性犯罪 [公開日]2020年9月7日

ストーカーがGPSで追跡しても「見張り」ではない!?最高裁判断を解説

2020(令和2)年7月30日、最高裁判所は、ストーカー規制法に関する二つの判決を言い渡しました。
どちらも、ストーカーが被害者の車に無断でGPS機器をとりつけ、位置情報を取得していたという事件です。

まさに被害者の行動を監視するもので、悪質な犯行として処罰するべきと思われます。

ところが最高裁は、両事件について全く同じ理由で、法の禁ずる「見張り」行為ではないと判断したのです。

その理由は、どこにあるのでしょうか?
また、この判決は、今後、ストーカーの取り締まりに、どのような影響を与えるのでしょうか?

この記事では、2つの最高裁判決について、わかりやすく解説します。

1.2つのストーカー事件の内容

2つの事件の概要は次のとおりです。

事件①
被害者は元交際相手の女性Aさん。被告人Bは、Aさんの勤務先と行きつけの美容室の各駐車場で、車にGPS機器をとりつけました。そして、Bの自宅で携帯電話から位置情報を探索し、Aさんが車で立ち寄った場所の情報を取得していました。
最高裁令和2年7月30日判決(事件番号平成30年(あ)1529号)

事件②
被害者は別居中の妻(事件当時)Cさん。被告人Dは、Cさんの駐車場で、車にGPS機器をとりつけ、その駐車場の付近ではない場所で、車の位置情報を探索・取得しました。
最高裁令和2年7月30日判決(事件番号平成30(あ)1528号)

2.ストーカー規制法とは

「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(ストーカー規制法)は、ストーカー行為を禁止し、違反に対する刑罰を定める法律です。以下では「規制法」と呼びます。

ストーカー行為については、次の刑罰が規定されています。

第18条
ストーカー行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

では、その「ストーカー行為」とは何かというと、次の行為であるとしています。

第2条3項
この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等((中略)身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してすることをいう

では、「つきまとい等」とはどのような行為でしょう?さらに次の定めがあります。

第2条1項柱書
この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

第2条1項1号
つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。

4つの条文を読んで、ようやく、ストーカー行為として禁止される「見張り」行為の内容にたどり着けます。

ここで処罰されるストーカー行為としての「見張り」とは何かを、まとめておきましょう。

特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的であること第2条1項柱書
当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対する行為であること第2条1項柱書
身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合であること第2条3項
同一の者に対して、反復して行われること第2条3項
住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近において見張りをすること第2条1項1号

規制法が処罰する「見張り」行為とは、上の表の全ての要件を充たす行為ということになります。

ただし、本件の各最高裁段階で争いとなったのは、GPS機器による位置情報の探索・取得行為が、上の「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近において見張りをすること」にあたるか否かという点です。

3.問題の所在と罪刑法定主義

ここでの問題は、GPS機器による位置情報の探索・取得行為を規制法の定める「見張り」に該当すると理解することが「罪刑法定主義」に反しないか否かです。

国民の行動の自由を保障するには、いかなる行為が犯罪となり、どのような刑罰が科されるかを、あらかじめ法律で定めておく必要があります。

これを罪刑法定主義と呼び、憲法31条が「法律の定める手続」によらなくては刑罰を受けないと定め、憲法39条が「実行の時に適法であった行為」で刑事責任を問われないと定めているのは、この原則を明らかにしたものです。

憲法
第31条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第39条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。(以下略)

この原則から、刑罰法規は予め明確に規定されることが必要であると共に、その条文の解釈においても、条文の文言から離れない厳格な解釈が要請されます。

4.高裁までの議論

この点につき、最高裁に至るまでの議論を整理してみます。

2事件の高裁判決は、いずれも、GPS機器による位置情報の探索・取得行為は、「見張り」に該当しないと判断しています。

事件①福岡高裁平成30年9月21日判決(事件番号:平成30(う)第68号)

事件②福岡高裁平成30年9月20日判決(事件番号:平成30(う)第127号)

この「見張り否定派」の理由は、次のとおりです。

そもそも「見張り」とは、視覚などの感覚器官で対象の行動を観察する行為を指すのであり、しかも、規制法は、被害者が「通常所在する場所の付近」での見張り行為に限定して禁止している。

他方、GPS機器を車にとりつけた後、離れたところで、位置情報を探索・取得する行為は、「被害者の『通常所在する場所の付近』において、視覚等の感覚器官によって対象を観察する行為」とはいえない(事件①及び②の各高裁判決同旨)。

これに反対する「見張り肯定派」は、次のとおり主張します。

駐車場で車にGPS機器をとりつける行為(第1行為)と、その後に別の場所で位置情報を探索・取得する行為(第2行為)は、2つの行為ではあっても、被害者の情報を取得するための一連一体の行為であるから、全体として「通常所在する場所の付近」における「見張り」と評価できる(事件①第2審での検察官主張。事件②第1審判決も同旨)。

しかし、これに対しては、「見張り否定派」から、次のとおり反論があります。

第1行為(とりつけ行為)は、行動観察の「準備行為」にすぎず、たとえ駐車場という「通常所在する場所の付近」でおこなわれていても、これは「見張り」ではない(事件①高裁判決)。

他方、本来、当罰的な中心的行為は、位置情報の探索・取得行為という第2行為であるが、これは法の要求する場所の限定からはずれた場所で行われているので処罰はできない。

それなのに、駐車場における第1行為(上のとおり、これは「見張り」ではない)と一連一体だから処罰してかまないとするならば、「見張り」行為のうち、一定の場所におけるものだけを処罰対象とした法律の要件を無意味としてしまい許されない(事件①及び②高裁判決同旨)。

「見張り肯定派」は、とりつけ行為と情報の探索・取得行為を全体として一つの行為と評し、とりつけ行為だけでも場所的要件を充たせば足りるとして、「通常所在する場所の付近において見張り」をするとの条文を緩やかに解釈しています。

これは規制法が守る被害者の生命・身体・名誉、国民生活の安全・平穏という保護法益(同法第1条)を重視する解釈です。

逆に、「見張り肯定派」は、罪刑法定主義を重視して、条文を字義通り厳格に解釈しています。

5.最高裁での判断

最高裁の判断は次のとおり、罪刑法定主義を重視した結論です。

「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するためには、機器等を用いる場合であっても、被害者等の「住居等」の付近という一定の場所において同所における被害者等の動静を観察する行為が行われることを要する

ポイントは、

(Ⅰ)被害者等の「住居等」の付近という一定の場所での行為であること
(Ⅱ)観察対象も、その一定の場所における被害者等の動静であること

つまり「見張り行為」も、見張りの対象となる「被害者の動静」も、共に住居等の付近という一定の場所に限定されることを要求したのです。

そして、両事件とも、位置情報の探索・取得行為は駐車場とは別の場所で行われたから(Ⅰ)を充たさず、移動する車の位置情報は、駐車場の付近における被害者の動静ではないから(Ⅱ)も充たさないとして、「住居等の付近において見張り」をする行為には該当しないとしたのです。

(Ⅱ)の観察対象となる動静にも場所的限定をかけると明言している点は、一見、各高裁の判断とも異なっているように見えます。

しかし、各高裁も、「住居等」の付近での「視覚などの感覚器官による観察」であることを要求していましたから、結局、観察対象となる被害者の動静も、その場所付近のものに限られることになり、最高裁と各高裁の判断は同じと評価できるでしょう。

また、最高裁は、「機器等を用いる場合であっても」として、GPS機器の利用が「見張り」に該当する場合があるかのようにも読めます。

しかし、観察行為の場所も、観察対象の動静も、共に場所が限定される以上、およそ車に取り付けたGPS機器での位置情報探索・取得行為が法定の「見張り」行為に該当することはないでしょう。

今後、法改正がなされない限り、同様の行為が違法とされることもないと思われます。

6.各事件の顛末

余談ですが、各被告人は、今回の判決で無罪放免となったのではありません。

事件①の高裁判決は、車にGPS機器をとりつける際、付近に被害者がいないか確認するなど、別の「被害者の動静を観察する行為」が行われていれば、それが「見張り」に該当する余地があるから、その点を審理し直すよう第一審裁判所に差し戻しました。
今回の最高裁判決によって、今後、差戻審が開始されます。

事件②では、被告人は他の犯罪でも起訴されていたうえ、GPS機器の利用とは別の見張り行為を行っており、それが規制法違反とされ、高裁では懲役8月の実刑判決でした。今回の最高裁判決によって実刑が確定しました。

したがって、両事件とも、ただストーカー行為を不問に付したわけではありません。

7.今後の問題

さて、最高裁の結論は確定しましたが、ストーカーによるGPS機器利用を放置するべきではなく、法改正は急務です。

2000(平成12)年の規制法制定から20年を経て、誰でも手軽にGPS機器等を入手可能となった社会の変化を踏まえれば、電子機器等を使用して被害者の情報を取得する行為も禁止するべきです(事件②第1審判決同旨)。

他方、他人の行動情報を取得する行為一般を「見張り」と同様に禁止すると、SNSを毎日チェックして情報を集めること等までも処罰対象とされかねません(事件②高裁判決参照)。

したがって、GPS機器の利用行為を禁止するには、不当に処罰範囲が拡大しないよう厳格に要件を限定する工夫が必要でしょう。

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