刑事弁護 [公開日]2017年7月25日[更新日]2023年3月10日

被害者が示談に応じない、示談不成立の場合の対処法を解説

痴漢や盗撮、傷害、暴行、恐喝、交通事故など、被害者がいる刑事事件を起こしてしまった場合には、不起訴獲得・前科回避のために被害者と示談を成立させることが最も重要です。

しかし、場合によっては、相手方が示談に応じない(示談を拒否する)ケースがあります。

この記事では、被害者に示談を拒否されてしまった場合・示談不成立の場合の対処法について解説します。

1.示談とは

示談とは、不法行為により被害者に発生した損害を金銭で賠償して民事的な解決を図るとともに、被害者に犯罪行為を許してもらい、刑事罰を望まないと意思表示してもらうことです。

被害者に生じた被害が回復しているかどうか、また、被害者が刑事罰を望んでいるかどうかは、検察官や裁判官が加害者の処分を決めるうえで非常に重視されます。
よって、私人間の民事的な解決ではありますが、示談の成否は国が行う刑事処分に大きな影響を与えるのです。

このため、起訴前に示談が成立していれば、検察官が不起訴処分としてくれることが期待でき、前科が残らない可能性が高くなります。

検察官が起訴して裁判になってしまったとしても、示談していることにより罰金刑におさまる・判決に執行猶予が付く可能性が大きくなります(他にも、事件の様態や悪質性、初犯かどうかなども判断要素になります)。

他方、示談が不成立ですと、検察官に起訴されたり、裁判でも被告人に不利な判決が出たりする可能性が高まります。
また、後から民事訴訟で損害賠償を請求される可能性も残ります。

刑事事件における示談の重要性を詳しく知りたい方は、下記コラムをご覧ください。

[参考記事]

刑事事件の示談の意義・効果、流れ、タイミング、費用などを解説

2.示談ができない・成立しないケース

被疑者としては、何とかして被害者との示談を成立させたいところでしょう。
しかし、被害者と示談ができないケースは存在します。

理由としては以下のようなものがあります。

(1) 被害者が連絡先を教えてくれない

被疑者は、被害者の連絡先を知らないことが大半かと思います。
その場合には、刑事弁護の依頼を受けた弁護士が、検察官・警察官に被害者の連絡先を尋ねます。検察官・警察官は、被害者の同意を得られたケースに限り、弁護士に被害者の連絡先を教えてくれます。

しかし、被害感情が強い場合には「示談しない」という意向が強く、被害者が被疑者の弁護人(弁護士)に連絡先を教えること自体を拒否することがあります。

その場合には、連絡先が分からない以上、弁護士であっても被害者との示談交渉を開始することすらできません。

(2) 示談条件が折り合わない

示談交渉がスタートできても、示談は互いの合意によって成立するものですから、最終的に示談金などの条件が被害者との間で折り合わなければ不成立となってしまいます。

(3) 未成年である被害者の両親が拒否している

被害者が未成年(20歳未満)の場合には、示談交渉の相手方は被害者の親権者である両親となります。未成年者との示談を、親権者の同意なく成立させても、後で親権者から取り消されてしまう危険があります(民法5条)。

ところが、特に痴漢・盗撮や児童買春などの性犯罪の場合には、「我が子にとんでもないことをした」との思いから、親権者の被害者に対する見方には大変厳しいものがあるのが通常で、示談交渉が難航しやすいです。実際、厳罰を望み示談はしないとして弁護士に連絡先を教えることすら拒否することもあります。

また、親権者が示談交渉には応じてくれても、激しい怒りから要求する示談金額が通常よりも高くなるのが通常です。
その結果、示談金が用意できず示談が成立しないこともあります。

3.示談が成立しない場合の対処法

上記のような理由で示談が成立しない場合でも、取り得る対処法は存在します。

(1) 被害者の怒りや恐怖が原因→弁護士の粘り強い交渉

示談に応じてもらえない理由のひとつに、被害者の怒りや恐怖がおさまっていないことが原因となっているケースがあります。

被害者の怒りが強い場合、弁護士は、①加害者本人が犯行を心から反省・後悔し謝罪していることを伝え、②逆に被害者が如何に深刻な被害を受け、加害者を憎んでいるかを聴き取って加害者にも伝え、③さらに反省を深めた言葉を被害者に伝えます

これを何度か行い、弁護士を介したコミュニケーションで被害者の心を溶かすことができれば、示談交渉が前進することがあります。

もちろん、被害者の被害者意識、怒りが固く、一切を拒絶される場合もあります。
これは時間の経過で被害者の精神的な傷が癒えるのを待つしかありません。弁護士は諦めずに示談成立の可能性を探っていくことになります。

とはいえ、刑事事件は時間との勝負です。示談の機会を窺っているうちに起訴されたり、判決が下されてしまったりする危険があります。
そこで弁護士は、定期的に担当の警察官・検察官に連絡をし、検察官送致の時期や検察官の判断時期がいつになりそうか探りを入れ、その結果に応じて被害者への交渉打診を再開します。

他方、精神的なショックや恐怖のために示談に応じてもらえない場合もあります。
この場合には、被害者の恐怖心をできるだけ払拭できる条件を示談書に盛り込むことを提案します。

条件の例
・被害者が通学などで利用している電車・バスなどは利用しない
・被害者の家から遠い場所に引っ越す

当然のことながら、示談内容に盛り込んだ以上は被疑者には絶対に守っていただくことになります。

(2) お金がない→分割払いの交渉

相場範囲内の適切な金額の示談金を請求された場合でも、被疑者にお金がない場合があります。

この場合、その金額の示談金支払義務を認めたうえで、分割払いを約束する示談を成立させることを目指します(示談書の調印と同時にできる限り頭金を支払います)。

この場合、示談は成立しますが、全額を支払い終わるまでは被害は回復していませんし、示談としての効果は限定的です。
それでも、きちんと被害者と交渉して一定の約束を成立させているのですから、お金がないなりに誠実な態度といえ、示談に至らないよりはマシと言えます。

分割払いでも示談が成立しない場合には、全額は無理でも、金額の一部だけでも被害者に受けとってもらうべきです。
たとえ一部といえども、まったく賠償金を支払っていない場合よりは有利な事情となります。

賠償金の一部では受け取ってくれないという場合は、後述の法務局へ供託をすることや、贖罪寄付をすることもひとつの方策です。

(3) 連絡が取れない、交渉にすら応じない→供託・贖罪寄付

被害者とそもそも連絡がとれなかったり、被害者の「示談しない」との気持ちが強く最初から一切応じてもらえなかったりすることもあります。
このような場合であったとしても、被害者に対する自身の謝罪、賠償の姿勢を示すため、これを形にしておくべきです。

被害者の気持ちが変わった段階で示談交渉に入れるように、被害者への謝罪文を用意したり、場合によっては示談金を弁護士に預けて今後いつでも被害者に渡せるようにしておきましょう。

被害者の住所氏名の開示を受けていれば、法務局へ供託をすることが可能です。

供託すると、例え被害者が受取りを拒否していても、供託した金額については被害者に支払ったものと取り扱われます。
加害者にとっては、その部分についての遅延損害金(遅延利息)が発生しなくなるという民事面でのメリットもあります。

また、贖罪寄付で謝罪の気持ちをあらわすという方法もあります。被害者の住所氏名の開示を受けられず供託もできない場合には、この方法を取ることになります。

各都道府県の弁護士会が贖罪寄付を受け入れています。贖罪寄付を行った証明書が発行されるので、贖罪・反省の気持ちを形にすることができます。

[参考記事]

贖罪寄付・供託により本当に情状が考慮されるのか?

4.示談交渉でお困りならば弁護士へご相談ください

刑事事件を起こしてしまった場合には、示談を行うことが何よりも重要です。

示談交渉でお困りならば、刑事弁護活動、示談経験が豊富な泉総合法律事務所に刑事弁護をご依頼ください。
初回60分は相談無料ですので、一人で悩まず、まずは当事務所へお問い合わせいただければと思います。

5.刑事事件と示談に関するよくある質問

  • 被害者が示談に応じない場合はどうなる?

    示談成立により逮捕・勾留を回避できたり、仮に身体拘束されても早期に釈放されたりする可能性があります。
    また、示談成立の事実は、起訴後の公判において裁判所から有利な事情として斟酌され、刑期や罰金額の軽減、執行猶予判決が期待できます。

    一方、示談が不成立ですと、検察官に起訴されたり、裁判でも被告人に不利な判決が出たりする可能性が高まります。
    また、後から民事訴訟で損害賠償を請求される可能性も残ります。

  • 示談不成立の場合にできる対処法は?

    被害者と示談できない場合でも、取り得る対処法は存在します。

    • 被害者の怒りや恐怖が原因の場合
      →弁護士が被害者に寄り添いつつ粘り強く交渉し、示談に取り合ってもらえるよう働きかける
    • お金がない場合
      →分割払いの交渉や、一部だけでも受け取ってもらえるよう交渉する
    • 被害者と連絡が取れない、交渉にすら応じてくれない場合
      →法務局への供託や贖罪寄付を利用する

    いずれの方法も弁護士のサポートが必要不可欠ですので、刑事事件の示談交渉はお早めに専門家である弁護士にご相談ください。

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