少年刑務所とは?少年院との違いや前科などの不利益は?
罪を犯した少年が「少年院」に収容される可能性があることはご存知の方も多いと思いますが、これとは別に「少年刑務所」という施設があるのをご存知でしょうか。
この記事では、以下のような疑問に答えながら、少年刑務所について解説していきます。
- 少年刑務所に入れられるのはどのような犯罪の時か
- 長期間服役しなければならないのか
- 少年院よりも処遇は厳しいのか
なお、本コラムは2022年4月に施行される改正少年法に準拠しています。
犯行時18歳以上の少年は「特定少年」と区分されることになるため、本コラムでも特定少年という用語を用いています。
[参考記事]
少年法改正で何が変わる?|2022年から18歳で成年に
1.少年刑務所の意義・役割
(1) 少年刑務所の意義
少年法56条では、少年の受刑者は、特に設けた刑事施設又は刑事施設若しくは留置施設内の特に分界を設けた場所において、その刑を執行することとしています(特定少年を除く)。
少年刑務所は、この規定に基づく少年受刑者のために特に設けられた刑事施設です。
少年受刑者を成人受刑者から隔離するのは、悪風に染まるのを防止するとともに、心身ともに発達途上である少年の特性に応じた処遇を行うためです。
このような処遇は、少年が26歳に達するまで継続することが可能です。
(2) 少年受刑者に対する処遇の特徴
少年刑務所における処遇は、成人とは異なる次のような配慮がなされています。
- 個別担任制により、個別面接や日記指導などを行う
- 教科指導の重点的実施、教材の整備
- できる限り職業訓練やスキル向上につながる作業を行わせる
- 家族などとの関係の維持、改善の働き掛け
これらの処遇は少年院でも行われていますが、少年刑務所ではあくまで刑罰という枠組みの中での教育的配慮ということになります。
(3) 少年刑務所ごとの特徴
少年刑務所は、函館、盛岡、川越、松本、姫路、佐賀の6箇所に設置されています。
函館、川越、佐賀では職業訓練に、盛岡、松本では教科指導にそれぞれ重点を置くなど、施設ごとの特徴もあります。
姫路少年刑務所は、比較的犯罪性向が進んだ少年や成人、外国人の少年が収容されます。
2.少年刑務所服役までの流れ
少年が罪を犯した場合、捜査が終わるとすべての事件が家庭裁判所に送致されます。
家庭裁判所では、犯した罪の内容や、少年の心身の状況、家庭環境などの調査を行い、「家庭裁判所で少年審判を行う」か「刑事処分相当として検察官へ送致する」かの選別を行います。
家庭裁判所が刑事処分相当と判断すると、検察官は少年を地方裁判所などに起訴して、刑事裁判手続きになります。
刑事裁判は基本的に成人と同様の手続きで進められ、懲役刑や禁錮刑の実刑判決が確定すると少年刑務所で服役するという流れになります。
3.少年刑務所に収容されるケース
家庭裁判所が刑事処分を相当として検察官送致をするのは、次の三つのケースです。
(1) 罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき
少年院に複数回入院したのに犯罪を繰り返す少年など、少年院送致などの保護処分では更生が期待できないと判断された場合には、刑事処分相当とされることがあります。
この規定が適用されるのは、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件とされており、侮辱罪や過失傷害罪、軽犯罪法違反など軽微な事件は除外されます(特定少年を除く)。
(2) 一定の重大な罪を犯した場合
- 16歳以上の少年が故意の犯罪行為により人を死亡させる罪を犯した場合(殺人罪、強盗致死罪、傷害致死罪、危険運転致死罪など)
- 特定少年が懲役・禁錮刑の下限が1年以上の罪を犯した場合(2022年4月から)(強盗罪、強制性交等罪、強制わいせつ致傷罪、現住建造物等放火罪など)
以上に該当する事件は、原則として検察官送致となります。
(3) 少年審判が終局するまでに20歳に達した場合
保護処分は原則として20歳未満の者に対する矯正プログラムであるため、20歳に達した場合は、検察官に送致されることになります。
実際に少年刑務所に収容される少年はどのような罪を犯しているのかは、次の表を参考にしてください。少年刑務所入所時に20歳未満であった者の処断罪名です。
少年刑務所に入れられるのは、必ずしも殺人などの重大事件を犯した少年だけではないことが分かります。したがって、事件内容によっては、重大事件でないからと油断していると、少年刑務所に行く可能性も増してしまいます。
もっとも、家庭裁判所が2019年に少年院送致した少年は1,838人ですので、少年刑務所に入るのはごく限られたケースといえるでしょう。
4.少年刑務所に収容される期間と年齢
(1) 収容期間
少年刑務所に収容される期間は、刑事裁判の判決により決められますが、傾向としては5年を超える比較的長期の刑になることが多いようです。
なお、特定少年以外の少年には、刑の長さについて次のような特例があります。
①不定期刑
少年は心身ともに発達途上で柔軟性があり、早期に更生する可能性があることから、懲役刑の刑期にも弾力性を持たせることとされています。
具体的には、法定刑の範囲内で刑の長期を定め、原則として長期の二分の一以上を短期として、長期と短期の範囲を明示した刑を言い渡します。
②早期の仮釈放が可能
無期懲役刑や無期禁錮刑で服役する場合(死刑が緩和された場合を除く)は7年、有期刑の場合は刑の短期の三分の一が経過すると、仮釈放が可能になります。
(成人は、無期刑の場合は10年、有期刑の場合は刑期の三分の一経過後)
なお、2019年における仮釈放の運用状況(成人も含む)をみると、
- 有期刑で仮釈放された11,473人のうち、刑期の6割未満で仮釈放された事例なし
- 無期刑で仮釈放された受刑者の平均服役期間は36年
となっており、法律の建前よりもかなり厳しい運用となっています。(出典:矯正統計年表・保護局HP|法務省)
(2) 少年刑務所・少年院に収容される年齢
年齢によって下される可能性がある刑事処分や保護処分、収容される施設をまとめると次の表のようになります。
年齢 | 少年法上の区分 | 刑事処分 (少年刑務所) |
保護処分 (少年院など) |
原則として刑事処分となる事件 |
---|---|---|---|---|
14歳未満 | 触法少年 | × | おおむね12歳以上から○ | – |
14歳・15歳 | 犯罪少年 | ○ 16歳未満は少年院に収容できる |
○ | なし |
16歳・17歳 | 犯罪少年 | ○ | ○ | ・故意の犯罪行為により人を死亡させた罪 |
18歳・19歳 | 特定少年 | ○ | ○ | ・故意の犯罪行為により人を死亡させた罪 ・刑の下限が懲役または禁錮1年以上の罪 |
20歳~26歳 | 成人(犯行時少年) | ○ 一般の刑務所に収容されることもある |
× | – |
5.少年刑務所での生活
少年刑務所では少年の特性に配慮した処遇が行われますが、懲役刑の執行として収容される以上、刑務作業を行わなければなりません(刑法12条2項)。
そのため、少年刑務所での生活は作業が中心となり、改善指導や教科指導と合わせて平日は8時間の矯正処遇が行われることになります。
少年刑務所での平日のスケジュールは次のようなものです。
6:40 起床
7:50 矯正処遇(作業・教科指導・職業訓練など)
(運動時間30分程度を挟む)
12:00 昼食
12:30 矯正処遇
16:40 夕食
(週2回以上入浴)
就寝まで余暇時間
21:00 就寝
なお、教科指導に重点を置いている盛岡、松本の各少年刑務所では、矯正処遇の一つとして、高校通信制課程の受講や中学校の分校で授業を受けることが可能です。
6.少年刑務所と少年院の違い
(1) 処遇の違い
少年院は、刑罰ではなく保護処分として収容される施設であり、いわば国家が後見的立場で少年の更生や社会復帰を支援するための教育に特化した施設ともいえます。
[参考記事]
少年院はどんなところ?|種類、入る理由・年齢・期間、生活を解説
少年院では夕食後の時間にもカリキュラムが組み込まれ、集団生活の中で反省を深め、自覚を促すための指導が行われます。
少年刑務所における処遇にも教育的要素はありますが、1日8時間の矯正処遇以外の時間の過ごし方は基本的に本人任せとなります。
その意味では、少年院の教育的処遇のほうが手厚く、場合によっては厳しいと感じられることが多いかもしれません。
(2) 少年刑務所に入ると前科がつく
刑事裁判で有罪となり刑が言い渡された履歴は、前科として記録が残ります。
前科は、懲役刑だけではなく、禁錮刑、罰金刑など一切の刑が対象となり、執行猶予となった場合も前科になります。
一方、少年院送致は刑罰ではないため、前科にはなりません。
前科がつくことの不利益としては、以下のものが考えられます。
①履歴書の賞罰欄へ記載しなければならない
②公務員などへの就職や、国家資格の取得が制限される
③海外へ渡航する際、渡航先の判断で入国できないことがある
④再び罪を犯した場合に重く処罰されることがある
ただし、18歳未満の少年が罪を犯した場合、上記①と②の不利益については特例があり、刑の執行を受け終わるか執行猶予となった場合は前科として扱われません。
また、特定少年はこの特例の対象外で、さらに起訴されると実名報道がされる可能性もあります。
7.少年刑務所を回避するための弁護士の役割
少年刑務所に入る不利益は、前科が残る、実名報道される可能性がある(特定少年の場合)ということが考えられます。
また、長期間服役することになれば、就職が困難になる、家族関係が希薄化するという弊害もあるでしょう。
もっとも、本人の更生のためには、少年刑務所へ入ることがやむを得ない場合があるのも事実かもしれません。
しかし、だからといって少年の為に行動する弁護士が不要であることはありません。特に、少年は捜査官に誘導されやすいという特性もあります。行っていない事のために、少年が不当に重い責任を負わされたり、適切に行動すれば保護処分が可能なのに刑事訴追されたりするようなことは避けなければなりません。
弁護士は、捜査段階から取り調べに対するアドバイスをしたり、主張すべき有利な事情を捜査機関や裁判所に提示したりするなどして、適切な処分となるよう活動します。
少年事件の経験が豊富な弁護士であれば、社会復帰に向けた環境の整備についてもサポートすることも可能です。特に、少年は自分の為に一生懸命に動く大人の存在によって、更生する可能性もあります。
ぜひ一度、泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。