性犯罪 [公開日]2020年3月18日[更新日]2023年8月1日

「合意の上」で性行為に及んだのに訴えられた!?改正刑法による不同意性交等罪の変更点・注意点

2023年7月13日に施行された改正刑法では、強制性交等罪と準強制性交等罪が「不同意性交等罪」に、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪が「不同意わいせつ罪」に統合された上で、処罰の範囲が大幅に拡大されました。

今後性行為をする際には、相手方の同意があることについて客観的な証拠を確保するなど、従来よりも慎重な対応が求められます。

[参考記事]

不同意性交等罪とは? 刑法改正による強制性交等罪からの変更点を解説

本記事では、改正刑法によって新設された不同意性交等罪および不同意わいせつ罪について、同意の有無を判断する際の考慮要素などを中心に解説します。

1.同意を得ずに性行為をした場合の「不同意性交等罪」「不同意わいせつ罪」とは

2023年7月13日に施行された改正刑法により、従来の強制性交等罪と準強制性交等罪が「不同意性交等罪」に、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪が「不同意わいせつ罪」にそれぞれ統合されました。

相手方の同意を得ずに性行為をすると、不同意性交等罪または不同意わいせつ罪によって刑罰を科される可能性があります。

(1) 不同意性交等罪

不同意性交等罪は、以下の行為または事由その他これらに類する行為または事由により、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせ、またはその状態にあることに乗じて性交等をした場合に成立します(刑法177条1項)。

<対象行為・事由>

  1. 暴行もしくは脅迫を用いること、またはそれらを受けたこと。
  2. 心身の障害を生じさせること、またはそのおそれがあること。
  3. アルコールもしくは薬物を摂取させること、またはそれらの影響があること。
  4. 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること、またはその状態にあること。
  5. 同意しない意思を形成し、表明し、または全うするいとまがないこと。
  6. 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、もしくは驚愕させること、またはその事態に直面して恐怖し、もしくは驚愕していること。
  7. 虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またそのおそれがあること。
  8. 経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮していること。

<性交等に当たる行為>

  • 性交
  • 肛門性交
  • 口腔性交
  • 膣または肛門に身体の一部(陰茎を除く)または物を挿入する行為であってわいせつなもの

また、行為がわいせつなものではないと誤信させ、もしくは行為をする者について人違いをさせ、またはそれらの誤信・人違いに乗じて性交等をした場合も、不同意性交等罪が成立します(刑法177条2項)。

さらに、16歳未満の者に対して性交等をした場合は、相手方の同意の有無にかかわらず不同意性交等罪が成立します(ただし、相手方が13歳以上16歳未満である場合は、相手方よりも5年以上年長の者が行為者である場合に限ります。刑法177条3項)。

不同意性交等罪の法定刑は「5年以上の有期懲役」です。

(2) 不同意わいせつ罪

不同意わいせつ罪は、不同意性交等罪と同様の行為・事由により、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせ、またはその状態にあることに乗じてわいせつな行為をした場合に成立します(刑法176条1項)。

「わいせつな行為」とは、性的な意味を有する行為、すなわち本人の性的羞恥心の対象となるような行為を意味します。

たとえば、以下の行為がわいせつな行為に当たります。なお、不同意性交等罪に当たる行為(=性交等)は、法条競合によって不同意わいせつ罪の対象から除外されます。

  • 無理やりキスをする
  • 乳房や陰部に触れる
  • 裸にして写真を撮影する
  • 自分以外の者と性交させる など

また、行為がわいせつなものではないと誤信させ、もしくは行為をする者について人違いをさせ、またはそれらの誤信・人違いに乗じてわいせつな行為をした場合も、不同意わいせつ罪が成立します(刑法176条2項)。

さらに、16歳未満の者に対してわいせつな行為をした場合は、相手方の同意の有無にかかわらず不同意わいせつ罪が成立します(ただし、相手方が13歳以上16歳未満である場合は、相手方よりも5年以上年長の者が行為者である場合に限ります。刑法176条3項)。

不同意わいせつ罪の法定刑は「6か月以上10年以下の懲役」です。

2.不同意性交等罪への改正による「合意」に関する変更点

2023年7月13日に施行された改正刑法では、強制性交等罪および準強制性交等罪を不同意性交等罪へ統合するに当たり、以下の変更が行われました。

(1) 性交等の手段として用いる行為・事由を拡大

従来の刑法では、強制性交等罪が成立するのは暴行または脅迫を用いて反抗を著しく困難にして性交等をした場合、準強制性交等罪が成立するのは心神喪失もしくは抗拒不能の状態に乗じて、またはその状態にさせて性交等をした場合に限られていました。

改正刑法によって新設された不同意性交等罪では、性交等の手段として用いる行為・事由を8つに類型化した上で、それらに類する行為・事由を用いた場合についても処罰の対象とされました。

さらに、行為がわいせつなものではないと誤信させ、もしくは行為をする者について人違いをさせ、またはそれらの誤信・人違いに乗じて性交等をした場合についても、処罰の対象とすることが明記されました。

上記のように不同意性交等罪では、性交等の手段として用いる行為・事由を具体的に類型化することで、従来の強制性交等罪・準強制性交等罪に比べて、処罰範囲が大幅に拡大されました。

(2) 性交同意年齢の引き上げ

従来の刑法では、13歳未満の者に対する性交等が、手段の如何および同意の有無を問わず、一律で強制性交等罪による処罰の対象とされていました。

これに対して、改正刑法によって新設された不同意性交等罪では、16歳未満の者に対する性交等が一律で強制性交等罪による処罰の対象とされました。すなわち、性交への同意が可能となる年齢(=性交同意年齢)が、13歳から16歳に引き上げられたことになります。

ただし、自主的な意思による自由な恋愛を阻害しないように、13歳以上16歳未満の者に対する性交等は、5年以上年長の者による行為に処罰の対象が限定されています。

 

他にも、刑法改正に合わせて施行された改正刑事訴訟法により、不同意性交等罪の公訴時効期間が10年から15年に延長されました。

強制わいせつ罪および準強制わいせつ罪の不同意わいせつ罪への統合についても、上記と同様の変更が行われています(不同意わいせつ罪の公訴時効期間は、7年から12年に延長)。

3.性行為への同意の有無を判断する際の考慮要素

不同意性交等罪および不同意わいせつ罪の成否は、被害者の同意があったか否かによって左右されます。

性行為に対する被害者の同意の有無は、性行為がなされた当時の状況に加えて、その前後における行為者と被害者のやり取りの内容や行動などを、総合的に考慮して判断されることになるでしょう。

たとえば、性行為の後に行われたメッセージのやり取りで、特に性行為を問題視することなく普段どおりの会話がなされていれば、性行為に対して同意があったことが窺えます。

これに対して、性行為の直後にやり取りされたメッセージにおいて、無理やり性行為をしたことを非難する会話がなされていれば、性行為に対する同意がなかったと判断される可能性が高いです。

不同意性交等罪または不同意わいせつ罪による処罰のリスクを極力なくすためには、性行為をする前の段階で、相手方から明確に同意を得るメッセージを送ってもらい、それを保存するなどの対応が考えられます。

4.不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の問題点

不同意性交等罪および不同意わいせつ罪は、相手方の同意を得ず性行為をした者を広く処罰し得る犯罪となりました。

しかし、処罰範囲が拡大されたことに伴い、冤罪のリスクも高まったと言わざるを得ません。
性行為の時点では同意していたにもかかわらず、その後に関係性が悪化したことが原因で、同意していなかったとして相手方が刑事告訴に及ぶようなケースが容易に想定されます。

不同意性交等罪および不同意わいせつ罪の新設に伴い、今後は性行為をするに当たり、相手方の同意を確認した上で証拠化する対応が求められます。

また、思いがけず不同意性交等罪または不同意わいせつ罪の疑いをかけられてしまったら、お早めに弁護士までご相談ください。

5.不同意性交等罪・不同意わいせつ罪で起訴された場合の対処法

不同意性交等罪または不同意わいせつ罪で検察官に起訴された場合は、以下のいずれかの対応によって重い刑事処分を回避するよう努めましょう。

  1. 相手方の同意があったこと・犯罪の故意がなかったことを主張する
  2. 示談・反省によって量刑の軽減を求める

(1) 相手方の同意があったこと・犯罪の故意がなかったことを主張する

性行為をしたことについて、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の成立を否定する場合は、主に以下の2つの反論が考えられます。

  • 相手方の同意があったため、不同意性交等罪または不同意わいせつ罪の構成要件に該当しない
  • 相手方の同意があると誤信していたため、不同意性交等罪または不同意わいせつ罪の故意がなかった

性行為について相手方の同意があったかどうか、および相手方の同意について誤信していたかどうかは、性行為の当時やその前後の客観的な状況によって判断されます。

弁護士と相談しながら、具体的な状況に応じてどのような反論を行うべきかについて検討しましょう。

(2) 示談・反省によって量刑の軽減を求める

不同意性交等罪または不同意わいせつ罪に当たることを否定できない場合は、罪を認めた上で情状酌量を求めましょう。

被害者との示談が成立すれば、被告人にとって量刑上有利に働きます。また、真摯な反省の態度を見せ、被害者に対して謝罪を尽くすことも、重い刑罰を回避する観点から非常に重要です。

弁護士にご相談いただければ、さまざまな手段を尽くして情状弁護を行い、被告人が重い刑罰を避けられるように尽力いたします。

6.まとめ

改正刑法による不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の新設に伴い、性犯罪の処罰範囲が大幅に拡大されました。

不同意性交等罪や不同意わいせつ罪による処罰を避けるため、今後は性行為をするに当たって、相手方の同意があることを慎重に確認した上で証拠化することが望ましいでしょう。

もし不同意性交等罪や不同意わいせつ罪で取り調べを受けたり、家族が逮捕されたりした場合は、泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
重い刑事処分を避けるため、あらゆる手段を尽くして弁護活動を行います。

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