痴漢 [公開日]2018年4月19日[更新日]2020年9月15日

集団痴漢で逮捕された場合と単独痴漢で逮捕された場合に違いはある?

痴漢の犯人は1人とは限りません。インターネットの掲示板等で複数犯で周囲を取り囲み行う痴漢(以下「集団痴漢」といいます)も発生しており、好奇心からこれに加担した場合に逮捕される場合もあるのです。

そのような場合、自分一人で行う痴漢(以下「単独痴漢」)と比べて、刑罰や示談交渉はどうなるのでしょうか。集団痴漢は単独痴漢とどのような点で違いがあるのでしょうか。

1.集団痴漢の現状

インターネットの普及に伴い、インターネット上には性犯罪願望者が集うコミュニティ・サイトが存在します。

にわかには信じがたいかもしれませんが、そこでは、匿名性が高い掲示板で「痴漢仲間募集」や「一緒に痴漢しませんか?」などの書き込みがなされて、共犯者の募集が行われ、現実に集団痴漢や集団性的暴行事件を引き起こしているのです。

2017年(平成29年)11月には、インターネット上で痴漢情報を交換する掲示板を見て集まり、JR線埼京線の電車内で乗客の女性に痴漢したとして、30代と40代の男4人が強制わいせつ容疑で逮捕されました。

この事件の場合、容疑者らに面識はなく、犯行当日が初対面でしたが、男らは特定の電車を指す数字や隠語などの「合言葉」を使い、痴漢のしやすい混雑した車両や、女性の容姿などの情報に関するインターネット掲示板の書き込みを読み、電車に乗り込んで犯行に及んだというものでした。防犯カメラの映像等から犯人が特定され、逮捕されるに至りました。

2.痴漢には二種類の罪

痴漢には、都道府県が制定する、いわゆる迷惑防止条例違反の罪に当たる痴漢と、刑法の強制わいせつ罪(刑法176条)に当たる痴漢の二種類があります。

条例違反の罪に当たる痴漢の法定刑は、東京都の場合ですと、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例8条1項2号)、常習であれば「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(同条例8条8項)となっています。

他方、強制わいせつ罪に当たる痴漢の法定刑は、6月以上10年以下の懲役となっています。

3.集団痴漢で逮捕された後の流れ

(1)逮捕、勾留、勾留延長

集団痴漢で逮捕された後の基本的な流れは、単独痴漢で逮捕された後の流れと同じです。すなわち、集団痴漢で逮捕された場合、48時間以内に身柄が検察官に送致され、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内で、かつ、逮捕から72時間以内に釈放するか裁判所に勾留請求をするか決めることになります。

検察官から勾留の請求がありますと、裁判官は、勾留質問を行って、その当否を審査しますが、罪を犯した疑いがあり、住居不定、罪証隠滅のおそれ又は逃亡のおそれのいずれかに当たり、捜査を進める上で身柄の拘束が必要なときに、被疑者の勾留を認めます

なお、勾留期間は原則10日間ですが、やむを得ない場合には、更に10日以内の延長が認められることもあります。

(2)単独痴漢と集団痴漢における「罪証隠滅のおそれ」の違い

単独痴漢であれ、集団痴漢であれ、罪証隠滅のおそれが、勾留請求するか否かの判断において一番の問題になります。

まず、単独痴漢について考えてみましょう。捜査機関は、被疑者が犯行を認めている場合はともかく、被疑者の否認それ自体を、罪証隠滅行為と結び付けて考える傾向にあり、裁判官も、この考えに乗りやすいと言えます。

しかし、否認の供述をもって、安易に罪証隠滅のおそれを肯定することは、まさに被疑者の自白を得るために勾留を認めることと同じになります。

被疑者の否認の供述態度は、罪証隠滅の主観的可能性を判断する一資料にすぎませんから、罪証隠滅のおそれがあると言えるためには、その罪証隠滅のおそれの程度が、具体的資料に基礎付けられた相当高度の可能性に達していると認められる必要があるはずです。

そこで、弁護人がついていれば、被疑者と被害者、目撃者との間に全く面識がなく、お互いの行動範囲や生活圏も異なり、犯行とされる現場に偶然居合わせたにすぎない場合には、被疑者が当該関係者に働きかけるなどして、罪証隠滅を図るだけの客観的可能性は低く、実効性も現実的ではないと主張して、検察官には勾留請求を思いとどまらせ、裁判官には勾留請求を却下するよう働きかけを行います。

では、集団痴漢ではどうなのでしょうか。

単独痴漢と集団痴漢では、罪証隠滅のおそれに関し、大きな違いが出てきます。

集団痴漢では、犯罪事実として認定し、量刑を左右する事実として、共謀に至る具体的事情、計画性の有無、共謀の成立過程とその具体的内容、集団の組織や構成、各自の地位や役割分担(以下、これらを「共謀等」といいます)が重要な点が単独犯と異なります。もちろん、各自の犯行内容や態様などが重要な点は、単独犯と同じです。

これらの事実を裏付ける証拠としては、共犯者の供述が重要です。

集団痴漢の場合には、ある被疑者が自らの犯した被害女性に対する痴漢をおおむね認めているとしても、自己の刑責を有利に導くため、他の共犯者に不正な働きかけをするなどして、罪証隠滅行為に及ぶ現実的可能性が認められると判断されて、「罪証隠滅のおそれ」が肯定され、勾留される可能性が高くなります。

4.最終的な処分と示談

集団痴漢で逮捕された被疑者の場合、その最終的な処分としては、条例違反の罪(東京都の場合)や強制わいせつ罪の法定刑からしますと、検察官による不起訴処分(起訴猶予)、罰金(条例違反の罪の場合)、執行猶予付、保護観察付執行猶予、実刑が考えられます。

そして、その処分結果に最も影響を与えるのが、被害者との示談です。

集団痴漢で逮捕された人に有利となる結果を導くには、いかに早期に示談を成立させることができるかにかかっているわけです。

集団痴漢の場合であっても、前科があればともかく、示談が成立すれば、不起訴処分(起訴猶予)になる可能性も全くないとはいえないでしょう。

示談となりますと、被害者の心情に配慮しなければなりませんので、かなり高度な交渉ごとになります。

被害者側との折衝や示談交渉は、法律のプロである弁護士に委ねるのが望ましいといえます。

被害者の心情にも配慮しながら、適切な金額で示談成立に尽力してもらえますし、場合によっては、嘆願書まで作成してもらえるかもしれません。

示談が早ければ早いほど、集団痴漢で逮捕された人に有利な処分結果が出ることが期待できますので、被疑者が逮捕された直後の早い段階で、弁護士に依頼することが望ましいことになります。

また、弁護士に依頼すれば、弁護士が、逮捕に引き続く勾留、あるいは勾留延長を阻止する活動により、また起訴された場合でも、信頼できる身元引受人の「身元引受書」、被告人の被害者や共犯者と接触しない旨の誓約書など、逃亡や罪証隠滅を防止できる資料等を揃えて保釈の手続をとることにより、早期釈放の可能性も出てきます。

5.集団痴漢における示談金の相場

集団痴漢の示談金の相場と単独痴漢の示談金の相場には、違いがあるのでしょうか。

同じ痴漢であっても、条例違反の罪に当たる痴漢もあれば強制わいせつ罪に当たる痴漢もあり、また、単独痴漢・集団痴漢というように、それぞれの事案ごとに犯行に至る経緯・動機・目的、犯行の方法、犯罪の結果の重大性や犯行態様が異なりますので、被害の深刻さ、その程度や被害感情は一律ではありません。

痴漢事件の場合、被害者ごとに斟酌せざるを得ない不確定要素が多いため、示談金の相場を見いだすことは難しいと言われているのも事実なのです。

その示談金額(民事裁判で認められている金額を含みます)の幅については、結論のみを示しますと、条例違反の罪に当たる痴漢の場合は、おおむね30万円~50万円、強制わいせつ罪に当たる痴漢の場合は、おおむね50万円〜100万円前後が多いようです。

しかし、上記の例は、あくまでも単独痴漢として紹介されている場合ですので、集団痴漢となりますと、更に示談金額の算定には困難さを伴います。

集団痴漢は、その行為が悪質であること論を待ちませんし、被害者の恐怖心、精神的ダメージ、トラウマも単独犯とは比べものになりません。被害者や家族が犯人らにむける処罰感情も非常に強いものがあるはずです。

したがって、通常、単独犯よりも慰謝料額は高額となります。具体的には、単独犯の金額の1.5倍から2倍程度の金額が多いように思われます。

また、処罰感情の強さから、示談金は受け取ってもらえても、示談書に宥恕文言(被疑者を許し、処罰を望まない旨の文言)を記載することは拒否されるケースも珍しくありません。

宥恕文言が記載されていない場合には、示談の効果も限定的とならざるを得ません。

しかし、すくなくとも被害が金銭的に補償され、民事賠償の問題は解決し、被疑者側が示談に向けて努力をし、一定の誠意を示した点は明らかになりますから、限定的ではあっても、一応、有利な事情として考慮してもらえます。

したがって、如何に被害者側の怒りが強く、示談成立が困難と予想されるとも、示談交渉の努力を怠ってはいけないのです。

6.まとめ

痴漢で逮捕された場合、その行為の悪質性に照らし、集団痴漢の方が単独痴漢よりも勾留の可能性が高く、示談の成立も難しくなります。

単独痴漢であれ、集団痴漢であれ、もし痴漢で逮捕されてしまった場合には、刑事弁護に造詣の深い弁護士にお早めに相談をするべきです。

ノウハウのある弁護士が弁護活動することで、早期に示談が成立すれば、不起訴になる可能性もありますし、起訴となった場合でも、罰金、執行猶予付判決など、有利な処分結果が期待できます。

痴漢事件を犯してしまった方は、お早めに刑事事件の弁護実績豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

痴漢の刑事弁護は泉総合法律事務所まで

痴漢など絶対にしないと思っていても、ふと魔が差して痴漢をしてしまった、ということは誰にでもあり得ることです。迷惑防止条例違反の行為といえども、逮捕・起訴されたりしますし、処分が罰金であっても前科となります。

不起訴などで最終処分を有利に導くためには、刑事弁護の経験豊富な弁護士に弁護依頼をしてください。

泉総合法律事務所は、刑事事件、中でも痴漢の弁護経験につきましては大変豊富であり、勾留阻止・釈放の実績も豊富にあります。

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