痴漢 [公開日]2018年2月26日[更新日]2023年3月15日

痴漢逮捕後に容疑者の実名報道される基準はあるのか?

痴漢事件があった場合、被疑者(加害者)が匿名ではなく実名で報道されているニュースを見たことがある方も多いと思います。
一方、痴漢で逮捕されても、実名報道はされない人もいます。

それでは、どのような事例の場合に実名報道されるのでしょうか?また、実名報道されない理由とは何なのでしょうか?

1.実名報道されるケース

刑事犯罪については、以下の2つの段階で、実名での情報を公表するという判断がなされています。

  1. 警察・検察が被疑者の実名を含めた事件情報をマスコミに伝えるか否かを判断する段階(警察・検察の公式発表という形をとる場合もあれば、記者を通じて非公式にリークする方法で行われる場合もあります。)
  2. 警察・検察から情報を入手したマスコミが被疑者の実名を含めた情報を報道するか否かを判断する段階

どちらの段階であっても、実名報道するかどうかについては、法律上、定められた基準はありません。
警察も報道機関も内部基準を設けていると言われますが、正式に公表されたことはないので、正確な内容を知ることはできません。

現在では、公共性の観点から、成人の刑事事件については「社会的影響が大きい事件」「政治家・高級官僚や裁判官・検察官などの公務員、教員、大企業社員、医師、弁護士などの公的資格者、社会的な有力者等、影響力の強い者の事件」は、特に実名で報道されることが多くなっています。

とはいえ、実名報道されるか否かは、警察と報道各社の判断に委ねられています。
よって、格別社会的に重要な地位にあるわけでもない被疑者が、重大とまで言えない事件で実名報道されるケースも珍しくありません。

2.実名報道されないケース

警察・検察と報道機関の判断に委ねられている実名報道ですが、比較的、実名報道が行われない場合があります。

(1) 被疑者が未成年の場合

少年法61条は、以下のように、少年事件において少年を実名報道等することを禁止しています。

少年法61条
「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。」

これは、未成年のこれからの更生に配慮して、むやみに実名報道することは妥当ではないということを理由とします。そのため、未成年が犯罪を犯した場合には、原則として匿名報道が行われることになります。

この規定に違反しても罰則はないですが、報道機関は犯人が未成年の場合には、例外的な場合(殺人など凶悪事件を起こした場合等)を除き、実名報道を控える傾向にあります。

(2) 事件が軽微な場合

事件は一日に数多く起きています。これら全てを報道することは不可能なので、必然的に、報道される事件は重大事件が多いことになります。

もっとも、マスコミは「今日は何もありません。」と言うことはできないので、他に報道する材料がなければ、軽微な事件であっても報道されることはあります

よって、その日に他の重大事件がない場合、軽微な痴漢事件であっても報道されてしまうケースがあります。

(3) 被疑者が逮捕されていない場合

報道されるのは被疑者が逮捕された場合が多いです。
つまり、罪を犯した場合でも逮捕されていなければ、実名報道が行われることが少ないということです。

これは、そもそも、捜査機関が在宅事件を発表することが少なく、逮捕をもって、事件を公表するか否かの目安のひとつに置いているからです。
報道機関の側からは、逮捕事案を報道することは不当逮捕の抑止策として重要なのです

もっとも、被疑者が芸能人や公務員であったり、重大事件であったりする場合には、逮捕されていなくとも書類送検の時点で報道されることも多いです。

3.実名報道されないためにはどうする?

いったん実名報道されると、その者は多くのデメリットを受けることになります。

例えば、実名報道をされると、有罪判決が確定していなくとも「犯罪者である」との烙印を押されてしまいます。
また、実名報道された容疑者の家族や親戚などが嫌がらせや誹謗中傷を受けることも多いと言われます。結果的に冤罪であっても偏見を持つ者もおり、また、その後会社に復帰しても、社内の人間関係が悪化し、そこに居づらいといった事態になることも多いでしょう。

さらに、現代ではインターネット上にいつまでも逮捕されたときの記事が残っていて、事件から数年経っていても、自分の名前を検索されるとそのときの記事が出てしまうということもあります。

それでは、このような多大な不利益を避けるため、実名報道を避けるためにはどのように対処するのが望ましいのでしょうか?

(1) 逮捕されないように対応する

実名報道の回避について個人でできることはあまりないのが実情ですが、とにかく「逮捕されないようにする」が最善です。

痴漢事件で逮捕されないためには、逃走の意思がなく、任意捜査に応じるという姿勢を警察に見せることが重要です。
痴漢直後の正しい対処法に関しては、下記コラムで解説しています。

[参考記事]

痴漢容疑で線路から逃げることは正しいのか?

(2) 弁護士を呼ぶ

では、実名報道を避けるために、痴漢を疑われたその場で弁護士を呼ぶことは正しいのでしょうか?

結局のところ、実名報道されるかどうかは、その事件の社会的影響力、容疑をかけられた人の地位などによって変わってきます。弁護士が必ずしも実名報道を止められるわけではありません。
しかし、弁護士が捜査当局や記者に対して、実名の公開を差し控えてほしいという意見書を提出するということは可能です。

少なくとも、警察・検察、報道機関に対し、本当に実名の公表が必要な事案かどうかを熟考する機会を与えることができ、安易な実名報道を抑止する効果は期待できるでしょう。

4.まとめ

犯罪の嫌疑がかけられたら、いち早く弁護士に相談し個別のアドバイスを得るべきです。実名報道を避けるためだけではなく、弁護活動により逮捕・勾留を避けたり、早期釈放されたりできることがあります。また、弁護士は被害者との示談交渉も可能です。

さらに、実名報道が行われ、その情報がネットに残っている場合には、記事を削除するよう主張することも可能です。
泉総合法律事務所はネット誹謗中傷にも対応しているため、違法なプライバシーの侵害、名誉毀損と評価できる場合には、記事の削除や損害賠償請求ができる可能性があります。

5.実名報道に関するよくある質問

  • 実名報道されない人・されない理由は?

    実名報道されるかどうかは、警察・検察と報道機関の判断に委ねられています。
    比較的実名報道がされないケースとしては以下のものが考えられます。

    • 被疑者が未成年の場合
    • 事件が軽微な場合
    • 被疑者が逮捕されていない場合

    逆に、公共性の観点から、現在では成人の刑事事件については「社会的影響が大きい事件」「政治家・高級官僚や裁判官・検察官などの公務員、教員、大企業社員、医師、弁護士などの公的資格者、社会的な有力者等、影響力の強い者の事件」は、実名で報道されることが多くなっています。

  • そもそも実名報道は許されるの?

    実名報道は、報道された者のプライバシー権や名誉権を侵害します。他人のプライバシーや名誉を正当な理由なく侵害すると、民事上の損害賠償義務を負ったり、刑事上の名誉毀損罪に問われたりすることがあります。

    一方で、日本国憲法では、表現の自由、報道の自由が保障され、これらは「知る権利」にも貢献するという大きな価値があります。

    犯罪というのは、国民一般にとって重大な関心事であり、犯罪が起きたことやその背景などを知ることは、とても重要なことです。そこで、被疑者のプライバシー権・名誉権と、報道の自由との調整を図る必要があります。

    名誉毀損においては、報道内容が
    ①公共の利害に関する事実であること
    ②報道目的がもっぱら公益を図る目的であること
    ③真実であることの証明があったか、または、真実であると信じたことについて相当な理由があること
    という条件を満たす場合には、名誉毀損による刑事上・民事上の法的責任は負わないと理解されています。

    東京高等裁判所平成28年3月9日判決は、下記のような判断を行いました。

    「犯罪報道における被疑者の特定は、犯罪報道の基本的要素であって、犯罪事実自体と並んで公共の重要な関心事である

    「犯罪報道の記事において、被疑者の氏名、年齢、職業、住所の一部等の個人情報を逮捕と共に報道することが、いかなる場合でも許されるかという点について検討するに、逮捕をされた被疑者については無罪の推定が及ぶ(中略)という点を考慮すると、各事件における被疑事実の内容、被疑者の地位や属性などの具体的事情によっては、プライバシー権保護の要請が公共性に勝り、被疑者段階における実名等の個人情報を含む犯罪報道が、名誉棄損あるいはプライバシー権の違法な侵害がある場合があることは否定できない。しかし、(中略)本件逮捕の被疑事実が、決して軽微な事件とはいえず、これを報道する社会的意義も大きいと認められる以上、控訴人が逮捕された被疑者の段階にあり、一般の私人であることを考慮しても、控訴人の氏名を含めて犯罪の報道をすることが公共の利害に関する事実の報道に当たらないとすることはできない。

    結局、実名報道が違法なプライバシー侵害や名誉棄損になるかどうかは、それぞれの事件における「被疑事実の内容、被疑者の地位や属性などの具体的事情」によって決まるのですが、それに加え、軽微な事件か、社会的影響が大きい事件かということが大きく関わるということが分かります。

痴漢の刑事弁護は泉総合法律事務所まで

痴漢など絶対にしないと思っていても、ふと魔が差して痴漢をしてしまった、ということは誰にでもあり得ることです。迷惑防止条例違反の行為といえども、逮捕・起訴されたりしますし、処分が罰金であっても前科となります。

不起訴などで最終処分を有利に導くためには、刑事弁護の経験豊富な弁護士に弁護依頼をしてください。

泉総合法律事務所は、刑事事件、中でも痴漢の弁護経験につきましては大変豊富であり、勾留阻止・釈放の実績も豊富にあります。

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