強盗と窃盗の違い|恐喝罪・強盗致傷罪についても解説
ニュースや刑事ドラマなどで「強盗」「窃盗」という言葉を耳にしたことはあるでしょう。どちらも物を盗む犯罪ですが、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?
このコラムでは「強盗」と「窃盗」がどんな罪なのか、刑事事件的な側面から弁護士が解説していきます。
1.強盗とは?(刑法236条)
強盗罪を規定している刑法236条では、以下のように書かれています。
刑法236条
第1項「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。」
第2項「前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。」
簡単に言うと、暴力や脅しを用いて他人の物を奪い取ったり、不当な利益を得たりすることを「強盗」と言います。
以下で、それぞれ構成要件・成立要件を少し詳しく解説していきましょう。
(1) 構成要件・成立要件
強盗罪における「暴行又は脅迫」では、被害者の反抗を抑圧する程度であることが必要、と法律の世界では解されています。
簡単に言えば、被害者が抵抗できなくなるような態様である必要がある、という事です。
たとえば、ナイフや拳銃で脅す、縄などで手足を縛る、などの方法がこれに当たります。
また「強取」とは、簡単に言うと「奪い取る」という意味になります。
たとえば、銀行の窓口の人にお金を出させる、バッグを無理やり奪い取る、などがこれに当たるでしょう。
上記は典型的な強盗の例ですが、条文から解すると以下のような行為も強盗罪になり得ます。
- 飲食店で食事をした後、そこの店員を脅して代金を支払わずに逃げてしまう
(物やお金そのものではなく、不当な財産上の利益を得ることも強盗に当たる) - Bからお金を借りたAがこれを踏み倒したいと思い、AはCに依頼してBを脅しチャラにさせた
(犯人自らが得なくとも、誰か第三者に得させたような場合にも処罰の対象になる)
ひとえに「強盗罪」といっても、「万引きで逃げる際に店員に暴力をふるってしまった」ようなものから、「ナイフを使って銀行強盗をはたらく」ようなものまで含まれる可能性があり、これらの罪状の深刻さにより最終的な処分や量刑には差が出ることが多いです。
なお、刑法249条の恐喝罪も「暴行又は脅迫」を用いて他人の物を奪ったり、財産上の利益を得たりする犯罪です。
法律上は、被害者の「犯行を抑圧するに足りる程度」の暴行・脅迫があるものは強盗罪、これに足りないものを恐喝罪、と考えられています。たとえば、数人の不良が取り囲んで金品を奪う「カツアゲ」などは恐喝の例となります。
さらに、強要罪(刑法223条)も「暴行又は脅迫」を用いることは同じですが、こちらは物を奪い取ったり財産上の利益を得るものではなく、「義務のないことをさせる」点が異なります。
たとえば「交際していた際に撮影した裸の写真により元交際相手に復縁を迫る」などが強要罪の例として挙げられます。
(2) 刑罰
刑法236条第1項では、「5年以上の有期懲役に処する」とあります。
有期懲役とは、期間を定めて刑務所に送られることを言います。無期限で刑務所に送られる「無期懲役」の逆です。
ここで重要なのは、「5年以上」という刑期です。
刑事事件では、有罪となったとしても刑罰に対して執行猶予がつくケースも多いです。
執行猶予とは、被告人に有罪判決が下された際、一定期間その執行を猶予し、その期間中に再度罪を犯すなどすることなく無事に期間を経過したときには、刑の言い渡しの効力を失わせ、実際には刑罰を受けることがなくなるという制度です。
実は、このような執行猶予が認められるのは3年以下の懲役刑の場合だけですので、基本的に強盗罪には執行猶予はつかないことになります。
しかし、自首や過剰防衛など、一部懲役刑が短くなる場合には執行猶予が付く可能性もあります。
(3) 強盗罪で逮捕される可能性
これまで見てきたとおり、強盗罪は人の身体に対して危険性を与える犯罪なので、法律では重い刑を科しています。
よって、実際に強盗罪が発生した際には「逮捕」されて警察署に身体拘束され、実刑判決を受けてしまう確率は他の犯罪と比べて高くなるでしょう。
また、強盗罪には罰金刑がないことから、処罰される場合は必ず刑事裁判を受けることになります。
2.窃盗とは?(刑法235条)
上記の強盗と似た犯罪に「窃盗」の罪があります。
窃盗罪は、刑法において以下のように定義されています。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
これを見ると、暴行・脅迫を用いたかどうかが「強盗罪」との違いとなります。
窃盗の具体例として有名なものは、「万引き」や「スリ」といったものですので、これらを想像すれば違いは分かりやすいかと思います。
なお、法律上、強盗罪は窃盗罪をより重くしたもの(加重類型)と考えられています。
実際、窃盗は罰金刑もあり、3年以下の執行猶予付き判決もあり得ますので、強盗よりも罪状は軽いです。
3.強盗罪の類型犯罪
強盗罪においては、いくつか類型と呼べる犯罪もあります。以下で詳しく見てみましょう。
(1) 強盗未遂罪(刑法243条)
強盗罪は、実行し始めたら、たとえ実際に物を奪ったり財産上の利益を得られなくても処罰の対象となります。
たとえば、銀行強盗しようと窓口の人にナイフを突きつけたがすぐに警察が来て金品をうばうことはできなかった、というような場合がこれに当たります(実行の着手)。
(2) 強盗予備罪(刑法237条)
「強盗予備罪」とは、強盗を行う目的でその準備(凶器を用意する、強盗するのに適した相手を探して徘徊するなど)ことをいいます。
実際に暴行・脅迫など強盗罪を構成する行為を行っているが、結果として物の奪取などの結果は得られなかった場合が前述の未遂罪です。
一方、このような行為にすら至っていない段階のものが「予備罪」となります。
(3) 事後強盗罪(刑法238条)
刑法238条では、「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。」と規定しています。
簡単に言うと、窃盗の犯人が、捕まるのを回避するため、または証拠を隠滅するために誰かに暴行又は脅迫を用いた場合には、「強盗」と同じ扱いをする、という意味になります。
たとえば、万引きした犯人が、これを捕まえようとした店員に対し殴るなどの暴行を加えて逃走した、というような場合がこれに該当します。
(4) 強盗致死傷罪(刑法240条)
強盗の際に人に怪我をさせた場合は強盗致傷罪として「無期又は6年以上の懲役」が、人を死なせた場合には強盗致死罪として「死刑又は無期懲役」が科されます。
強盗罪は人の身体への危険性が高い犯罪であることから、もともとその刑は重く設定されています。さらに、実際に危害が加えられてしまったような場合には、より重い刑に課されることになるのが分かると思います。
なお、強盗致死傷罪になってしまった場合には、裁判員裁判の対象にもなります。
4.強盗・窃盗で逮捕されたら弁護士へ
強盗罪や窃盗罪では、その罪を軽くする(不起訴を勝ち取る)ために、被害者との示談成立が必要不可欠と言えます。
しかし、刑事事件の被害者との示談交渉は、弁護士でなければできない活動です。
自分や家族が強盗罪・窃盗罪により捜査を受ける立場になってしまったという場合には、刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所に是非ともご相談・ご依頼ください。
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