少年事件 [公開日]2021年4月30日

少年法改正で何が変わる?|2022年から18歳で成年に

2022年4月から民法の成年年齢は18歳となり、自分の判断で契約したり結婚したりすることができるようになります。
また、2016年6月には選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられており、大人として認められる年齢の常識が変わろうとしています。

そのような中で、少年法を改正する法律案が国会で審議されており、18歳と19歳の「少年」が罪を犯した場合の処遇は一変するかもしれません。

今回は、そもそも少年法とはどういう制度なのか、少年法はどのように変わろうとしているのかについて弁護士が解説します。

1.少年法はどのような法律なのか?

少年法は、非行行為を行った少年の健全な育成を図るために、これを保護する処遇を決める少年審判の手続きと、その例外として少年に成人と同様の刑事裁判で刑事責任を問う場合の特例を定めた法律です。

今回の法改正で変わる部分に重点を置いて、少年事件の手続きについて解説します。

(1) 14歳以上の少年が罪を犯した場合の流れ

非行行為を行った20歳未満の少年のうち、14歳以上で犯罪を犯した者を「犯罪少年」と呼びます。

犯罪少年に対しては、警察や検察庁が捜査を行いますが、その後、すべての少年事件が家庭裁判所へ送致されます。

犯罪少年の事件では、犯罪事実の有無や動機、犯行態様、情状など事件の内容を認定することに加えて、少年が再び罪を犯さないためにどのような教育的アプローチや保護が必要かという点も審理の対象となります。

そのため、少年が家庭裁判所に送致されると、家庭裁判所調査官によって、成育歴や家庭環境、交友関係、性格などの調査が行われます。必要があれば身柄を少年鑑別所に送って、身柄の安全を確保しつつ、心理試験や行動観察などによって調査し、どのような保護を必要とする少年かを鑑別します。

これらの調査結果を受けて、家庭裁判所は次のいずれかの決定をします。

  • 少年審判の開始:保護処分の要否を判断するために、さらに調査を続けてから審判を行う
  • 少年審判の不開始:軽微な事件でかつ再非行のおそれがないため、審判まで進めずに事件を終了させる
  • 検察官送致(逆送):①死刑・懲役又は禁錮に当たる罪の事件で、調査の結果、罪質・情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき、②故意の犯罪行為で被害者を死亡させた罪の事件で、犯行時に16歳以上の少年は、家庭裁判所から検察官に送致し、成人と同様の刑事手続により刑事裁判を受けさせる

成人の刑事事件では、有罪になると懲役刑や罰金刑などの刑罰が科せられますが、少年事件では、上の「逆送」となる例外的な場合以外は、その少年ごとの保護の必要性に応じて保護処分という処遇が決められます。

どのような保護処分が科されるのかは犯した罪の軽重よりも、少年が非行行為に走った要因、背景、環境などが重視されます。

例えば、犯した罪自体は軽微であっても、元の環境に戻すと再非行のおそれが大きい場合には、最も重い処分である少年院送致になることもあるわけです。

犯罪少年に対する保護処分には次のようなものがあります。

  • 少年院送致:再非行のおそれが大きく、現在の環境での更生が困難と認められる場合に少年院での矯正教育を受けさせる処分
  • 児童自立支援施設・児童養護施設送致:児童福祉法によって設置された開放的な保護施設で指導・養護をする処分
  • 保護観察:社会内での更生が期待できる場合に、保護観察官や保護司の指導を受けながら生活させる処分
  • 不処分:罪を犯したと認められない場合や、罪を犯した場合でも要保護性が低く保護処分の必要がないと認められる場合の処分

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(2) 2000年以降の厳罰化

1980年から1990年代は少年犯罪の検挙人数がピークを迎え、おやじ狩りや援助交際といわれる新たな非行類型が社会問題化していた時世でした。

また、神戸連続児童殺傷事件(1997年)や西鉄バスジャック事件(2000年)など世間を震撼させる少年犯罪も相次いで発生していました。

このような動きを受けて、少年事件の厳罰化や被害者への配慮を求める世論が高まり、2000年以降数次にわたって少年法などが改正されています。

【刑事処分に関する法改正】
2001年4月~
・刑事処分の対象年齢の引き下げ:16歳以上→14歳以上
・原則として刑事処分される事件(原則逆送事件)の新設:犯行時16歳以上で故意の犯罪行為により人を死亡させた事件
2014年5月~
・少年に言い渡す不定期刑の見直し:最も重い不定期刑の引き上げ「5年以上10年以下の懲役」→「10年以上15年以下の懲役」
・無期懲役(禁錮)刑を緩和する場合の上限の引き上げ:10年~15年→10年~20年

【少年審判・保護処分に関する方改正】
2001年4月~
・検察官・弁護士(付添人)が関与する審理の導入
2007年11月~
・少年院送致対象年齢の拡大:14歳以上→「おおむね12歳以上」
2014年5月~
・検察官・付添人が関与する審理の対象事件拡大

【被害者のための制度に関する法改正】
2001年4月~
・被害者や遺族による事件記録の閲覧・意見聴取制度の新設
・被害者や遺族への意見聴取制度の新設
2008年12月~
・被害者や遺族による事件記録の閲覧・意見聴取制度の対象事件拡大
・被害者や遺族への意見聴取制度の対象者拡大
・重大事件について被害者や遺族の傍聴が可能に
・審理の経過などについて、家庭裁判所から被害者や遺族へ説明する制度の新設

2.少年法改正後はどのように変わるのか?

少年法改正法案 では、罪を犯した当時18歳と19歳の少年にも少年法を適用する枠組みを残しつつ、「特定少年」としてより成人に近い扱いをすることになっています。
改正により変わる点を解説します。

(1) 原則逆送規定の拡大

2000年の法改正(2001年4月施行)で定められた原則逆送規定では、犯行時16歳以上の少年が「故意の犯罪行為により人を死亡させた事件」は、原則として検察官に送致して刑事裁判により処罰することとされています。

今回の法改正後は、特定少年が犯した懲役・禁錮刑の下限が1年以上の罪(強盗罪、強制性交等罪、強制わいせつ致傷罪など)も原則逆送事件に加わります。

また、現行法では刑事処分を相当と認めるときに14歳以上の少年を検察官に送致できるのは、懲役刑または禁錮刑以上に当たる罪に限られています(少年法20条1項)。

しかし、特定少年の場合はその制限がなくなり、罰金刑以下で処罰される過失傷害罪や侮辱罪など軽微な罪についても刑事処分を相当と認めるときには、検察官送致が可能になります。

もっとも、現行法では、逆送後の刑事事件を審理する裁判所が、保護処分とすることを相当と認めた場合は、事件を家庭裁判所へ戻すことも可能とされており(少年法55条)、この規定は改正後の特定少年にも適用されますから、必ず刑事処分を受けることになるとは限りません。

(2) 刑事裁判手続きにおける特例の除外

罪を犯した少年が検察官に送致されて刑事裁判になった場合、少年法による特例が適用されますが、法改正後 は特定少年には次の特例が適用されなくなります。

特定少年には適用されない特例 少年法の規定
勾留の制限 勾留は少年の心身への悪影響が大きいため、やむを得ない場合に限られる 48条1項
勾留する場合は成人とは分離した区画に収容しなければならない 49条
不定期刑 発達途上にある少年は矯正教育により早期に改善更生する可能性もあることから、刑期は「3年以上5年以下」というように幅を設ける 52条
換刑処分の禁止 成人が罰金や科料を納付できない場合、金額に応じた期間労役場に収容されるが、少年には適用されない 54条
成人と分離した
刑の執行
少年は26歳未満の受刑者を収容する少年刑務所や、成人受刑者とは分離した区画を設けた刑務所に収容する 56条
早期の仮釈放 無期刑は7年、不定期刑・有期刑は刑期の3分の1の経過により仮釈放が可能 58条
前科による
資格制限の不適用
少年時の前科による資格制限は受けない
例)医師、薬剤師、公認会計士など
60条

(3) 特定少年が起訴されると実名報道が解禁される

現在の少年法では、少年が罪を犯して少年審判や刑事裁判を受けることになった場合、少年の実名や住所、顔が分かる写真を報道してはならないこととされています(少年法61条)。

法改正後は、特定少年が起訴されて刑事裁判になった場合に限り、実名報道ができるようになります(ただし、略式請求の場合は除きます)。

(4) 保護処分もより「刑罰寄り」に

改正法では、特定少年を保護処分で処遇する場合、保護処分の内容は、次の3種類のいずれかに限定されることになります。

  • 6か月の保護観察処分
  • 2年間の保護観察処分
  • 3年以下の収容期間を定めて少年院送致

2年間の保護観察処分をする場合は、将来的に遵守事項違反により保護観察が取り消されて少年院に収容される場合の収容期間をあらかじめ定めることとされています。

また、保護処分の選択に当たっては、要保護性ではなく「犯情の軽重」を考慮することも法律に明記されます。

犯情とは犯罪に関わる一切の事情のことで、犯行の動機や態様、計画性、被害の程度などです。

改正法による特定少年の保護処分は、教育的働き掛けによる再犯防止よりも社会防衛的な性質が強くなるといえそうです。

(5) ぐ犯事件の対象外に

少年法は、犯罪グループに加入するなど、実際に法に触れる行為を犯していなくても将来罪を犯す可能性がある少年(ぐ犯少年)も保護の対象としていますが、改正法では、特定少年は保護対象から除外されることになります。

3.少年法改正の背景と問題点

今回の少年法改正法案は、選挙権年齢や民法の成年年齢引き下げが背景にあることは間違いありません。法務省は18歳、19歳が責任ある成人として扱われるようになった以上は、その立場に応じた取扱いをするべきだと改正の趣旨を説明しています。

しかし、選挙権や民事上の権利義務の扱いと刑事責任の扱いを連動させる必然性はありません

酒やたばこ、公営ギャンブルは20歳以上に据え置かれる一方で、クラブやスナック、パチンコ店への出入りは従来から18歳以上とされており、年齢に関する法規制はまちまちなのが実情なのです。

改正案の内容をみると、さしたる理由もなく、有効に機能している保護的機能を低下させている点で懸念があるといわざるをえません。

令和元年版犯罪白書によれば、平成27年に刑務所を出所した成年受刑者が5年以内に再び刑務所に収容された割合 は37.5%なのに対し、同年に少年院を出院した少年が5年以内に再び少年院や刑務所に収容される割合は22.7%というデータが出ています。

これは、家庭裁判所や少年鑑別所、少年院における教育的働き掛けが実を結んだ結果といえるのではないでしょうか。

もっとも、成年で刑務所に入所していた者の方が、少年よりも犯罪傾向が進んでいるのは当たり前ですから、成年受刑者と比較しても、少年院の矯正教育が成果をあげている証拠にはならないという意見もあるでしょう。

また、特定少年が起訴されることで実名報道が解禁される点も、さらに議論が望まれるところです。

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