少年事件 [公開日]2021年4月30日

少年鑑別所とは|生活、入る理由、期間などを解説

少年鑑別所」という言葉は知られていても、どんな施設なのか、正しい知識を持っている方はほとんどいません。

この記事では、少年鑑別所はどんな施設なのか、その役割、入所期間、入所生活などにつき説明します。

1.少年鑑別所とは?

(1) 少年審判手続における「調査」の構造

少年鑑別所とはどのような所かを理解するには、まず少年審判手続における「調査」の基本的な構造を理解していただく必要があります。

少年の犯した非行行為には「少年法」が適用されます。少年法の目的は処罰ではなく、少年の健全な育成に必要な「保護」を与えることにあります(少年法1条)。

この「保護」とは、最終的には、家庭裁判所の審判で決まる、(1)保護観察、(2)児童自立支援施設・児童養護施設送致、(3)少年院送致という3つの「保護処分」を指します(少年法24条1項)。

家庭裁判所が、少年の保護処分の内容を決めるには、これに先立って、①「非行事実の調査」と、②「要保護性の調査」が行われる必要があります(少年法第8条)。

①「非行事実の調査」とは、本当にこの少年が非行事実を行ったのか否か、行ったとしたらどのような非行内容なのかを調べることです。
②「要保護性の調査」とは、少年が非行事実を克服して成長・発展を遂げるには、どのような援助(保護)を与えたら良いのかを調べることです。

この少年をめぐる様々な調査は、心理学等の人間行動諸科学の専門家である家庭裁判所調査官によって行われる科学的判断であって、「社会調査」とも呼ばれます(少年法第8条2項)。

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(2) 少年鑑別所の意義

少年事件の中には、審判までのこれらの調査手続の間、身柄を保全し、少年を監督し、適切な生活を送ることができるよう配慮してやる必要があるケースがあります。

そのために裁判所の決定で行われるのが、「観護措置」です。この観護措置には、①在宅観護、②収容観護の2種類があります(少年法第17条)。

※「監」護ではなく、「観」護であることに注意してください。「観護」には、少年を観察しつつ護るという意味があります。

①在宅観護は、文字どおり少年を施設に入れることはなく、家庭裁判所調査官が少年を観護するもので、「調査官観護」と呼びます。しかし、実効性に難があるので、実務ではほとんど実施されていません(少年法第17条1項1号)。

②収容観護は、少年を「少年鑑別所」に収容して観護するものです(少年法第17条1項2号)。在宅観護はほぼ利用されていないため、実務で「観護措置」と言えばこの収容観護を指します。

このように「少年鑑別所」は、少年を「観護」する場所、つまり少年を観察しつつも、その身柄を保全し、監督し、適切な生活を送ることができるよう配慮してやる場所なのです。

この「観護」の役割は、法律では「観護の措置が執られて少年鑑別所に収容される者(中略)を収容し、これらの者に対し必要な観護処遇を行うこと」と定められています(少年鑑別所法第3条2項)。

2019(令和元)年の統計では、同年の(交通事件等を除いた)一般保護事件の総人員1万9589人のうち、23.6%にあたる4626人が観護措置を受けています(※2019(令和元)年司法統計「第25表:一般保護事件の終局総人員・観護措置の有無及び終局決定別非行別・全家庭裁判所」から)。

(3) 少年鑑別所に入るケースと年齢

観護措置決定は、少年審判に必要な場合に行われる手続ですから、少年鑑別所に入るのは、少年審判の保護手続の対象となる少年です。
これを「非行のある少年」(少年法第1条)と呼び、「犯罪少年」「触法少年」「ぐ犯少年」の3種類があります。

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また、年齢に関しては、観護措置決定に際し審判対象となる年齢であり、また、保護処分が十分な教育的効果をもたらすには、その処分に適応する能力が少年に必要です(実質的にも事理弁識能力(物事の是非を判断する力)を欠くときは、少年審判手続に乗せるべきではありません)。

よって、年齢の上限は観護措置決定時に20歳未満である必要があります。また、触法少年につき、手続対象となるのは、実務上は10歳前後が下限とされています(※澤登俊雄「少年法入門・第6版」(有斐閣)91頁、田宮裕・廣瀬健二他編「注釈少年法・第4版」(有斐閣)77頁)

(4) 少年鑑別所に入る期間

観護措置の期間は、原則2週間ですが、特に継続の必要があるときは、裁判所の決定で更新することができます(少年法第17条3項)。
この更新は原則1回だけしか認められないので、更新される場合、少年鑑別所にいる期間は4週間となります(少年法第17条4項本文)。

実務では、ほとんどの場合、2週間だけで鑑別が終わることはないので、更新されて4週間収容されているのが実情です。

また、犯罪少年が死刑・懲役・禁錮刑にあたる罪を犯した事件では、①非行事実の認定に証人尋問、鑑定、検証が行われる場合や、②少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがある場合には、さらに2回の更新が認められ、合計8週間の収容となります(少年法第17条4項但書)。これを「特別更新」と呼びます。

【鑑別所に入ると前科は残るの?】
刑事裁判で有罪判決が確定した履歴が前科ですから、少年鑑別所に収容されても前科とはなりません。
ただし、少年事件でも補導されたり、捜査対象となったりした場合には、その事実が「前歴」として捜査機関に記録されます。少年鑑別所に収容されたか否かは無関係です。
再度、犯罪や非行を行えば、過去の前歴データは捜査機関や裁判所に明らかになりますから、不利な事実として評価される場合がありますが、一般の方が見ることができるデータではありませんから、前歴が入学や就職に不利に働くことはありません。

2.少年鑑別所の主な役割「鑑別」とは?

少年鑑別所の役割は、観護だけではありません。法律では「鑑別対象者の鑑別を行うこと」(少年鑑別所法第3条1項)も役割とされており、むしろこちらがメインです。

「鑑別」とは、「調べて見分けること」を意味する言葉です。
その少年にとって何が最善の保護処分となるかを調べて見分けるのです。

少年法は、家庭裁判所の調査は、「少年・保護者・関係人」の「行状・経歴・素質・環境」等について、「医学・心理学・教育学・社会学その他の専門的知識」、「特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行うように努めなければならない」と定めています(少年法第9条)。

つまり少年鑑別所による鑑別結果は、家庭裁判所調査官の社会調査と同様に、家庭裁判所が保護処分を決めるための重要な資料となるのです。

(1) 「鑑別」の方法

少年鑑別所における具体的な鑑別は、①法務技官による心身鑑別と、②法務教官による行動観察を中心としています。

法務技官は、心理学の知識・技能を有する専門職員で、面接・心理試験を通じて鑑別の資料を集めます。

法務教官も、心理学・教育学などの知識を有する専門職員です。法務教官による行動観察には、(a)通常の行動観察(b)意図的行動観察があります。

(a)通常の行動観察とは、少年鑑別所への入所時、居室内での生活時、運動時、面会時など、少年鑑別所での各生活場面における少年の行動傾向等を観察することです。
(b)意図的行動観察とは、課題作文・はり絵・絵画・集団討議などを行わせて、その際の行動傾向等を観察することです。

また少年鑑別所では、家庭裁判所など外部から提供される資料、保護者ら関係者との面接、少年の学校や職場への照会などによって、必要な情報を自ら調査収集します(少年鑑別所法第16条2項、3項)。

これらの情報と、上記の心身鑑別・行動観察の結果、精神医学を含む医学的な検査・診察結果などを総合して検討し、どのような保護処分が適切かの鑑別「判定」を行います。

もちろん、これらの調査・観察と並行して、少年が自己の問題・課題に自ら気づき、成長を遂げられるよう、教育的な働きかけが行われることは、前述した少年審判手続における裁判所の福祉的な機能と同様です。

(2) 鑑別の「判定」とは?

鑑別の判定は、次の種類に分かれます。参考に、2019(令和元)年に鑑別判定を受けた総人数に対する各判定の割合もあげておきます。

判定 内容 割合(※)
保護不要 保護措置を必要としない者 0.05%
在宅保護 在宅のまま補導で足りる者 35.03%
収容保護
(少年院)
60.30%
収容保護
(児童自立支援施設・指導養護施設)
3.10%
保護不適 刑事処分を相当とする者または精神衛生法による措置入院などを必要とする精神障害者で、保護処分が不適当な者 1.00%

※令和2年犯罪白書「3-2-3-6表・収容審判鑑別の判定と審判決定等との関係」より

判定の結果は、「鑑別結果通知書」に記載されて家庭裁判所に送られ、裁判所が審判を下す際の資料となります。

また審判によって、例えば、保護観察や少年院送致となったときには、鑑別結果通知書は、参考資料として、保護観察所や少年院にも送られます。

なお、鑑別結果通知書には、上記のような判定の結果だけではなく、①少年の資質の特徴、②非行要因、③改善更生のための処遇指針等も記載されます(少年鑑別所法第16条1項)。

【法務少年支援センターとは?】
なお、少年鑑別所法は、少年鑑別所の役割の3つめとして、「非行及び犯罪の防止に関する援助を行うこと」(少年鑑別所法第3条3項)を挙げています。これに基づき、少年鑑別所が蓄積した知見等を活用し、教育機関・児童福祉機関などと連携して、地域の非行犯罪防止活動や相談活動などの支援を行っています。
少年鑑別所が、この活動を行う際には、「法務少年支援センター」という名称を用いることとされています(少年鑑別所法施行規則第2条)。

3.少年鑑別所での生活

少年鑑別所は、刑務所のように刑罰を受ける施設ではありません。イメージとしては寄宿制学校や合宿所を思い浮かべれば良いでしょう。

もちろん、外に出ることはできませんし、時間に縛られた団体生活ですから、不自由さはありますが、それは企業の研修合宿でも似たようなものです。

参考に、ある日のタイムスケジュール例をあげましょう(※)。

7:00 起床・洗面
7:30 朝食、点呼
9:00 運動(グラウンド・体育館)
10:00 面接、心理検査
12:00 昼食
13:00 学習支援(勉強の指導)・講話(「就労の心構え」など)
14:30 面会(保護者・付添人・学校の担任など)
15:30 診察、入浴
17:00 夕食、点呼
18:00 日記記入、自由時間(読書、テレビ、映画)
21:00 就寝時間

※参考:法務省矯正局「少年鑑別所のしおり」より

4.少年鑑別所と少年院、少年刑務所との違い

少年鑑別所・少年院・少年刑務所は、それぞれ全く別の施設です。

少年鑑別所は、これまで説明したとおり、少年を観護・鑑別し、家庭裁判所に審判の参考資料、参考意見を提供する施設です。

(1) 少年院とは?

少年院は、審判による保護処分として、少年院送致が決まった場合に、少年を収容し、「矯正教育」を施す施設です。

矯正教育とは、少年の犯罪的傾向を矯正し、健全な心身を培わせ、社会適応・生活に必要な知識と能力を習得させることで(少年院法第23条)、生活指導、教科指導、体育指導、特別指導(社会貢献活動・野外活動・運動競技・音楽・演劇など)から構成されています(少年院法第24条~29条)。

このように少年院は、矯正「教育」施設ですから、刑務所における懲役囚のように、刑罰として強制的に労働させられるわけではありません。

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(2) 少年刑務所とは?

少年であっても、①死刑・懲役・禁錮刑に当たる犯罪で、罪質・情状から刑事処分が相当なとき、②故意により被害者を死亡させた犯罪で、犯行時16歳以上のときには、家庭裁判所は、少年と事件を検察官に送致しなくてはなりません(少年法20条)。これを「逆送」と呼びます。

これにより、例外的に、少年事件であっても検察官に起訴され、成人と同様の刑事裁判を受けて有罪判決を受けるケースがあります。

懲役・禁錮刑の実刑判決を受けた少年は、「少年刑務所」に収容されます(少年法56条1項)。

ただし、16歳未満の少年が懲役・禁錮刑の実刑判決を受けたときは、16歳に達するまでは少年刑務所ではなく、少年院に収容されて矯正教育を受けます(少年法56条3項)。

少年刑務所では、少年が満20歳に達した後でも、満26歳に達するまでは居ることができ(少年法56条2項)、満26歳に達すれば、一般の刑務所に移監されます。

少年刑務所にいる満20歳以上の者を「青年受刑者」と呼び、実際に少年刑務所に在所している受刑者のほとんどは青年受刑者です。

少年刑務所は刑務所ですから、懲役刑の場合、強制労働に服する義務があることになりますが、受刑者が青少年であることに配慮して、職業訓練・教科教育などに重点を置いた処遇がなされています。

5.少年鑑別所送致と弁護士の役割

(1) 観護措置自体は悪ではない

少年事件では、少年が少年鑑別所に収容されることを回避することが、必ずしもベストな選択ではありません。

少年の非行には、ほとんどのケースで背景となる原因・環境があり、成人の場合と異なり、少年自身の力で、その原因・環境を自覚し、除去することは困難です。

少年鑑別所で観護と鑑別を受ける過程で、問題性が明らかになり、少年自身や保護者の自覚・反省が進み、悪い交遊関係の改善が実現することは珍しくありません。

また少年鑑別所での十分な鑑別が行われないと、最適な保護処分を受けることができなくなる結果、少年の問題性、犯罪傾向が進んでしまい、次に家庭裁判所に来たときには、検察官に逆送される重大事件を起こしてしまう場合もあるのです。

そのような事態は、保護者、裁判官、調査官、弁護士を含む少年事件の全関係者にとって「痛恨のミス」と言わざるを得ません。

少年鑑別所への収容を「悪い結果」「避けるべき措置」と捉えることは、全くの間違いです。

(2) 不要不当な観護措置の阻止には弁護士選任を

とは言え、観護措置をするべきでない事案、観護措置が必要ではない事案もあります。

そもそも非行事実が存在しない、事実誤認である場合には、観護措置決定は不当ですし、非行事実があっても家庭や学校の環境が良好で少年の反省が深いことが明らかであれば、4週間も学校や職場を休むことになる身柄の収容までは不必要な場合もあります。

そのようなケースでは、家庭裁判所送致になった時点で、観護措置決定が不要であることを裁判官に訴え、理解させる必要があります。

観護措置決定は、少年が家庭裁判所に着いてから24時間以内に決まりますから(少年法第17条2項)、家裁送致となってから弁護士を選任しても間に合いません。

したがって、少年鑑別所送致を回避するには、捜査段階から、できるだけ早く弁護士を選任して弁護活動を開始してもらうことが必要なのです。

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