痴漢を疑われた!線路に降りて逃げるのは正しいのか?

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痴漢を疑われた!線路に降りて逃げるのは正しいのか?冤罪は?

2017年の春先、「痴漢を疑われた男性が線路上に降りて逃げる」という事件がいくつか発生しました。その中には、逃げた方が電車にはねられて死亡した件もあります。痴漢を疑われたとき、実際に痴漢行為に及んでいる場合とそうでない冤罪の場合があるものですが、どちらにしても、線路を走って逃げるという行為は間違っています。

今回は、痴漢事件の経験と知識、実績豊富な弁護士が、痴漢を疑われて線路に降りて逃げることの是非と、痴漢を疑われたときの正しい対処方法について解説します。

1.痴漢を疑われて線路に降りた事案

2017年5月15日、午後8時15分頃、横浜市の東急田園都市線青葉台駅の下りホームにおいて、電車内での痴漢行為を疑われた男性がホームから電車の線路に飛び降りて逃走しようとしました。しかし、この男性は、やってきた電車にはねられて死亡してしまいました。

男性は、現場に駆けつけた駅員と話し合っているときに線路に飛び降りたとのことです。まだ30代だったということです。
この頃、これ以外にも「痴漢」と言われて電車の線路に飛び降りて逃走しようとする例が相次ぎました。

線路に飛び降りるなど、非常に危険な行為だと思うかもしれません。しかし、人間、「痴漢」と言われて気が動転すると、冷静な判断ができなくなることもあるでしょう。

  • 警察に逮捕されるかもしれない
  • 家族に知られたらどうしよう
  • 会社をクビになるかも

そんなことが頭を巡っているときに、ふと目の前に線路があって「線路に降りたら追ってこられないかもしれない」という考えが頭をよぎったとき、人は線路に飛び降りてしまうのです。

しかし、線路に降りる行為は、自殺行為に等しいです。絶対にしてはいけません。

2.痴漢を疑われた後の流れ

電車内では、痴漢事件が頻発します。ただ、実際に痴漢をしていなくても間違われることがありますし、ときには慰謝料目当てに痴漢をでっち上げる悪質な女性もいます。
冤罪であっても、電車内や外で女性が騒いだら、周囲は女性の言うことを信用してしまい、一気に「犯人扱い」となってしまいます。

このようにしていったん痴漢を疑われてしまったら、その後はどのような流れになるのでしょうか?

(1) 駅員室に連れて行かれる

痴漢として疑いをかけられたら、まずは周囲の人に取り押さえられてしまうことが多いです。そして、そのまま駅員室に連れて行かれることになります。

現行犯逮捕されない場合には、後から女性や目撃者に呼び止められて、「痴漢をしていましたよね?」などと言われます。そして、やはり駅員室に同行させられることになります。逃げようとすると、取り押さえられることが多いです。

(2) 警察を呼ばれる

駅員室に行くと、被害者や駅員などが警察を呼びます。
警察が来るまでの間は、話をしないで黙って待っていることもありますが、駅員から質問をされることもあります。

(3) 逮捕されないケースではそのまま釈放される

警察を呼ばれた後は、逮捕されるケースとされないケースがあります。
逮捕されなかった場合には、そのまま自宅に帰ることができます。ただし、その場合でも、在宅のままで捜査が継続される可能性はあります。

(4) 逮捕された場合の手続きの流れ

逮捕された場合には、警察に連れて行かれて、留置場という場所に身柄拘束されることとなります。逮捕されている間、留置場では、家族と接見することもできないことがあります。

①送検と勾留

逮捕されると、その後48時間以内に検察官のもとに身柄を送られて、その後24時間以内に勾留請求されてしまいます。ただし、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれなどがない場合には、勾留請求されずに釈放される可能性もあります。

②逮捕後の取り調べ

逮捕・勾留されている間は、刑事・検事から取調べを受けることになります。これまでの経歴や前科の有無、内容、痴漢行為の内容などについて、いろいろと聞かれて供述調書が作成されます。

供述調書は、刑事裁判の証拠に使われるので、非常に重要な書類です。

参考:痴漢の証拠とは?何を根拠として逮捕されてしまう?

③起訴・不起訴の決定

勾留期間は原則10日ですが、10日では必要な捜査が終わらなかった場合には、さらに10日、延長することができます。合計で20日間勾留される可能性があるということです。
20日間の勾留期間内に、検察官は起訴するか不起訴にするかを決めます。

起訴されたら刑事裁判となりますし、不起訴になったら裁判にはならず釈放されます。
起訴された場合でも、略式起訴になった場合には身柄を解放されます。後は裁判所からの命令に従って罰金の支払をしたら刑罰を終えたことになります。

痴漢の場合には、多くのケースで略式起訴となり、通常裁判になることは少ないです。

(5) 在宅捜査になった場合の流れ

次に、逮捕されなかったり、逮捕されても勾留されなかったりして在宅捜査になった場合の手続きの流れをご説明します。

在宅捜査になると、被疑者は今まで通り、自宅で生活することができます。
仕事にも普通に行くことができますし、基本的には、旅行、引っ越しなど、他に何らかの制限を受けることもありません。

また、在宅捜査になった場合には、20日間の勾留期限などもありませんから、捜査は随時のタイミングで進められます。
そして、一定の時期が来ると、検察官が被疑者を呼び出して、話を聞きます。その結果、検察官が起訴するか不起訴にするかを決定します。

①略式起訴

起訴される場合には、たいてい略式起訴となります。

これまで通り自宅で普通に生活をしていたら、罰金の納付書が送られてきます。それを使って支払をしたら、刑を終えたことになります。

②不起訴になったら、前科もつかない

不起訴になったらそのままおとがめなし、ということですから、何も起こらず、そのまま生活することができます。前科もつきません。

このように、痴漢の疑いをかけられたからと言って、懲役刑などの重い処罰を受けることはほとんどありません。刑罰が適用されるとしても、多くの場合罰金刑となります。

また、裁判の方式も、略式起訴といって簡単な手続きになることが多いです。そもそも逮捕されないこともありますし、逮捕されても勾留されないこともあります。

つまり、痴漢を疑われても「世間で思われているほど、大事にはならないことが多い」ということです。万一騒ぎになっても、あせらずに冷静に対応することが重要です。

参考:日本の刑事裁判の起訴後有罪率99.9%は本当か?検察の捜査力について

3.実際に痴漢をしてしまっていた場合

実際に痴漢をしてしまっていた場合

それでは、痴漢の疑いをかけられたとき、どのような対処をすればよいのでしょうか?まずは、実際に痴漢をしてしまった場合の対処方法をご紹介します。

(1) 逃げないこと

まず、逃げないことが重要です。

一時、「痴漢」と言われたら逃げるべき、などということが言われていたこともありました。しかし、逃げると、「やっぱり痴漢していたのだ」と言われるだけです。

後で捕まったときに、「なぜ逃げたのか」と聞かれて、逃亡のおそれがあるという理由で逮捕されてしまう可能性も高くなります。
上記でも説明した通り、たとえ、実際に痴漢をしていたとしても、逃げなければ逮捕も勾留もされないことがあるのです。
そこで、痴漢を疑われて、実際にやっていたとしても、とにかく冷静になり、逃げずに覚悟を決めることが大切です。

(2) 謝罪すること

実際に痴漢行為をしていたなら、被害者にきちんと謝罪をしましょう。真摯に罪を認めて謝れば、被害者の被害感情も緩くなりやすいものです。

場合によっては、被害届を出すのを思いとどまってくれて、事件が大事にならずに済むこともあります。

【参考】被害届を出されても示談で取り下げてもらうことはできるのか?

(3) 連絡先を伝えること

実際に痴漢をしている場合でも、逃亡のおそれがないと判断されたら逮捕されない可能性が高くなります。そこで、被害者に連絡先を渡して、何かあったら連絡がつくようにしましょう。

警察を呼ばれても、身元がきちんと明らかになっていると逮捕の必要性がないと判断されることがあります。

(4) 素直に駅員室に行くこと

痴漢を疑われたとき「駅員室に行ってはいけない」と言われることがあります。しかし、特に実際に痴漢をしている場合には、素直に駅員室に行くべきです。

素直に駅員室に行くと、「逃亡のおそれがない」と判断されて、そのまま釈放される可能性も高くなりますが、駅員室に行くのを拒んでトラブルになったら、逮捕される可能性が高まります。
被害者の感情としても、「駅員室に行かずに逃げようとしている」と感じたら、示談しようという気持ちも失せてしまうでしょう。

(5) 弁護士を呼ぶこと

痴漢を疑われたら、実際に痴漢をしていたとしても、弁護士を呼ぶことが非常に重要です。

被疑者がいくら被害者に謝罪して、「連絡先を伝えておくから安心して下さい」と言っても、納得しない被害者が多いでしょう。
弁護士がきちんと本人の身元を証明して「何かあったら弁護士に連絡をしてくれたら,間違いなく対応します」と言った方が、信憑性が高いことは明らかです。

弁護士を呼ぶとき、知っている弁護士がいたら、その弁護士に連絡をすると良いですし、そういった弁護士がいない場合には「当番弁護士」を利用しましょう。弁護士がその場に到着するまでは、不用意な発言を控えて待ちましょう。

弁護士が到着したら、経緯を話して、自分としては示談しようとしていること、逮捕されたくないことなどを伝えます。すると、弁護士が被害者や警察(来ている場合)に話をして、逮捕を避ける方向に進めることができます。

4.冤罪だった場合の正しい対処法

次に、本当は痴漢をしていない(冤罪)のに、痴漢と間違われて取り押さえられてしまった場合の正しい対処方法をご紹介します。

(1) 逃げないこと

冤罪だったケースでも、やはり「逃げないこと」が重要です。
逃げると、「やっぱり犯人だ」「痴漢だったに違いない」と思われてしまいます。

逃げ切れずに捕まってしまったとき「どうして逃げたのか」「実際にやっていないなら,逃げる必要がないではないか」と聞かれて、答えに窮してしまったら、もはや言い逃れができなくなってしまいます。

そこで、実際にやっていないなら、やっていたケース以上に逃げてはいけません
線路に飛び降りるのは論外ですが、そうでない方法でも、走り去ろうとするのは厳禁です。

(2) 録音すること

実際に痴漢をしていないなら、なるべく早いタイミングで録音を開始しましょう。
被害者の女性が、当初からどのようなことを主張していたのかを記録しておくことにより、後に相手の主張の不自然さや変遷を明らかにして、虚偽を暴くことができる可能性があります。

また、女性や目撃者の証言にあいまいな点があれば、逮捕されずに釈放される可能性も高くなります。

(3) 毅然とした態度をとること

実際に痴漢をしていないなら、毅然とした態度を取ることが重要です。やっていないなら、はっきり「やっていません」と言いましょう。

痴漢だと思われると、周囲の人は、ほとんどが被害者の味方になってしまいます。被疑者に対しては皆が厳しい態度を取るので、萎縮してしまって自分の主張ができなくなる方も多いです。

しかし、このようなときこそ、きちんと真実を主張する姿勢が重要となります。

(4) 罪を認めないこと

痴漢で冤罪を着せられそうなときには、間違っても罪を認めてはいけません。

被害者と称する女性や周囲の「目撃者」などに取り囲まれたとき、「すみません」などと謝ってしまう方もいますが、そうすると「やっぱりやっていたのだ」と思われてしまいます。
罪を認めたと誤解されるような言動は、絶対にとってはいけません。

また、同時に、余計なことを言わないことも大切です。

たとえば、被害者と証する女性に対し、容姿を中傷するようなことを言ったり、その他の暴言を吐いたりすると、その場が余計に混乱してしまうことがあります。
やっていないならやっていない、そのひと言だけを毅然とした態度で述べればそれで足ります。

(5) 素直に駅員室に行く

冤罪であるにもかかわらず痴漢の疑いをかけられたとき、駅員室に行くべきか否かついては、意見が分かれます。
ただ、当事務所としては、経験上、駅員室には素直に同行した方が良いと感じています。

実際に、駅員室に素直に同行した場合、警察を呼ばれても、「逮捕の必要性がない」と判断されて、そのまま釈放されることがあるからです。
妙に抵抗しようとしたり、駅員室に行くか行かないかでトラブルになったりすると、むしろ逮捕の可能性が高まってしまいます。

(6) 連絡先を渡すこと

痴漢を疑われて駅員室に連れて行かれないためには、被害者に「駅員室に行く必要がない」と思わせる必要があります。
そのためには、自分の連絡先を明らかにして何かあったらすぐに連絡できるようにしておくことです。

このとき、仕事用の名刺があると良いです。名刺には、本名が書いてありますし、勤務先や役職名、連絡先の電話番号、メールアドレスなどが書いてあるので、被害者にとっては安心感があります。

また、実際に連絡がつかなければ、勤務先に連絡することもできるわけですから、被疑者としては「逃げも隠れもしません」という姿勢を明らかにすることも可能となります。

(7) DNA鑑定を求めること

最近は、科学捜査の技術が進み、DNA鑑定などがあります。

そこで、実際に触っていないなら、両手を上に上げて「DNA鑑定をしてください」と求めることが効果的です。これにより、実際にやっていないという強い姿勢をアピールすることができますし、実際に検査をした結果、何も出なければ、痴漢をしていないことが明らかになって釈放されます。

参考:痴漢冤罪は何故起きる?本当にDNA鑑定は有効なのか弁護士が解説!

(8) 痴漢していないことを具体的に説明する

電車内での場所的な状況などから、物理的に痴漢行為をできる状況ではなかったことを説明することも重要です。

また、満員電車などであった場合、他の人間が痴漢をして、間違われた可能性が高いことを主張することも有効です。目撃者がいて「この人は痴漢していませんでした」と援護してくれることもあります。

参考:情況証拠は本当に弱い証拠なのか?情況証拠と直接証拠の違い

(9) その場で弁護士を呼ぶ

さらに重要なのが、その場で弁護士を呼ぶことです。
被害者が痴漢されたと思い込んでいる場合や、悪質な女性の場合には、被疑者がいくら「私はやっていない、逃げも隠れもしない」と言って名刺を渡しても、聞く耳を持たないことがあります。警察を呼ばれることもあるでしょう。

そんなときには、とにかく早めに弁護士を呼びましょう。弁護士が来て、被疑者の身元を保証して、「今後、連絡が必要なときには、弁護士が窓口となって本人と連絡をつけます」と言えば、たいていの方は納得します。

警察も、それであれば逃亡のおそれなしとして、逮捕しないことが多いです。
弁護士を呼ぶ方法としては、実際に痴漢をしていた場合と同様、知っている弁護士や当番弁護士に連絡すると良いです。

5.痴漢の疑いをかけられたとき、線路を走って逃げる行為について

以上を踏まえて、再度、「電車で痴漢を疑われたとき、線路を走って逃げる」という行為の是非について考えてみたいと思います。

上記のように、痴漢の疑いをかけられたとしても、きちんと対応したら逮捕されないことが多いです。もし逮捕されてしまったとしても、最終的には罰金で終わり、不起訴になる可能性もあります。

(1) 線路上を走って逃げてはいけない

このようなことからすると、痴漢の疑いをかけられたとしても、線路を走って逃げる必要などないことが明らかにわかります。逃げなければ、何も失わずに済むことが多いのです。ペナルティを受けるとしても、罰金刑くらいです。

これに対して、線路を走って逃げると、命すら失われてしまう可能性があります。

(2) 線路上に降りる行為は、法律上も禁止されている

また、線路に降りるという行為は大変に危険ですから、法律によっても禁止されています。

鉄道営業法」という法律では、線路内にみだりに立ち入ったものに対し、科料の罰則を科すと規定されています(鉄道営業法37条)。
このような法律があるのは、線路上に立ち入る行為が大きな危険を呼ぶからです。立ち入った人の命も危険ですが、急ブレーキなどをかけることにより、電車の乗客にも危険を及ぼす可能性があります。

そこで、痴漢を疑われたとしても、絶対に線路に降りてはいけません。
あせらず、冷静に対応することが大切です。困ったときには、迷わず弁護士を呼ぶことを忘れないで下さい。

6.まとめ

痴漢の疑いをかけられたら、本当にやっている場合であっても冤罪であっても、気が動転してしまうのは当然のことです。しかし、そこで必死に逃げようとして、線路に降りてしまうことは、絶対にしてはいけません。

きちんと対応すれば、不利益を小さくしたり、なくしたりすることができるのです。
痴漢の疑いをかけられたときにはもちろんのこと、実際に逮捕されてしまった後でも、困ったときには、刑事事件に強い弁護士を呼んで、しかるべき弁護を受けるべきです。

泉総合法律事務所は、積極的に刑事弁護に取り組んでいます。万一の際にはいつでもご相談下さい。

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