財産事件 [公開日]2022年3月9日

ひったくりで逮捕された場合の罪の重さと逮捕後の流れ

ひったくり」とは、荷物を持って歩いている被害者(あるいは自転車で走行している被害者)とすれ違う際に、その荷物を奪って逃げる行為をいいます。

ひったくりは窃盗罪にあたる犯罪行為です。それでは、ひったくりで逮捕された場合の逮捕後の流れや、罪の重さはどのようになっているのでしょうか?

この記事では、ひったくりの罪責や逮捕後の流れ、ひったくりで逮捕された場合の対処法について解説します。

1.ひったくりの罪責

(1) ひったくりは窃盗罪に当たる

ひったくりのほとんどは、万引きやすりと同じく、窃盗罪に該当します。

[参考記事]

「万引」「窃盗」「横領」の違いとは?

窃盗罪は、他人の財物を窃取した場合に成立します。
窃取とは、財物の占有(事実上の所持)を自己または第三者のもとに移転させることです。

ひったくりは、被害者が所持している鞄などを「奪い取る」ことで、その占有を自己に移転させる行為なので、窃盗罪が成立する典型的な行為の1つです。

(2) ひったくりが強盗罪に当たるケース

ひったくりが「強盗罪」に該当する場合があります。それは、ひったくりの際に財物奪取の手段として暴行を用いた場合です。

例えば、ひったくりをしようとしたが被害者が鞄等を離さないので、被害者を殴ったり、無理矢理奪おうとして引きずり回したりした場合です。

【裁判例】最高裁昭和45年12月22日決定
自動車を運転しながら通行人の女性に近づき、車の窓から女性のハンドバッグの手提げ紐をつかんで引っ張ったところ、女性が手を離さなかったため、手提げ紐をつかんだまま自動車を進行させ、女性を引きずって転倒させるなどして傷害を負わせた行為に強盗致傷罪の成立を認めました。

もっとも、強盗罪における「暴行」とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものが要求されます。そのため、ひったくりが強盗罪に当たるとされるのは、用いた暴行が強度なものである場合に限られます。

暴行がその程度に至らない場合には、暴行罪と窃盗罪に問われます。怪我を負わせていれば、傷害罪と窃盗罪です。

[参考記事]

強盗と窃盗の違い|恐喝罪・強盗致傷罪についても解説

(3) ひったくりの罪の重さ

窃盗罪が成立する場合、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。
他方で、ひったくりに強盗罪が成立する場合には、5年以上の有期懲役刑に処されます。

被害者に怪我をさせ、強盗致傷罪が成立する場合には、無期又は6年以上の懲役刑となります。
執行猶予は懲役3年以下の刑を宣告する場合にしか適用できないので、強盗罪、強盗致傷罪が成立すると実刑判決が原則です。

なお、窃盗罪の時効は7年、強盗罪の時効は10年となっています。

[参考記事]

窃盗罪、万引きの罪の重さ(罰金額・懲役)は被害金額で決まる?

2.ひったくりで逮捕された場合の逮捕後の流れ

ひったくりをした場合、被害者や目撃者、かけつけた警察官に現行犯逮捕されることがあります。
また、その場で逮捕されなくとも、後日に犯行が捜査機関に発覚し、後日、通常逮捕されることがあります。

ひったくりで逮捕された場合、これが通常逮捕であれ現行犯逮捕であれ、以下のように手続きは進んでいきます。

(1) 逮捕から勾留まで

逮捕され警察署に連行されると、取調べを受けます。そして、警察官は、逮捕から48時間以内に、被疑者の身柄と証拠を検察官に送致します。被疑者は検察官の下でも取調べを受けます。

その後、検察官は、被疑者の勾留を請求する場合があります。勾留請求は裁判官に対して行います。また、勾留請求は、検察官が被疑者の身柄を受け取ってから24時間以内、かつ、逮捕から72時間以内に行われます。

勾留請求が認められると、被疑者は勾留されることになります。
他方で、勾留請求をしなかった場合や、勾留請求が却下された場合には、被疑者の身柄は釈放されます。

このように、勾留請求は必ず行われたり、認められたりするわけではありません。勾留請求が認められるのは、①被疑者の住居が不定②逃亡や罪証隠滅の恐れがある場合です。

勾留されると、被疑者は10日間身体拘束されます。また、勾留は最大で10日間まで延長することができます。
したがって、被疑者は逮捕と勾留合わせて、最大で23日間身体拘束される可能性があります。

(2) 起訴から刑事裁判まで

検察官は、被疑者の勾留期間が満了するまでに、被疑者を起訴するか否か決定します。
起訴処分となった場合、被疑者は刑事裁判にかけられることになります。他方で、不起訴処分となった場合、今回はお咎めなしということで釈放されます。

起訴処分には公判請求をする場合(正式起訴)と略式手続請求をする場合(略式起訴)があります。
公判請求とは、公開の法廷で被告人の罪責を判断するものです。略式手続とは、書面による手続で被告人に罰金刑を科す手続です。

2020年の統計によれば、ひったくりを含む単純な窃盗罪で起訴された総数2万9629人のうち、正式起訴が2万3912人(80.7%)、略式起訴が5717人(19.29%)であり、約2割が略式起訴です(※2020年検察統計調査「表番号20-00-08・罪名別、被疑事件の既済及び未済の人員」)。

もっとも、ひったくりが強盗罪に該当し、検察官が被疑者を強盗罪で起訴する場合には、略式手続によることはありません。略式手続は罰金刑が法定刑に含まれる場合に許されるのですが、強盗罪には罰金刑が無いためです。

[参考記事]

略式起訴・略式裁判で知っておくべきこと|不起訴との違い

なお、公判請求であれ略式手続請求であれ、有罪判決が出された場合には前科がついてしまいます。

3.ひったくりで逮捕された場合の対処法

先述のように、逮捕勾留による身体拘束は最大で23日間続き、その間外には出られません。そうなってしまっては、日常生活に多大な影響を与えます。

また、その後起訴された場合には、保釈が認められない限りは、勾留続きます。
起訴されれば刑事裁判となり、ほぼ確実に有罪判決が出されてしまいます。

長期の身体拘束を回避したり、起訴処分を回避したりするには、被害者との示談交渉が重要です。

示談は、被害者が金銭を受け取る代わりに加害者を許す(宥恕する)合意を交わすことをいいます。

示談が成立すると、その証拠として示談書を作成します。そして、被疑者が示談金を支払った後で、示談書と示談金の領収書等を検察官に提出します。
そうすると、検察官は、示談の成立を被疑者に有利な事情として考慮してくれます。

ひったくり事件においては、示談の成立は起訴・不起訴の判断に影響を与えます。そのため、示談の成否は被疑者にとってとても重要な事項です。

しかし、身体拘束されている被疑者は、被害者と示談交渉をすることができません。

そこで、示談交渉は弁護士に相談するべきです。
弁護士は法律のプロで、多くの刑事事件弁護を経験しています。そのため、不備のない示談の成立を行うことが可能です。

また、逮捕勾留に際して被疑者に接見をするなどして、取調べに関する様々なアドバイスをしてくれるだけでなく、家族との伝達係にもなることができます。

ひったくりで逮捕された場合には、早急に泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

刑事事件コラム一覧に戻る