刑事弁護 [公開日]2018年4月18日[更新日]2020年12月3日

親告罪とは?非親告罪との違いをわかりやすく解説

刑事事件には、「親告罪」と「非親告罪」があります。

親告罪の場合、被害者と示談して告訴取り下げにより不起訴となります。

では、親告罪とはどのような仕組みなのでしょうか。また、どのような犯罪が親告罪にあたるのでしょうか。

以下においては、親告罪と告訴の関係、親告罪と非親告罪の違い、親告罪とされる趣旨・理由、親告罪と示談(不起訴)の関係について解説します。

1.親告罪とは?

親告罪とは、「告訴がなければ公訴を提起することができない」犯罪類型のことをいいます。

処罰するために被疑者を刑事裁判にかけることを「公訴の提起」と言います(別名、「起訴」とも呼びます)。

この起訴の権限を有する検察官には、諸般の事情を考慮して起訴するか否かを決める広汎な裁量が認められています。

しかし、犯罪が親告罪の場合は、被害者を含む一定の告訴権者が告訴を行わない限り、起訴することが許されません

仮に、検察官が告訴のないまま親告罪の被疑者を起訴したとしても、裁判所は、これを不適法な公訴として、判決で公訴を棄却しなくてはなりません(刑事訴訟法338条4号)。

告訴とは、犯罪の被害者やその法定代理人(例えば、被害を受けた未成年者の親権者)等その他一定の者が、捜査機関に対し、犯罪事実を申告して、犯人の訴追・処罰を求める意思表示のことをいいます。

親告罪の告訴期間は、人を知った日から6か月以内です(刑事訴訟法235条)。そのため、親告罪である犯罪について告訴をせずに6か月経過した場合、検察官は起訴できなくなります。

[参考記事]

刑事告訴されたらどうなる?手続きの流れをわかりやすく解説

これに対し、被害者からの公訴がなくても検察官が起訴できる犯罪類型が「非親告罪」です。

ある犯罪が親告罪とされる場合は、その犯罪を定める法律に、告訴がなければ公訴を提起することができないと明記されます。
したがって、そのような記載がない限りは、犯罪は、すべて非親告罪なのです。

【被害届との違い】
被害届とは、犯罪の被害にあったということを捜査機関に申告することを指します。告訴と異なり、被害届の提出は犯人の処罰を求める意思表示を含んでおらず、格別の法的効果があるわけではないので、告訴のような厳格な手続の定めもありません。
参考:被害届とは?提出すると事件はどうなるのか・提出方法について解説

2.親告罪に該当する犯罪一覧と親告罪とされる趣旨・理由

親告罪は、上記のとおり、犯人の訴追・処罰を告訴権者の意思に係らせる制度であり、国家が独占しているはずの刑罰権の行使に私人の意向を反映させるものです。

私人の意向を反映させる理由は、犯罪類型によって様々です。

例えば、(ア)犯罪被害が軽微なことや悪質性が低いことから被害者の意思を尊重するもの、(イ)被害者のプライバシー侵害等の不利益を避けるもの、(ウ)犯人との一定の関係が被害者にあるため国家の介入を控え、事件の解決を当事者に委ねたものがあります。

以下では、刑法各則で親告罪とされている犯罪のうち、主なものを紹介します。

①絶対的親告罪(犯人と被害者の人的関係に関わらず、その犯罪が親告罪となる犯罪)

(ア)の要請によるもの
過失傷害罪(209条)
私用文書等毀棄罪、器物損壊罪及び信書隠匿罪(259条、261条、263条、264条)信書開封罪及び秘密漏示罪(刑法133条、134条、135条)

(イ)の要請によるもの
未成年者略取・誘拐罪(224条、229条)
名誉毀損罪及び侮辱罪(230条、231条、232条)

②相対的親告罪(犯人と被害者の人的関係によって親告罪となる犯罪)(ウ)の要請による

窃盗罪(235条、244条2項)
不動産侵奪罪(235条の2、244条2項)
詐欺罪(246条、251条、244条2項)
電子計算機使用詐欺罪(246条の2、251条、244条2項)
背任罪(247条、251条、244条2項)
準詐欺罪(248条、251条、244条2項)
恐喝罪(249条、251条、244条2項)
横領罪(252条、255条、244条2項)
業務上横領罪(253条、254条、244条2項)
遺失物横領罪(254条、254条、244条2項)

親告罪では起訴・不起訴が被害者の意思に委ねられるため、プライバシーが害されるデメリットを覚悟して告訴して処罰を求めるか否かという重い選択を被害者に突きつけることになってしまいます。

特に性犯罪において、被害者の精神的負担は顕著で、これがために処罰を求めたいにもかかわらず、萎縮して告訴を諦めるというケースも少なくなかったのです。

【刑法改正で性犯罪の多くが親告罪から削除】
2017年(平成29年)の刑法改正により、強制わいせつ罪、強制性交等罪(改正前の強姦罪)などの性犯罪については、被害者の精神的負担を減らすため、被害者の告訴がなくても起訴できるように改められ、親告罪の規定が削除されました(非親告罪となりました)。
なお、改正刑法の施行前に起きた事件にも適用され、告訴なしに起訴できるようになりました。但し、告訴期間の経過等により、施行時点で告訴権が消滅している場合は除きます(平成29年法律第72号:刑法の一部を改正する法律附則第2条2項)。
【参考】110年ぶりの刑法改正。性犯罪が厳罰化!

3.親告罪の示談と不起訴の関係

(1) 親告罪と示談の関係

親告罪の場合、上記のとおり、検察官は告訴がなければ起訴ができません。したがって、告訴がない場合には例外なく不起訴処分で終わることになります。

そのため、被害者が告訴をしなかった場合、被疑者は刑事裁判で裁かれることはないので、刑罰が科されたり前科がついたりすることもありません。

以上のことから分かるように、親告罪においては、被害者の告訴は被疑者の将来を大きく左右させる重要なものです。

したがって、被疑者としては、被害者に何としても告訴を控えてもらいたい、あるいは既にした告訴を取り下げてもらいたいと考えるでしょう。

被害者に告訴を取りやめてもらうためには、「示談」を成立させることが非常に重要です。

一般に、刑事事件の示談においては、加害者が示談金を支払う代わりに、被害者が今後、被害届や告訴を行わないこと、既に提出済みの被害届や告訴を取り下げることを合意します。

刑事弁護の実務では、確実に告訴が取り下げられるよう、示談金は、示談書だけでなく、被害者が署名押印を済ませた告訴取下書の交付と引き換えに支払い、入手した告訴取下書は加害者側から検察官に提出します。

このようにして、示談により告訴を回避することで、確実に不起訴となることができます。

(2) 非親告罪で示談するメリット

では、非親告罪となった性犯罪のように、告訴がなくとも起訴できる場合は、示談することにメリットがないのか?というと、そんなことはありません。

非親告罪であっても、示談が成立したことは、被害が金銭的に回復していること、被害者の処罰感情が失われたことを示しますから、有利な事情として考慮され、不起訴となる可能性が高くなるからです。

特に、非親告罪となったとはいえ、性犯罪については、被害者の意向に配慮した運用がなされていますから、やはり示談の重要性は疑いないのです。

親告罪の加害者になってしまった場合には、被害者側に対する誠意ある謝罪と慰謝の措置を講じ、早期に示談を成立させるためにも、刑事弁護に経験・実績のある弁護士に依頼することが必要不可欠といえます。

被害届と示談の関係については、以下のコラムをご覧ください。

[参考記事]

被害届を出されたら示談で取り下げてもらうことはできるのか?

4.示談交渉は泉総合法律事務所にお任せください。

このように、親告罪においては被害者と示談し、告訴取り下げとすることで前科を免れる可能性があります。

刑事事件の加害者になってしまった方はお早めに刑事弁護実績・示談交渉実績が豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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