不同意性交等罪とは? 刑法改正による強制性交等罪からの変更点を解説
2023年3月14日に閣議決定された法律案では、各種性犯罪に関する抜本的な改正が盛り込まれました。
今回は、新設が見込まれる「不同意性交等罪」を中心に、性犯罪の厳罰化に関する刑法等の改正内容を解説します。
1.「強制性交等罪」から「不同意性交等罪」への改正
今回の改正刑法案では、従来の「強制性交等罪」について、「不同意性交等罪」への名称変更と構成要件の修正が盛り込まれています。
強制性交等罪は、被害者の抵抗を著しく困難にして性交等をした場合に成立すると解されています。
しかし、被害者の抵抗可能性の程度が争われることが多く、本来処罰すべき行為を適切に処罰できないとの批判がありました。
そこで、より幅広い行為を「不同意性交等罪」による処罰の対象とすることで、実質的な性犯罪の厳罰化が意図されています。
2.不同意性交等罪の構成要件
改正刑法案において新たに盛り込まれた「不同意性交等罪」は、以下の①②を両方満たす場合に成立するとされています(改正刑法案177条)。
①以下のいずれかの行為(=性交等)をしたこと
(a)性交
(b)肛門性交
(c)口腔性交
(d)膣・肛門に身体の一部(陰茎を除く)または物を挿入する行為であって、わいせつなもの
②以下のいずれかに該当すること
(a) 性交等をするに当たり、次に掲げる行為・事由その他これらに類する行為・事由により、相手が同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせた
・暴行または脅迫を用いること、またはそれらを受けたこと
・心身の障害を生じさせること、またはそれがあること
・アルコールまたは薬物を摂取させること、またはそれらの影響があること
・睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること、またはその状態にあること
・同意しない意思を形成、表明または全うするいとまがないこと
・予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、もしくは驚愕させること、またはその自体に直面して恐怖し、もしくは驚愕していること
・虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがあること
・経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮していること(b) 相手が(a)の状態にあることに乗じて性交等をした
(c) 行為がわいせつなものでないとの誤信をさせ、もしくは行為をする者について人違いをさせ、またはそれらの誤信・人違いをしていることに乗じて性交等をした
(d) 性交等の相手が16歳未満である(相手が13歳以上の場合は、5歳以上年上の者のみが処罰の対象)
3.強制性交等罪から不同意性交等罪への変更点
強制性交等罪から不同意性交等罪への変更に当たり、具体的には以下の各点が変更されます。
- 強制性交等罪と準強制性交等罪の統合
- 「不同意」を類型化し、処罰範囲を拡大
- 性交同意年齢を13歳から16歳に引き上げ
- 公訴時効期間を10年から15年に延長
(1) 強制性交等罪と準強制性交等罪の統合
現行刑法では、暴行または脅迫を用いて性交等をする「強制性交等罪」と、心神喪失・抗拒不能に乗じ、または抗拒不能にさせて性交等をする「準強制性交等罪」が分かれています。
改正刑法案では、強制性交等罪と準強制性交等罪がいずれも「不同意性交等罪」に統合されています。
(2) 「不同意」を類型化し、処罰範囲を拡大
改正刑法案では、不同意性交等罪を基礎づける「不同意」が認められる行為・事由を具体的に類型化した点が大きな特徴です。
改正刑法案により類型化された「不同意」の事由は、現行刑法における強制性交等罪・準強制性交等罪よりも拡大されており、実質的に処罰範囲が広げられています。
(3) 性交同意年齢を13歳から16歳に引き上げ
現行刑法における強制性交等罪については、13歳未満の者に対して性交等をした場合、暴行・脅迫を用いていなくても処罰されます。
この「13歳」というボーダーラインは、性交相手を自分の判断で選べるという意味で「性交同意年齢」と呼ばれることがあります。
改正刑法案では、性交同意年齢が13歳から16歳へと引き上げられ、16歳未満の者に対する性交等は、不同意事由が存在しなくても不同意性交等罪によって処罰されます(改正刑法案177条3項)。
(4) 公訴時効期間を10年から15年に延長
刑法改正と同時に盛り込まれた刑事訴訟法改正により、不同意性交等罪の公訴時効期間は、従来の10年から15年に延長される見込みです(改正刑事訴訟法案250条3項2号)。
性犯罪は、二次被害に対する恐怖などが原因で、刑事告訴が遅れてしまうケースがよくあります。公訴時効期間の延長には、性犯罪被害者の泣き寝入りを減らす効果があると考えられます。
4.性犯罪に関するその他の改正ポイント
不同意性交等罪の新設以外にも、今回の法律案では、性犯罪について以下の各変更が盛り込まれています。
(1) 強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪も「不同意わいせつ罪」へ
現行刑法における「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」も、改正刑法案では「不同意わいせつ罪」に統合されます。
不同意わいせつ罪は、性交等ではなく「わいせつな行為」を処罰対象としますが、それ以外の要件は不同意性交等罪と同じです。
不同意性交等罪と同様、不同意わいせつ罪についても、従来の強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪による処罰の対象が実質的に拡大されています。
(2) 16歳未満の者に対するグルーミング行為を禁止
改正刑法案には、わいせつ目的で16歳未満の者に近づいて手なづける、いわゆる「グルーミング」の処罰規定が盛り込まれています(改正刑法案182条)。
具体的には、わいせつ目的による以下の行為が処罰の対象とされています。
(3) 盗撮行為を処罰する「撮影罪」などを新設
今回新たに成立する見込みの法律案※では、法制審議会の答申を踏まえて、以下の罪の新設が盛り込まれています。
※性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案
①性的姿態等の撮影(同法2条)
→性的な姿を撮影する行為。3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
②性的影像記録提供等(同法3条)
→性的な映像を他人に提供する行為。3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
③性的影像記録保管(同法4条)
→②の行為をする目的で、性的な映像を保管する行為。2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金
④性的影像記録送信(同法5条)
→不特定または多数の者に対し、性的な映像を送信する行為。5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金
⑤性的姿態等影像記録(同法6条)
→情を知って、④によって送信された性的な映像を記録する行為。3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
5.性犯罪を犯してしまったら弁護士にご相談を
このように、性犯罪については年々厳罰化が図られています。
捜査機関に性犯罪の嫌疑を掛けられてしまった、あるいは逮捕されて被害者との示談をお望みでしたら、速やかに弁護士へご相談ください。適切な弁護活動により、早期に身柄解放を実現し、不当な処罰を避けられるように尽力いたします。