性犯罪 [公開日]2021年12月24日[更新日]2023年4月25日

監護者わいせつ・監護者性行等罪の事例|不起訴のための対策は?

監護者わいせつ・監護者性交等罪は、平成29年(2017年)の刑法改正により新設された犯罪です。

この記事では、監護者わいせつ・監護者性交等罪が成立する要件、実際の事例等を解説します。

1.監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の要件

監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は、18歳未満の者の性的自由ないし性的意思決定の自由を保護するものです。

監護者わいせつ罪は、①18歳未満の者に対し、②その者を現に監護する者が、③監護者としての影響力に乗じて、④わいせつな行為をした場合に成立します。
監護者性交等罪は、①②③は上と同じで、④性交等をした場合に成立します。

第179条1項 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2項 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条の例による。

監護者わいせつ罪を犯した者は懲役6月以上10年以下の懲役、監護者性交等罪を犯した者は5年以上の有期懲役に処されます。これは強制わいせつ罪・強制性交等罪の罰則と同じです。
また、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は未遂も処罰されます(180条)

(1) 「現に監護する者」とは?

一般に精神的に未熟な18歳未満の者は、自己を監護する者に経済的・精神的に依存しており、その影響を受けやすい存在です。

このため監護者が、その影響力を利用して性的な行為に及んだ場合、被害者がこれを拒否しなくとも、その自由な意思決定に基づく同意と評価することはできず、被害者の性的自由を侵害する重大悪質な違法行為として処罰するべきです。

このような制定趣旨からは、現に監護する者とは、法律上の監護義務の存否によって決するのではなく、現実に影響力を及ぼしうる立場、すなわち被害者の生活全般にわたり、継続して、被害者から精神的・経済的に依存される立場にある者を指します。

したがって、血縁上の親子関係、法律上の親子関係が決め手となるものではなく、実親子、養親子以外の者であっても、子と実際に生活し、子の世話をしている者であれば監護者と言えます。
親であることとイコールではなく、被害者とその者との現実の関係を踏まえ個別に判断されるのです。

このように、血縁上の両親が子と同居していれば、通常は、その者は監護者に当たります。
他方で、血縁上の両親から離れ、別の者と生活していた場合、血縁上の両親ではなく実際に被害者を世話している者が監護者と判断されます。

実際の裁判例を見ると、連れ子と生活を共にしている養親がわいせつな行為等に及ぶ事案が多いです。

(2) 「わいせつな行為」「性交等」とは?

わいせつな行為とは性的羞恥心を害する行為をいいます。例えば、被害者の性器を触る行為はわいせつな行為に該当します。

性交等とは、性交、肛門性交又は口腔性交をいいます。

(3) 「影響力があることに乗じて」とは?

「影響力があることに乗じて」とは、被害者が精神的・経済的に監護者に依存しているため、その性的意思決定に影響を及ぼしうる地位にあることを前提に性的行為に及ぶことを意味します。

自己の影響力を利用するために、ことさらに誘惑をしたり、おどかしたりする行為をしていなくとも、本罪が成立すると理解されています(※西田典之・橋爪隆「刑法各論(第7版)」(弘文堂)106頁)。

【強制わいせつ罪・強制性交等罪との違い】
強制わいせつ罪・強制性交等罪は、被害者が13歳以上の場合に、暴行・脅迫を用いてわいせつな行為等をした場合に成立します。このため、被害者が13歳以上であるときは、実親や養親がその立場を利用して性的な行為を行っても、暴行・脅迫がない限り、刑法上の性犯罪として処罰することはできませんでした。
しかし、13歳以上であっても、一般的に未熟な18歳未満の者は監護者の影響を受けやすく、仮に同意があっても、それは自由な意思決定による同意とは評価できません。そこで、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪では、暴行、脅迫の存在は犯罪成立の要件とされていないのです。

【参考】強制性交等罪と準強制性交等罪の違い(強姦罪・準強姦罪)

2.最近の監護者わいせつ・監護者性交等罪の事例

  • 養女である14歳の被害者と同居して寝食の世話をしていた者が、被害者と性交をした事案(懲役7年。福岡高判令和3年10月19日LEX/DB25591204)
  • 実子である14歳の被害者と性交しようと考え、陰部をなめるなどした後性交しようとしたが未遂に終わった事案(懲役4年。前橋地判高崎支部令和2年12月18日LEX/DB25568627)。
  • 内縁の妻の子である2人の娘と性交をした事案。(懲役9年。長崎地判令和2年3月24日LEX/DB25565413)

3.監護者わいせつ罪等により逮捕されたら

(1) 逮捕された後の流れ

警察に逮捕された場合、取調べを受けその後検察官に身柄を送致されます。そこでも取調べを受けた後、検察官は被疑者の勾留を請求するか否かを判断します。
勾留された場合、被疑者は、勾留請求の日から10日間から最大20日間身体拘束されます。

身体拘束期間が満了するまでに、検察官は被疑者を起訴するか否かを判断します。起訴された場合、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪には罰金刑がないので、裁判となります。

裁判では、被告人が罪を犯したか否か、罪を犯したとしたらどのような刑罰を与えるかが判断されます。

有罪判決が出された場合、懲役刑が科されます
執行猶予が付く可能性はありますが、監護者わいせつ罪等を犯した場合、執行猶予がつかない場合も多いので、その場合は有罪判決が確定すれば収監されます。

[参考記事]

執行猶予とは?執行猶予付き判決後の生活|前科、仕事、旅行

(2) 弁護活動

監護者わいせつ罪等を犯してしまった場合には、弁護士によるサポートが必須です。

犯罪の被害者が未成年の場合は、親権者などの法定代理権を持つ者と示談交渉を行って、示談の合意をすることが通常です。
ところが監護者わいせつ罪等の場合、被疑者自身が実親・養親などの法定代理人であったり、法定代理人が被疑者の内縁の配偶者であったり、法定代理人もまた被疑者の共犯者であったりするケースがあり、示談そのものが困難だったり、無意味な場合が珍しくありません

例えば、妻の連れ子が被害者で、再婚相手の夫が被疑者(加害者)であるという場合、仮に婚姻を継続するならば、財布が一緒のままである夫が被疑者として妻に示談金を支払うことは無意味です。

また、子どもを性犯罪や性的搾取から守る必要性が重視されている現在では、監護者わいせつ罪等は非常に悪質性の高い犯罪と評価され、示談成立が被疑者に有利な事情として働く効果も限定的で、示談に成功しても起訴されるケースは珍しくないのが現実です。

したがって、不起訴処分や刑を軽くするためには、示談交渉に諦めずに注力することは当然としても、真摯に反省し、真剣に更生を希望していることを、如何に検察官、裁判官に理解してもらうかが鍵となります。

口先の反省ではなく、積極的に性犯罪再犯防止のカウンセリングを受ける姿勢を示したり(身柄拘束中に弁護士を通じて精神医療機関を選定し、カウンセリングの予約をとる)、養子となった連れ子が被害者であれば、弁護士を通じて配偶者と正式に離婚したうえ、養親子関係も離縁して解消する手続をとるといった具体的な改善行動を示したりすることが重要です。

4.監護者性交等罪で不起訴を目指すなら弁護士へ

身柄を拘束されたうえ短期間勝負となる刑事事件では、弁護士を依頼しなければ、上記のような具体的対応策を実行することは事実上不可能です。

また、もしも、わいせつ行為等を行っていないと争う場合には、冤罪である証拠を集め、検察側の証拠の弱点を探る必要があります。
監護者わいせつ罪や監護者性交等罪では、多くの場合、被害者供述の信用性が中心争点となりますから、供述相互の矛盾点や客観的事実との齟齬を探すことが重要です。これには高度な法廷戦略が要求され、時間をかけた対応が不可欠ですから、早期に弁護士に依頼するべきでしょう。

泉総合法律事務所では、監護者わいせつ罪、監護者性交等罪の弁護活動にも力を注いでいますので、お悩みの方は是非一度ご相談ください。

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