少年事件 [公開日]2021年4月30日

少年事件における家庭裁判所調査官の役割

現行法では、少年が事件を起こした場合には、成人が事件を起こした場合とは異なる手続きが採用されています。
その手続きでは、家庭裁判所の「調査官」が重要な役割を担っています。

この記事では、少年事件、家庭裁判所調査官、少年事件の流れについて解説します。

1.少年事件とは

少年事件とは、20歳未満の者が犯した非行事件を言います。少年とは、20歳未満の者を言うのですが(少年法2条1項、以下「法」と略記)、これは以下のように区別されます。

  • 犯罪少年(法3条1項1号)・・・14歳以上で犯罪を犯した少年
  • 触法少年(法3条1項2号)・・・14歳未満で刑罰法規に触れる行為を行った少年
  • 虞犯少年(法3条1項3号)・・・素行不良が見られ将来犯罪を犯すなどの恐れがある少年

少年事件と逮捕後の流れ等については、以下のコラムをご覧ください。

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少年事件とは?息子が逮捕されたら弁護士にご相談を

2.家庭裁判所調査官とその役割とは?

家庭裁判所調査官とは、家庭裁判所で取り扱われる家事事件、少年事件について調査する者をいいます(裁判所法61条の2第1項、2項)。

少年事件においては、最終的に家庭裁判所が少年の保護処分について決定します。

もっとも、成人が事件を犯した場合とは異なり、少年事件においては、処罰が目的ではなく、少年が更生し健全な成人となるように保護することが目的です。適切な保護処分を選択するためには、少年が起こした犯罪についての情報だけでなく、少年が非行を犯した動機、原因、少年の性格、生育歴、生活環境について詳しく調査する必要があります。

これを「社会調査」と呼び、この業務を行うのが家庭裁判所調査官です。

以上の特徴から家庭裁判所調査官には、法律の知識だけでなく、心理学、教育等の様々な知識が要求されます。

家庭裁判所調査官は、少年やその保護者と面接し、背景事情について調査を進めていきます。また、家庭裁判所に少年の処遇に関して意見を述べたり少年審判に出席したりします。

[参考記事]

少年審判を分かりやすく解説|その意味と当日の流れ

家庭裁判所調査官になるためには、裁判所職員採用総合職試験に合格して、家庭裁判所調査官補として採用される必要があります。そして、約2年間の研修を経て家庭裁判所調査官として任官されます。

3.少年事件の流れ

少年が事件を犯した場合の流れは、少年が犯罪少年か、触法少年か、虞犯少年かで微妙に異なります。
以下では、犯罪少年を念頭に置いて少年事件の流れを説明します。

(1) 事件の発生から少年審判まで

少年が犯罪を犯した場合、捜査機関は捜査を開始します。場合によっては逮捕・勾留されて取り調べを受けることもあります。

警察は捜査の結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があると思料した場合には直接に家庭裁判所へ事件を送致しなくてはならず(法41条)、死刑・懲役刑・禁錮刑にあたる犯罪の嫌疑があると思料したときは、検察官へ事件を送致します(法40条、刑事訴訟法246条)。

そして、検察官は犯罪の嫌疑があると考えた場合、事件を家庭裁判所に送致しなければなりません(法42条。全件送致主義)。

事件の送致を受けた家庭裁判所は、少年を少年鑑別所に収容するか否かを判断します。少年を少年鑑別所へ収容することを観護措置といいます(法17条1項2号)。収容期間は2週間です(法17条3項。最大8週間まで延長される場合あり)。

また、これと同時期に、少年鑑別所による鑑別と並行して、家庭裁判所調査官も、少年について調査を開始します。

[参考記事]

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その後、家庭裁判所は少年を少年審判に付するか否か(つまり少年審判手続を行うか否か)を決定します。その際には、家庭裁判所調査官の調査結果が参考にされます。

また、一定の重大な事件や少年が20歳を過ぎていることが判明した場合には家庭裁判所は事件を検察官に送致しなくてはなりません(法19条2項、20条。これを逆送といいます)。この場合、検察官は、事件を通常の刑事手続きと同様に進めていきます。

(2) 少年審判

少年審判は非公開で行われ(法22条2項)、また検察官も出席しないのが原則です(法22条の2第1項)。

少年審判では、付添人(主に弁護士)をつけることが可能です。付添人は、通常の刑事事件における弁護人と同様に少年の権利を保護するために活動してくれます。また、それにとどまらず、少年の健全な更生も助けてくれます。

審判手続では、少年は裁判官や家庭裁判所調査官から犯行の動機や反省の有無、今後の生活等について質問を受けます。また、少年審判では同伴している保護者にも質問がされます。

質問が終わると、少年や付添人は意見を述べることができます。そして、最終的に家庭裁判所により処分が出されます。処分には以下のものがあります。

(A)保護処分
①保護観察:少年を施設に収容せずに、社会内で保護司や保護観察官の監督・指導を受けながら更生を図る処分(法24条1項1号)
②少年院送致:少年院において矯正教育を受けさせること(法24条1項3号)
③児童自立支援施設または児童養護施設への送致:児童福祉法上の支援を行うことを目的として設けられた開放的で家庭的な施設に少年を入所若しくは通所させること(法24条1項2号)

(B) 試験観察(中間処分)
直ちに処分を決めることができない場合に、処分を一時留保し、少年を一定期間、調査官が観察すること(法25条)。この場合、試験観察期間経過後、改めて審判が行われます。

(C)不処分
犯罪事実が存在しないと認められた場合や、保護処分が不必要と認められた場合です(法23条2項)。

4.まとめ

少年事件における家庭裁判所の審判のためには、家庭裁判所調査官の調査が非常に重要なものとなってきます。実際、多くの場合、調査官の意見がそのまま裁判官の処分に反映されてしまいます。

このため付添人となった弁護士は、裁判官だけでなく、調査官とも意見を交換し、調査官の調査では不十分な情報を提供したり、保護者・担任教師・雇い主らに働きかけて社会復帰の環境を整え、その結果を調査官に伝えたりして、少年に有利な保護処分となることを目指します。

少年にとってより良い処分を得るためにも、弁護士に相談し付添人の依頼をすることをおすすめします。

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