痴漢 [公開日]2018年2月23日[更新日]2021年1月19日

痴漢の証拠〜繊維鑑定・DNA・目撃証言〜何が根拠で逮捕されるか

電車の中で女性に腕を掴まれ「痴漢です!」などと言われてしまった場合、腕を掴まれた人は非常に焦るでしょう。
「証拠さえなければ逮捕されないのでは?」と思う方の他、「自分はやっていないのに」と冤罪を主張する方もいらっしゃるかもしれません。

実際、痴漢事件は何を証拠として逮捕・起訴されるのでしょうか

この記事では、痴漢事件の証拠について説明します。

1.痴漢事件の証拠

痴漢事件の証拠となり得るものとしては、以下のようなものがあります。

  • 防犯カメラの映像
  • 繊維鑑定
  • DNA鑑定
  • 目撃者の証言
  • 被害者の供述
  • 被疑者本人の自白

(1) 防犯カメラの映像

電車内に設置された防犯カメラの映像に、被疑者が被害者の身体に触っている映像が記録されていれば、とても有力な有罪の証拠となります。

ただし、痴漢の犯行現場は混雑した電車がほとんどなので、明確な映像が撮影されている方が珍しく、せいぜい被疑者と被害者の位置関係しか判明しないことが大部分です。

(2) 繊維鑑定

繊維鑑定とは、被疑者の手の指に付着した繊維を採取して、被害者の下着やスカートなどの繊維かどうかを鑑定することです。

被害者の下着・衣服の繊維と一致すれば、被疑者が手で被害者の身体を触った事実を裏付ける証拠のひとつとなります。

一方、被害者の下着やスカートの繊維と一致する繊維が全く付着していない場合でも、布に触れば必ず指先に繊維が残るというわけではないので、痴漢行為がなかったことの裏付けとはなりません。

(3) DNA鑑定

例えば、被害者が「下着の中に手を入れられて直接に局部に指を挿入された」と供述しているケースにおいて、DNA鑑定の結果、被害者の体液に由来するDNAが被疑者の指先から検出されれば、有力な有罪の証拠になります。

一方、被害者が供述するような態様の触り方をすれば、被害者の体液が手指に付着するはずであるのに、DNA鑑定の結果、全く付着していなかったとなれば、被疑者による犯行に合理的な疑いを生ぜしめる証拠となります。

逆に被害者の身体、衣服に被疑者の体液や皮膚片に由来するDNAが付着していれば、やはり痴漢行為を裏付ける証拠となり得ます。

電車内での痴漢事件においては、ほぼ全ての事案で、DNA鑑定が行われていると報告されています(※)。
※山﨑文夫「セクシャル・ハラスメントと虚偽申告」国士舘法学第50号219頁

繊維鑑定やDNA鑑定の痴漢証拠が無罪方向の証拠として使えるか?を詳しく知りたい方は下記コラムをご覧ください

[参考記事]

痴漢冤罪を証明したい! DNA・繊維鑑定は本当に有効なのか?

(4) 目撃者の証言

目撃者がいる場合、その供述は有力な証拠となりえます。

目撃者の供述は、その供述が具体的で迫真性があるか、不自然・不合理な点がないか、視認状況はどうだったか(本当にその位置から犯行がそのように見えるのか)、被害者の供述との整合性があるか、供述が事件直後から現在に至るまで変遷していないかどうか、被害者との関係(被害者のために虚偽の供述をする動機の有無)などが検討されます。

これらのチェックをクリアしていれば、有罪を認定する証拠となります。

(5) 被害者の供述

被害者の供述も、目撃者の供述と同様に具体的で迫真性があるか、不自然・不合理な点がないか、供述の変遷がないか、虚偽の供述をする動機がないかということが検討されます。

電車内での痴漢事件の場合、目撃者がおらず、被害者の供述しか証拠が存在しない場合も多いので、被害者供述の信用性は有罪無罪を左右する重要な鍵となります。

(6) 本人の自白

本人が、警察官や検察官の取り調べで述べたことも証拠になります。

このときに、やってもいないのに自白し、自白した内容の供述調書に署名・指印してしまうと、その後これを覆すことは極めて困難になります。

2.証拠の信用性が疑問視され無罪となった事例

(1) 重要視される証拠の種類

痴漢事件の証拠が本人の自白しかない場合は有罪を認定することは出来ません。自白は任意になされたものでも虚偽の介入する余地がある反面、証拠価値を過大に評価されやすいからです。
自白の他にそれを裏付ける証拠を必要とするとの原則を「補強法則」と呼びます(憲法38条3項、刑事訴訟法319条2項)。

このため有罪とするには、自白を補強する自白以外の証拠が常に必要となります。

他方、被害者の供述、目撃者の供述は、自白ではないので、補強法則が働かず、供述内容を裏付ける他の証拠が存在しなくとも、有罪を認定することが許されています。

ところが、被疑者が否認している痴漢事件では、「証拠は被害者の供述のみ」という場合が多くなります。その場合に被告人を有罪とするか否かは、被害者の話を信用するか否かの一点だけにかかっているので、冤罪の危険が多分にあります。

痴漢事件に最高裁判所が無罪判決を下した判例がありますので、ここで紹介します。

(2) 最高裁判所の判決

痴漢事件について、最高裁判所が平成21年4月14日に下した無罪判決です。これは、最高裁判所が初めて痴漢事件を無罪にした判決であると言われています。

事案は、電車内での痴漢行為で、被告人が、当時17歳の女性の下着内に手を差し入れて直接に陰部に触る悪質な痴漢をしたとして、強制わいせつ罪で起訴されたものです。

被告人は一貫して犯行を否認し、被害者の供述以外の証拠が何もなかったにもかかわらず、第一審判決は有罪を認めて懲役1年10月の実刑判決を下し、第二審もこれを支持しました。

しかし、最高裁は第一審及び第二審の判決を破棄して、自ら無罪判決を下しました。

この判決は、痴漢事件には、その刑事裁判において考慮されるべき特別な点があると指摘しています。

「満員電車内の痴漢事件においては、被害事実や犯人の特定について物的証拠等の客観的証拠が得られにくく、被害者の供述が唯一の証拠である場合も多い上、被害者の思い込みその他により被害申告がされて犯人と特定された場合、その者が有効な防御を行うことが容易ではないという特質が認められることから、これらの点を考慮した上で特に慎重な判断をすることが求められる

そして、痴漢行為を受けていたという被害者が、降車する乗客が多い駅で、一旦下車したにもかかわらず、車両を変えることもなく、再度、被告人と隣合わせに乗車したこと等が不自然であると指摘して、唯一の証拠である被害者供述の信用性を否定した結果、有罪の証明がないとして無罪を言い渡したのです。

判決の補足意見では、「詳細かつ具体的」「迫真的」「不自然・不合理な点がない」などという一般的・抽象的な理由で被害者供述の信用性を肯定して有罪を認定することは、他にその供述を補強する証拠がない場合には、誤判の危険が大きいと指摘しています。

この最高裁判決を受けて、警察庁では電車内の痴漢犯罪について、①被害者の供述内容につき、供述の変遷、他の証拠との矛盾、不自然・不合理などの吟味と裏付け捜査を徹底すること、②DNA鑑定、繊維鑑定など科学的、合理的な捜査の積極的推進、③可能な限り目撃者や逮捕協力者を確保することなどを通達しています(※)。
※「電車内における痴漢事犯への対応について」警察庁生活安全局生活安全企画課長ほか・平成21年6月25日警察庁丁生企発第240号

被害者の供述のみを重視する危険性について、最高裁判所が一石を投じてくれたとはいえ、被害者の供述の信用性を低下させる客観的な証拠がなければ、被害者の供述の信用性によって有罪無罪が左右されることには変わりはありません。
いかに慎重な吟味が求められても、依然として誤判の危険は高いと言わねばなりません。

身に覚えのない痴漢行為を疑われた方は、できるだけ早く、刑事事件に強い弁護士に相談し、弁護を依頼して対策を講じる必要があります。

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