財産事件 [公開日]

判例から見る事後強盗罪について。窃盗罪・強盗罪との違いとは?

判例から見る事後強盗罪について。窃盗罪・強盗罪との違いとは?

事後強盗という用語を聞いたことがある人も、聞きなれない人もいると思います。

事後強盗罪とはどのような犯罪なのでしょうか。窃盗罪や強盗罪とは何が違うのでしょうか。

以下においては、事後強盗罪の本質・意義、事後強盗罪の成立要件、事後強盗罪と窃盗罪、強盗罪の比較、(事後)強盗致傷罪の具体例などに触れながら、事後強盗罪について解説することとします。

なお、以下の刑法における条文は、単に条文番号のみを掲げています。

1.事後強盗罪の本質・意義

事後強盗罪(238条)は、窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪証を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたとき、強盗として論ずることとしたものです。

そして、事後強盗罪の主観的要件とされている3つの目的(財物取還防止目的、逮捕免脱目的、罪証隠滅目的)の内容等から、事後強盗罪の本質は、「窃盗の現場で生じた被害者等による犯人の追跡・追及(又はその可能性)を窃盗犯人が暴行・脅迫を用いて回避すること」にあると考えられています。

事後強盗罪に当たれば、5年以上の有期懲役刑に処せられます。

ところで、事後強盗罪は、本来の強盗罪(236条)ではありませんが、強盗罪との同質性・類似性から、強盗として処理すべき類型とされており、昏睡強盗罪(239条)とともに準強盗罪と呼ばれています。

もっとも、事後強盗罪は、窃盗犯人が上記の目的で暴行・脅迫に出た場合につき、それらを全体的に考察して強盗に準ずるものとしたのです。「強盗として論ずる」とは、単に処罰についてだけではなく、他の犯罪(240条、241条等)との関係でも、強盗として取り扱われるという趣旨です。

2.事後強盗罪の成立要件

(1) 主体

事後強盗罪の主体は窃盗です。「窃盗」とは、窃盗犯人、すなわち、窃盗の実行に着手した者をいいます。

財物を得てその取り返しを防ぐ場合は、当然窃盗は既遂に達していますが、逮捕を免れ又は罪証を隠滅する場合は、窃盗は既遂であると未遂であるとを問わないのです。

(2) 既遂・未遂の区別

事後強盗罪は、未遂犯も処罰されます(243条参照)。そのため、事後強盗罪の既遂・未遂の区別の基準も問題となります。

通説及び判例(最判昭24.7.9刑集3・8・1188)は、事後強盗罪の主眼が財産犯であるということから、窃盗の既遂・未遂を基準に考えています。

すなわち、財物の取り返しを防ぐための場合は、既に財物を得ている以上、暴行・脅迫の時点で直ちに既遂に達しますが、逮捕を免れ又は罪証を隠滅するための場合は、暴行・脅迫を加えても、その段階で犯人が財物を得ておらず、その後も財物を得なかったならば未遂にとどまるとします。

(3) 暴行・脅迫

①暴行・脅迫の程度

事後強盗罪における暴行・脅迫は、強盗罪との同質性・類似性を担保するという観点から、強盗罪と同様に、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものでなければならないと解されています。

被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであるか否かは、具体的状況の下における暴行・脅迫を客観的に考察して決すべきとされ(最判昭24.2.8刑集3・2・75)、その判断に当たっては、暴行・脅迫の内容のほか、犯行の時刻・場所、犯人及び被害者の数・年齢・性別・体格等を総合考慮しなければならないとされています。

しかし、被害者が現実に反抗を抑圧されたことは必要ではないとされています(最判昭23.11.18刑集2・12・1614)。

②暴行・脅迫の相手方

その相手方は、窃盗の被害者に限らず、追跡してくる目撃者(大判昭8.6.5刑集12・648)や逮捕しようとする警察官(最判昭23.5.22刑集2・5・496)でもよいのです。

しかし、あくまでも、行為者は、238条所定の3つの目的を達成することを意図して、暴行・脅迫に出るわけですから、上記1の事後強盗罪の本質に照らし、暴行・脅迫の相手方については、当該暴行・脅迫と窃盗犯人の目的との間に関連性が必要であると解されています。

したがって、当該窃盗事実と全く無関係な者に対する暴行・脅迫は、事後強盗罪を構成しないことになります。

(4) 窃盗の機会

事後強盗罪の成立を認めるためには、窃盗犯人による暴行・脅迫は、窃盗の機会に行われる必要があります。

そして、「窃盗の機会」といえるためには、窃盗行為と暴行・脅迫との間に強盗罪として扱うことを正当化し得る密接な関連性が必要であると解されています。

そのため、「窃盗の機会」とは、窃盗行為と暴行・脅迫が時間的・場所的接着性があり、暴行・脅迫時において、被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況が継続していたことをいうとされています。

ところで、後掲平成14年判例の担当調査官は、「窃盗の機会」に関する裁判例を分析して

①窃盗の現場から継続的に追跡されているケース
②窃盗の現場に犯人が舞い戻ったケース(いわゆる現場回帰型)
③窃盗の現場に犯人がとどまるケース

に整理できるとし、各ケースについて解説しています(最高裁判所判例解説刑事篇平成14年度55頁、特に60頁以下)。

①のケースについては、窃盗の機会継続性は比較的容易に肯定されます(最決昭34.3.23刑集13・3・391)。

すなわち、犯人が犯行の現場から連行ないし引き続き追跡されているときは、この要件は比較的緩やかに解してよく、例えば、進行中の電車内で車掌によって現行犯人として逮捕されたすりの犯人が、約5分後に到着した駅のプラットホームを警察官への引渡しのため連行されている際、逃走のためその車掌に暴行を加えたときは、逮捕を免れるための暴行に当たり、事後強盗罪が成立するとしています。

②のケースについては、例えば、窃盗犯人がいったん、窃盗の現場を離れ、約30分後に再度窃盗をする目的で現場に引き返し、侵入したところ、家人に発見され、逮捕を免れるために、ナイフで脅迫した行為は、窃盗の機会の継続中に行われたとはいえないとされます(最判平16.12.10刑集58・9・1047)。

この平成16年判例の事案では、

「被告人は、財布を窃取した後、誰からも発見、追跡されることなく、いったん犯行現場を離れ、約1km離れた公園で、ある程度の時間を過ごしているため、この間に、被告人が被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況はなくなったといえるから、再度現場に戻った際に、家人にナイフで脅迫した行為は、窃盗の機会の継続中に行われたものということはできない」

としています。

③のケースについては、例えば、窃盗犯人が被害居宅の天井裏に潜み、犯行の約3時間後に駆け付けた警察官に暴行を加えたときは、窃盗の機会になされたと認められるとしています(最決平14.2.14刑集56・2・86)。

この平成14年判例の事案では、

「窃盗の犯行後も、天井裏という犯行現場の直近の場所にとどまったため、被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況が継続していたといえるから、窃盗の機会の継続中と認められる」

としています。

3.事後強盗罪と窃盗罪、強盗罪の比較

事後強盗罪は、上述のとおり、窃盗犯人のみが起こし得る犯罪です。窃盗罪(235条)は、他人の財物を窃取する犯罪ですが、その刑罰は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。

強盗罪(236条)は、暴行・脅迫を手段として財物・利益を奪取する犯罪ですが、その刑罰は事後強盗罪と同様、5年以上の有期懲役となっています。事後強盗罪及び強盗罪には、罰金刑はありませんので、いずれも窃盗罪に比し、相当に重い犯罪ということになります。

事後強盗罪と窃盗罪は、いずれも窃盗犯人が主体ですが、強盗罪はそうではありません。

また、被害者の意思に反して財物の占有を奪取する点では、事後強盗罪、窃盗罪と強盗罪は共通していますが、事後強盗罪が暴行・脅迫を目的達成のために行われることを要求し、強盗罪が暴行・脅迫を財物奪取の手段として要求している点において、事後強盗罪と強盗罪では区別され、さらに、暴行・脅迫が要件とされていない窃盗罪との大きな相違点でもあります。

なお、窃盗の実行に着手後、居直って更に財物を強取した場合を居直り強盗といっていますが、この場合は、居直って暴行・脅迫を加えたときに強盗罪の実行の着手がありますので、1項強盗罪が成立し、先行する窃盗(未遂)罪はこれに吸収されることになります。

事後強盗罪と居直り強盗罪とは、行為者が暴行・脅迫を加えた目的によって区別されるのです。

4.(事後)強盗致傷罪の具体例

下記の⑴⑵の事例では、いずれも(事後)強盗致傷罪(240条前段⇒無期又は6年以上の懲役)が成立します。

  1. スーパーで万引きをしたところ、犯行を目撃した警備員(又はスーパーの客)に捕まりそうになったため、逃げるために、警備員に怪我を負わせた場合。
  2. 空き巣に入り、タンスを物色していたところ、家人に見つかり、捕まりそうになったため、逃げるために、家人に怪我を負わせた場合。

5.まとめ

軽い気持ちで窃盗・万引きをして、見つかった場合に、気が動転してしまい、捕まりたくなくて、逃げるために誰かに怪我を負わせてしまうことがあるかもしれません。

それは(事後)強盗致傷罪に当てはまり、非常に重い罪になります。怪我を負わせない場合でも、事後強盗罪として重く処罰されます。

財産事件・暴行事件も、実務経験が豊富な泉総合法律事務所の弁護士にお早めにご相談ください。

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