暴力事件 [公開日]2018年1月31日[更新日]2021年1月28日

過剰防衛・緊急避難とは?正当防衛との違い

刑法上、自己又は他人の権利を守るためにやむを得ずにした行為について「正当防衛」が認められる可能性があることは、ご存知の方が多いと思います。

ここでは、その「正当防衛」と混同されがちな「過剰防衛」「緊急避難」について、その要件や判例の動向を解説します。

ちなみに、正当防衛については、下記のコラムをご覧ください。

[参考記事]

どこまでが正当防衛か?要件を事例・判例から解説

1.過剰防衛とは

過剰防衛とは、防衛の程度を超えた行為をいいます。

刑法36条2項
防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

「防衛の程度を超えた」(36条2項)とは、急迫不正の侵害に対して防衛の意思で反撃行為をしたが、その行為が「やむを得ずにした」とは認められない場合、すなわち、防衛の相当性の要件を欠くことをいいます。

過剰防衛は正当防衛の要件を満たさないので違法性は阻却されず、犯罪が成立しますが、情状によって、刑の減軽又は免除を受けることができます。

必ず減軽・免除されるというのではなく、裁判官の裁量によって、このような扱いを受けることも可能ということです。

減軽・免除を受ける理由には議論があり、①相手からの攻撃による恐怖、緊張、驚愕、狼狽のもとでは過剰な反撃も無理からぬ場合があり、強く非難することはできず責任が減少する(判例・通説)、②不正な侵害者の法益は保護の必要性が低いので違法性が減少する(有力説)などと説明されています。

質的な過剰と量的な過剰

過剰防衛には、素手による攻撃に対して刃物で反撃して死亡させるような「質的な過剰」があります。判例には、下駄で打ちかかってきた相手を匕首で刺し殺した行為を過剰防衛としたものがあります(大判昭8・6・21大刑集12・834)。

一方、反撃によって相手の侵害が終了したにもかかわらず、なお反撃を続ける「量的な過剰」もあります。

量的な過剰については、途中で急迫不正の侵害は存在しなくなっているので、これを過剰防衛として刑の減免を適用できるかどうかが問題となります。

判例では、最判昭34.2.5(刑集13・1・1)が、被告人が防衛行為に出た後、既に侵害態勢が崩れて横倒しになった被害者に対して、更なる追撃行為に出た結果、被害者を死亡させた事案に関し、「被告人の本件一連の行為」が全体として過剰防衛に該当すると判断しています。

ポイントは、最初の反撃行為と、不正の侵害が終了した後の反撃行為を、全体として一体の行為と評価できるか否かです。

一体の行為と評価できれば、「全体として防衛行為ではあるが過剰なもの」として過剰防衛を適用し、刑の減免が可能となります。

逆に一体の行為と評価できなければ、不正の侵害が終了した後の反撃行為は、「そもそも防衛行為ですらないもの」なので、過剰防衛は適用できず、刑の減免は認められません。

判例では、2つの行為が、時間的・場所的に密接し、ひとつの意思に貫かれている(意思の連続性がある)場合でなければ、一体の行為とは評価できないとしたものがあります(最判平20.6.25・刑集62・6・1859)。

2.緊急避難とは

(1) 緊急避難の意義

緊急避難とは、自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為であって、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えないものをいい、処罰されません(37条1項)。

正当防衛は、違法な侵害に対して反撃する「正対不正」の関係にある行為であるのに対し、緊急避難は、第三者の正当な利益を犠牲にするものであって、「正対正」の関係にある点において本質的な差異があります。

「カルネアデスの板」の話(古代ギリシャの哲人カルネアデスが挙げた、船が難破して海中に投げ出された者が1人を支える浮力しかない板から他人を突き落として助かることが許されるかという例)は、このような緊急避難の特徴を端的に示すものです。

緊急避難が処罰されない理由については議論があり、①法益を守るために、それと同等か又はそれより小さな法益を犠牲にすることは違法ではないとする考え(違法性阻却事由説)、②緊急事態においては他人の法益を犠牲にしてしまうことも無理からぬものがあり責任がないとする考え(責任阻却事由説)などがあり、①が通説とされています。

(2) 緊急避難の要件

①自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難があること

危難にさらされる法益は、法文が列挙する「生命、身体、自由又は財産」(37条1項)に限られず、貞操、名誉等も含まれます。

②避難行為が危難を避けるためにやむを得ずにした行為であること

避難行為は、「やむを得ずにした行為」であることを要します。

ここで「やむを得ずにした行為」とは、その危難を避けるために必要な唯一の方法であって、他に方法がなかったことです。

他に方法がない場合に限って補充的に許されるという意味で、これを「補充の原則」といいます。そのため、その場から逃げることで法益保護が図れるのに避難行為を行った場合には、緊急避難は成立しません。

③避難行為によって生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと

これを、「法益権衡の原則」といいます。したがって、価値の大きい法益を救うために価値の小さい法益を犠牲にすることは緊急避難として許されます。

例えば、強盗犯人から逃れるため他人の家に飛び込むことは、生命身体の安全と財産権という高い法益を守るために、他人の住居の平穏という、より価値の低い法益を犠牲にしており、緊急避難が成立します。

また、価値の等しい一方の法益を救うために他方の法益を犠牲にすることも緊急避難として許されます。

例えば、隣家の飼い犬に噛み殺されそうになった自分の飼い犬を救うため、隣家の飼い犬を撲殺したが、両犬の経済的な価値は同じであったときは財産権を守るために同等の財産権を犠牲にしたものとして法益権衡の原則を満たし緊急避難として許されます。

しかし、価値の小さい法益を救うために価値の大きな法益を犠牲にすることは許されません

例えば、車の跳ね上げた泥水によって自分の高価な服が汚れるのを防ぐために、泥水を避けようとして、隣を歩いている人を突き飛ばして怪我をさせた場合、財産権を守るために、人の身体の安全という、より価値の高い法益を犠牲にしており、緊急避難は成立しません。

なお、法益の価値の大小の比較が困難なときもありますが、具体的事情により社会通念により合理的に決するほかはありません。

3.まとめ

以上が、「過剰防衛」「緊急避難」についての解説です。

刑事事件には思わぬところで巻き込まれてしまうものです。
正当防衛のつもりで行動しても、それが過剰防衛と見なされ逮捕されてしまうことがあるかもしれません。過剰防衛か否か、緊急避難が成立するか否か等は、厳密な法的判定が必要であり、法律の専門家でなくては、その見極め、見通しがつきません。

過剰防衛行為や緊急避難行為をしてしまった方は、お早めに刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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