暴力事件 [公開日]2017年8月14日[更新日]2021年10月8日

脅迫罪と恐喝罪の違い|要件や時効、刑罰など

脅迫罪と恐喝罪。要件、刑罰の違い、逮捕されてからの弁護を解説!

暴力事件の一種としてよく耳にする「脅迫罪」と「恐喝罪」ですが、「『脅迫』や『恐喝』の違い」「脅迫行為・恐喝行為とはどのようなものなのか」をご存知でしょうか。

酔った勢いや、ついかっとなってしまったなど、「脅迫罪・恐喝罪で検挙されてしまった」と弁護士相談に来られる方は実は多くいます。

ここでは、脅迫罪と恐喝罪、その他似たような犯罪(強要罪)の違いや、そのような犯罪を犯して被疑者(加害者)として逮捕されてしまった場合にどうすれば良いのか、弁護士に弁護依頼をするとどのような弁護活動がされるのかという流れまでを徹底解説します。

「脅迫罪」や「恐喝罪」に問われてしまっている被疑者の方やその家族は、ぜひご一読ください。

1.脅迫罪と恐喝罪

(1) 脅迫罪とは

脅迫 刑法第222条
一 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
二 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

このように、「脅迫」とは、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知」することをいいます。

例えば「殴るぞ、殺してやる。」などと恫喝(どうかつ)し、相手に恐怖感を与えることが典型です。
また、相手自身ではなく、相手の親族の「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知」した場合にも成立します。

脅迫罪は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。

害悪を告知して恐怖心を生じさせる行為は、多くの場合、それによって被害者に何らかの行動を実行させたり、実行を諦めさせたりする目的で行われます。それ故、脅迫罪は「人の意思決定の自由」を保護法益とする犯罪と理解する考え方が有力です。

ただ刑法は、害悪を告知する行為それ自体を処罰対象としており、被害者の意思決定を侵害する目的や実際に侵害されたことを犯罪の成立要件とはしていません。このため安全感・安心感・私生活の平穏が保護法益であると理解する立場も少なくありません。

いずれにしても、害悪を告知しただけで犯罪が成立し、実際に被害者が恐怖を感じたか否か、被害者の何らかの意思決定が害されたか否かは、犯罪の成否には無関係であることは注意を要します。

【「死んでやる」は脅迫罪?】
条文で規定されているとおり、害悪を加えるとする相手方は被害者本人または被害者の親族に限られています。「死んでやる」といった場合の「死ぬ」対象は告知者本人となります。そのため、「死んでやる」というだけでは、脅迫罪は成立しないことになります。
これと同様の理由で、「お前の友人のAを殺すぞ」や「あなたの恋人のBが大切にしているブランド品を壊すぞ」という発言も、脅迫罪には該当しないことになります。
もっとも、「お前の自宅で焼死してやる」となれば、被害者の生命・身体あるいは財産への危害が告知されていると言えるようにもなります。

(2) 恐喝罪とは

恐喝 刑法249条
一 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
二 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

「恐喝」とは、相手の犯行を抑圧しない程度の暴行・脅迫により被害者を畏怖させて財産を交付させることをいいます。「殴られたくなければ金を出せ」と言い、相手に金を払わせたというような行為は、典型的な脅迫による恐喝に当たります。

また、貸したお金を返してほしいと相手に請求をしたというような場合にも、その手段が暴行や行き過ぎた脅かしであり、社会的に相当でなく権利行使として許される範囲を超えると評価される場合は恐喝になってしまう場合があります。

恐喝罪は、10年以下の懲役に処せられます(刑法249条1項)。罰金刑はありません。
相手を畏怖させるだけでなく、財産的被害も生じさせることに向けられていることから、法定刑も脅迫罪よりも重くなっています。

すなわち恐喝罪における暴行・脅迫は違法に財産を得るための手段であり、その主たる保護法益は被害者の財産権なのです。

(3) 脅迫罪と恐喝罪の違い(財産的被害の有無)

脅迫罪と恐喝罪、いずれの犯罪も「相手を脅迫する」という点では共通しています。

しかし、前述のとおり、脅迫罪は害悪を告知すること、それ自体が犯罪であるのに対し、恐喝罪は財産犯であり、害悪の告知は恐怖させて財物を交付させることに向けられている必要があります。

また、法定刑が重い恐喝罪には罰金刑がないため、起訴をされた場合は公開の法廷で正式な刑事裁判を受けなくてはなりません。

一方、脅迫罪には罰金刑があるため、正式な裁判には発展せず書面だけの手続きで罰金を命じられる略式手続で済む場合があります。

[参考記事]

略式起訴・略式裁判で知っておくべきこと|不起訴との違い

脅迫罪 恐喝罪
構成要件 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知すること。 相手を犯行を抑圧しない程度の暴行・脅迫で畏怖させて財産を交付させること。
刑罰 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金 10年以下の懲役
公訴時効 3年 7年
未遂罪の有無

(4) 恐喝罪と強盗罪の違い

相手を脅迫して物を奪った場合には、恐喝罪ではなく「強盗罪」が成立する場合もあります(刑法第236条)。

「恐喝」は、犯行を抑圧されない程度の暴行・脅迫によって、恐れつつも一応は相手の意思で物を交付する場合に成立するのに対し、「強盗」は、相手の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫によって「強取」、つまり相手に有無を言わせず物を奪う犯罪です。

恐喝と強盗の境界線は、手段として行われた暴行・脅迫が犯行を抑圧する程度に至っているか否かによるわけです。

暴行脅迫の程度を判断する際に考慮されるのは,被害者の性別・年齢、事件の場所・時間帯、暴行や脅迫の内容などの具体的な諸事情です。つまり、同じ言葉を言って脅迫する場合でも、被害者の性別や時間帯、周囲の環境などが異なれば、成立する犯罪が異なることもあり得ます。

例えば、①日中、人の多い場所で、体格の良い成人男性に対し、素手の犯人が「金を出さないと殴るぞ」と申し向けたケースと、②深夜、人気のない公園で、小柄な女性に対し、凶器をもった男性犯人が「金を出さないと殴るぞ」と申し向けたケースでは、同じ脅迫文言であっても、前者は恐喝罪、後者は強盗罪と結論が異なるのです。

このように、脅迫行為が恐喝、強盗のいずれにあたるかは具体的な諸事情から客観的に判断されますので、犯人が犯行を抑圧するまでの意思はなく、単なる恐喝のつもりで脅迫したつもりでも、客観的に当該脅迫行為が犯行を抑圧する程度に達していると評価されれば、強盗罪が成立することもあるということです。

犯人が自己の脅迫行為を恐喝だと思っていても、法的評価の誤解が犯罪の成否に影響することはないからです。

(5) 脅迫罪・恐喝罪と強要罪の違い

強要罪は、生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した場合に成立する犯罪です(刑法第223条)。

脅迫罪、恐喝罪と同様、相手を脅迫した場合に成立することがある犯罪ですが、強要罪は、義務のないことを行わせる手段として脅迫がなされた場合に成立します。

例えば、相手に害悪を告知して土下座を無理に求める行為は強要罪にあたる可能性があります。

脅迫して相手に財産を交付させた場合は、恐喝罪と強要罪いずれにも該当する行為ですが、恐喝罪は財産の交付という義務なき行為を強要するという意味で、強要罪の特別な形という性格があるので、法条競合(※)により、恐喝罪だけが成立します。

※法条競合とは、ひとつの行為が2つの構成要件に該当し、法律の条文が競合する場合に、両罪の関係から、ひとつの構成要件のみが適用される場合を指します。

2.脅迫・恐喝を行ってしまった際に取るべき行動

(1) 釈放・不起訴のための弁護士依頼

脅迫罪や恐喝罪を犯してしまい、被害者が警察署に被害届を提出したケースでは、「逮捕」されることがあります。

逮捕されると、留置場や拘置所で最大23日間、身体拘束されることになり、会社の解雇や退学などの危険にさらされます。

そのような事態にならないように、脅迫・恐喝で逮捕されたら直ちに弁護士に刑事弁護を依頼し、被害者との示談交渉などの早期釈放にむけた弁護活動を依頼してください。

泉総合法律事務所では、逮捕直後に弁護を依頼いただければ、検察官に身元引受書や上申書、弁護士意見書を提出して、裁判所へ勾留請求しないように働きかけます。同じように、裁判官にも勾留を決定しないように働きかけます。

また、勾留が決定された場合にも、諦めずに準抗告を申し立て、裁判官が下した勾留決定の取り消しを求めます。

弁護活動は、それだけにとどまりません。

脅迫罪・恐喝罪は、いずれも被害者がいる犯罪です。脅迫による精神的な苦痛や、恐喝罪で奪われた財産相当の損害が生じています。

被疑者は民事上の責任として慰謝料の支払いや被害弁償をする義務を負っていますから、弁護士が被害者との示談交渉を行って、示談金の支払で被害を賠償するとともに、被害者から許しを得る示談を成立させることが非常に重要です。

(2) 示談交渉

起訴、不起訴を決めるにあたって、検察官は、被疑者が被害者に対して被害回復の措置をしたかどうか、それによって被害者の処罰感情が沈静化されたか否かを重視します。

初犯であれば、被害者との示談が成立していれば、脅迫罪についてはよほど特別の事情がない限り不起訴となる可能性が高いでしょう。

恐喝罪の場合も、不起訴となる可能性は十分にあります(もっとも、犯行態様や被害金額次第です)。

示談金の相場は一概には言えませんが、刑事弁護の経験豊富な弁護士であれば、過去の例から適正な金額を判断できますので、弁護士とよく相談することをお勧めします。

3.罰金でも前科!前科回避のため泉総合法律事務所へ

前科で経歴にキズをつけることは、皆さんが思っている以上に大きな悪影響を及ぼすものです。

もし、脅迫や恐喝行為を行ってしまい検挙されたら、刑事弁護の経験が豊富な弁護士に刑事弁護を依頼することをお勧めします。

泉総合法律事務所は、どの弁護士も様々な刑事事件の弁護活動に携わってきており、示談交渉も多数の成功事例があります。脅迫・恐喝の弁護実績も豊富ですので、どうぞ安心してご相談ください。

[事例119] 職場同僚の女性とその夫に対して暴言メールを送り脅迫罪、勾留→身柄解放、不起訴処分
[事例41] 被害者から「ナイフで脅した」と主張されるも否認

刑事事件コラム一覧に戻る