メール・LINEのやり取りはストーカー事件の証拠になる?
刑事裁判では、どのようなものが証拠として扱われるのでしょうか。
特に、ストーカー事件において、メール・LINEなどのやりとりが証拠として判定されるのか、疑問に感じている方もいらっしゃると思います。
以下においては、刑事裁判における証拠についての説明をした上、特に争われるストーカー規制法違反事件の証拠に焦点を絞り解説します。
なお、以下では、刑事訴訟法を「法」と略記します。
1.刑事裁判における証拠
(1) 証拠とは?
証拠とは「裁判上、犯罪事実その他一定の事実を認定するための根拠となる資料」のことをいいます。
犯罪事実の認定は、当然ながら過去に発生した事実の認定です。
直接見聞きした人達(例えば、目撃者、被害者、被告人等)の報告(供述)や、犯罪が残した様々な痕跡を手掛かりにするなどして合理的な推論を重ね、犯罪事実を認定することになります。
このような報告(供述)や痕跡のように、合理的推論の根拠となる資料、すなわち証明の手段となるのが「証拠」ということになります。
(2) 証拠の種類(書証・物証・人証)
証拠は、様々な観点から分類することができます。
書証とは、実況見分調書・鑑定書や被告人の供述調書のように、書面の記載内容が証拠となるものです。
物証とは、犯行に用いられた凶器や窃盗の被害品のように、その物の存在及び状態が証拠となるものです。
人証とは、証人・鑑定人や被告人のように、口頭で証拠を提供する証拠方法です。
書証:書面の記載内容が証拠となるもの
物証:その物の存在及び状態が証拠となるもの
人証:口頭で証拠を提供する証拠方法
(3) 証拠とするための条件
刑事裁判では、被告人が起訴状に書かれた罪を犯したことを確実な証拠で証明する責任(立証責任)を、検察官が負っています。
検察官は、まず冒頭陳述を行い、証拠によって証明しようとする事実を明らかにした上で、証拠の取調べを請求します。
この場合、例えば、目撃者の供述を聴き取った調書などの書証は、被告人の代理人である弁護人が同意しない限り、原則として刑事裁判の証拠にはできません。目撃者に法廷で証言してもらわなければならないのです。
つまり、法廷における供述の代わりに提出される書面や法廷外での他人の供述は、伝聞証拠として証拠とすることができないわけです。
これは、弁護人(被告人も)が目撃者などに対し直接尋問したいときは、その機会を与えるのが相当だからです。
また、物証については、弁護人に異議がないか、関連性が立証されない限り、証拠とすることはできません。
2.ストーカー規制法違反事件の証拠
(1) メールやLINEのメッセージを表示した画面を撮影した写真撮影報告書
捜査官がメールやLINEのメッセージを読み取り、メールやLINEの画面を写真撮影してそれを添付した報告書を作成した場合、その作業自体、検証の性質を有します。
よって、法321条3項により、作成者が「作成の真正」を証言すれば、メールやLINEの内容が証拠となります。
そして、その場合の立証趣旨は、例えば「当該携帯電話にその文面のメールないしLINEメッセージが残っていること」(非供述証拠)となるでしょう。
しかし、メールやLINEのメッセージの内容の真実性を問題とする場合には、当然、メール作成者の供述書に該当し、伝聞法則の適用を受けます。
したがって、伝聞法則に従って、証拠能力が判断されることになります。
(2) 被告人の携帯電話のメール内容解析結果回答書
捜査官が被告人の携帯電話を差し押さえたところ、過去のメールが既に消去されていることがあります。
その場合には、捜査官が、法223条に基づき、電話会社に対し、過去のメールの復元・解析を嘱託することになります。
被告人が被害者に送ったメールの復元は、電話会社の専門的科学的技術を用いた作業となりますので、その性質は鑑定であり、その復元結果の回答書は法321条4項が準用される鑑定書となります。
また、もし携帯電話自体にメールが消去されずに残っている場合には、捜査官が携帯電話の通常の操作でそのメールを読み出し、それを反訳して「メール内容反訳報告書」などの捜査報告書を作成すれば、それは法321条3項の検証の結果を記載した書面となります。
したがって、上記各書面は、同意が得られなければ、作成者が「作成の真正」を証言したとき、証拠となります。
(3) 被告人質問において被告人に示され、公判調書中の被告人供述調書に添付された電子メール
判例は、
公判調書中の被告人供述調書に添付されたのみで証拠として取り調べられていない電子メールが、独立の証拠又は被告人の供述の一部となるものではないとした上、電子メールは、被告人の供述に引用された限度においてその内容が供述の一部となるにとどまる(最決平25.2.26刑集67・2・143)
としています。
その趣旨は、当該事件においても、被告人は、電子メールを示されてその内容について一定の供述をしており、この供述に表れた限りにおいて、その電子メールの内容が被告人の供述の一部になることは当然ですが、成立、同一性その他これに準ずる事項についての確認や記憶喚起のために被告人に示されたからといって、電子メール自体が被告人の供述と一体となるものではないとしたのです。
(4) 録音・録画
最近では、録音・録画技術の進歩、それに伴う録音・録画の社会一般への普及、複製の容易化などにより、犯行状況や犯行前後の状況が録音・録画された防犯ビデオなどの音声・映像のデータを複写したDVDや、電話での会話が録音された音声データを複写したCDなど、その音声や映像が記録されていることが犯罪を構成する場合には、伝聞法則の適用がなく、事件との関連性が立証されれば、非供述証拠として取り調べられることになります。
3.まとめ
刑事裁判になる前に、早めに被害者と示談することで不起訴となることも可能です。
刑事事件はお早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。