交通事故 [公開日]2020年8月13日[更新日]2021年9月3日

道路交通法改正のポイント2020年|あおり運転・自転車

近年では、交通事故の件数自体は全国的に減少傾向にありますが、依然として交通事故は私たちにとって身近な悲劇として存在しています。

特に最近では、あおり運転等の危険行為、反則行為による死亡事故の発生など、新たな交通違反のパターンが社会問題化しています。

こうした状況に対処するため、交通ルールを定める道路交通法は定期的にアップデートが続けられています。

2020年6月30日(令和2年)に、あおり運転などに関する新たな規制を定める改正道路交通法が施行されました。
この機会に新たなルールの内容を正しく理解し、交通安全を皆さんが意識しましょう。

この記事では、2020年6月30日施行の改正道路交通法の内容を専門的な観点から解説します。

1.道路交通法とは

まずは、そもそも道路交通法とはどのような法律なのかについて簡単に押さえておきましょう。

道路交通法1条は、法律の目的について以下のとおり定めています。

第一条 この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。(道路交通法1条)

道路では、車・自転車・歩行者などが入り乱れて往来するため、時として交通事故の危険が発生するリスクを抱えています。
道路交通法は、交通事故のリスクを極力最小化するため、交通に関するルールを定めている法律ということができます。

道路交通法には、車・自転車・歩行などが交通上遵守すべきルールが数多く定められています。

道路交通法の規定に違反した場合、違反行為の内容によっては、刑事罰の対象になってしまうおそれもあります。

そのため、交通法規の内容を正しく理解した上で、注意深く道路を往来することが大切です。

2.改正道路交通法(2020年6月30日施行)のポイント

2020年6月30日に一部改正された道路交通法が施行され、いわゆる「あおり運転」に関する規制強化を中心として、最近の社会問題に対応するいくつかの法整備が行われました。

以下では、改正道路交通法のポイントについて解説します。

(1) 「あおり運転」に対する罰則の創設

ここ数年にわたって、東名高速道路や常磐道などにおいて、他の車に対するあおり行為によって交通上の危険を生じさせる、いわゆる「あおり運転」が社会問題化しました。

これまでも、あおり運転により実際に他人を死傷させた場合には、一定の要件を満たす場合に限り危険運転致死傷罪(後述)が適用され、重い処罰の対象とされていました(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通称:自動車運転処罰法)2条4号)。

しかし、他人を死傷させる結果が生じない限り、あおり運転行為自体を処罰の対象とすることはできませんでした。

これらの理由から道路交通法は一部改正され、実際に死傷の結果が生じなかったケースであっても、あおり運転行為をしたこと自体が「妨害運転罪」として処罰の対象となりました(道路交通法117条の2の2第11号)。

あおり運転行為に該当する具体的な行為としては、以下の10類型が規定されています。

<あおり運転の10類型>
①通行区分違反
②急ブレーキ禁止違反
③車間距離の不保持
④進路変更禁止違反
⑤追い越し違反
⑥減光等の義務違反
⑦警音器使用制限違反
⑧安全運転義務違反
⑨最低速度違反(高速自動車国道の場合)
⑩高速自動車国道等駐停車違反

上記のあおり運転行為を行った場合、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処されます(道路交通法117条の2の2第11号)。

さらに、あおり運転行為によって、「①高速自動車国道等において他の自動車を停止させた場合」または「②その他道路における著しい交通の危険を生じさせた場合」には、より重い「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」に処される可能性があります。

刑事罰に加えて、あおり運転行為に対しては25点、著しい交通の危険を生じさせた場合などについては35点の違反点数が科され、いずれも一発で免許停止となります。

免許停止期間は、違反点数25点の場合は2年、35点の場合は3年ですが、前歴や累積点数がある場合にはさらに延長される可能性があります。

(2) 自転車による「あおり運転」も規制対象に

上記のあおり運転行為のうち、⑥⑨⑩の3つを除く以下の類型に関しては、自転車による行為に対しても適用されます。

<自転車にも適用されるあおり運転の7類型>
①通行区分違反
②急ブレーキ禁止違反
③車間距離の不保持
④進路変更禁止違反
⑤追い越し違反
⑦警音器使用制限違反
⑧安全運転義務違反

自転車があおり運転を行った場合も、自動車の場合と同様の刑事罰が科される可能性があります。

さらに、自転車があおり運転行為について3年以内に2回以上検挙された場合には、都道府県公安委員会により、自転車運転者講習の受講が命じられるようになりました。

自転車運転者講習の受講を命ぜられたものは、警察本部などで3時間6,000円の講習を受講しなければなりません。

講習受講の命令に従わないと、5万円以下の罰金に処されてしまう可能性があります。

(3) その他の改正ポイント

あおり運転関連以外で、2020年6月30日施行の改正道路交通法によりルール変更が行われた主なポイントとしては、以下の2点があります。

①高齢運転者対策の充実・強化

高齢者による運転操作ミスを原因とする交通事故の多発が社会問題化していることを受けて、75歳以上で一定の交通違反歴がある運転者について、運転免許証の更新時に運転技能検査(新設)や認知機能検査が実施されることとなります。

運転技能検査に合格できなかったり、認知症等により認知機能の低下の恐れがある運転者については、原則として運転免許証の更新が行われません。

ただし、申請によって、運転可能な車両を安全運転サポート車に限定するなどの条件付免許が与えられる場合があります。

②第二種免許等の受験資格の見直し

第二種免許・大型免許等の受験資格は、原則として「21歳以上・普通免許等保有3年以上」という経験年数要件が設けられています。

しかし、運送業界などでドライバー不足が深刻な問題となっており、若い運転者を確保する観点から受験資格の緩和が求められていました。

今回の道路交通法改正により、特別な教習を終了した者については、第二種免許・大型免許等の受験資格が「19歳以上・普通免許等保有1年以上」に緩和されることになりました。

ただし、21歳(中型免許は20歳)までに違反が一定水準に達してしまった場合、違反講習の受講が義務付けられます。

3.危険運転致死傷罪の規制対象も拡大

道路交通法においてあおり運転に関する処罰規定が新設されたことを受けて、自動車運転処罰法に定められる危険運転致死傷罪の処罰対象についても、同時並行で改正の議論が進められていました。

そして2020年7月2日に、道路交通法の改正とほぼ同じタイミングで改正自動車運転処罰法が施行されました。

(1) 従来から規制されていた危険運転行為

従来の危険運転致死傷罪は、以下の行為のいずれかによって人を死傷させた場合に成立するものとされていました。

<従来の危険運転6類型>
①アルコールまたは薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
②制御困難な高速度で自動車を走行させる行為
③制御技能を有しないで自動車を走行させる行為
④人または車の通行を妨害する目的で、通行中の人または車に著しく接近し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
⑤赤信号などをことさらに無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
⑥通行禁止道路を進行し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

上記のうち、あおり運転行為は④によって処罰される可能性がありました。

しかし、「重大な交通の危険を生じさせる速度で」という条件が付いているため、あおり運転行為を処罰するために十分な規定内容とは必ずしもいえない状況がありました。

(2) 新たに規制される危険運転行為

2020年7月2日施行の改正自動車運転処罰法では、危険運転行為の類型として、新たに以下の2つが追加されました。

<新たに追加された危険運転2類型>
①車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じる速度で走行中のものに限る)に著しく接近する方法で自動車を運転する行為
②高速自動車国道または自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車に著しく接近する方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止または徐行をさせる行為

上記の2類型は、あおり運転をする側についての速度要件が設けられていないため、あおり運転行為を広く処罰対象に含めることができるようになりました。

4.人身事故を起こしてしまったら弁護士に相談を

道路交通法・自動車運転処罰法の改正により、特にあおり運転行為は処罰のリスクが大きく高まりました。

万が一あおり運転で通報されてしまったり、人身事故を起こしてしまったりした場合には、最悪の場合重い刑事責任を負うことになってしまいます。

できるだけ早く被害者との示談などを進め、重い刑事処罰を回避するためにも、お早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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