児童買春事件における示談の注意点と弁護士の役割
刑事事件では、起訴すれば有罪判決が見込まれる場合でも、検察官が諸般の事情を考慮してあえて起訴を見送る「起訴猶予処分」が認められています。この起訴猶予処分を勝ち取るには、犯行態様や被疑者の反省の程度だけでなく、被害者の示談成立の有無が大きな鍵となってきます。
しかし、児童買春事件では、起訴猶予で裁判を免れることは他の犯罪よりも難しいです。
その原因のひとつとして、児童買春罪では検察官が示談を必ずしも重視していないことが考えられます。
では、何故、示談が重視されないのでしょうか?
また、起訴猶予を得るために、児童買春事件における示談はどのような点に注意する必要があるのでしょうか?
1.児童買春で適用される法律・刑罰
児童買春罪は、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」に定められています。
児童とは18歳未満の男女であり、児童やその保護者などに、金銭や物品という対償(対価)を与え又は与えることを約束して、性交渉や局部に触るなどの性的な行為を行った場合に児童買春罪が成立します。
法定刑は、5年以下の懲役または300万円以下の罰金です(同法4条、2条)。
なお、年少者との性的行為を規制する法律は多岐にわたっており、対価を伴わなくとも処罰される場合があります。
例えば、13歳未満の男女に性交やわいせつな行為を行った場合は、たとえ暴行や脅迫を伴わず、同意を得ていても、強制性交等罪(刑法177条)、強制わいせつ罪(同176条)に該当します。前者は5年以上の有期懲役、後者は6月以上10年以下の懲役刑です。
また、18歳未満の男女とのみだらな性交等は、①各自治体が定めた淫行条例(青少年保護育成条例)に違反します。さらに、直接・間接に児童に対して事実上の影響力を及ぼしてなされた場合には②児童福祉法にも違反します(※)。
①の例である「東京都青少年の健全な育成に関する条例」では、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金で処罰されます(同条例24条の3)。
②の児童福祉法では、法定刑は10年以下の懲役または300万円以下の罰金とされ、両方の刑を科すことも可能とされています(同法60条1項、34条1項6号)。
参考判例:最高裁平成28年6月21日判決
2.児童買春罪で起訴猶予が難しい理由
2022年の犯罪白書(※)によると、検察庁終局処理人員総数74万5,066人のうち、約56.4%の41万9,846人が起訴猶予処分を得ています。
ところが、児童買春事件を含む児童買春・児童ポルノ禁止法違反では、起訴猶予率は例年約30%程度に留まります。
※犯罪白書2022年「第4節 被疑事件の処理」
その原因のひとつには、厳しい処罰を求める世論に後押しされた性犯罪の厳罰化がありますが、もうひとつは、児童買春罪では検察官が示談の成否を必ずしも重視していないことがあげられます。
では何故、児童買春罪では、示談は重視されないのでしょう?
これは、そもそも児童買春を禁じる法律が守る法益には、被害児童の心身という個人的な法益だけでなく、児童を性欲の対象とする社会的風潮の拡大を防ぐことで、将来にわたり児童を性的搾取・虐待から守るという社会的な法益も含まれているため(※東京高裁平成29年1月24日判決)、被害児童個人との示談だけを重視することはできないからです。
つまり、例え被害者との示談が成立していても、それで社会的な法益が回復したとは見做されず、性犯罪は厳重に処分するべきとの考えがあるゆえの厳罰なのです。
3.児童買春における示談の役割
もっとも、他の犯罪と比較して率が低いとはいえ、現実に起訴猶予となったケースがある以上、児童買春事件において示談が全く無意味なわけではありません。
(1) 刑の軽重に影響
泉総合法律事務所でも、示談が成立して不起訴となった相当数の児童買春事案を経験しています。
それだけでなく、示談は、最終的な刑の軽重にも影響するのです。
刑事事件における示談とは、加害者が示談金を支払う代わりに、被害者が加害者の犯罪行為を宥恕するという合意を指します。「宥恕(ゆうじょ)」とは、寛大な気持ちで許すという意味です。
示談書に「宥恕する」「処罰を望まない」などの文言が記載されることで、被害者の処罰感情が沈静化されたことを明らかとすることができます。
このため、示談成立は検察官が起訴・不起訴の判断をする際に考慮される事情となるにとどまらず、仮に起訴されてしまった場合でも、裁判官の量刑判断において被告人に有利な事情として考慮され、罰金など刑の軽減が期待できることになります。
したがって、「児童買春罪だから示談する意味がない」と考えることは大きな間違いです。
(2) 事後的なトラブルを防止できる
示談のもう1つの役割は、民事上の被害弁償を済ますことで事後的なトラブルを防止するというものです。
加害者は、被害児童などが負った精神的な苦痛に対する慰謝料などの損害賠償金の支払い義務を負います。
示談では、①賠償金の金額を確定し、②それが支払われ、③当事者間に金銭問題は残っていないことが明記されます。特に③は清算条項と呼ばれ、将来的に被害者側から更に金銭を請求されることを防止できます。
[参考記事]
刑事事件の示談の意義・効果、流れ、タイミング、費用などを解説
4.児童買春の示談の注意点
(1) 示談の相手は被害児童の両親
児童買春事件の示談の相手方は、児童の法定代理人(親権者)である両親となります。
通常、自分の子どもが児童買春をした相手となると、両親は激怒するのが当然です。厳罰を希望するでしょうし、示談の申し入れをしても話し合いにすら応じてもらえないことがあります。
また、捜査機関は被害児童の両親の連絡先を、児童買春をした本人やその家族に教えてくれることはありません。捜査機関は弁護士に限り、被害者側の承諾を得たうえで連絡先を教えてくれるのです。
したがって、児童買春罪での示談交渉は事実上、弁護士でなければ困難です。
また弁護士であれば、両親も弁護士なら話を聞いてみようとなることが多く、弁護士は被害者側の心情にも配慮しながら加害者の真摯な反省の状況を伝え、冷静な話合いを進めることができます。
さらに示談交渉では、相手から法外に高額な金額を提示されることがありますが、弁護士であれば、過去の類似した事案での例を示すなどして、妥当な金額で説得できる可能性が高くなります。
適切な内容で示談を成立させるには、弁護士に刑事弁護を依頼することが必要不可欠と言えます。
(2) 示談成立後も起訴される可能性がある
先に述べた通り、児童買春事件では検察官には示談の成立を積極的に評価してもらえない可能性が高くなります。
よって、仮に示談が成立したとしても起訴される可能性が残っていることは覚えておきましょう。
しかし、繰り返しますが示談することで不起訴となる可能性はありますし、何より起訴後の判決への影響(減刑)を考えれば可能な限り示談成立を目指して努力するべきです。
示談によって被害回復は図られており、処罰感情もなくなったことを、弁護士が検察官・裁判官に対し説得的に主張し、働きかけていくことで、不起訴獲得や刑が軽減される可能性を高めることができます。
現に泉総合法律事務所では、児童買春の事案で不起訴処分を勝ちとった事例が相当数あります。
[参考記事]
児童買春・援助交際の罪|逮捕される?初犯での処罰内容は?
5.児童買春の被疑者になったら弁護士へ
これまで話してきたことは、児童買春事件についての一般論です。実際にどの程度の刑事処分が見込まれるかは個々のケースで異なります。
それぞれのケースに合わせた適切な対応が重要となってきますので、児童買春を行ってしまい、刑事事件の被疑者になってしまった場合は、児童買春を含む刑事弁護経験の豊富な泉総合法律事務所の弁護士にお気軽にご相談ください。
[参考記事]
児童買春に強い弁護士|弁護士に依頼する場合と依頼しない場合の違い