交通事故 [公開日]2021年12月15日

物損事故と報告義務

車などを運転していると、交通事故を起こし、その事故の加害者になってしまうことがあります。

交通事故の当事者となった場合、気が動転してそのまま立ち去ってしまう方もいると思います。しかし、これは違反行為であり、本来は直ちに警察に連絡する必要があります。

警察を呼ばない場合、罰則が科されたり、また保険会社から受け取れるはずの保険金が受け取れなくなったりする可能性があります。

この記事では、物損事故を起こした場合の報告義務、報告しない場合のリスク等について解説します。

なお、人身事故を起こした場合に報告しないこと(=ひき逃げ)のリスク・刑事罰については、以下のコラムで解説しています。

[参考記事]

ひき逃げの罪-必ず後日に検挙されて逮捕される?弁護士必須の重大事件

1.道路交通法の報告義務について

道路交通法によると、交通事故を起こした場合には、事故が発生した日時場所等について警察官に報告しなければなりません。

道路交通法72条1項

【前段:救護義務・危険防止措置義務】
交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。

【後段:報告義務】
この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない

物損事故を起こした場合にそのまま現場を立ち去ってしまう(=当て逃げをする)と、72条前段の危険防止措置義務違反だけでなく、72条後段の報告義務違反にもなってしまいます。

条文上は「交通事故があったとき」としか記載されていないので、たとえ相手方が怪我をしておらず、軽微な物損事故であっても報告義務が課されるのです。

また、「直ちに」となっている以上、交通事故が発生したらすぐに報告しなければなりません。少しでも現場を離れたら、たとえ後から戻ってきたとしても違反となってしまいます。

2.報告しない場合のリスク

「軽微な事故だから、その場で当事者間で話し合いさえすれば警察には報告しないで良いだろう」などと考えてはいけません。
報告義務の不履行は、以下のリスクを伴います。

(1) 刑罰が科される

報告義務をしなかった場合、3月以下の懲役刑または5万円以下の罰金刑が科される可能性があります。

道路交通法119条1項 次の各号のいずれかに該当する者は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。
第10号 第72条(交通事故の場合の措置)第1項後段に規定する報告をしなかつた者

もっとも、「当て逃げ」をした場合には危険防止措置義務違反(1年以下の懲役または10万円以下の罰金)と報告義務違反の両方が成立します。
この場合、より重い危険防止措置義務違反で罰せられます

当て逃げならば多くのケースで罰金刑となりますが、罰金刑でも前科はついてしまいますので、その後の生活に少なからず影響が出ることが考えられます。

(2) 運転免許の点数が加点される

交通事故を起こした場合、物損事故であれば運転免許の点数は加算されません。

しかし、当て逃げをすると7点が加算されます。これは安全運転義務違反2点、危険防止措置義務違反で5点加算されるためです。

合計7点が加算された場合、前歴がない方であっても30日間の免許停止処分となってしまいます。

(3) 交通事故証明書が発行されない

交通事故証明書とは自動車安全運転センターが発行する、交通事故の事実を証明する書類をいいます。

自動車安全運転センターは、警察から事故の報告を受けて証明書を発行するので、報告をしなければ交通事故証明書は発行されません

交通事故証明書がない場合、他に交通事故の事実を証明する手段がなければ、保険会社が保険金の支払いを拒むことがあります
そうすると、車の修理代や被害者への治療費が自費となってしまい、多大な損害を被ることになるでしょう。

【被害者の場合は示談金が受け取れない可能性も】
交通事故は自分が加害者になるのではなく、被害者になる可能性もあります。被害者であっても、交通事故が発生した場合の報告義務は存在します。
交通事故があった場合、当事者は示談をすることで賠償金を決定します。示談をする際には示談書を作成するのが通常ですが、実は、口頭の合意でも示談は法的には有効に成立します。そのため、交通事故の現場で「あとで○万円支払う」と言って、報告もなく当事者間の話し合いだけで解散した場合でも、示談は一応有効に成立したことになります。
しかし、法律の理屈はともかく、現実には、口約束では証拠が残りませんからその場で口約束した相手方が、しっかりと示談金を支払ってくれる保証はありません。何も証拠がなければ、「事故など起きていない」と言われてしまう可能性もあります。相手の身元を確認していなければ、最悪そのまま音信不通になることもあるでしょう。
一方、警察にきちんと報告した場合には、当事者の住所・氏名が記載された交通事故証明書が作成されるので、示談書を作成していなくとも、少なくとも事故の事実は証明できますし、相手が逃げてしまうこともありません。賠償金をしっかり受け取るためにも、被害者は事故後警察に報告するべきです。

3.まとめ

以上から分かるよう、物損事故を起こした場合には警察にすぐ報告する必要があります。交通事故の当事者となった場合には、必ず警察に連絡しましょう。

当て逃げは犯罪行為であり、逮捕・起訴されれば前科がついてしまう可能性もあります。
「交通事故を起こしてしまった」「当て逃げをしてしまった」という方は、泉総合法律事務所の刑事事件に強い弁護士までお早めにご相談ください。

泉総合法律事務所では、交通事故案件の対応実績も豊富ですので、安心してご相談いただけます。

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