売春防止法とは?違反して逮捕されたらどうなるか
金銭などを支払うことを対価に性行為をすることは、「売春防止法」により禁止されています。
もっとも、売春防止法では売春行為自体に罰則はなく、売春の勧誘や周旋を処罰するという法律になっています。
この記事では、売春防止法について、禁止されている行為や罰則、逮捕後の流れについて解説します。
1.売春防止法とは
(1) 売春防止法はどんな法律?
売春防止法(以下「法」)はその名の通り、売春行為を禁止するものです。法1条は、売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみて同法を制定したとしています。
なお、売春とは「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」をいいます(法2条)。
ここに「性交」とは異性間における性器の挿入行為を意味します。したがって、口淫・手淫・肛門性交などの性交類似や、同性間の行為は売春ではありません。
対償は金銭に限らず、食事やプレゼントを提供することも対償に該当します。
また、未だ現実に対償を受けていなくとも、対償を受ける約束をして(つまり後払いで)性交をすれば売春になります。
(2) 売春防止法の内容
売春防止法は以下の行為を禁止しています。
①売春行為
まずは、売春行為そのものが禁止されています(法3条)。また、売春の相手方となることも禁止されています。
3条
何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない。
もっとも、同条に違反しても罰則はありません。罰則があるのは、以下で説明する売春の勧誘・周旋等などの売春を助長する行為等です。
売春は、多くの場合、社会経済的弱者である女性が生活のためにやむなく従事してきた歴史があります。そこで売春防止法では、売春を行う女性を処罰するよりも、これを保護・補導し、更正させるべき対象としています。
このため売春自体は処罰しないものの、売春を助長する行為等は処罰すること、売春をする女子は保護し、更生させることで、売春行為を防止しようとしているのです(法1条)。
②売春の勧誘等
売春をする目的で以下の行為をすることは禁止されています(法5条)
- 公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること
- 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと
- 公衆の目にふれるような方法で客待ちをし、又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること
要するに、街中で売春を持ちかける様々な行為が禁止されています。
同条に違反して上記行為を行った場合、6月以下の懲役又は1万円以下の罰金刑に処されます。
【裁判例】
路上で通行人男性に「こんばんわ、どうですか、本番よ、金は二万円で、ホテル代は別です」などと話しかけた被告人が法5条違反で罰金2万円となった事案(最高裁平成11年9月27日判決)
③売春の周旋等
周旋とは、「売春をしようとするもの」と「買春をしようとするもの」の間を取り持つ行為をすることを指します。
そして、売春の周旋は法で禁止されています(法6条1項)。
また、売春の周旋をする目的で以下の行為をすることも禁止されています(法6条2項)。
- 人を売春の相手方となるように勧誘すること
- 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと
- 広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること
法6条に違反した場合、2年以下の懲役刑又は5万円以下の罰金刑に処されます。
【裁判例】
売春広告のビラ2枚を公衆電話ボックス内に貼り付けた行為が法6条に違反するとして、懲役5月執行猶予3年(保護観察付)となった事案(最高裁平成元年7月7日判決)
④困惑等による売春
人を欺き若しくは人を困惑させて、又は親族関係による影響を利用して売春をさせる行為は禁止されています(法7条1項)。
同条に違反した場合、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金刑に処されます。
また、暴行・脅迫を加えて人に売春をさせた場合、3年以下の懲役又は3年以下の懲役刑と10万円以下の罰金刑が併科されます(法7条2項)
さらに、法7条1項、2項の罪を犯した者が、売春の対償を収受・要求・約束した場合、5年以下懲役と20万円以下の罰金刑が併科されます(法8条1項)。
⑤その他
上で述べた行為以外にも、例えば以下の行為が売春防止法で禁止されています。
- 売春をさせる目的で財産上の利益を供与する行為(法9条)・・・3年以下の懲役または10万円以下の罰金
- 売春させることを内容とする契約をする行為(法10条1項)・・・3年以下の懲役又は10万円以下の罰金
- 情を知って売春を行う場所を提供する行為(法11条1項)・・・3年以下の懲役又は10万円以下の罰金
- 自己の占有・管理・指定する場所に居住させて売春をさせることを業とした者(法12条)・・・10年以下の懲役及び30万円以下の罰金
【裁判例】
ヘルス店舗での売春業を営む被告人が、ヘルス嬢を雇い入れるにあたり、女性との間で、不特定の客を相手に金銭を受けて性交させ、その金銭を女性と分配する契約を結び、同店舗に待機するヘルス嬢をホテルに派遣して売春を行わせたなどの行為により、法10条、12条違反として、懲役3年4か月罰金50万円に処せられた事案(神戸地方裁判所平成16年12月22日判決)
売春に関与した場合に成立するのは、売春防止法に定める犯罪だけではありません。
まず、売春をしたのが18歳未満であった場合、その相手方が児童買春罪(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律)や児童福祉法違反となる可能性があります。さらに、未成年と性行為の最中に、相手方の裸体を撮影するなどしたら児童ポルノ製造罪が成立する可能性があります。
加えて、各都道府県が定める青少年保護育成条例違反となる可能性があります。
参考:児童ポルノ禁止法とは?児童ポルノと児童買春の規制
参考:青少年保護育成条例違反とは?逮捕後、不起訴のためにできること
2.逮捕後の流れ
(1) 逮捕・勾留
売春防止法違反が発覚すると、捜査機関に逮捕されることがあります。
逮捕は、被疑者に逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れがある場合に行われますが、いわゆる売春婦や売春業者は、口止め、口裏合わせ、帳簿破棄などの証拠隠滅行為や関係者からの資金提供による逃亡実行の危険性が非常に高いと評価されるので、ほとんどの場合、身柄を拘束されます。
逮捕された場合、身体拘束された上で警察署等に連行され留置場で取調べを受けることになります。警察官は取調べの後、逮捕から48時間以内に被疑者の身柄と捜査資料を検察官に送致します。
そして、検察官も被疑者の取調べを行います。その後、検察官は①身柄を受け取ってから24時間以内、かつ②逮捕から72時間以内に、被疑者の勾留請求をするか否か決定します。勾留請求は裁判官に行います。
勾留請求をして裁判官がこれを認めると、被疑者は逮捕に続き10日間勾留されることになります。
また、勾留は更に10日延長されることがあるので、最大で20日間勾留される可能性があります。
(2) 起訴・不起訴の決定と裁判
勾留期間が満了するまでに、検察官は被疑者を起訴処分にするか不起訴処分にするか決定します。
起訴処分の中でも正式裁判となった場合、被疑者は「被告人」となり、刑事裁判にかけられます(公判を開かず、書面審理だけで100万円以下の罰金または科料の刑罰を被告人に課す裁判の手続(略式手続)もあります)。
正式裁判となった場合、引き続き勾留されることになりますが、起訴後は保釈請求(保釈金を支払うことで身体拘束から解放される制度)が可能です。
[参考記事]
保釈に強い弁護士|弁護士に依頼する場合と依頼しない場合の違い
裁判において裁判所が有罪判決を出した場合、被告人は懲役刑や罰金刑等が科せられます。
実刑判決が出た場合、被告人に対して刑罰が執行されることになります。
他方で、執行猶予付きの判決が出された場合には、自主的な更生が期待され、いったんは刑の執行が保留(猶予)されます。
[参考記事]
執行猶予とは?執行猶予付き判決後の生活|前科、仕事、旅行
3.売春防止法違反で逮捕されてしまった場合の対処法
先述した逮捕・勾留がされた場合、釈放されるまで留置場の外に出ることができないので、日常生活に多大な影響を及ぼします。
さらに、起訴され有罪判決となった場合には前科が付きます(略式起訴の罰金刑を含む)。実刑判決の場合は刑罰が科されてしまうので、正業と兼職している方の場合、仕事を解雇されるなどの影響も考えられるでしょう。
したがって、検察官による起訴を阻止し、不起訴処分を勝ちとることが非常に大切です。
不起訴処分のためには、何が必要でしょうか?
窃盗・傷害・痴漢・盗撮など被害者のいる犯罪の場合は、何よりも示談を成立させることが重要です。
しかし、売春防止法違反は善良な社会風俗を害する風俗犯罪ですから、具体的な被害者は存在せず、被害者との示談ということは考えられません。
では売春防止法違反の場合、不起訴処分を得るには何が大切なのでしょうか?
売春事犯は、ほとんどの場合、売春の収入で生活をしている者ですから、今後の収入を得る別の途がなければ、再び売春にかかわってしまうことは火を見るよりも明らかです。
したがって、再犯の危険の有無、更生可能性の有無は、性風俗産業から完全に足を洗い、正業に就くことができるか否か、その意欲や可能性が強いことを示せるか否かにかかってきます。
このため、不起訴処分などの有利な刑事処分を得るには、早期に就職先を確保することが大きなポイントとなります。もちろん、家族や友人が本人の正業への就職を支援して協力してくれることも重要ですが、まずは事情を理解して本人を受け入れてくれる雇用主を見つけなくてはなりません。
売春防止法違反で身柄を拘束された場合、早期に弁護士を選任できれば、家族の面会が許されない逮捕の段階から被疑者と面会し、家族や雇用主候補との連絡を行って就職先を確保できる可能性が高くなります。
なお、同じく売春事案でも、18歳未満の児童・青少年の相手となった場合には、これらの者が被害者として位置づけられますから、不起訴処分を得るために、児童・青少年またはこれらの保護者との示談交渉を弁護士に依頼するべきです。
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