、他人の刑事事件について供述を求めることができます(新法305条の5第1項前段)。

もっとも、検察官は、被疑者・被告人に対し、あらかじめ供述拒否権を告げなければなりません(同項後段、法198条2項)。その趣旨は、他人の刑事事件についての供述を求める過程で、被疑者・被告人自身の事件にも供述が及ぶことがあり得るからです。

③合意が成立しない場合

合意が成立しなかったときは、被疑者・被告人が協議において他人の刑事事件についてした供述は、証拠とすることができません(新法350条の5第2項)。

証拠とできない対象は、被疑者・被告人が協議においてした供述それ自体であり、その供述に基づいて得られた証拠(派生証拠)は対象となりません。

また、被疑者・被告人が協議においてした行為が、犯人蔵匿、証拠隠滅、虚偽告訴等の罪に当たる場合、これらの罪に係る事件において、ここでの供述が証拠となる可能性があります(同条第3項)。

④司法警察員との協議

検察官は、司法警察員が送致・送付した事件又は司法警察員が現に捜査している事件について、その被疑者との間で前記「協議」を行おうとするときは、あらかじめ、司法警察員と協議しなければなりません(新法350条の6第1項)。

また、検察官は、協議に係る他人の刑事事件について司法警察員が現に捜査していることその他の事情を考慮して、当該他人の刑事事件の捜査のため必要と認めるときは、前記「協議」における必要な行為を司法警察員にさせることができます(同条第2項前段)。

この「協議における必要な行為」には、条文にある被疑者・被告人に供述を求めることのほか、弁護人から被疑者・被告人が行い得る協力行為の内容の提示を直接受けること、検察官による処分の軽減等の内容の提示をすることも含まれ得ると解されています。

しかし、その場合も、司法警察員は、検察官の公訴権の行使に関する法247条の趣旨に反することはできません。

したがって、司法警察員は、検察官の個別の授権の範囲内で、合意の内容とする行為に係る検察官の提案を、被疑者・被告人及び弁護人に提示することができるもの、とされています(新法350条の6第2項後段)。

検察官と司法警察員の協議規定は、警察捜査との緊密な連携とその適正担保に資する趣意であるとともに、処分の軽減等の内容ごとに、検察官が司法警察員に明示的にその提示の権限を付与することを要する趣意とされています。

(3) 公判手続の特例

①合意内容書面の取調べ請求

㈠検察官は、被疑者との間でした合意がある場合において、当該合意に係る被疑者の事件について起訴したとき、又は、起訴後に被告人との間で合意をしたときは、冒頭手続(法291条)の終了後(事件が公判前整理手続に付された場合には、その後)、遅滞なく、合意内容書面の取調べを請求しなければなりません(新法350条の7第1項)。

合意内容書面の取調べ請求時までに後記の離脱がなされたときは、合意内容書面と併せて合意離脱告知書面の取調べを請求しなければなりません(同条2項)。

合意内容書面の取調べ請求後に離脱がなされたときは、遅滞なく、合意離脱告知書面の取調べを請求しなければなりません(同条3項)。

合意の存在及び内容は、合意をした被告人の公判における訴訟進行及び被告人の情状の双方に関係し得ます。

そのため、その事件の審判を行う裁判所は、合意の存在及び内容を十分に把握する必要があります。そこで、検察官による合意内容書面と合意離脱告知書面の取調べ請求義務が規定されているのです。

㈡検察官は、他人の公判において、合意に基づく供述録取書等について、検察官、被告人若しくは弁護人が取調べを請求し、又は裁判所が職権で取り調べる旨決定をしたとき、検察官、被告人若しくは弁護人が証人尋問を請求し、又は裁判所が職権で証人尋問決定をした場合において、その証人となるべき者との間で当該証人尋問についてした合意があるときは、遅滞なく、合意内容書面の取調べを請求しなければなりません(新法350条の8前段・350条の9前段)。

なお、離脱があった場合の合意離脱告知書面の取調べ請求についても規定があります(新法350条の8後段・350条の7第2項・350条の9後段・350条の7第3項)。

合意の存在及び内容は、合意に基づいて得られた供述録取書等又は証言の信用性に関係します。

そのため、他人の公判において、当該他人及びその弁護人が、合意の存在及び内容を把握した上で、反対尋問等により信用性を弾劾することが可能になるなど、十分な防御活動を行うことができるようにし、また、審判を行う裁判所も、合意の存在及び内容を理解し、その供述が一定の有利な取扱いを受けるという合意を契機とするものであることを把握した上で、供述等の信用性を十分に吟味できるようにすることが必要であり、それにより巻き込みが防止されるといえるのです。

そこで、検察官による合意内容書面と合意離脱告知書面の取調べ請求義務が規定されているのです。

(4) 合意の終了

合意の当事者は、相手方当事者が合意に違反したときその他一定の場合には、合意から離脱することができます(新法350条の10第1項)。

離脱は、その理由を記載した書面により、相手方に対し、合意から離脱する旨を告知して行う要式行為です(同条第2項)。

(5) 合意の履行の確保

①検察官が合意に違反した場合

検察官が合意に違反して、起訴し、公訴を取り消さず、合意とは異なる訴因・罰条によって起訴し、合意した訴因・罰条の追加・撤回・変更を請求せず、合意とは異なる訴因・罰条の追加・撤回・変更を請求し、又は起訴と同時に即決裁判手続の申立てあるいは略式命令請求をしなかったときは、裁判所は、判決で当該公訴を棄却しなければなりません(新法350条の13第1項)。

検察官が、特定の訴因・罰条によって起訴する合意に違反して訴因・罰条の追加・変更を請求した場合、裁判所は、これを許してはなりません(同条第2項)。

また、検察官が合意に違反したときは、協議において被告人がした供述及び合意に基づいてした被告人の行為により得られた証拠は、被告人の事件だけでなく、他人の刑事事件においても、これらを証拠とすることができません(新法350条の14第1項)。

ただし、各事件の被告人に証拠とすることについての異議がない場合には、証拠とすることができます(同条第2項)。

また、協議において被告人がした供述及び合意に基づいてした被告人の行為により得られた証拠に基づいて得られた証拠(派生証拠)は、証拠とできる可能性があります。

②合意に違反する虚偽の供述

合意に違反して、捜査機関に対し、虚偽の供述をし、又は偽造・変造の証拠を提出した者は、5年以下の懲役に処せられます(法350条の15第1項)。

ただし、この罪を犯した者が、当該合意に係る他人の刑事事件の裁判が確定する前であって、かつ、当該合意に係る自己の刑事事件の裁判が確定する前に自白したときは、その刑を減軽し又は免除することができます(同条第2項)。

虚偽証拠により他人が訴追・処罰されることを未然に防止する趣旨です。

(6) 検察審査会との関係

検察官が被疑者との間で不起訴合意をし、これに基づいて不起訴処分としたものの、検察審査会が、起訴相当・不起訴不当又は起訴議決をしたときは、不起訴合意は、その効力を失います(新法350条の11)。

また、検察審査会の議決により合意が失効した後に、当該議決に係る事件について起訴されたときは、被告人が協議においてした供述、当該不起訴合意に基づいてした被告人の行為により得られた証拠、これらに基づいて得られた証拠(派生証拠)は、当該被告人の事件において証拠とすることができません(新法350条の12第1項)。

ただし、一定の要件がある場合や証拠とすることについて被告人に異議がないときは、証拠とすることができます(同条第2項)。

3.日本型司法取引のメリット・デメリットと問題点

メリット、デメリット

(1) メリット

  1. 捜査機関が、被疑者・被告人の刑事処分に手心を加える代わりに、他人の犯罪を聞き出すことが容易になり、組織的犯罪等の解明に威力を発揮することが期待できます。
  2. 密行性の高い組織的犯罪等について、首謀者や背後者などのような真に処罰すべき者を処罰することができるようになります。
  3. 企業が関係する財政経済犯罪の捜査にも適用され、検察官が社員の協力行為を取り付け、社員の刑事処分の軽減等と引き換えに供述を引き出し、上層部や企業自体の刑事責任を追及することが可能となります。
  4. 捜査機関と被疑者・被告人の協力により、事件が解決されますので、裁判費用等の面だけでなく、時間と労力の節約になります。

(2) デメリット

  1. 被疑者・被告人が自分の罪を軽く見せようとして、関係のない他人を巻き込んだり、共犯者に責任をなすりつけるなどして、冤罪を生む可能性があります。
  2. 捜査機関は協力を取り付けようとし、他方、被疑者・被告人は恩典の付与を期待するため、利害が一致しやすく、虚偽供述が一層起きやすくなることが懸念されます。
  3. 被疑者・被告人が取調べから逃れたいため、虚偽の自白をする危険があります。
  4. 捜査機関が犯罪者である被疑者・被告人と協議・合意をすることになるため、捜査機関に対する国民の不信を招くおそれがあります。
  5. 被疑者・被告人は、恩典を受けたいがため、捜査機関の誘惑に抗しきれず、黙秘権が侵害されるおそれがあります。

虚偽供述を防ぐ手当として、

㈠弁護人が協議・合意の過程に関与すること、

虚偽供述等をした者を処罰することが規定されています。

しかし、弁護人の関与といっても、捜査協力をする被疑者・被告人の弁護人であり、被疑者・被告人の利益実現を優先させる立場にあることから、判断材料も少ない中で、虚偽供述等を見抜くのは難しいとも考えられます。

また、罰則が設けられても、いったん合意が成立すると、証人となった被疑者・被告人は虚偽供述罪等に問われるのを避けるために、合意内容を撤回しにくくなって、他人の刑事裁判に出廷しても虚偽を貫こうとする動機が働くため、冤罪の温床になりやすいことが懸念されます。

(3) 問題点

①この制度を利用するためには、被疑者・被告人の事件と他人の事件の双方が対象事件でなければなりませんが、双方の罪名が異なっていても、また、事実関係の重なり合いがなくても利用は可能と解されています(上記2の⑴③)。

その趣旨が、合意の段階と合意に基づく証拠を利用する段階との両方で特定犯罪に当たることを要件とするのか否か、不明確だという指摘があります。

②他人の刑事事件について、被疑者又は参考人としての取調べに際して真実の供述をすること、証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること(上記2⑴の②㈠)の両方の合意がある場合に、合意をした証人が証言を拒絶した場合、合意に基づいて作られた検察官面前調書を法321条1項2号前段によって採用できるかという問題があります。

また、証人が検察官面前調書と相反する供述をした場合に、合意に基づく同調書を法321条1項2号後段によって採用できるかという問題があります。いずれの場合も、採用できないのではないかという指摘があります。

③新法は、合意に基づく供述に補強証拠を必要とする規定を設けていません。この点、虚偽供述による第三者の巻き込みを防止するため、裁判所は、他の裏付証拠が十分でない場合でも、合意に基づく供述の信用性を認めてよいのか、また、検察官も、信用性を積極的に認めるべき事情が十分にない場合に、合意に基づく供述を証拠として用いてよいのかという問題があります。

このような場合、裁判所は、合意に基づく供述の信用性を認めるべきでないし、検察官も、合意に基づく供述を証拠として用いるべきではないという指摘があります。

4.日本型司法取引の課題

①被疑者・被告人は、自己の刑事処分の軽減等の恩典を受ける見返りに供述するため、「引っ張り込みの危険」による誤判のおそれがあり、そのための立法の手当ては、新法の規定では十分でなく、被疑者・被告人の事件における弁護人の関与に誤判を防止する効果を期待することはできないという指摘もあり、今後の課題といえます。

②被疑者・被告人が虚偽供述をして第三者を巻き込む事態を避けるためには、合意の過程についての可視化を要件とすべきとの指摘があり、今後の課題といえます。

③他人の刑事事件の弁護人にとっては、合意に基づく虚偽の供述による誤判を防止することが最大の課題といえます。

5.まとめ

刑事裁判での日本の有罪率は、99.9%と言われています。

【参考】日本の刑事裁判の起訴後有罪率99.9%は本当か?検察の捜査力について

刑事事件で逮捕され、起訴されそう・起訴されてしまったという方は、お早めに刑事事件に強い泉総合法律事務所の弁護士に相談してください。

刑事事件コラム一覧に戻る