被害届を出されても示談で取り下げてもらうことはできるのか?
【この記事を読んでわかる事】
- 被害届が出されると被疑者はどうなるのか
- 被害届と告訴(刑事告訴)の違い
- 被害者が警察に提出した被害届を取り下げてもらうにはどうすればいいか
被害者の存在する犯罪(例えば、窃盗事件、傷害事件、暴行事件、強制わいせつ罪、盗撮、痴漢など)の場合、基本的に警察は、被害者からの被害届の提出を受けてから捜査を開始します。
被害者から警察に被害届が出されてしまった場合、それを取り下げてもらうにはどうすればよいのでしょうか?
ここでは、被害届についての基礎的な知識と、不起訴のために被害届を取り下げてもらう手段について解説します。
1.被害届が出される→警察の捜査が開始
(1)被害届とは
被害届は、何らかの犯罪によって被害を受けたことを捜査機関に知らせる書類のことです。
暴力の被害に遭った、ひったくりに被害に遭った、痴漢被害にあった、家に不法侵入された、など犯罪の可能性があるものを捜査機関に認知させることで、捜査の必要性を知らせるという役割があります。
被害届が出て初めて認知されることが多いため、捜査を開始して欲しい場合は、被害届を出す必要があります。
被害届の出し方に関して詳しく知りたい方は、下記記事をご覧ください。

[参考記事]
被害届とは?提出すると事件はどうなるのか・提出方法について解説
(2) 被害者の存在する犯罪
犯罪の被害を受けた者(被害者)から被害届が警察に提出され、それが受理されると、警察はその犯罪の捜査を開始します。
逆に言うと、被害者から被害届が出ていない場合は、重大犯罪(例えば、殺人罪、強盗罪、強姦罪等)は除くとして、警察としては犯罪の捜査をしないことが多いといえます。
例えば、コンビニエンスストアでの万引きの事案で、店長が警察には通報した者の、被害品の買い取りが行われたため警察官によるお説教だけで終わった、というような場合には、店長が警察に対して万引きの被害届を出さなかったため、警察もそれ以上の捜査をしなかったケースといえます。
(3) 被害者の存在しない犯罪
他方で、被害者の存在しない犯罪というのもあります。例えば、覚せい剤や大麻などの薬物関係の犯罪、スピード違反や無免許運転などの自動車犯罪がこれにあたります。
これらは「社会公共に対する犯罪」とされ、個人の被害者は存在しません。このような犯罪類型の場合、そもそも被害者がいないわけですから、警察としては、当然、事件が発覚した段階で捜査を開始します。
被害者の存在しない犯罪においては、示談に代わる「贖罪寄付・供託」という手段があります。

[参考記事]
贖罪寄付・供託により本当に情状が考慮されるのか?
そして、捜査が開始され被疑者が特定されると、ほとんどの場合、どこかのタイミングで警察から検察へと事件が送致(いわゆる「送検」)され、最終的には検察官による刑事処分が下ります。
2.逮捕されると前科がつく?
(1) 逮捕されることによる影響
警察は、被疑者に逃亡や証拠隠滅の恐れがある場合、被疑者を逮捕し、その後48時間以内に検察庁に送致し、検察官と裁判官の判断で10日間(さらに延長があると20日間)勾留されることになります。
長期間勾留されるとなると、被疑者の会社の解雇・退学など、被疑者及びその家族に様々な重大な影響を及ぼします。
そのため、逮捕後はただちに弁護士に刑事弁護を依頼して、10日間の勾留とならないように検察官・裁判官に働きかけてもらう必要があります。
(2) 逮捕=前科ではない!示談の重要性
弁護士の働きかけにより釈放されたとしても、不起訴を意味するわけではありません。
不起訴となり前科を避けるためには、その後弁護士に被害者との示談交渉をしてもらい、示談を取り付ける必要があります(被疑者本人は被害者と示談できません)。
また、被疑者が釈放されずそのまま勾留された場合でも、代理人弁護士が早期に被害者との示談を成立させることで、検察官が勾留取消として釈放されることが多いです。
逮捕・勾留されない場合
逮捕・勾留されない場合(在宅事件)では、解雇などの重大な影響はありませんが、そのまま何もしなければ罰金刑もしくは起訴(正式裁判)となってしまい、前科がつくことになります。在宅事件だからといって油断は禁物です。
その意味では、刑事事件を起こしてしまったら、どんな場合であれ、早急に刑事弁護経験豊富な弁護士に刑事弁護を依頼して、被害者の方と示談をするなどして、被害者の被害届提出を防ぐ必要があります。
被害届の提出を防げれば、通常、それ以上警察の捜査は行われませんので、逮捕されることもありませんし、刑事処分を受けて前科がつくことも回避できます。
在宅事件に関して詳しく知りたい方は、下記記事をご覧ください。

[参考記事]
在宅事件でも起訴・前科!?長期化するからこそ弁護士に相談を!
3.被害届を取り下げてもらう方法
(1) 被害届を取り下げてもらうには示談しかない
では、被害者から警察に被害届が出されてしまった場合、それを取り下げてもらうにはどうすればよいのでしょうか?
結論から言えば、被害者に被害届を取り下げてもらうには、弁護士などを付けて被害者側と示談をして相応の示談金(相場は事件様態によりそれぞれ異なります)を支払う必要があります。
それ以外に、既に提出されている被害届を取り下げてもらう方法はありません。
(2) 不起訴のためにー示談と被害届の取り下げの関係
もちろん、示談をしたからといって、100パーセント被害届が取り下げられるわけではありませんが、通常は、示談をして被害者側に相応の示談金を支払えば、被害者も被害届を取り下げてくれます。
弁護士が作成する示談書の中には、通常「宥恕文言」という、被害者の罪を許してほしいという意味合いを持つ文言が含まれています。
これに加え、被害届が取り下げられれば、検察官による刑事処分も(前科があるなどの事情がなければ)通常不起訴になります。
このような観点からも、刑事事件を起こしてしまったら、刑事弁護経験豊富な弁護士に依頼して被害者側と早期に示談をすることが、いかに重要性であるかがわかります。
(3) 示談できない場合
被害届を取り下げもらうには、示談が重要とはいうものの、被害者との示談は必ずしも成立するわけではありません。一言に示談ができないといっても、そこには様々な原因があります。示談に応じてもらえない原因に応じて、取るべき対応は異なります。示談を拒否された方は、下記記事をご参考ください。

[参考記事]
示談できない、示談不成立、示談を拒否された場合の対処法を解説
4.被害届と刑事告訴の違い
ところで、「被害届」と「刑事告訴」は、どちらも被害者が被害を訴えることですが、具体的にどのような点が異なるのでしょうか。
まず、被害届とは、被害者が捜査機関に対して犯罪事実の申告をすることであり、加害者の処罰を求めることまでは含みません。
一方、刑事告訴とは、犯罪の被害者などが警察や検察などの捜査機関に対して犯罪事実を申告し、加害者の処罰を求める意思表示のことを言います。
つまり、両者は加害者の処罰を求める意思表示があるかないかで区別され、加害者の処罰を求める意思表示のないものが被害届で、それがあるものが刑事告訴となります。
また、刑事告訴がなされているかどうかで問題になってくるのが、親告罪といわれる犯罪類型の場合です。
親告罪
親告罪とは、刑事告訴がなければ検察官が起訴できない犯罪類型のことをいいます。親告罪にあたる犯罪には、名誉棄損罪や親族間の窃盗罪などがあります。
これらの犯罪の場合、被害者からの刑事告訴がなければ、検察官は起訴できません。
なお、今までは親告罪であった強姦罪や強制わいせつ罪は、平成29年の刑法改正によって親告罪ではなくなりましたので注意が必要です。
つまり、これらの性犯罪については、被害者などからの刑事告訴がなくても、検察官は起訴できることになったのです
また、今回の刑法改正で、今までは「強姦罪」と呼ばれていたものが、「強制性交等罪」という名称に変わりました。これにより、今までの「強姦罪」では被害者が女性に限定されていましたが、改正後の「強制性交等罪」では被害者に男性も含まれることとなりました。
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