少年事件 [公開日]2021年7月1日[更新日]2024年3月7日

少年法改正で厳罰化|特定少年事件の示談交渉

令和2年に少年法が改正されました。その結果、少年のうち18歳以上の者は特定少年とされ、その者が犯罪を犯した場合には、以前より厳しい処分が科される可能性が高くなりました。

そのため、特定少年事件では以前にも増して被害者との示談交渉が非常に重要なものとなっていくことが予想されます。

ここでは、特定少年、特定少年と少年の違い、特定少年事件における示談交渉の重要性について解説します。

1.少年法とは

少年法(以下、「法」)は、少年の健全な育成を期待し、非行を行った少年を矯正する事を目的として、通常の刑事事件とは違った手続きについて定めた法律です(法1条)。

少年とは、20歳未満の者を言います。

2.特定少年とは

(1) 特定少年の意義

特定少年とは、18歳以上の少年のことをいいます(改正法62条1項)。

先述のように、少年とは20歳未満の者のことを言いますから、特定少年とは18歳、19歳の者を指すことになります。

特定少年という概念は令和2年の少年法改正により新設されました。

(2) 特定少年の特例について

先述のように、少年が犯罪を犯した場合には少年法が適用される結果、成人が犯罪を犯した場合とは異なる手続きがとられます。

もっとも、今回の改正により、特定少年が犯罪を犯した場合には、18歳未満の者が犯罪を犯した場合とはまた異なったルールが適用されることになりました。

以下では簡潔に説明しますが、より詳しい少年と特定少年の違いについては、以下のコラムをご覧ください。

[参考記事]

少年法改正で何が変わる?|2022年から18歳で成年に

①逆送規定の適用が拡大

少年が事件を犯したとき、一定の要件に該当する場合には、家庭裁判所が事件を検察官に送致します(法20条)。これを逆送といいます。

現行法では、以下の場合に逆送が行われます。

(ⅰ) 死刑、懲役または禁錮にあたる罪について、刑事処分を相当と認める場合
(ⅱ) 犯罪時16歳以上の者が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合

改正後には特定少年が事件を犯した場合には、(ⅰ)の法定刑の要件が適用されず、いかなる犯罪であれ、刑事処分を相当と認める場合には逆送をしなければなりません(改正法62条1項。例えば、法定刑が罰金刑のみの侮辱罪を犯した場合でも逆送が行われうる)。

②手続きにおける特例の除外

少年法が適用される結果、少年の勾留はやむを得ない場合に限られ(法43条3項、48条1項)、勾留する場合には成人と分離する必要があります(法49条1項)。

また、刑期も不定期刑(3年以上5年以下といったように幅を設ける)とする必要があります(法52条)。

その他にも、様々な面で成人が犯罪を犯した場合とは異なった手続がとられます。

しかし、今般の改正で特定少年にはこれら多くの特例の適用が排除されることになりました(改正法67条)。

③実名報道の解禁

少年が事件を犯した場合には、実名報道が禁止されています(法61条)。

しかし、特定少年が事件を犯した場合には、起訴されて刑事裁判となった場合に限り(略式起訴を除く)、法律上実名報道が可能となります(改正法68条)。

④保護処分の内容の限定

少年が少年審判で受ける保護処分は、保護観察、少年院送致、児童自立支援施設等送致の3種類です。

改正により、特定少年に対する保護処分は、以下に限定されることとなりました(改正法64条)。

  • 6か月の保護観察処分
  • 2年間の保護観察処分
  • 3年以下の期間を定めた少年院送致

3.特定少年事件における示談交渉の重要性

このように、特定少年が事件を犯した場合には、少年が事件を犯した場合とは異なる規定が適用されます。

特定少年について逆送が行われる可能性が増えるということは、特定少年が事件を犯した場合には、成年が犯罪を犯した場合と同じように刑事手続きが進み有罪判決が出される(刑罰が科される)可能性が高まることを意味します。

そこで、このような事態を回避するために、被害者との示談が重要となります。

少年事件においても、被害者との示談を成立させておくことは、被害の重大性を認識させたり、何かをした場合に責任を取るということを自覚させることを通し、重い保護処分を避けるために大切なポイントです。

まして、特定少年において、成人と同様の刑罰を科される可能性が高くなるなら、より一層、その重要性は高まったと言って過言ではありません。

 

示談とは、事件について当事者間で解決したとする合意のことをいいます。示談に際しては加害者が被害者に一定の金銭を支払い、被害者は犯罪を許し、以降責任を追及しないとの合意をするのが一般的です。

成人が事件を犯した場合、示談が成立すれば、検察官が起訴の判断を控えたり、仮に起訴され裁判となっても執行猶予付き判決となったりするなど軽い量刑となることが期待できます。

特定少年の事件でも、まず家庭裁判所裁判官が逆送を決定する際には、「調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき」であることが要件となっています(改正法62条1項)。

さらに、特定少年の殺人など一定の重い犯罪の場合でも、「ただし、調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない」として、逆送しないこともできると定めています(改正法62条2項)。

つまり、いずれの場合も裁判官が逆送するか否かの判断にあたっては、「情状」「犯行後の情況」が斟酌されるのであり、言うまでもなく示談の成否も考慮されるのです。

 

また、逆送を受けた検察官も、常に起訴しなくてはならないわけではなく「犯罪の情状等に影響を及ぼすべき新たな事情を発見したため、訴追を相当でないと思料するとき」、「送致後の情況により訴追を相当でないと思料するとき」には、不起訴とすることが認められています(法45条5項)。

典型的には、裁判官が逆送致を決定した時点では、示談が成立していなかったものの、送致後、示談交渉が実を結んで、示談が成立したという場合が考えられます。

以上のことから、特定少年が事件を犯した場合であっても、被害者との示談が成立すると、家庭裁判所が逆送ではなく少年審判に付するのが妥当と判断したり、逆送されても不起訴となったりする可能性があるのです。

また、仮に逆送後、起訴されて刑事裁判となっても、裁判官の量刑判断において特定少年に有利なものとなったりする可能性が高まります。

4.まとめ

特定少年とは言え、未だ18~19歳です。未熟な少年を厳しい捜査対象としたり、起訴して刑罰を科したりすることは、適切とは必ずしも言いきれません。

刑事手続きは少年の心身に多大な影響を及ぼします。もしお子様が刑事事件を犯してしまった場合、すぐに弁護士に相談するべきです。

泉総合法律事務所は刑事弁護経験が豊富な弁護士が集まっています。刑事事件を犯してしまったら、お気軽にご相談ください。

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