痴漢逮捕後に容疑者の実名報道される基準はあるのか?

痴漢

実名報道される基準はあるのか?痴漢事件を主にして解説

【この記事を読んでわかる事】

  • 痴漢で実名報道されるかどうかについて明確な基準は存在するのか?
  • 実名報道と「プライバシー権」「名誉権」「知る権利」の関係はどうなっているのか?
  • 弁護士は捜査当局に対し、実名報道されないよう何をしてくれるのか?

 

痴漢で逮捕され、被疑者が実名で報道されているニュースを見たことがある人も多いと思います。一方、痴漢で逮捕されても、実名報道はされないパターンもあります。

痴漢・盗撮では、どのような場合実名報道されるのでしょうか?また、実名報道された場合、どのような弊害が生じるのでしょうか?

今回は、実名報道されないようにする手段と、そのために弁護士に依頼するメリットについて解説します。

1.実名報道

実名報道されるかどうかについては、法律上、定められた基準はありません。報道機関が統一的な基準を設けているわけではないのが現状です。

現在では、成人の刑事事件は、公共性の観点から、社会的影響が大きい事件や、政治家や高級官僚や裁判官、検察官などの公務員、教員、大企業社員、医師、弁護士などの公的資格者、社会的な有力者等、影響力の強い者の事件は、特に実名で報道されることが多くなっています。

(1) 実名報道における権利の考え方

①プライバシー権

プライバシー権とは「自己の情報をコントロールする権利」のことです。

他人のプライバシーを正当な理由なく侵害すると、民事上の損害賠償義務を負うことがあります。

②名誉権

名誉とは、人の人格的価値に対する評価のことです。

他人の名誉を棄損した者は、刑事上の名誉棄損罪に問われる可能性がある他、民事上の損害賠償義務を負うこともあります。

もっとも、刑事上の名誉棄損には、例外があります。刑法第230条の2により、

  1. 公共の利害に関する事実(事実の公共性)
  2. その目的が専ら公益を図ることにあり(公益目的)
  3. 事実の真否を判断し、真実であることの証明があったとき(真実性の証明)

には、名誉棄損は処罰しないことになっています。

プライバシー権も人格権としての名誉権も、憲法で保障された人権です。

実名報道されると、プライバシー権も名誉権も侵害されることは間違いありません。

③知る権利

しかし、一方で、日本国憲法では、表現の自由が認められ、その一環として、国民には、「知る権利」があります。

犯罪というのは、国民一般にとって重大な関心事であり、犯罪が起きたことや、その背景などを知ることは、とても重要なことです。

そこで、被疑者のプライバシー権・名誉権と、国民の知る権利との調整を図る必要があります。

(2) 判例

この実名報道におけるプライバシー権・名誉権と知る権利について、東京高等裁判所平成28年3月9日判決は、下記のような判断を行いました。

「犯罪報道における被疑者の特定は、犯罪報道の基本的要素であって、犯罪事実自体と並んで公共の重要な関心事である」

「犯罪報道の記事において、被疑者の氏名、年齢、職業、住所の一部等の個人情報を逮捕と共に報道することが、いかなる場合でも許されるかという点について検討するに、逮捕をされた被疑者については無罪の推定が及ぶ(中略)という点を考慮すると、各事件における被疑事実の内容、被疑者の地位や属性などの具体的事情によっては、プライバシー権保護の要請が公共性に勝り、被疑者段階における実名等の個人情報を含む犯罪報道が、名誉棄損あるいはプライバシー権の違法な侵害がある場合があることは否定できない

しかし、この訴訟を起こした人(有印私文書偽造という被疑事実で逮捕され不起訴になった人)については、軽微な事件ではなく、報道する社会的意義が大きいとして、実名報道が違法なプライバシー侵害であるとは認めませんでした。

また、逮捕容疑を誤って報じた新聞社については、名誉棄損及び名誉感情侵害の不法行為を認めましたが、実名報道自体について、違法な名誉棄損であるとは認めていません。

この人は、この高等裁判所の判決を不服として、最高裁判所に上告及び上告受理の申立をしましたが、最高裁判所は、平成28年9月13日、上告を棄却し、上告受理を認めないとの決定をしました。

つまり、実名報道が、違法なプライバシー侵害や名誉棄損になるかどうかは、それぞれの事件における「被疑事実の内容、被疑者の地位や属性などの具体的事情」によって決まるのですが、それに加え、軽微な事件か、社会的影響が大きい事件かということが大きく関わるということが分かります。

(3) 実名報道された事件の具体例

痴漢や盗撮で逮捕され、実名報道された事例は、一概には言えませんが、やはり被疑者が教授や、裁判官、一流企業の社員であるなど、社会的地位が高い事例が多い傾向があるように思われます。

①大学教授の事例

有名私立大学の教授が、手鏡で女子高校生のスカートの中をのぞいたという容疑をかけられた事件や、同人が痴漢の容疑で現行犯逮捕された事件では、実名報道がされました。

有名大学の教授という高い地位にある人が逮捕されたということで、インパクトが大きかったためではないかと思われます。

②裁判官の事例

裁判官(公務員)が電車内で女性のスカートの中をスマートフォンで動画撮影したとして逮捕された事件でも、実名報道がされました。

③全日空社員の事例

電車内で、女子高生に下半身を押し付けた疑いで、現行犯逮捕された全日空の社員(大企業社員)も実名で報道されています。

2.実名報道の弊害(デメリット)

(1) 逮捕段階でも犯罪者であるとみられる

上記のとおり、国民には、「知る権利」がありますから、社会的影響が大きい事件については、実名報道されることもやむを得ない面があります。

「Aが、何の容疑で逮捕された」という事実の報道は、「Aが犯罪を犯した」という報道とは違います。あくまでも、「容疑がかかっている」ということが報道されているだけです。

しかしながら、現代の日本社会においては、実名報道をされると、逮捕段階であっても、「犯罪者である」との烙印を押されるようなものです。

テレビなどの影響力は大きく、

  • 「やましいことがなければ逮捕されるわけがない」
  • 「火のないところに煙は立たない」

という予断を抱く人が多いです。

  • 「まだ嫌疑の段階なのだから、本当に有罪なのか無罪なのかは分からない」

と考えてくれる人はそう多くはないでしょう。

そのため、実名報道された容疑者の家族や親戚などが、嫌がらせや誹謗中傷を受けることも多いと言われます。

そして、結果的に冤罪であっても、これを完全に証明することは難しく、その後の社会復帰や再就職が不利になることも多いでしょう。

痴漢の逮捕後の流れは、「痴漢の逮捕後の流れと弁護士に示談交渉を依頼するメリットとは?」の記事をご参考ください。

(2) 過去の記事がネット上に残る

現代では、インターネット上にいつまでも逮捕されたときの記事が残っていて、自分の名前を検索されると、そのときの記事が出てしまうということもあります。

最近、欧州連合(EU)では、「忘れられる権利」というものが認められました。

忘れられる権利とは、インターネット上に掲載された自分の個人情報の削除を求めることができる権利のことです。

日本では、平成29年1月31日、最高裁判所が、この「忘れられる権利」について、その基準を示しました。

簡単に要約すると、過去に児童買春等の罪を犯した男性が、現在は更生してきちんと働き、妻子と暮らしているのに、いつまでも過去の記事が検索結果に出るのはプライバシーの侵害であるとして、プライバシー権を根拠として過去の児童買春等の逮捕歴の記事の削除の仮処分を求めた裁判でした。

これに対し、裁判所は、

「当該事実の性質、及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較考量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である」

と判断しました。

その上で、

「児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし、今なお公共の利害に関する事項であるといえる」

と判断して、結局この男性の訴えは認められませんでした。

児童買春などではなくても、性犯罪は常習性が高いとされていますので、盗撮や痴漢でも「公共の利害に関する事項」として、なかなか忘れられる権利は認められないのではないかと考えられます。

3.実名報道されないために

このように、実名報道されると多大な不利益を被ります。

それでは、実際に痴漢を疑われてしまった時(冤罪であっても)、その場でどのように対処するのが実名報道を避けるために望ましいのでしょうか?

これについては、個人でできることはあまりないのが実情ですが、とにかく「逮捕されないようにする」が最善です。

最近、痴漢事件では、否認していても、逃亡のおそれがなければ逮捕・勾留されず、任意捜査で取り調べを受けることも多いです。

逮捕されないためには、逃走の意思がなく、任意捜査に応じるという姿勢を見せることが重要です。

痴漢で逃げるべきでないこと、正しい対処法に関して、下記記事で解説しています。

痴漢を疑われた!線路に降りて逃げるのは正しいのか?

4.実名報道を避けるために弁護士ができること

実名報道を避けるために、痴漢を疑われたその場で弁護士を呼ぶことは正しいのでしょうか?

結局のところ、実名報道されるかどうかは、その事件の社会的影響力、容疑をかけられた人の地位などによって変わってきます。

弁護士が必ずしも実名報道を止められるわけではありませんが、上記の判例の基準を引用し、捜査当局に対して、実名の公開を差し控えてほしいという意見書を提出するということは可能です。

なお、実名報道を避けるためだけではなく、犯罪の嫌疑がかけられたら、いち早く弁護士に相談し、個別のアドバイスを得るべきです。

痴漢の刑事弁護は泉総合法律事務所まで

痴漢など絶対にしないと思っていても、ふと魔が差して痴漢をしてしまった、ということは誰にでもあり得ることです。迷惑防止条例違反の行為といえども、逮捕・起訴されたりしますし、処分が罰金であっても前科となります。

不起訴などで最終処分を有利に導くためには、刑事弁護の経験豊富な弁護士に弁護依頼をしてください。

泉総合法律事務所は、刑事事件、中でも痴漢の弁護経験につきましては大変豊富であり、勾留阻止・釈放の実績も豊富にあります。

  • 痴漢をしてしまった
  • 逮捕されてしまった
  • 前科を付けたくない
  • 被害者と示談したい

という方は、お早めに泉総合法律事務所の無料相談をご利用ください

刑事事件コラム一覧に戻る