性犯罪 [公開日]2020年9月30日

セクハラと痴漢はどこが違うか|基準を分かりやすく解説

女性の社会進出という言葉自体、もはや時代遅れにも感じられますが、セクハラや痴漢は特に女性を苦しめる問題として現在もあり続けています。

ところで、「セクハラが原因で逮捕される可能性がある」といわれるとどう思われるでしょうか。

「セクハラくらいで?」と思われた場合は要注意かもしれません。
行為者の目線ではスキンシップや軽い冗談のつもりであっても、受け手にとっては大きな苦痛となっていることもしばしば見受けられます。

場合によっては、痴漢と同様に刑事責任を問われて、逮捕されたり前科がついたりする可能性もある問題なのです。

この記事では、セクハラについて、痴漢との違いや処罰される可能性がある行為について解説します。

1.セクハラや痴漢とはどういった行為か?

もともと「セクハラ」や「痴漢」という言葉は刑事法で使われる用語ではありません。

痴漢については、全国各地の迷惑防止条例で痴漢行為を取り締まるための規定が設けられており、「痴漢は犯罪」という認識が一般化しているといえるでしょう。

一方、セクハラについては、セクハラ自体を処罰する法律などは存在しません。
セクハラと呼ばれる行為が刑法などの罰則を定めた法律に触れた場合にはじめて刑事責任の問題が生じるのです。

まずは、セクハラや痴漢の刑事責任を考える前提として、それらの定義を整理しておきましょう。

(1) セクハラとは

セクハラ(セクシャルハラスメント)とは、「性的な嫌がらせ」という意味で、様々な場面で使われるようになりました。

法律により事業者に対して職場でのセクハラ対策が義務付けられていることから、講話やビデオ視聴などの研修を受けられたご経験もあるのではないでしょうか。

職場におけるセクハラは、次の3点がポイントになるといわれています。

  • 業務に関する場所であること
    必ずしも会社のオフィスなどに限られず、業務として移動する車中や業務の延長と考えられる宴席が含まれることがあります。
  • 労働者の意に反すること
  • 性的な言動であること

なお、民事上の損害賠償責任が生じるか否は、「相手の意に反する」かが大きなポイントとなります。

(2) 痴漢行為とは?

犯罪となる痴漢行為については、別記事で詳しく紹介しています。

[参考記事]

痴漢の定義と種類|痴漢を事例ごとに徹底解説

痴漢行為の多くは迷惑防止条例によって取り締まりを受けています。

迷惑防止条例は公共の風紀を維持するために制定されていますので、会社のオフィスのように誰もが自由に出入りすることができない場所は規制の対象外になります。

しかし、公共の場所や乗り物であれば、カップルが同意の上で身体に触ったり卑わいな言動をしたりした場合でも罪に問われる可能性はあります。

セクハラ行為もそのほとんどが迷惑防止条例違反の痴漢にも該当する行為ですので、公共の場所や乗り物でセクハラ行為を行うと、迷惑防止条例違反も併せて成立する可能性が高くなります。

2.セクハラや痴漢で問題となりうる刑事責任

次に、セクハラや痴漢の各行為が該当する可能性がある法律(処罰規定があるもの)を解説します。

(1) 痴漢行為の場合

迷惑防止条例違反の罪

東京都の迷惑防止条例である「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」では、

  • 正当な理由なく、人を羞恥させ、人を不安にさせる行為として、公共の場所や乗り物で、
  • 着衣の上からまたは直接身体に触ること
  • 卑わいな言動をすること

を禁止しています。

違反すると、6月以下の懲役または50万円以下の罰金(常習の場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金)により処罰される可能性があります(東京都以外の地域でもほぼ同様です。)。

強制わいせつ罪(刑法176条)

痴漢行為でも悪質な場合は、強制わいせつ罪として重い罪に問われる可能性があります。

実際に検挙例がある事例として、「下着の中に手を差し入れて陰部を触る」「胸を執拗に触ってキスをする」といったものがあります。

(2) セクハラの場合

セクハラの場合は、行為の態様もさまざまであり、適用される可能性がある法律も多岐にわたるため、概要を表にまとめています。

罪名法律行為の態様刑の重さ
侮辱罪刑法231条具体的な事実を伴わず、「〇〇さんは浮気好き」などと公然と人を侮辱した場合拘留、科料のいずれか
名誉毀損罪刑法230条「〇〇さんは取引先の□□さんと浮気している」というように、具体的な事実を拡散して名誉を毀損した場合3年以下の懲役・禁錮・50万円以下の罰金のいずれか
強要罪刑法223条脅迫または暴行により、相手に義務のないことを強要した場合3年以下の懲役
強制わいせつ罪刑法176条脅迫または暴行により、わいせつ行為を行った場合6月以上10年以下の懲役
準強制わいせつ罪刑法178条1項酒に酔った状態や立場や権限により心理的に抵抗できない状態であることに乗じて、わいせつ行為を行った場合6月以上10年以下の懲役
強制性交等罪刑法177条暴行または脅迫により、性交や肛門性交、口腔性交を行った場合5年以上20年以下の懲役
準強制性交等罪刑法178条2項酒に酔った状態や立場や権限により心理的に抵抗できない状態であることに乗じて、性交や肛門性交、口腔性交を行った場合5年以上20年以下の懲役
公然わいせつ罪刑法174条公然とわいせつな行為をした場合6月以下の懲役・30万円以下の罰金・拘留、科料のいずれか
ストーカー規制法違反(迷惑防止条例違反)ストーカー規制法18条、2条など恋愛感情や悪意の感情またはそれらにまつわる怨恨の感情によりストーカー行為を反復して行った場合・1年以下の懲役・100万円以下の罰金のいずれか

※拘留とは1日以上30日未満刑事施設に収容される刑、科料とは1,000円以上1万円未満を徴収される刑です。
※罰金の下限の額は1万円です。

3.具体的なセクハラの事例と刑事責任

セクハラとは、「相手の意に反する性的言動」ですが、「性的言動」が犯罪となる可能性について解説します。

なお、犯罪に当たらない場合でも、民事上の責任を追及されたり、就業規則に違反して懲戒処分を受けたりする可能性は大いにあるということが前提となりますのでご注意ください。

(1) 性的な経験談や恋愛経験について尋ねる

強要罪」に該当するケースも考えられます。

強要罪における「脅迫」には、経済的不利益に関する害悪の告知が含まれます。
契約更新や人事評価などで不利益を与えること、職場に居づらくさせるといったこと告げることも脅迫にあたるといえるでしょう。

義務のない行為とは、土下座や服を脱ぐという動作からプライベートな事実の告白も含まれます。

したがって、昇進や契約更新の条件として、「結婚しないの?」とか「彼氏とはやっているの?」などと質問して回答を求めた場合は、強要罪に該当する可能性があります。

なお、強要罪は未遂罪も処罰されますので、質問に答えなかったとしても、強要未遂罪の成立がありえます。

職場の雑談の中でこのような話題が出たに過ぎない場合は、犯罪は成立しないと考えられます。

(2) 性的な噂を流布する(言いふらす)

噂の内容によっては「侮辱罪」や「名誉毀損罪」に該当する可能性が考えられます。

侮辱罪は、「〇〇さんは浮気好き」などと公然と人を侮辱した場合に成立します。
名誉毀損罪は、「〇〇さんは取引先の□□さんと浮気している」と具体的な事実を公然と示した場合に成立します。

いずれも、特定の少数にとどまらず拡散する可能性があれば、「公然と」したことになります。

なお、言いふらされた内容が人の社会的評価を低下させるおそれがない場合は、罪にはなりません。
例えば、「〇〇さんは妊娠した」とか「〇〇さんと△△さんは付き合っている」というような例です。

(3) 性的なたとえでからかい、冗談を言う

第三者に聞かれるような状況であれば、「侮辱罪」や「名誉毀損罪」に該当する可能性があります。

一方、どんなにひどい冗談であっても、それが個室での発言で、不特定または多数に広がる可能性がないような場合は、セクハラには当たっても、犯罪は成立しないと考えられます。

(4) 自身の性的経験談を話す

そのような話をしただけであれば、犯罪に当たることはないと考えられます。

しかし、性行為場面や裸体の画像を見せた場合は、公然わいせつ罪になる可能性も考えられます(「わいせつな画像を掲示したりスクリーンセーバーとして表示したりする」参照)。

以上の4例は発言によるセクハラの事例ですが、これらを公共の場所や乗り物で行った場合は、「卑わいな言動」として「迷惑防止条例違反」が成立する可能性もあります。

(5) 性的な関係を強要する

「(準)強制わいせつ罪」や「(準)強制性交等罪」またはその未遂罪となる可能性があります。

わいせつ行為や性交等の手段

  • 強要罪の場合と同様に、仕事上の不利益な処分を匂わせて脅迫する
  • 抵抗を力づくで抑えつけたり、羽交い絞めにして胸を強く掴んだりして暴行する
  • 飲酒による酩酊状態や寝込んだ状態に乗じる
  • 地位や日頃の信頼関係を利用して、心理的に抵抗ができない状態であることに乗じる

なお、実際にわいせつ行為や性交等まで至らなかった場合でも、これらの手段を実行した時点で未遂罪となる可能性があります。

わいせつ行為とは

わいせつ行為とは、性欲を興奮、刺激させる・一般的にみて性的に恥ずかしい感情にさせる・善良な性的道義観念に反する行為、といわれています。

カップルや家族間では問題にならないキスや抱擁、身体を押し付ける行為も、状況によってはわいせつ行為となる可能性があるでしょう。

性交等とは

2017年に刑法が改正されるまでは、強制性交等罪は「強姦罪」という罪名でした。

法改正前は、男性が女性を姦淫する行為が処罰の対象でしたが、改正後は性交に加えて肛門性交や口腔性交が明文で規定され、刑も引き上げられています。

(6) 不必要に身体へ接触する

二の腕や肩など、触られても性的に恥ずかしいと感じるような部位でなければ、刑事責任の問題にはならないといえるでしょう。

ただし、強い力で腕を引っ張ったり、肩を叩いたりした場合は、「暴行罪」となる可能性も考えられます。

性的に恥ずかしいと感じるような部位に触った場合は、「強制わいせつ罪」となる可能性があります。公共の場所や乗り物であれば、「迷惑防止条例違反」となる可能性が高いでしょう。

(7) 食事やデートへ執拗に誘う

脅迫などを伴えば、「強要罪」に該当する可能性があります。

また、拒否しているのに何度もしつこく誘った場合は、「ストーカー規制法」や「迷惑防止条例」の「面会や交際を(執拗に)要求する」禁止規定に該当することも考えられるでしょう。

(8) わいせつな画像を掲示したりスクリーンセーバーとして表示したりする

「公然わいせつ罪」に該当する可能性があります。

会社のオフィスのように特定の人しかいない空間であっても、「特定の少人数」だけで見る場合を除いて「公然」と認められるケースが多いようです。

少人数か大人数かは個別の事例で評価されるので、一概にはいえないところがあります。

(9) ファーストネームや「ちゃん」付け、呼び捨てで呼ぶ

呼ばれる側の意に反する場合はセクハラに当たる可能性もあり、ビジネスマナーとしても残念なケースですが、犯罪に当たる可能性はないといえるでしょう。

ただし、人前で「デブ」などと身体的な特徴をあげつらったあだ名で呼ぶ行為は「侮辱罪」となる可能性があります。

4.まとめ

セクハラや痴漢が犯罪となるケースについて解説してきました。

犯罪とならない場合であっても、会社の就業規則に違反して処分されたり、退職や転勤を余儀なくされたりするケースが少なくないといわれています。

特にセクハラの場合は、会社も巻き込んで民事上の責任を追及されることもあり、会社にも損害を与える可能性もあります。

セクハラや痴漢について心当たりがある場合は、問題が大きくなる前に刑事弁護経験豊富な弁護士に相談されることをおすすめします。

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