痴漢冤罪を証明したい! DNA・繊維鑑定は本当に有効なのか?
痴漢をしていないのに、被害女性や近くにいた男性の目撃者に痴漢と誤解される「痴漢冤罪事件」は稀に発生します。
冤罪は、その人の人生を大きく狂わせます。そして、満員電車内での痴漢冤罪事件というのは、誰にでも起こり得る危険があると言えるかもしれません。
犯罪を証明するには証拠が必要です。痴漢事件においてもこれは例外ではなく、どのような証拠が存在するかといった点が被告人の裁判において問題となります。
この記事では、DNA鑑定や繊維鑑定等の痴漢の証拠について解説した後、痴漢の冤罪で逮捕された場合の対応方法を説明します。
1.痴漢の証拠
警察は好んで冤罪を生み出したいわけではありません。実際に痴漢冤罪事件の存在が明らかになり、一方的に被疑者を犯人と決めつける見込み捜査の問題が叫ばれる現在では、警察も痴漢事件の取扱いには慎重になっています。
警察庁は、ひとつひとつの証拠に有罪を支えるだけの証明力と信用性があるかどうかを逐一検討する姿勢を捜査の現場に指示しています。
この観点から、警察も痴漢事件においては、次のような視点から事件を観察し、冤罪を防止しようとしています。
- 被害女性や目撃者の証言にあいまいなところはないか
- 満員電車内の状況から別の者が痴漢をした可能性はないか
- 被疑者と被害者の身長差や、明らかとなった被疑者の当時における腕の位置などから、痴漢行為が物理的に不可能ではなかったか
- 被疑者の否認する態度や状況説明の供述は、痴漢と疑われた当初から一貫しており、ぶれていないか
したがって、痴漢だと誤解されても、痴漢行為はしていないと最初から最後まではっきりと否定するべきです。
また、このように事件の真相のため、捜査機関は刑事手続の中で以下のような様々な方法で多くの証拠を集めます。
(1) 客観的な証拠
最も重視されるのは、人間の供述以外の客観的な証拠です。
人の供述には、見間違い・記憶違い・言い間違い・虚偽供述という問題が多々あり、安易に信用できません。これと比較すれば、客観的な証拠は信用性に問題を生じる場面が少ないです。
①衣服のDNA鑑定
痴漢事件の場合、女性が触られた部分の衣服に犯人のDNAが付いているかを調べることもあります。
確かに、DNA検査で被疑者のDNAが被害者の衣服や身体から検出されてしまえば、被疑者がその服の部分に触れたことは強く推認されるでしょう。
では逆に、検出されなかったときに「触っていない」ことの証明となるのかと言うと、これは証明になりません。
人間が衣服や他人の身体に触れても、「必ず」触れた者のDNAが残留するわけではありません。残留しない可能性もある以上、DNAが検出されなくても、触っていないことの証明とはならないのです。
被疑者にとっては、DNAが検出される場合よりは「まし」だったとは言えても、残念ながらそれだけのことなのです。
②繊維鑑定、指紋
同じ問題は、被疑者の手や指から被害者の服(たとえば下着)の繊維が発見されるか、という問題についても言えます。
被疑者に付着した繊維片を鑑定により解析した結果、これが被害者の衣服の繊維と一致した場合、被害者に触れたことが強く推認されてしまいます。
しかし、被疑者の手に被害者の服の繊維が付いていなかったとしても、触れていないことの証明にはならないのです。
③防犯カメラ
現在では、防犯カメラを設置している電車も多くなってきています。
たとえば、誰かが被害者の身体を触っている映像があり、その人物の顔が識別できるほどしっかりとした映像が防犯カメラに映っていれば、(それがフェイク動画でない限り)その人が犯人で間違いないと言えるでしょう。
しかし、満員電車であれば乗客同士の体で遮られてしまい、被疑者が被害者の身体に触っている決定的な場面までは映っていないことがほとんどです。
とは言え、このような場合でも被疑者と被害者の位置関係を示す画像は残っていることが多いため、「被害者の身体と被疑者の身体が隣同士にあって密着していたかどうか」を明らかにする証拠にはなります。
(2) 被害者の供述
犯人であることについての客観的な証拠がなくとも、被害者が痴漢に遭ったこと及びその犯人がその被疑者・被告人であることを合理的に説明できるとすれば、有罪になってしまう危険はあります。
ほとんどの被害者は、意図的に嘘をついて被疑者を陥れようとしているのではなく、満員電車という現場の状況から、偶然接触したのを痴漢と勘違いしていたり、触っている手を掴み間違えたりしているだけだと思われます。
つまり、被害者は、真実被害に遭っており、被疑者に痴漢をされたのだと信じてしまっているのです。
このように虚偽を述べる動機がない被害者の供述の中に、信用性の疑問点を発見し指摘するのは、なかなかに難しい作業です。
また、痴漢の目撃者がいた場合、目撃者の証言と被害者の証言が一致してしまえば、被疑者が犯人であることを争うのは至難の業となります。
[参考記事]
痴漢の証拠〜繊維鑑定・DNA・目撃証言〜何が根拠で逮捕されるか
2.痴漢冤罪で逮捕されたらどうなる?
警察が冤罪の主張を受け入れてくれない場合には、「被疑者」として逮捕され取り調べされるケースがあります。
「逮捕」による身体拘束は48時間ですが、被疑者が痴漢を否認している場合には、証拠隠滅や逃亡の恐れがあると判断して検察庁に身柄送検をするケースがほとんどです。
検察庁に送検されると、検察官が被疑者を取り調べます。被疑者の「痴漢冤罪だ」との言い分も聞いてくれますが、これに納得してくれることは通常なく、10日間の勾留を裁判官に請求することになります。
裁判官は被疑者が容疑を否認していると、検察官と同様に証拠隠滅や逃亡の恐れがあり勾留の要件を満たすと判断して勾留決定するでしょう。
このように、痴漢と誤解され逮捕・勾留されると、最大で23日間身柄拘束されます。
こうなると、会社を無断欠勤で解雇されるなど深刻な状況になってしまうのです。
[参考記事]
痴漢で逮捕された場合の示談交渉は弁護士へ依頼
3.痴漢冤罪の相談は泉総合法律事務所へ
痴漢事件に冤罪が多いことは捜査機関にも自覚があり、慎重な対応を目指してはいます。
しかし、現実に痴漢事件は頻発しており、日々それを処理しなくてはならない末端の警察官が方針どおりに捜査を尽くしてくれるとは限りません。
いったん痴漢の疑いをかけられたなら、いずれ真相が明らかになると楽観視することはできません。
最初から全力で戦わないと、痴漢犯人の汚名を着せられて、残りの人生を棒に振ることになります。
そのような事態を避けるには、痴漢の否認事件について経験のある弁護士に依頼するべきです。
泉総合法律事務所は、多数の痴漢事件の弁護経験がございます。
痴漢冤罪で逮捕されてしまっても、当所の弁護士が被疑者の方を全面的にバックアップし、勾留阻止・身柄解放を目指します。ぜひ一度ご相談ください。