暴力事件 [公開日] [更新日]

暴行事件で被害届を出された!取り下げの方法と示談交渉

暴行事件で被害届を出された場合、被疑者の方は「被害届を取り下げてほしい!」と思うことでしょう。

しかし、実は「被害届を取り下げる」だけでは、刑事事件は終了しません。

今回は、一般に言われる「被害届を取り下げる」ことの意味と、暴行事件で被害届を出されたらどうすればいいのかについて解説します。

1.暴行事件の刑罰と刑事手続きの流れ

(1) 暴行事件の刑罰

他人に対して暴行を行った場合、被害者がケガをしていなければ暴行罪、ケガをすれば傷害罪となります。

暴行罪(刑法208条)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金に処する

傷害罪(刑法204条)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する

(2) 刑事手続きの流れ

①身柄拘束された場合

①身柄拘束された場合

②身柄拘束されなかった場合(在宅捜査)

②身柄拘束されなかった場合(在宅捜査)

身柄拘束された場合でも、されなかった場合でも、警察の捜査→検察の捜査→検察官の処分という流れは変わりません。

身柄拘束された場合には、最大23日で起訴(略式起訴)か不起訴かという決定が出てしまうという点が、大きな違いとなります。

2.被害届

(1) 被害届とは

被害届とは、犯罪によって被害を受けたことを捜査機関に知らせるための書類です。

被害届は「捜査の端緒」、つまり警察が、犯罪が発生したことを知り、捜査を始めるきっかけにすぎません。

犯罪捜査規範第61条には、「警察官は、犯罪による被害の届出をする者があったときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない」と定められています。

そこで、暴行の被害者が被害届を出したら、警察官はこれを受理しなければならないのです(もっとも、現実問題として、警察の人員も限られていることから、どのような事件でも捜査するというのは難しいからなのか、警察官が被害届を「受理しない」という対応をすることはよく見受けられます)

(2) 告訴との違い

告訴とは、捜査機関に対して、犯罪を申告して処罰を求める意思表示のことです。被害届と違う点は、「処罰を求める」点です。また、起こった犯罪が親告罪である場合には、告訴が訴訟条件、つまり、起訴をするための条件になります。

そのため、親告罪で告訴を取り消した場合には、刑事事件は終了となります。

なお、暴行罪も傷害罪も親告罪ではありません。

刑事訴訟法第230条には、「犯罪により害を被った者は、告訴をすることができる」と定められています。また、犯罪捜査規範第63条には、「司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があったときは、管轄区域の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない」と定められています。

そこで、被害届同様、暴行の被害者が告訴をした場合には、本来、警察はこれを受理しなければなりません。

(3) 「被害届を取り下げる」とは

被害届の提出は、捜査の端緒にすぎないので、法的には、被害届を取り下げても捜査に影響を与えることはありません。被害届の取下げで刑事手続きが終わるということではないのです。

親告罪以外の罪に対する告訴の取消も同様に、それだけで刑事手続きが終わるわけではありません。

しかし、被害者が、「被害届を取り下げた」ということは、加害者を許してもいいといいう気持ちの表れですので、情状がよくなるということであり、事実上は、処分を軽くする効果があります。つまり、捜査中であれば、検察官が不起訴処分にする可能性が非常に高くなります

また、裁判中であれば、執行猶予がついたり、(前科などの関係から)実刑をまぬかれない場合でも、刑期が短くなったりする効果があります。

なお、被害者が被害届を取り下げて、「不起訴」となった場合でも、暴行事件がなかったことになるわけではなく、捜査の対象になったことがあるという「前歴」が残ります。

それでも、「前科」が残るよりはよほどマシであると言えるでしょう。

【参考】
前科の生活への影響とは~前科者の資格制限、仕事、履歴書、海外旅行
前科をつけたくない/不起訴・無罪にしてほしい

3.暴行事件で被害届を出された場合

(1) 示談交渉をする

暴行事件で、被害届が出されて捜査が始まったら、情状をよくして不起訴処分を目指すことが大切になります。

そして、情状の中でもっとも重要なものは、示談です。そこで、示談金を準備して、示談の交渉をはじめなければなりません。

(2) 示談の方法

示談をするには、被害者にある程度の金額の示談金を示して交渉をすることになります。

しかし、交渉をするには、被害者の住所や連絡先を知る必要がありますが、警察官も検察官も、弁護士でなければ、被害者の住所や連絡先を教えないことがほとんどです。加害者本人またはその家族や友人などが連絡をしてきてもよいという被害者はほとんどいないからです。

また、被害者の住所や連絡先をすでに知っている場合であっても、弁護士を通じずに連絡を取ろうとしてはいけません。

被害者が、加害者やその関係者と会いたくない、怖いと考える気持ちは、自分が被害者だったら……と考えてみればよく分かるのではないでしょうか。

そのような恐怖心を抱いている被害者にしつこく連絡を取ろうとすると、被害届の取り下げを強要されたなどと言われ、ますます情状が悪くなる可能性もあります。

自分が暴行罪や傷害罪の被疑者になってしまったからと言って、焦って被害者の気持ちを考えずに被害者と接触しようとすることは逆効果です。

もっとも、身柄が拘束されている事案の場合、検察官が起訴するかどうかを判断するまでの期間は最大で23日しかないので、示談の申出については、急ぐ必要があります。

そこで、早急に弁護士に依頼することが必要です。

(3) 示談金の金額

示談の金額には決まりはありません。暴行に至るまでの経緯、暴行の状況・程度、けがの程度・治療費・治療にかかる期間、被害者の被害感情の大きさ、加害者の経済力などによって変わります。

いくらで示談しなければいけないという決まりはないので、多額の示談金を提示しても被害者が拒めば示談することはできません。

暴行罪・傷害罪の示談金の相場は、10万円程度から200万円程度まで事案によって様々です。個々の暴行事件で、どのくらいの示談金を提示すればよいのかについては、弁護士とよく相談しましょう。

(4) 示談が成立したら

示談が成立すると、示談書を交わして示談金を支払います。

多くの場合、示談書には、「被害者が加害者を宥恕する」つまり、加害者を許すという言葉が入ります。

もっとも、被害者の被害感情が強く、「宥恕」という言葉に拒否反応を示す場合には、そのような文言を入れない示談書を作成して、示談金を払うこともあります。文言が入っていなくても、示談金を受け取ってもらう、つまり「被害者に慰謝の措置が講じられている」ということが、情状においてもっとも重要だからです。

そして、弁護士は、検察官に示談書を提出して、不起訴処分にするように働きかけます。

示談書を受け取った検察官は、被害者に「示談の内容に間違いないか」を確認し、それが処分に反映されます。

示談が成立した場合には、示談書を提出することが重要ですので、被害者が警察まで赴き、被害届を取り下げるという手続きは必ずしも必要ではありません。

4.まとめ

暴行事件で被害届を出されたら、刑事事件の被疑者となったということです。このことを軽く考えずに、専門家である弁護士に早急に相談しましょう。

必要なのは、「被害届を取り下げさせる」ことではなく、「不起訴処分を得る」ことです。

被疑者を弁護し、被害者と示談して、不起訴処分を得るためには弁護士の力が不可欠です。暴行事件の被疑者となってしまったという方は、お早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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