少年事件 [公開日]2022年2月28日

触法少年の弁護について

子どもが万引きをした、自転車を盗んだ、友だちに怪我をさせたなど、ショッキングな連絡が警察から親のもとに来てしまったとします。

「でも、まだ13歳。幼いから犯罪にはならないと聞いたけど……」「子どもの非行で弁護士は大げさなのでは?」と考える親御さんは多いです。
しかし、その考えは間違いと言えます。

この記事では、14歳未満の子どもが法に触れ「触法少年」となったときに、どのような不利益を受けることになるかを説明し、その対処方法を解説します。

1.触法少年とは?

触法少年とは、刑罰法規に違反する行為を行ったが、その行為時に14歳未満だった者です(少年法3条1項2号)。

善悪を判断して自分の行動を制御する能力の未熟な者が法に触れても、これを非難することはできず、犯罪が成立する要件のひとつである「責任」が欠け、「犯罪」とはならないので、処罰することはできません。

ただ、子どもの成長度合いはバラバラですから、能力の有無を個別に判断すれば不公平が生じかねません。
また、子どもは今後の成長により立ち直れる可能性が大人よりも高く、早い時期から刑罰を科すことは控える配慮が必要です。

そこで処罰を受ける年齢には、どこかで一律の線を引くべきで、それが刑事責任年齢である14歳なのです。

こうして、14歳に満たない者の行為は、そもそも「犯罪」ではなく、処罰されないのです(刑法41条)。

しかし、「犯罪者ではありませんから、刑罰を受けることはない」からと言って、何もせずに放っておけば良いというわけではありません。

刑事罰を受けることはなくとも、触法少年となれば、以下のような様々な不利益を受ける可能性があります。

2.触法少年が事件を起こした場合の手続き

(1) 警察の取調べや家宅捜索を受ける

触法少年は犯罪者ではありませんから、警察の「捜査」対象ではありませんし、逮捕・勾留されることはありません。

しかし、行政機関のひとつである警察の「行政活動」としての「行政調査」を受けることになります(少年法6条の2第1項)。

これは特に「触法調査」と呼ばれ、「事件の事実、原因及び動機並びに当該少年の性格、行状、経歴、教育程度、環境、家庭の状況、交友関係等について調査する」とされています(少年警察活動規則15条、16条)。

警察は、必要があれば少年・保護者・関係者を呼び出し、質問することもできます(少年法6条の4第1項、少年警察活動規則20条)。
これはあくまで任意であり(少年法6条の4第2項)、呼び出しや質問に応じる法的な義務はないものの、実質的には取調べです。

しかも、警察は必要に応じて、証拠の押収・捜索・検証・鑑定をすることもでき、こちらは強制処分なので拒否することはできないのです(同6条の5)。

(2) 警察から児童相談所へ事件が引き継がれる

警察が「調査」を完了しても、それで終了ではありません。

必要な調査を終えてから、警察から児童相談所に事件が「通告」されます(児童福祉法25条1項本文)。

また触法の内容が、①一定の重大事件(故意の犯罪行為で被害者を死亡させた罪、死刑・無期・短期2年以上の懲役・禁錮に当たる罪)のケースや、②家庭裁判所での少年審判手続を受けさせることが適当と判断されるケースでは、警察から児童相談所に事件が「送致」されます(少年法6条の6第1項1号及び2号)。

この「通告」と「送致」の差異は次項で説明しますが、いずれにしても、触法少年は低年齢であるため、まずは一旦、警察から福祉機関である児童相談所に事件が送られるわけです。

(3) 児童相談所から家庭裁判所に送致されることも

さて、事件を受けた児童相談所では、事案や少年を調査し、少年の指導、訓戒を行います(児童福祉法26条1項)。

それで済めば良いですが、児童相談所が少年審判手続に委ねることが相当と判断した場合は、家庭裁判所に事件が送致されます(児童福祉法第27条1項4号)。

また、一定の重大事件など、警察から前述の「送致」が行われた触法少年の事件は、児童相談所から家庭裁判所に送致することが原則とされています(少年法6条の7第1項、児童福祉法第27条1項4号)。

こうして、触法事件の処理は児童相談所の段階で済むことなく、裁判所まで送られてしまうのです。

(4) 児童相談所で身柄を拘束される

前述のとおり、犯罪者ではない触法少年が逮捕・勾留されることはありません。
しかし、児童相談所の「一時保護」による身体拘束を受ける場合があります。

少年の安全を迅速に確保することや、少年の身体・精神の状態、生活環境などを調べる目的で、2ヶ月を原則として「一時保護所」への入所や、適切な第三者に保護を委託するものです(児童福祉法第33条)。

ケースによっては、この一時保護の場所として警察署が選択される場合もあり、これでは逮捕・勾留されているのと同じだと批判する意見もあります。

(5) 家庭裁判所から少年鑑別所に送られる

事件の送致を受けた家庭裁判所では、触法行為の事実があったか否かを調査し(法的調査)、さらに、どのような保護を与えるべきかを調査します(社会調査)。

この調査のために必要と判断されると、少年は少年鑑別所に送られ、2週間から4週間にわたり、身柄を拘束されてしまいます。これを観護措置といいます(少年法17条)。

[参考記事]

少年鑑別所とは|生活、入る理由、期間などを解説

(6) 家庭裁判所から少年院に送られることも

犯罪者ではなく刑罰を受けない触法少年には、刑罰を科すための刑事訴訟手続を定めた法律(刑事訴訟法)は適用されません。

しかし、触法行為があった以上、将来的には犯罪行為にまで進んでしまう危険があるので放置するべきではなく、その性格を矯正し、生活環境を改善・調整する必要があります。

そのための手続が、少年法に定められた少年審判手続です。家庭裁判所の判断で、触法少年が二度と間違いを犯さないよう、必要な「保護処分」が与えられます。

保護処分には、次の種類があります。

  • 保護観察……少年を施設に収容せず、保護観察官等の観察・指導を受けながら更生を図る処分
  • 少年院送致……少年院において教育を受けさせること
  • 児童自立支援施設などへの送致……開放的な福祉施設での教育指導を受けながら生活をさせること

[参考記事]

少年院はどんなところ?|種類、入る理由・年齢・期間、生活を解説

3.弁護士の付添人活動が必要な理由

以上のように、触法少年は最終的に刑罰を受けることはないものの、その事件は、警察→児童相談所→家庭裁判所と引き継がれ、その各プロセスにおいて、少年本人だけでなく、家族など周囲の人々も、複数回にわたって調査を受けることになります。

警察が強制的に証拠を捜索・差し押さえるケースや、児童相談所による一時保護、家庭裁判所による監護措置により、少年本人の身柄が少年鑑別所などに隔離されるケースもあります。そして最終的には少年院行きとなる可能性すらあるのです。

少年鑑別所は、少年を調査して適切な保護内容を検討しつつ教育も施す場所ですし、少年院も保護と教育を目的とする機関であって、いずれも決して刑務所のような罰を与える施設ではありません。

しかし、それでも少年鑑別所や少年院に行くことなく、家庭や学校での通常の生活をしながら立ち直ることができるなら、それに越したことはありません。

少年鑑別所や少年院を単純にネガティブに捉えるべきではありませんが、これらへの入所で学校の退学を余儀なくされる場合がありますし、社会復帰してからも入所経験者に対する世間の目は非常に厳しいものがあります。

また、これら施設内で、かえって犯罪傾向のある者との交遊関係ができてしまうケースもあります。

したがって、そのような不利益は最小限に抑えるべきであり、そのためには、早期に弁護士を依頼して、付添人として活動してもらうことが重要です。

4.弁護士の付添人活動の内容

触法事件における付添人としての弁護士の活動は多岐にわたりますが、主なものを挙げてみましょう。

・警察の触法調査が適正に行われるよう監視します。未熟な少年は警察の恫喝や誘導に弱く、警察に迎合して虚偽の自白をしがちです。弁護士は高圧的な取調べに抗議し、少年が冤罪に巻き込まれるリスクを防ぎます

・児童相談所が一時保護の場所に警察署を選定すると、少年が不当な取調を受ける危険性も高まります。弁護士は児童相談所に抗議し、保護の場所を変更させます。

・家庭裁判所は事件送致を受けた当日に監護措置決定を行います。弁護士は家裁送致前から準備をし、家裁送致のタイミングで担当裁判官と面談するなどして、少年鑑別所への入所を阻止する活動を行います。

・少年審判手続において審理されるのは、①触法の事実があったか否か、②事実として、どのような保護処分が適切かという2点です。もしも、事実関係に争いがあるなら、弁護士は警察の事実誤認であって、そもそも法に触れる行為はしていないことを主張し、明らかにします。

・また触法行為が事実である場合は、例えば少年の躾・教育を放任してきた両親に問題を自覚させ、親子関係を修復し、今後の監督を誓約させる活動、担任や校長に働きかけて復学を受け入れてもらう活動(環境調整といいます。)などを行います。

・上のような環境調整・整備をおこなったうえ、少年審判期日に出席し、少年院への入所は不要で、社会内で更生できることを主張し、保護処分をしない(不処分)、あるいは、より軽い保護処分の決定を引き出します。

・弁護士による環境整備が早期に進めば、そもそも少年審判手続を行わないという決定(審判不開始決定)を、裁判官から引き出すことも可能です。

[参考記事]

少年事件における付添人の役割

5.まとめ

一般的に刑事事件の弁護はスピードが求められますが、特に少年事件では観護措置がされてしまった場合、家裁送致から審判まで1ヶ月程度しか時間がありません。大人の刑事事件よりも、さらにスピーディな対処を必要とするのが少年事件なのです。

子どもが触法事件を起こしてしまったならば、直ちに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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