痴漢 [公開日]2020年9月25日

痴漢の定義と種類|痴漢を事例ごとに徹底解説

満員電車と痴漢の歴史は意外と古く、明治時代末期には女子学生を痴漢から守るため中央線に女性専用電車が導入されたといいます。

通勤や通学の途上に電車で乗り合わせた人に好意や関心を抱いてしまうことがあるのは、古今東西変わらないということです。
しかし、そこで理性を欠いた行動をしてしまうと、痴漢として処罰されることもあるのです。

この記事では、痴漢行為を規制する法令と、どのような行為が痴漢として処罰される可能性があるのか、痴漢の種類・定義について解説します。

1.痴漢行為を規制する「迷惑防止条例」

(1) 迷惑防止条例制定までの遍歴

かつては、痴漢行為を取り締まる法律は刑法の性犯罪に関する規定しかなく、性犯罪とまではいえないような比較的軽微な痴漢行為を犯罪として処罰する方法がありませんでした。

いわば、痴漢は「許容される行為ではないものの、刑事責任までは問えない」状態だったのです。

しかし、1964年(昭和39年)の東京オリンピック開催を控えて、東京都下の風紀を向上させるために、東京都でいわゆる迷惑防止条例が制定され、全国にも同様の動きが広がりました。

その迷惑防止条例の中に痴漢行為を規制する規定が盛り込まれ、現在ではさまざまな類型の痴漢行為を処罰する根拠となっているのです。

なお、都道府県ごとに迷惑防止条例の名称や条文は異なっていますが、痴漢の規制についてはほぼ横並びの内容となっています。

この記事では、東京都の迷惑防止条例である「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」について解説しますが、東京都以外の地域にも当てはまる内容となっています。

(2) 迷惑防止条例の条文のポイント

まず、東京都の迷惑防止条例で痴漢を規制する条文を確認しましょう。

何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない(条例5条1項)。

条例の条項1号3号
規制の場所 公共の場所または公共の乗り物
規制される行為衣服などの上からまたは直接に人の身体に触れること卑わいな言動をすること
罰則6月以下の懲役または50万円以下の罰金
(常習の場合:1年以下の懲役または100万円以下の罰金)

「何人も」とか「人を」「人に」と規定されているとおり、性別や異性間であるか同性間であるかは問題になりません。

また、「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為」とは、被害者が実際にそう感じたか否かではなく、一般人がそのように感じる行為といえるか否かが問題となります。

次に、個別の痴漢類型について解説します。

人の身体に触れる痴漢行為(条例5条1項1号)

電車の中や路上、商業施設など人が自由に出入りできる場所で身体に触れる行為が典型例で、学校や会社のオフィスなど誰もが自由に立ち入ることができない場所は規制の対象外です。

なお、身体に触れる動機は、必ずしもわいせつ目的である必要はないとされています。

困らせたいとかスリルを味わいたいといったものでも、一般的にみて人を著しく羞恥させたり不安を覚えさせたりする行為であれば、処罰の対象となるのです。

卑わいな言動による痴漢行為(条例5条1項3号)

「卑わいな言動」とは具体性を欠いた不明確な規定のようにも思えますが、リーディングケースとなる最高裁判決(平成20年11月10日)では次のような解釈を示しています。

「卑わいな言動」とは、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語または動作をいう
「公共の場所または公共の乗り物にいる者に対し、正当な理由がないのに」、「著しく羞恥させ、または不安を覚えさせるような」と相まって、日常用語としてこれを合理的に解釈することが可能

卑わいな言動であるか否かは、被害対象者がそのように感じたか否かではなく、一般的な尺度で判断されるのですが、上記の最高裁判決では、1名の裁判官が卑わいな言動にあたらないとして反対意見を述べて判断が分かれる結果となりました。

このように、身体に触れない行為の場合、痴漢にあたるか否かの判断が難しいこともありますので、自分がしてしまった行為が罪に問われるのか不安に感じられた場合は弁護士に相談されることをお勧めします。

(3) 刑法の強制わいせつ罪との違い

身体に触れる行為でも、下着の中に手を差し入れるような、迷惑行為の範疇を超えた悪質なケースでは、強制わいせつ罪(刑法176条)に問われる可能性があります。

一般的には、着衣の上から身体に触った場合は迷惑防止条例違反に、着衣や下着の中に手を差し入れて陰部や胸を触った場合は強制わいせつに該当するといわれています。

強制わいせつ罪は、迷惑防止条例のような場所の限定はないため、住居内や会社のオフィスのような私的な空間でも成立します。

強制わいせつ罪の罰則は6月以上10年以下の懲役となり、格段に刑が重い罪となります。

2.痴漢の類型ごとに種類・定義を解説

次に、過去に検挙例がある痴漢行為を中心に、痴漢の類型ごとに具体的な痴漢の種類・定義を解説します。

(1) 身体に触れる・下半身を押し付ける(押し付け痴漢)

身体に触れる痴漢行為には、次のような事例があります。

  • 手で着衣の上から胸部や陰部を触る(すれ違いざまに触る行為を含む)
  • 足を他人の臀部や陰部に押し付けたり、自身の股間を他人に押し付けたりする(押し付け痴漢)

なお、満員電車では、バランスを崩したはずみで手などが人の身体に触れることもありますが、それだけで犯罪になることは考えられません。

しかし、そうして人の身体に触れたことを奇貨として身体を触り続けた場合、痴漢として罪に問われる可能性があります。

【かばんや傘などの手回り品を他人の身体に押し当てる行為は?】
自身の身体ではなく、かばんや傘で他人の身体に触った場合はどうでしょうか。
「身体に触れる」という要件を、かばんなどの物を当てる行為にまで適用するのはやや無理があるといえるでしょう。しかし、かばんなどが当たった場所によっては、卑わいな言動に該当する可能性も十分に考えられます。

[参考記事]

押し付け痴漢も立派な痴漢犯罪です!痴漢の定義と冤罪を避けるには?

(2) 匂いを嗅ぐ

電車などの空間で他人の匂いが流れてくるのは自然なことで、それをかぐ行為が犯罪になるとは考えられないでしょう。

しかし、至近距離でそれと分かる動作を伴って匂いをかぐ行為は、卑わいな言動に該当する可能性があります。

また、匂いをかごうとして、不安や迷惑を覚えさせるような方法で他人につきまとった時点で軽犯罪法違反(軽犯罪法1条28号)となる可能性もあります。

軽犯罪法違反の罰則は、拘留か科料のいずれかまたは両方です。
拘留とは1日以上30日未満刑事施設に収容される刑、科料とは1000円以上1万円未満を徴収される刑です。

(3) 卑わいな言葉をつぶやく・首筋や耳に息を吹きかける

公共の場所や乗り物で卑わいな言葉を口にする行為は、その内容にもよりますが卑わいな言動にあたる可能性があるでしょう。

また、故意に他人の首筋や耳に息を吹きかける行為は、一般的に性的興奮を連想させるものといえることから、卑わいな言動にあたる可能性も考えられます。

(4) 卑わいな画像などを他人に見せる(エアドロップ痴漢)

近年、iPhoneユーザー同士で画像や動画を共有できる機能を悪用して、わいせつな画像を他人のスマートフォンに表示させる新手の痴漢(エアドロップ痴漢)が発生しており、逮捕事例もあります。

電車内などで自身の近くにいるiPhoneユーザーを検知して、任意のユーザーを選んで画像を閲覧させ、反応を楽しむという手口です。

また、アナログな手法ですが、通行人に声を掛けて卑わいな文章を読むよう依頼するという事例も発生しています。

これらは、いずれも意図せずにわいせつな画像や文章を目にさせるという点で、卑わいな言動に該当するといえるでしょう。

なお、エアドロップ痴漢に関しては、わいせつな画像を不特定または多数にわたって送った場合に成立する「わいせつ電磁的記録頒布罪」(刑法175条1項)に該当する可能性もあります。

罰則は2年以下の懲役、250万円以下の罰金または科料となっており、懲役刑と罰金刑の両方が科されることもあります。

(5) 他人の衣服に体液をかける・衣服を切り裂く

電車内などで、他人の衣服に精液をかける行為も痴漢として認識されている行為ですが、刑法犯として器物損壊罪(刑法261条)により処罰されます。

見知らぬ人物の精液が付着した衣服は心理的に着用することができなくなることから、衣服としての効用を失わせたものとして、損壊した場合と同等の刑事責任が問われるのです。

カミソリなどで衣服を切り裂く行為も器物損壊罪です。

器物損壊罪の罰則は3年以下の懲役、30万円以下の罰金または科料となり、迷惑防止条例違反よりも重い刑が規定されています。

なお、器物損壊罪は親告罪とされており(刑法264条)、処罰するか否かの判断に被害者の意思を反映させる趣旨から、告訴がなければ刑事裁判になって処罰されることにはなりません。

3.痴漢として処罰される可能性は低い行為

ここまで、犯罪となる可能性が高い痴漢行為について解説してきました。

一方で、「じっと見つめる行為」はどうでしょうか。
これは「失礼な行為」とはいえるかもしれませんが、処罰に値するような性的道義観念に反する行為と評価するのはやや困難といえるでしょう。

しかし、特定の人に対して反復してこのような行為を行った場合は、ストーカー規制法や迷惑防止条例のつきまとい禁止条項に触れることは考えられます。

4.まとめ

痴漢には多種多様な類型があり、自分では痴漢ではないと思った行為であっても、痴漢として逮捕されたり、民事上の損害賠償を請求されたりする可能性はあります。

弁護士は痴漢事件で刑事弁護にあたる機会も多く、刑事事件化する前であっても、痴漢として検挙される可能性や処罰の見通しについてアドバイスすることができます。

痴漢で検挙されてしまった場合、早期に弁護活動が開始されることにより、刑事処分を回避できる可能性もありますので、早急に弁護士に相談されることをおすすめします。

お困りの方は、ぜひ一度刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

痴漢の刑事弁護は泉総合法律事務所まで

痴漢など絶対にしないと思っていても、ふと魔が差して痴漢をしてしまった、ということは誰にでもあり得ることです。迷惑防止条例違反の行為といえども、逮捕・起訴されたりしますし、処分が罰金であっても前科となります。

不起訴などで最終処分を有利に導くためには、刑事弁護の経験豊富な弁護士に弁護依頼をしてください。

泉総合法律事務所は、刑事事件、中でも痴漢の弁護経験につきましては大変豊富であり、勾留阻止・釈放の実績も豊富にあります。

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