窃盗、万引きの罪の重さ(量刑)は被害金額で決まる?
「万引きは軽い犯罪だ」と思っている方はいらっしゃいませんか?
確かに、万引きは格別の計画性がなく、衝動的に行うことも容易な犯罪で、被疑者の罪悪感も少ない場合が多いため、発生件数もかなり多いのが実態です。
しかし、例え100円の商品でも、店員の目を盗んで窃盗行為をしたらそれは立派な犯罪となります。繰り返していると、そのうち窃盗事件で逮捕・起訴されて被告人となり、実刑判決が下されてしまう可能性があります。
ここでは、窃盗罪、特に万引きに焦点を当てて、万引きを行った場合どのような罪に問われるのか、罪の重さ(ここでは「刑罰の重さ」を意味します)はどう決まるのか、逮捕・起訴を免れるためにはどんな弁護活動が必要になるのかを説明していきます。
1.窃盗罪の種類と刑罰
刑法235条 窃盗罪
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
窃盗罪は、財物に対する他人の占有(事実上の支配)を排除し、自己又は第三者の占有に移した場合に成立します。要は、勝手に他人の占有物をとった場合には窃盗罪になります。
ひとくちに「窃盗」と言っても、いろいろな態様があります。空き巣やスリ、ひったくり、下着・自転車泥棒、車上荒らしなども窃盗にあたります。
「万引き」も言葉は軽く聞こえるかもしれませんが、これも立派な窃盗罪です。法定刑を見れば分かるように、窃盗罪には懲役刑があります。窃盗罪を犯した者には厳しい刑罰が科される可能性があります。
なお、窃盗罪の時効は7年となっています。
窃盗罪の成立には故意(占有を侵害する事実の認識)が要求されるだけでなく、これに加えて「不法領得の意思」も要求されます。
不可罰な使用窃盗行為(他人の物の一時的な拝借行為)、毀棄隠匿罪(他人の物を壊したり、隠したりする犯罪)との区別のためです。
不法領得の意思とは、「権利者を排除して、他人のものを自己の所有物として、その経済的用法に従い、利用処分する意思」をいいます(判例)。
もっとも、占有侵害行為に不法領得の意思が無いため窃盗罪が成立しないという事は滅多にありませんが、例えば、他人の占有物を壊したり、隠したりするためだけの目的で占有を侵害した場合には、不法領得の意思が否定され、窃盗罪は成立しないでしょう。この場合には、毀棄隠匿罪が成立します。
2.窃盗・万引きの量刑(罪の重さ)
では、窃盗(万引き)で罪に問われた場合、どのような処罰を受けるのでしょうか。
(1) 起訴・不起訴の処分、裁判での量刑の基準(決まり方)
窃盗罪の起訴・不起訴の処分・裁判での刑の重さが決められる際に、最も重視される要素の一つは被害状況です。
窃盗罪の被害状況とは、①「被害額がいくらだったのか」と、②「その被害額は弁償などで回復しているのか」という2点を意味します。
窃盗罪が他人の占有侵害行為を処罰するのは、他人の財産権を保護するためですから、被害者の財産権が、どれだけの損害を受け、どれだけの損害が失われたままなのかという点が、重視されることは当然です。
したがって、同じく万引きであっても、高額商品であるほど、起訴され、重い刑罰を受ける可能性が高くなり、低額な商品では、それらの可能性は低くなります。
また、被害品が返還されたり、被疑者が商品を買い取ったり、被害弁償したりすることで、被害者の経済的な損失が補てんされていれば、起訴されたり、重い刑罰を受けたりする可能性は低くなります。
ただし、起訴・不起訴の判断や刑の量定は、被害状況だけで決まるわけではありません。
犯行の動機・目的、計画性の有無、初犯か否か、同種前科・同種前歴の有無、犯行態様、犯行後の行動、反省の情況、被害者の処罰感情被害の回復状況など、様々な諸事情が総合考慮されるのです。
例えば、次のような場合は、被疑者に不利な事情として考慮されます。
①犯行の動機・目的が転売目的
②複数人で見張り役、目隠し役、実行役を分担するなど、態様が計画的で悪質
③万引きの前科や前歴がある
④店内で店員に発見されたが犯行を認めずに走って逃亡
⑤被害品の返還も弁償もない
⑥被害者である店舗側が厳重な処罰を強く希望している
(2) 処分の内容
①微罪処分
万引きの場合、多くは数百円から数千円の商品を盗ったという事件でしょう。
前歴や前科がなく、被害が少額で、万引きをしたことを認め、商品を買い取るなど弁償を行った場合、まず考えられるのは「微罪処分」という扱いです。
仮に窃盗で現行犯逮捕されても後、事件が正式な形で検察庁に送られることなく、警察限りで刑事手続が終了する取扱です。
この場合には、起訴されないので、刑罰が科されることはありません。
2014年犯罪白書によれば、2013年における窃盗で検挙され微罪処分となった人員の74.2%が万引き犯だったということです。
微罪処分に関して詳しく知りたい方は、下記記事をご覧ください。

[参考記事]
微罪処分になる要件とは?呼び出しはあるのか、前歴はつくか
②罰金(略式起訴)
微罪処分とならず、事件が検察庁に送致されても、必ず公開の法廷での正式裁判にかけられるわけではありません。
検察官が罰金刑が相当であると判断し、簡易な裁判手続での処理に被疑者が同意すれば、裁判所が書類上の手続だけで罰金刑を下す「略式手続(略式裁判)」となる場合があります。検察官が裁判所に「略式手続」を求めることが「略式起訴」です。
2019年の統計では、窃盗罪で起訴された人員総数3万553人のうち、正式起訴(公判請求)された者が2万4399人(約80%)、略式起訴された者が6145人(約20%)となっています(※検察統計 2019年「8 罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員」)。
罰金の金額は、次表のとおり30万円から50万円がボリュームゾーンです。
総数 | 100万円以上 | 100万円未満 | 50万円未満 | 30万円未満 | 20万円未満 | 10万円未満 | 5万円未満 | |
公判請求(第一審) | 649 | 2 | 20 | 233 | 359 | 35 | 0 | 0 |
略式手続 | 5651 | 0 | 470 | 2210 | 2636 | 335 | 2 | 0 |
※令和2年版犯罪白書「2-3-3-4表・第一審における罰金・科料科刑状況(罪名罰)」から抜粋

[参考記事]
略式起訴・略式裁判で知っておくべきこと|不起訴との違い
③懲役(正式裁判)
万引きの場合、前科がない人であれば罰金でとどまることがほとんどです。
しかし、盗んだ物がブランド品等数十万円する高額な商品であった場合などには、万引きであっても罰金では済まず、正式な裁判を受けなければならなくなるかもしれません。
また、少額商品の万引きであっても、それを何度も繰り返して罰金刑を数回受けている人、つまり、前科が複数ある人の場合には、いずれは必ず正式な裁判になります。
前出の2014年犯罪白書によれば、2013年において、窃盗で起訴された人員のうち、男性の12.8%、女性の22.9%が、「有罰金前科者」すなわち、罰金刑だけの前科を有する者だったとされています(※)。
※2014年犯罪白書「6-2-3-5図・窃盗 起訴人員中の初犯者・有前科者の人員等の推移(男女別)」
万引きの額が少額でも、泉総合法律事務所の弁護経験では、罰金刑を2回ないし3回受けた上で再度万引きを行ってしまった場合には、正式裁判を受けることになる可能性が高いです。
④執行猶予
初めて正式な裁判を受けた際の判決には、被害額の少ない万引きであれば、示談や商品買取ができない場合でも、執行猶予がつくことが殆どでしょう。
しかし、それも通常は一度だけです。
万引きの有罪判決を受けて、その執行猶予中に万引きの再犯を行ってしまえば、被害額が少額であっても、起訴される可能性があります。
執行猶予中に犯罪を起こし起訴された場合には、特別に酌量するべき事情がない限り、再度の執行猶予を付けられないとの法律の定めがあります。
再度の執行猶予が認められずに有罪判決を受けたときは、前回の執行猶予付き判決は執行猶予取消しとなり、例えば、前回も今回も懲役刑の場合は、前回の懲役刑と今回の懲役刑と合わせた期間、刑務所に服役することになります。
また万引きの前科前歴が積み重なると、窃盗を反復する性癖を持つ「常習者」と判断され、今回の万引き行為の前10年間に6月以上の懲役刑を3回以上受けていた場合、「常習累犯窃盗罪」という3年以上20年以下の懲役刑が科される特別の法律(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律3条,刑法12条)に違反するものとして起訴される危険性があります。
万引きは、誰もが容易に犯すことが出来てしまいます。しかし、万引きも窃盗というれっきとした犯罪であり、刑務所に入らなければならなくなる可能性もある、重大な犯罪であるということを覚えておきましょう。
3.示談交渉をして不起訴を目指す
正式に検察官に事件が送致された場合でも、被害者に対する示談などが成立すれば、不起訴処分となり、前科を回避できる可能性があります。
示談交渉がうまくいくかどうかは被害店舗の性格によっても異なってきます。一般的に、スーパーやコンビニですと、会社の方針で窃盗犯との示談には応じないところが少なくありません。
しかし、示談ができずとも、商品の買い取りに応じてもらうことで(被害金額が少なければ)不起訴になることもあり得ます。
とはいえ、買い取りしたからと言って必ず不起訴になる保証があるわけではないので、万引きをして警察沙汰になってしまった場合には、すぐに弁護士を依頼して示談交渉を始めましょう。
仮に弁護士が示談を取り付けることができなくとも、泉総合法律事務所では、検察官に意見書を提出するなどして、不起訴を勝ち取ることを目指した弁護活動を行います。
前述のように、一度逮捕された後も常習者として、もしくは執行猶予中に依存的に万引きを繰り返してしまう方は「クレプトマニア」という精神疾患の一種の可能性が高いといえます。このような場合、起訴される前に(万引きで警察に逮捕ないし検挙された時点で)、クレプトマニアの治療を行っているクリニックや病院で診断を受けることをおすすめします。
最近は裁判所もクレプトマニアの実態に強い関心を持つようになっており、刑罰よりも治療が再犯防止につながると考え始めていると言っていいかと思います。
参考:クレプトマニア(窃盗癖)特徴とは?診断基準・治療法と万引きの弁護
4.窃盗・万引きの刑事弁護は泉総合へ
以上のように、万引きをしてしまい示談をしたい方や、示談できずとも不起訴を目指す方は、一刻も早く弁護士に相談する必要があります。
泉総合法律事務所では、万引き事件の被疑者の弁護活動を多数行なっております。前科をつけないためにも、刑事事件に強い泉総合法律事務所の無料相談を是非ご利用ください。
窃盗などの刑事事件を起こして逮捕されてしまった方や、クレプトマニアの症状でお困りの家族の方は、どうぞお早めに万引の刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所にご相談ください。