刑事事件の公訴時効とは?一部事件の時効が撤廃された理由

刑事事件用語

刑事事件の公訴時効とは?一部事件の時効が撤廃された理由

刑事事件における時効には、刑の時効と公訴時効とがあります。

刑の時効とは、死刑を除く刑の言渡しが確定した後、その刑の執行がされないまま、法律の定める期間が経過すれば、刑罰権が消滅することをいいます(刑法31条~34条参照)。すなわち、刑(死刑を除きます。)の言渡しを受けた者は、時効によりその執行の免除を得るのです(刑法31条)。

では、もう一方の公訴時効とはどういうことなのでしょうか。以下においては、まず、公訴時効制度の内容と趣旨を確認し、次いで、公訴時効期間と平成22(2010)年の法改正を概観し、未解決事件の状況と著名な未解決事件の紹介、公訴時効期間の一覧と該当する主な罪名などにも触れながら、順次、説明することとします。

1.公訴時効制度の内容と趣旨

刑事訴訟法(以下「法」といいます。)337条4号は、「時効が完成したとき」には、判決で免訴の言渡しをしなければならないと定めています。時効が完成した(「時効期間が満了した」ことを意味します。)事件について検察官が公訴を提起しても、裁判所は免訴判決によって「門前払い」することになるのです。

すなわち、公訴時効とは、犯罪が行われた後、法律の定める期間が経過すれば、公訴権が消滅することをいいます。したがって、検察官は、公訴時効が完成している事件については、被疑者を起訴することができなくなるのです。

(1) 公訴時効制度の存在理由

公訴時効制度の趣旨(存在理由)については、いろいろな説が唱えられていましたが、現在では、最判平27.12.3(刑集69巻8号815頁)が「公訴時効制度の趣旨は、時の経過に応じて公訴権を制限する訴訟法規を通じて処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにある。」と判示したことにより、学説においても同様の説明をする見解が有力となっています。

2.公訴時効期間と平成22(2010)年の法改正

(1) 法改正までの経緯

公訴時効期間を定めているのは、法250条ですが、同規定は最近2度にわたり重要な改正を経ています。

1度目の平成16(2004)年には、公訴時効期間の延長を内容とする改正がなされ、その結果、死刑に当たる罪については15年であったのが25年に延長されたのですが、たとえ凶悪な殺人犯であっても、25年間逃げ切れば、処罰されなくなることに変わりがありませんでした。

しかし、殺人事件などの遺族の方々からは、「自分の家族が殺されたのに、一定の期間が経過したからといって犯人が無罪放免になるのは、とても納得できない。殺人罪などについては公訴時効を見直してもらいたい。」という声が高まったのです。

(2) 公訴時効の見直しの実行

そこで、法務省では、公訴時効の趣旨や法律を見直すとした場合の理論的問題、外国の制度や国民の意識の動向など、様々な調査を行い、法制審議会での調査・審議を経て、殺人罪などの一定の犯罪について、公訴時効を廃止したり、公訴時効期間を延長したりする法案を国会に提出したのです。

その後、国会における審議を経て、平成22(2010)年には、それまでの公訴時効期間が犯罪の法定刑の重さに応じて定められていたのに対し、今回の法改正により、「人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの」については特別の定めをし、時効制度の内容に大幅な変更がなされました。

(3) 具体的な改正内容

例えば、①殺人罪(199)、強盗致死(殺人)罪(240後)、強盗・強制性交等致死罪(241Ⅲ)、爆発物使用罪(爆発物取締罰則1条)など、「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が「死刑に当たるもの」については、公訴時効は廃止されました。

これにより、犯罪行為の時からどれだけ時間が経過しても、犯人を処罰することができるようになったのです。

また、「人を死亡させた罪」のうち、②強制わいせつ致死罪(181Ⅰ)、強制性交等致死罪(181Ⅱ)など法定刑の上限が「無期の懲役又は禁錮に当たる罪」については、公訴時効期間が30年に、③傷害致死罪(205)、危険運転致死罪(自2後)など法定刑の上限が「長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪」については、公訴時効期間が20年に、④上記②③以外の罪で、業務上過失致死罪(211前)、過失運転致死罪(自5本)など法定刑の上限が「懲役又は禁錮に当たる罪」については、公訴時効期間が10年に、それぞれ延長されました。

これにより、従来であれば犯人の処罰を諦めなければならなかった時期を過ぎても、犯人を処罰することができるようになったのです。

そして、人を死亡させた罪で死刑に当たるものについて、公訴時効が廃止された理由については、この種の凶悪・重大事犯においては、一般に時の経過による国民の処罰感情の希薄化の度合いや事実状態の尊重の必要性が低いため、一定の時間の経過により一律に訴追・処罰の可能性を失わせてしまうことは適当でないと考えられるためと説明されています。

(4) 改正法の適用時期(判例)

なお、平成22(2010)年の改正法は、上記①ないし④のような「人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの」が、同改正法の施行日(平成22[2010]年4月27日)の前に犯されたものであっても、その施行の際に公訴時効が完成していないのであれば、同改正後の公訴時効に関する規定が適用されます。

この点に関し、上記最判平27.12.3は、

「刑訴法を改正して公訴時効を廃止又は公訴時効期間を延長した『刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律』(平成22年法律第26号。平成22年4月27日施行。以下『本法』という。)の適用範囲に関する経過措置として、平成16年改正法附則3条2項[公訴時効の扱いは従前の例によるとしていた規定]の規定にかかわらず、同法施行前に犯した人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもので、本法施行の際その公訴時効が完成していないものについて、本法による改正後の刑訴法250条1項を適用するとした本法附則3条2項は、憲法39条、31条に違反せず、それらの趣旨に反するとも認められない。」

旨判示しています。

3.未解決事件の状況と著名な未解決事件の紹介

未解決事件の状況と著名な未解決事件の紹介

法制審議会の「刑事法(公訴時効関係)部会」の審議では、15年、20年をかけて犯人検挙に至る事例は実際には少なく、公訴時効が廃止されたとしても、犯人検挙という点での効果は限定的であるとみられています。また、同部会の資料では、平成20年に公訴時効が完成した殺人事件は62件で、平成5年の殺人事件の認知件数(1233件)の約5%となっています。

しかし、このような公訴時効が完成した殺人事件も、公訴時効が廃止されたことにより、犯罪捜査に時間的な終わりがなくなるため、人的物的な手当てが施され、未解決事件が減少することが予測されるのです。

そうしますと、重大な事件であればあるほど、時効があれば逃げ切れると考えるのは、幻想にすぎないといえるでしょう。

いわゆる未解決事件の中には、犯人として起訴された者が判決で無罪となった事件、公訴時効の成立後に、真犯人が自首した事件も含まれますが、ここでは、犯人が特定できないまま公訴時効が成立した事件も含め、著名な未解決事件の一部を紹介しておきます。

⑴ 名古屋妊婦切り裂き殺人事件

昭和63(1988)年3月18日、名古屋市中川区の住宅街のアパートで妊婦(当時27歳)が絞殺され、その腹が切り裂かれて生きたままの胎児(男の子)が取り出されていた事件です。胎児の一命は取り留められました。

不審人物の目撃情報はありましたが、有効な手掛かりがないまま、平成15(2003)年3月18日に公訴時効が成立しています。

⑵ 悪魔の詩訳者殺人事件

平成3(1991)年7月12日、筑波大学の五十嵐一助教授が同大学筑波キャンパスA棟7階のエレベーターホールで刺殺されているのが発見され、司法解剖の結果、前日に殺害されたものと断定された事件です。

同助教授は、平成2(1990)年に、イギリスの作家サルマン・ラシュディがムハンマドの生涯を題材に書いた小説「悪魔の詩」を邦訳していたため、悪魔の詩訳者殺人事件と呼ばれています。

この小説の内容が、ムスリム社会では冒涜的であると受け取られ、イラン最高指導者ホメイニによるラシュディや各国の翻訳者・出版関係者に対する死刑宣告がなされていたのです。このため、事件直後からイラン革命政府との関係が取り沙汰されていましたが、平成18(2006)年7月11日に公訴時効が成立しています。

⑶ 世田谷一家殺害事件

平成12(2000)年12月30日午後11時ころから翌31日の未明にかけて、東京都世田谷区上祖師谷3丁目にある会社員宅で、父親(当時44歳)、母親(当時41歳)、長女(当時8歳)、長男(当時6歳)の一家4人が殺害された事件です。

警視庁による正式名称は「上祖師谷3丁目一家4人強盗殺人事件」とされています。現在も、犯人の特定・逮捕には至っておらず、未解決事件となっています。

なお、この事件の遺族は、他の事件の遺族らと連携して、殺人事件に関する公訴時効の廃止を訴える活動をしていたとされています。

4.公訴時効期間の一覧と該当する主な罪名

⑴人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの
罪の種類公訴時効期間根拠条文
①死刑に当たるもの公訴時効廃止法250条1項柱書
②無期の懲役又は禁錮に当たる罪30年法250条1項1号
③長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪20年法250条1項2号
④②③以外の懲役又は禁錮に当たる罪10年法250条1項3号
⑵人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪
罪の種類公訴時効期間根拠条文
①死刑に当たる罪25年 法250条2項1号
②無期の懲役又は禁錮に当たる罪15年 法250条2項2号
③長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪10年 法250条2項3号
④長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪7年 法250条2項4号
⑤長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪5年 法250条2項5号
⑥長期5年未満の懲役・禁錮又は罰金に当たる罪3年 法250条2項6号
⑦拘留又は科料に当たる罪1年 法250条2項7号

上記⑴の「罪の種類」に関し該当する主な罪名については、上記3に示したとおりですので、ここでは、上記⑵の「罪の種類」に関し該当する主な罪名を示すこととします。すなわち、

①に該当する罪には、外患誘致罪(81)、外患援助罪(82)、現住建造物等放火罪(108)、現住建造物等浸害罪(119)など

②に該当する罪には、通貨偽造罪(148Ⅰ)、強制わいせつ致傷罪(181Ⅰ)、強制性交等致傷罪(181Ⅱ)、身代金目的略取罪(225の2Ⅰ)、強盗致傷罪(240前)、強盗・強制性交等罪(241Ⅰ)など

③に該当する罪には、非現住建造物等放火罪(109Ⅰ)、傷害罪(204)、強盗罪(236)、危険運転致傷罪(自2)など

④に該当する罪には、建造物等以外放火罪(110Ⅰ)、窃盗罪(235)、詐欺罪(246)、恐喝罪(249)、業務上横領罪(253)など

⑤に該当する罪には、受託収賄罪(197Ⅰ後)、未成年者略取罪(224)、横領罪(252Ⅰ)、過失運転致傷罪(自5本)など

⑥に該当する罪には、公務執行妨害罪(95Ⅰ)、暴行罪(208)、過失傷害罪(209Ⅰ)、過失致死罪(210)、脅迫罪(222)、名誉毀損罪(230Ⅰ)、業務妨害罪(233後)、器物損壊罪(261)など

⑦に該当する罪には、侮辱罪(231)、軽犯罪法違反の罪(同法1条)など

以上の罪が、主なものとして含まれます。

なお、2つ以上の主刑を併科すべき罪(例、盗品等有償譲受け罪[256Ⅱ])、又は2つ以上の主刑中その1つを科すべき罪(例、傷害罪[204])については、その重い方の刑に従って法250条が適用されます(法251条)。

また、刑法により刑を加重減軽すべき場合には、加重減軽しない刑に従って法250条が適用されます(法252条)。

5.刑事事件の被疑者になってしまったら

公訴時効の見直しは、犯罪被害者にとって、その無念を晴らす助けとなるといえます。一方、犯人は、もしも公訴時効を迎えたとしても、一生罪悪感に悩まされることになるでしょう。

刑事事件の被疑者になってしまったならば、たとえそれが軽微な事件であっても、遅かれ早かれ逮捕されてしまうでしょうし、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

泉総合法律事務所の弁護士は刑事事件の弁護経験が豊富なので、どのような事件でも是非一度ご相談ください。初回相談料は無料です。

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