痴漢 [公開日]2018年2月26日[更新日]2020年9月15日

痴漢逮捕後に容疑者の実名報道される基準はあるのか?

痴漢事件があった場合、被疑者(加害者)が匿名ではなく実名で報道されているニュースを見たことがある方も多いと思います。
一方、痴漢で逮捕されても、実名報道はされないケースもあります。

それでは、どのような事例の場合に実名報道されるのでしょうか?また、実名報道された場合、どのような弊害が生じる可能性があるのでしょうか?

今回は、実名報道されないようにする手段と、そのために弁護士に依頼するメリットについて解説します。

1.実名報道とは?

実名報道では、①警察・検察が被疑者の実名を含めた事件情報をマスコミに伝えるか否かを判断する段階と、②警察・検察から情報を入手したマスコミが被疑者の実名を含めた情報を報道するか否かを判断する段階という、2つの段階で、実名での情報を公表するという判断がなされています。

①は、警察・検察の公式発表という形をとる場合もあれば、記者を通じて非公式にリークする方法で行われる場合もあります。

どちらの段階にも、実名報道するかどうかについては、法律上、定められた基準はありません。警察も報道機関も、内部基準を設けていると言われますが、正式に公表されたことはないので、正確な内容を知ることはできません。

まして、報道機関が統一的な基準を設けているわけではないのが現状です。

そのため、実名報道されるか否かは、警察と報道各社の判断に委ねられています。

(1) 実名報道されるケース

現在では、成人の刑事事件は、公共性の観点から、社会的影響が大きい事件や、政治家や高級官僚や裁判官、検察官などの公務員、教員、大企業社員、医師、弁護士などの公的資格者、社会的な有力者等、影響力の強い者の事件は、特に実名で報道されることが多くなっています。

ただ、格別、社会的に重要な地位にあるわけでもない被疑者が重大とまで言えない事件で実名報道されるケースは珍しくありません。

(2) 実名報道されないケース

警察・検察と報道機関の判断に委ねられている実名報道ですが、比較的、実名報道が行われない場合があります。

①被疑者が未成年の場合

少年法61条は、以下のように、少年事件において少年を実名報道等することを禁止しています。

少年法61条
「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。」

これは、未成年のこれからの更生に配慮して、むやみに実名報道することは妥当ではないということを理由とします。そのため、未成年が犯罪を犯した場合には、匿名報道が原則として行われることになります。

この規定に違反しても罰則はないですが、報道機関は犯人が未成年の場合には、例外的な場合(凶悪事件を起こした場合等)を除き、実名報道を控える傾向にあります。

②事件が軽微な場合

事件は、一日に数多く起きています。これら全てを報道することは不可能なので、必然的に、報道される事件は重大事件が多いことになります。

もっとも、報道を実際に見れば明らかなように、マスコミは「今日は何もありません。」と言うことはできないので、他に報道する材料がなければ、軽微な事件であっても報道されることはあります。

③被疑者が逮捕されていない場合

報道の多くが、「○○容疑者が××の容疑で逮捕されました」という形式であることから分かるように、報道されるのは被疑者が逮捕された場合が多いです。
つまり、犯罪を犯した場合でも逮捕されていなければ、実名報道が行われることが少ないということです。

これは、そもそも、捜査機関が在宅事件を発表することが少なく、逮捕をもって、事件を公表するか否かの目安のひとつに置いているからです。

報道機関の側からは、逮捕事案を報道することは、不当逮捕の抑止策として重要だから、報道の必要性があるという理屈になります。

もっとも、被疑者が芸能人や公務員であったり、重大事件であったりする場合には、逮捕されていなくとも、書類送検の時点で報道されることも多いです。

(3) そもそも実名報道は許されるのか

実名報道は、報道された者のプライバシー権や名誉権を侵害します。他人のプライバシーや名誉を正当な理由なく侵害すると、民事上の損害賠償義務を負ったり、刑事上の名誉毀損罪に問われることがあります。

しかし、一方で、日本国憲法では、表現の自由、報道の自由が保障され、これらは「知る権利」にも貢献するという大きな価値があります。

犯罪というのは、国民一般にとって重大な関心事であり、犯罪が起きたことや、その背景などを知ることは、とても重要なことです。そこで、被疑者のプライバシー権・名誉権と、報道の自由との調整を図る必要があります。

この点、名誉毀損においては、報道内容が①公共の利害に関する事実であること、②報道目的がもっぱら公益を図る目的であること、③真実であることの証明があったか、または、真実であると信じたことについて相当な理由があること、という条件を満たす場合には、名誉毀損による刑事上・民事上の法的責任は負わないと理解されています。

そして、犯罪に関する報道は、刑事上は公共の利害に関する事実とみなすことが法定されており(刑法第230条の2第2項)、民事上も同様に理解されていますが、「実名」情報も、これに含まれるのかが、さらに問われます。

この問題について、東京高等裁判所平成28年3月9日判決は、下記のような判断を行いました。

「犯罪報道における被疑者の特定は、犯罪報道の基本的要素であって、犯罪事実自体と並んで公共の重要な関心事である」

「犯罪報道の記事において、被疑者の氏名、年齢、職業、住所の一部等の個人情報を逮捕と共に報道することが、いかなる場合でも許されるかという点について検討するに、逮捕をされた被疑者については無罪の推定が及ぶ(中略)という点を考慮すると、各事件における被疑事実の内容、被疑者の地位や属性などの具体的事情によっては、プライバシー権保護の要請が公共性に勝り、被疑者段階における実名等の個人情報を含む犯罪報道が、名誉棄損あるいはプライバシー権の違法な侵害がある場合があることは否定できない。しかし、(中略)本件逮捕の被疑事実が、決して軽微な事件とはいえず、これを報道する社会的意義も大きいと認められる以上、控訴人が逮捕された被疑者の段階にあり、一般の私人であることを考慮しても、控訴人の氏名を含めて犯罪の報道をすることが公共の利害に関する事実の報道に当たらないとすることはできない。」

結局、実名報道が、違法なプライバシー侵害や名誉棄損になるかどうかは、それぞれの事件における「被疑事実の内容、被疑者の地位や属性などの具体的事情」によって決まるのですが、それに加え、軽微な事件か、社会的影響が大きい事件かということが大きく関わるということが分かります。

ただ、実名報道が名誉毀損やプライバシー侵害とされて報道側が刑事上、民事上の責任を問われる場合があるとしても、それは実名報道が行われてしまった後の話であり、報道による被害を受ける側にとっては後の祭りであって、あまり意味がありません。

また、実名報道によって受ける被害内容は、次のように非常に重いもので、報道側が刑事罰を受けたり、報道側から慰謝料を受け取ったりすることで回復できるようなものではありません。

2.実名報道の弊害(デメリット)

犯罪事実や自分が犯人であると公表された場合、その者は多くのデメリットを受けることになります。

(1) 逮捕段階でも犯罪者であるとみられる

「Aが、何の容疑で逮捕された」という事実の報道は、「Aが犯罪を犯した」という報道とは違います。あくまでも、「容疑がかかっている」ということが報道されているだけです。

しかしながら世間からは、実名報道をされると、有罪判決が確定していなくとも、「犯罪者である」との烙印を押されてしまいます。

(2) 自分や家族の人間関係が悪化する

実名報道された容疑者の家族や親戚などが、嫌がらせや誹謗中傷を受けることも多いと言われます。

結果的に冤罪であっても、裁判制度に対する無知から偏見を持つ者もおり、また、その後会社に復帰しても、社内の人間関係が悪化し、そこに居づらいといった事態になることも多いでしょう。

(3) 過去の記事がネット上に残る

現代では、インターネット上にいつまでも逮捕されたときの記事が残っていて、事件から数年経っていても、自分の名前を検索されると、そのときの記事が出てしまうということもあります。

3.実名報道されないために

このように、いったん実名報道されると多大な不利益を被ります。

それでは、実際に痴漢を疑われてしまった時、例えば冤罪であっても、その場でどのように対処するのが実名報道を避けるために望ましいのでしょうか?

これについては、個人でできることはあまりないのが実情ですが、とにかく「逮捕されないようにする」が最善です。

最近、痴漢事件では、否認していても、逃亡のおそれがなければ逮捕・勾留されず、任意捜査で取り調べを受けることも多いです。

逮捕されないためには、逃走の意思がなく、任意捜査に応じるという姿勢を見せることが重要です。

痴漢で逃げるべきでないこと、痴漢直後の正しい対処法に関しては、下記コラムで解説しています。

[参考記事]

痴漢容疑で線路から逃げることは正しいのか?

4.実名報道を避けるために弁護士ができること

実名報道を避けるために、痴漢を疑われたその場で弁護士を呼ぶことは正しいのでしょうか?

結局のところ、実名報道されるかどうかは、その事件の社会的影響力、容疑をかけられた人の地位などによって変わってきます。

弁護士が必ずしも実名報道を止められるわけではありませんが、上記の判例を紹介するなどして、捜査当局や記者クラブに対して、実名の公開を差し控えてほしいという意見書を提出するということは可能です。

少なくとも、警察・検察、報道機関に対し、本当に実名の公表が必要な事案かどうかを熟考する機会を与えることができ、安易な実名報道を抑止する効果は期待できます。

5.まとめ

実名報道を避けるためだけではなく、犯罪の嫌疑がかけられたら、いち早く弁護士に相談し、個別のアドバイスを得るべきです。

また、実名報道が行われ、その情報がネットに残っている場合には、記事を削除するよう主張することが可能です。

場合によっては、違法なプライバシーの侵害、名誉毀損と評価でき、記事の削除と損害賠償請求ができる可能性があります。

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