性犯罪 [公開日]2018年8月17日[更新日]2021年6月4日

警察からストーカー警告された場合の正しい対応

近年、ストーカーによる犯罪が増加し、後を絶ちません。そのため、ストーカー規制法が平成12年に制定され、その後、改正が繰り返されています。
このストーカー規制法とは、どのような行為を規制する法律なのでしょうか?

また、ストーカー規制法違反で警告を受けた場合には、どのように対処すれば良いのでしょうか?

1.ストーカー行為の規制法

ストーカー規制法は、正式名称を「ストーカー行為等の規制に関する法律」と言います。

では、「ストーカー行為」とは、どのような行為を指すのでしょうか?

ストーカー規制法では、(1)同一の相手(男女問わず)に対して、(2)ストーカー規制法によって定められている「つきまとい等」の行為を、(3)反復することを「ストーカー行為」と定義しています(同法2条3項)。

そして、同法は、法定された「つきまとい等」の行為をして、相手に「4つの不安」を覚えさせてはならないとしています(3条)。

4つの不安とは、次の内容です。

①身体の安全が害される不安
②住居等の平穏が害される不安
③名誉が害される不安
④行動の自由が「著しく」害される不安

そこで、この法定された「つきまとい等」の行為とは、どのような内容なのかを見てみましょう。

「つきまとい等」の定義は、同法2条1項以下に詳細な規定があります。

(1) 「つきまとい等」の行為の相手(2条1項柱書)

まず、行為の相手方は、次の者に限定されます。

  • 特定の人
  • 特定の人の配偶者、直系若しくは同居の親族
  • 特定の人と社会生活において密接な関係を有する者(交際相手、友人、同僚等)

このため、例えば、誰彼かまわずつきまとう行為は対象外です。

(2) 「つきまとい等」行為の目的(2条1項柱書)

また行為の目的も、次の内容に限定されます。

  • 特定の者に対する「恋愛感情」その他の「好意の感情」を満たす目的
  • 上記の感情が満たされなかったことに対する「怨恨の感情」を充足する目的

このため、例えば、いじめられたことに対する仕返し目的でつきまとう行為は対象外です。

(3) 「つきまとい等」行為の態様

行為態様については、ストーカー規制法第2条第1項の1号〜8号に明記されています。

以下は、条文の引用です。

  • 1号(つきまとい、見張り、おしかけ、うろつきなど)
    つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。
  • 2号(監視していることを知らせる行為)
    その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
  • 3号(面会や交際などを要求すること)
    面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
  • 4号(乱暴な言動等)
    著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
  • 5号(無言電話、繰り返しの電話・FAX・メール送信等)
    電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。
  • 6号(汚物などの送付)
    汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
  • 7号(名誉を傷つけること)
    その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
  • 8号(わいせつな言葉を投げかけたり、わいせつな画像を送りつけたり、インターネット掲示板に掲載するなど)
    その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この号において同じ。)に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと。

なお、1号から4号までの行為と5号のうち電子メールの送信行為は、それだけで直ちに「ストーカー行為」となるものではなく、先にあげた4つの不安を覚えさせるような方法で行われた場合に限って「ストーカー行為」に該当するという限定が付されていることに注意してください(2条3項)。

[参考記事]

ストーカー規制法違反に当てはまる?どこからがストーカー行為か

2.警告とは

警察署長などは、①つきまとい等を受けた者からの申し出を受け、②つきまとい等の行為があり、③さらに反復してその行為を行うおそれがあると認められる場合には、行為者に対して、「さらに反復してその行為を行ってはならない」と警告することができます(4条1項)。

警告は、行為者に警告書を交付して行うものとされています。ただし、緊急を要する場合には、警告を口頭で行い、その後可能な限り速やかに警告書を交付することになっています(ストーカー行為等の規制等に関する法律施行規則第2条)。

警告書には、上記の1号から8号までの「つきまとい等」の行為を行ってはならない旨及び警告の理由が記載されています(同規則別記様式第2号)。

このような警告制度は、行為をしている者は自分の行いが「つきまとい等」に該当することを自覚していない場合も珍しくないことから、まずは「警告」で自覚を促し、自発的に問題行動を止めてくれることを期待したものです。

この警告を受けた後に、これに従わず、さらに「つきまとい等の行為」を反復した場合でも、「警告に違反したこと」それ自体に罰則があるわけではありません。また「つきまとい等」の行為それ自体にも罰則はありません。

しかし、前述したとおり、①同一の相手に、②「つきまとい等の行為」を、③「反復」すれば、それは「ストーカー行為」を構成します。「ストーカー行為をした者」には罰則がありますので、結局、警告に違反すれば、刑事事件になる可能性は高まります。

3.警告を無視してストーカー行為を続けたらどうなる?

(1) 禁止命令を受ける

警察庁によると、平成25(2013)年4月~6月にストーカー規制法上の「警告」を実施した407件のうち、約85%にあたる345件で、その後は問題行動が継続せず、警告の効果があったとされています(※警察庁「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書」6頁)。

それでも「つきまとい等」の行為を続ける者(規制法第3条違反の者)に対しては、都道府県公安委員会は、被害者の申出または職権によって禁止命令を発することができます(同第5条)。

①「つきまとい等の行為」をさらに反復して行ってはいけないという禁止命令だけではなく、②つきまとい等を防止するために必要な命令も行うことができます(同第5条1項)。

例えば、写真やビデオテープを送りつける行為(同第2条1項8号)が反復された場合に、当該、写真のネガやビデオのマスターテープの廃棄を命じることなどです。

この禁止命令は行政処分ですから、命令が出される前には、加害者を呼び出して言い分を聞く「聴聞」という手続きがあります(同第5条2項)。

ただし、相手方の身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害されることを防止するために緊急の必要があると認めるときは、聴聞又は弁明の機会の付与を行わないで発令が可能であり、発令から15日以内に意見聴取を実施すれば足ります(同第5条3項)。

禁止命令の要件は、①つきまとい等の行為がありそれによって被害者が4つの不安を覚えたこと、②その行為を行っている者がさらに反復してその行為を行うおそれがあると認められる場合となっています(同第5条1項柱書)。

禁止命令等の有効期間は1年ですが、被害者の申出により又は職権で、1年ごとに聴聞を経て禁止命令等の更新ができることになっています(同第5条8項乃至10項)。

(2) 刑事罰が科される

ストーカー行為は刑事事件になる可能性があります。ストーカー規制法は、ストーカー行為について、下記のとおり罰則を定めています。

第18条
ストーカー行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

また、禁止命令等に違反してストーカー行為を続けた場合には、下記のような罰則があります。

第19条
1 禁止命令等(第5条第1項第1号に係るものに限る。以下同じ。)に違反してストーカー行為をした者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する。
2 前項に規定するもののほか、禁止命令等に違反してつきまとい等をすることにより、ストーカー行為をした者も、同項と同様とする。

第20条
前条に規定するもののほか、禁止命令等に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

第19条2項は、禁止命令前の「つきまとい等の行為」それ自体は、未だ「ストーカー行為」に至っていなかったものの、禁止命令後に同命令に違反して「つきまとい等の行為」を行い、禁止命令前の行為と禁止命令後の行為とを通じて評価すると一連の行為が「ストーカー行為」に該当するというケースを対象として加重処罰しています。

以上と異なり、第20条は、ストーカー行為を処罰する規定ではありません。

たとえば禁止命令に違反して「つきまとい等行為」を行ったが、それが行為態様としては、社会通念上、相手に不安を覚えさせる方法ではなかったと評価される場合は、命令違反の行為ではあっても、それ自体は、「ストーカー行為」ではありません。
しかし、命令違反を放置するべきではありませんから罰則が設けられました。

なお、これらは、告訴がなくても公訴を提起する(刑事裁判を起こす)ことができる非親告罪になっています。

【警告を受けて「つきまとい等」をやめれば処罰されない?】
ストーカー規制法第18条は、「ストーカー行為をした者」を罰する規定であり、警告を無視したとか禁止命令を無視したという要件を必要としていませんから、警告や禁止命令を受けなくともストーカー行為を処罰できる条文になっています。禁止命令を無視した場合は刑が加重される仕組みです。
もっとも、現実には、警告や禁止命令を受けて素直にストーカー行為をやめた加害者が刑事告訴される可能性は少ないと思われます。被害者にとって、ストーカー行為がやんだ以上はもう一切関わりたくないというのが本音だからです。
したがって、警告や禁止命令には素直に従うことが最も大切です。万が一、警告や禁止命令までのストーカー行為に対する処罰を求めて刑事告訴されたとしても、警告や禁止命令に従って速やかに行為をやめたという事実は有利な情状として扱われるでしょう。

4.警告を受けたらするべきこと

(1) 「つきまとい等」をやめる

警告に対する不服申し立ては法律上定められていませんし、警察も警告を後に撤回することもないでしょう。そのため、警告を受けたらストーカー行為を速やかにやめるべきです。

警告を無視すれば、被害者は禁止命令の申し出を行うでしょう。

(2) 相手に直接連絡をしない

「相手に誤解されている」などと言って、さらに連絡を取ろうとするような行為は絶対にしてはいけません。それ自体が、「つきまとい等の行為」(2条1項3号、4号、5号)と評価されかねません。

警告が出されたことに納得いかない場合だけでなく、相手と連絡を取らなければいけない正当な理由がある場合(貸したお金を返してほしい、被害者の家に残している自分の荷物を引き取りたいなど)でも、相手と直接連絡を取ろうとせず、弁護士に相談・依頼し、代理人として交渉に当たってもらったり、物品返還請求訴訟や金銭支払請求訴訟など法的に正当な手段を検討するべきです。

また、相手が被害届を提出している場合、これを取り下げてもらうためには弁護士を代理人として示談交渉を行うことが効果的です。

5.ストーカー行為をやめられない場合の対応

前述のとおり、警察から警告を受けると、ほとんどのケースではストーカー行為をやめると言われています。自分がストーカー行為を行っているという自覚がなかった人でも、警告によってそれを認識するからです。

また、警告を受けたことに納得がいかない場合でも、刑事罰を受けるリスクがあるのですから、それ以上つきまとい等の行為を反復しないのが通常と言えるでしょう。

しかし、警察から警告を受けてもストーカー行為をやめられない場合もあります。

このような人は、「相手は自分のことを好きなはずだ」「相手は自分の所有物だ」「2人で話せばわかる(相手は周囲の人に騙されているだけだ)」といった妄想を抱いて自己正当化をし、自分を「ストーカー」だと認識できません。これを「認知の歪み」と呼びます。

このような場合、「刑事罰」というだけでは抑止力にならないことがあります。

ストーカーは、常に精神疾患と診断されるわけではありませんが、精神科医等による治療へ積極的に誘導するという取り組みも行われています。

報道によると、ストーカーに対して、警察が医療機関での治療を働きかけるケースが近年増加し、2019年は全国で824人と過去最多となったされています。再発の恐れがある加害者に対して、警察が受診をすすめ、同意を得て、精神科医やカウンセラーにつなぐ取り組みがなされているとのことです(※日本経済新聞(2020年11月4日)「ストーカー治療の要請最多・警察庁、19年は824人」より)。

ストーカー行為をどうしても止められないという方は専門的な治療(医師との個別精神療法、自助グループなどによる集団療法等)を検討するべきです。

6.まとめ

ストーカー行為を行っているとして警告を受けた人は、速やかに「つきまとい等」に当たる行為をやめましょう。
その上で、今後の流れに不安がある場合には、一度弁護士に相談するべきです。

泉総合法律事務所には、ストーカー行為を疑われて検挙されてしまったという方や、そのご家族からも多くご相談を受けております。

刑事事件は早めの対処が大切です。初回のご相談は無料となっておりますので、お近くの泉総合法律事務所の支店に是非一度ご相談ください。

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