財産事件 [公開日]2018年2月5日[更新日]2019年11月21日

判例から見る事後強盗罪について。窃盗罪・強盗罪との違いとは?

事後強盗という用語を聞いたことがある人も、聞きなれない人もいると思います。

事後強盗罪とはどのような犯罪なのでしょうか。窃盗罪や強盗罪とは何が違うのでしょうか。

以下においては、事後強盗罪の本質・意義、事後強盗罪の成立要件、事後強盗罪と窃盗罪・強盗罪との違い、(事後)強盗致傷罪の具体例などに触れながら、事後強盗罪について解説することとします。
なお、以下の刑法における条文は、単に条文番号のみを掲げています。

1.事後強盗罪について

事後強盗罪(38条)は、窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪証を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたとき、強盗として論ずることとしたものです。
事後強盗罪に当たれば、5年以上の有期懲役刑に処せられます。

そして、事後強盗罪の主観的要件とされている3つの目的(財物取還を防ぐ目的、逮捕を免れる目的、罪証を隠滅する目的のどれか一つあるいは複数)の内容等から、事後強盗罪の本質は、「窃盗の現場で生じた被害者等による犯人の追跡・追及(又はその可能性)を窃盗犯人が暴行・脅迫を用いて回避すること」にあると考えられています。

ところで、事後強盗罪は、本来の強盗罪(236条)ではありませんが、強盗罪との同質性・類似性から、「強盗」として処理すべき類型とされています。

よって、事後強盗罪は、昏睡強盗罪(人の意識作用に傷害を生じさせて、財物を盗取、239条)とともに「準強盗罪」と呼ばれています。

2.事後強盗罪の成立要件

(1) 主体

事後強盗罪の主体は窃盗犯人、すなわち、窃盗の実行に着手した者をいいます。
既遂であると未遂であるとは問わないとされています。

(2) 既遂・未遂の区別

事後強盗罪は、未遂犯も処罰されます(243条参照)。そのため、事後強盗罪の既遂・未遂の区別の基準も問題となります。

通説及び判例(最判昭24.7.9刑集3・8・118)は、事後強盗罪の主眼が財産犯であるということから、窃盗の既遂・未遂を基準に考えています。

すなわち、犯人が財物を得なかった場合は、たとえ逮捕を免れ又は罪証を隠滅するために被害者等に暴行を加えても、事後強盗罪は未遂にとどまるということです。

(3) 暴行・脅迫

①暴行・脅迫の程度

事後強盗罪における暴行・脅迫は、強盗罪との同質性・類似性を担保するという観点から、強盗罪と同様に、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものでなければならないと解されています。

被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであるか否かは、具体的状況の下における暴行・脅迫を客観的に考察して決すべきとされ(最判昭24.2.8刑集3・2・75)、その判断に当たっては、暴行・脅迫の内容のほか、犯行の時刻・場所、犯人及び被害者の数・年齢・性別・体格等を総合考慮しなければならないとされています。

しかし、被害者が現実に反抗を抑圧されたことは必要ではないとされています(最判昭23.11.18刑集2・12・1614)。

つまり、上記のような暴行・脅迫が加えられれば、たとえ被害者が強靭な精神力を持っており、反抗が抑圧されなかったとしても、事後強盗罪の成立を妨げないということです。

②暴行・脅迫の相手

その相手方は、窃盗の被害者に限らず、追跡してくる目撃者(大判昭8.6.5刑集12・648)や逮捕しようとする警察官(最判昭23.5.22刑集2・5・496)でも良いです。

しかし、あくまでも、行為者は、238条所定の3つの目的(財物取還を防ぐ目的、逮捕を免れる目的、罪証を隠滅する目的)を達成することを意図して、暴行・脅迫に出るわけですから、暴行・脅迫の相手方については、当該暴行・脅迫と窃盗犯人の目的との間に関連性が必要であると解されています。

したがって、当該窃盗事実と全く無関係な者に対する暴行・脅迫は、事後強盗罪を構成しないことになります。

(4) 窃盗の機会

事後強盗罪の成立を認めるためには、窃盗犯人による暴行・脅迫は、窃盗の機会に行われる必要があります。

そして、「窃盗の機会」といえるためには、窃盗行為と暴行・脅迫との間に強盗罪として扱うことを正当化し得る密接な関連性が必要であると解されています。

そのため、「窃盗の機会」とは、窃盗行為と暴行・脅迫が時間的・場所的接着性があり、暴行・脅迫時において、被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況が継続していたことをいうとされています。

ところで、窃盗の機会は以下に整理できるとされます。

①窃盗の現場から継続的に追跡されているケース
②窃盗の現場に犯人が舞い戻ったケース(いわゆる現場回帰型)
③窃盗の現場に犯人がとどまるケース

①のケースについては、窃盗の機会継続性は比較的容易に肯定されます。判例は、電車内で現行犯人として逮捕されたすりの犯人が、約5分後に到着した駅で連行されている際、逮捕した車掌に暴行を加えたときは、窃盗の機会に当たり、事後強盗罪が成立するとしています(最決昭34.3.23刑集13・3・391)。

②のケースについては、窃盗犯人がいったん窃盗の現場を離れ、約1キロ離れた公園で約30分過ごし、その後再度窃盗をする目的で現場に引き返し侵入したところ家人に発見され、逮捕を免れるためにナイフで脅迫した行為は、窃盗の機会の継続中に行われたとはいえないとされます(最判平16.12.10刑集58・9・1047)。

③のケースについては、窃盗犯人が被害居宅の天井裏に潜み、犯行の約3時間後に駆け付けた警察官に暴行を加えたときは、窃盗の機会になされたと認められるとしています(最決平14.2.14刑集56・2・86)。

3.事後強盗罪と窃盗罪、強盗罪の違い

強盗罪(236条)は、暴行・脅迫を手段として財物・利益を奪取する犯罪ですが、その刑罰は事後強盗罪と同様、5年以上の有期懲役となっています。
事後強盗罪及び強盗罪には、罰金刑はありませんので、いずれも窃盗罪と比べ、相当に重い犯罪ということになります。

また、被害者の意思に反して財物の占有を奪取する点では、事後強盗罪、窃盗罪と強盗罪は共通していますが、事後強盗罪が暴行・脅迫を3つの目的(財物取還を防ぐ目的、逮捕を免れる目的、罪証を隠滅する目的)達成のために行われることを要求し、強盗罪が暴行・脅迫を財物奪取の手段として要求している点において、事後強盗罪と強盗罪では区別されます。

さらに、これが暴行・脅迫が要件とされていない窃盗罪との大きな相違点でもあります。

[参考記事]

強盗罪を徹底解説!恐喝罪・窃盗罪との違い、強盗致傷罪とは?

4.まとめ

軽い気持ちで窃盗・万引きをして、見つかった場合に、気が動転してしまい、捕まりたくなくて、逃げるために誰かに怪我を負わせてしまうことがあるかもしれません。

それは(事後)強盗致傷罪に当てはまり、非常に重い罪になります。怪我を負わせない場合でも、事後強盗罪として重く処罰されます。
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