暴力事件 [公開日]2017年6月30日[更新日]2019年11月19日

殺人未遂とは?要件と量刑判断の要素を解説

殺人未遂で逮捕」と聞くと、通り魔、ストーカー、テロなどといった凶悪犯を想像し、何年もの懲役に課せられるような、量刑の重い犯罪だと想像するのではないでしょうか。

しかし、一口に殺人未遂といっても、実は様々なものがあります。例えば、DVに耐えかねて反射的に刺してしまったなどでも、「殺人未遂」となりえます。動機や実際に生じた結果の大小等の事情が、処罰に反映される可能性は多々あります。
そのため、「殺人未遂」でも量刑が軽くなったり、場合によっては執行猶予がついたりすることもあります

今回は、殺人未遂の成立要件、量刑、執行猶予について解説したいと思います。
なお、執行猶予に関しては、以下の記事を参考にしてください。

[参考記事]

執行猶予とは?執行猶予付き判決後の生活|前科、仕事、旅行

1.殺人未遂の成立要件

殺人未遂は人を殺そうとして人に何らかの危害を加えたが死ななかった場合に成立します(刑法43条、199条、203条)。対象は「人」ですから、生まれた後の赤ちゃんを殺すことも殺人未遂に該当します。

人を殺す行為は、死の結果が生じる現実的危険性を有する必要があります。例えば、ナイフで刺す、銃を発砲するといった行為です。

一方、人が死ぬよう呪いをかける儀式などは、死の現実的危険性を有しないと判断され、殺人罪はおろか殺人未遂も成立しません(もっとも、脅迫罪が成立する可能性はあります)。

また、殺人未遂罪の成立には殺意が必要とされます。すなわち、殺すつもりがなければ、殺人未遂は成立しないということです。当然のようですがこれは重要です。

理論的には、どれだけ重傷を負っても、殺意がなければ、傷害致死罪にとどまり殺人罪が成立することはありません。
一方で、殺意があれば、たまたま被害者が無傷であっても、殺人未遂が成立します。例えば、被害者に狙いを定めて発砲したが、たまたま当たらなかったような場合です。

殺意がない場合、傷害致死の他に傷害罪(204条)、暴行罪(208条)、過失致死傷罪(209条、210条)が成立する余地があります。

【殺意の認定規準】
ただ、加害者が殺すつもりがなかったと言えば、罪を免れられるわけではなく、様々な要素を考慮して殺意は認定されます。
具体的には、刺した部位(頭部や上半身)、暴行の態様(程度や執拗さ)、行為中の言動(「死ね」とか「殺す」などの言動)、行為後の行動(瀕死状態の被害者を置き去りにする)などを考慮して判断されることになります。殺意は行動に反映されているという発想です。
なお、殺すつもりというのは、何が何でも殺すという意思までは必要なく、「死んでもかまわない」という程度の意思でも、殺意ありとされます。

2.殺人未遂の刑期・刑罰を決める(量刑)要素

殺人未遂罪は、刑法上は、殺人既遂罪と同じ刑期が定められており、「死刑又は無期懲役若しくは5年以上の有期懲役」とされています(199条)。

執行猶予は、3年以下の懲役刑を宣告する場合でなければ付すことができないため(25条1項)、懲役刑となる場合殺人未遂罪には執行猶予が付けられなさそうに見えます。

しかし、未遂の場合は刑を減軽することが可能(43条)であり、その他にも、死刑又は無期懲役、5年以上という刑があまりにも重すぎると裁判所が判断すれば、情状酌量による減軽(66条)もなされます。

減軽されることにより、懲役刑の場合は刑期の最長期間(個別条文に書いてない場合は20年)と最短期間(個別条文に書いてない場合は1カ月)がそれぞれ半分とされた上でその範囲内で量刑が決められることになりますから、殺人未遂罪で3年以下の懲役刑が宣告される場合はありうるわけです。

実際、平成27年度の地方裁判所で言い渡された殺人未遂の判決は122件ありましたが、そのうちの43件は執行猶予が付されています。これは、3分の1以上の割合で減軽された上で執行猶予が付いていることになります。

殺人未遂罪の刑期を決する要素としては、

  • 犯行の動機
  • 犯行の計画性
  • 犯行の態様・被害の程度等
  • 前科前歴の有無

などがあります。

(1) 動機について

例えば、DVや性的虐待を受け、被害者からの精神的苦痛が甚大である場合、他にも、いわゆる介護疲れや育児疲れといった場合にも、刑期が短くなったり、執行猶予が付いたりする可能性があります。

一方で、通り魔などの快楽犯や社会への不満から行われるテロのようなものについては、被害者側の落ち度がまったくなく、加害者に同情すべき点もない身勝手な犯行であることから、刑期が長くなる傾向になります。

(2) 犯行の計画性について

これは、殺意の程度によって刑期が変わることから考慮される事情です。犯行が計画的・用意周到であればあるほど、強固な殺意があったということになり、量刑が重くなります。

一方で、例えば、相手に挑発されて橋から突き落としてしまったというような場合には、激情から行為選択を誤ってしまった部分もあることから、計画的犯行に比べて、非難の程度が下がり、量刑が軽くなると考えられています。

(3) 行為の態様や被害の程度、被害感情、示談について

たとえば、執拗に刃物で刺したり、逃げ回る被害者を追いかけたりすれば、量刑が重くなるのは明らかでしょう。

凶器を使ったかどうかのほか、被害者が死ななかったのは抵抗したから可哀想になって攻撃をやめたからか、出血等にびっくりして攻撃を続けられなかったからか、殺そうと思って攻撃したがたまたま死ななかっただけなのか、などの事情も考慮されます。

特に、被害者にとどめをさせたのに加害者があえてこれをしなかった場合には、必ず刑を減軽するか免除するかすることが法定されています(刑法43条但書)

また、同じ態様であっても、被害者の怪我が重ければその分だけ量刑は重くなります。後遺症が残り車いす生活を余儀なくされた場合と、無傷の場合では、被害者の加害者に対する非難の感情は異なるでしょう。

被害の大きさは、被害感情にも関わってきます。示談の有無についても同様です。
人の命はお金に代えられるものではありませんが、慰謝の措置を講じたかどうかは、量刑の重さに強く影響します。

(4) 初犯かどうか

前科前歴のある人とない人では、量刑の重さは異なります。同じような犯罪を以前にも行なっていた場合には、より深い反省と矯正が必要と考えられるため、量刑は通常より重くなります。

3.刑期を短くしたい、執行猶予をつけたい場合の主張

殺人未遂において減軽されるためには、上記のポイントについて十分な弁護活動を行うことの他に、いくつかのポイントがあります。

(1) 正当防衛、過剰防衛の主張

被害者から先に暴力を振るわれ、防衛のために殺人未遂にあたる行為が行われた場合、正当防衛の主張(36条1項)をすることが考えられます。正当防衛が認められれば、そもそも罪には問われず無罪になります。

しかし、防衛のために人を殺傷するほどの行為を行なわなければならないほどの窮地は想定しがたく、仮に防衛の必要が認められたとしても反撃の程度が重すぎるとして過剰防衛(37条2項)になるケースは多いと思われます。
ただ、過剰防衛であっても刑が減軽される可能性が高く、刑の免除の可能性もあります。

(2) 殺意自体を否定する

上述したように、殺人未遂罪を判断する上では殺意が最も重要な争点になります。

当時の感情、被害者との関係、怪我の程度、暴行の態様から、殺意が否定される場合も多くあります。また、殺意が認定されたとしても、殺意の程度によって刑期は異なりますので、加害者の当時の意思状況を明らかにすることは、重要な弁護活動です。

もっとも、客観的な事情、証拠から主観的な意思を推認することになるので、まずもって、当時の状況を明らかにしていく必要があります。

(3) 早期の弁護士への依頼(刑事弁護、示談交渉)

殺人未遂は重罪の部類に入りますので、必ず弁護士を付けるべき案件です。軽い傷害罪で逮捕された場合も同様です。

というのも、たとえ殺意がなくとも、行為が客観的に死の危険性の高い態様であれば、捜査機関は加害者に殺意があったものと疑い、殺人未遂として起訴することを視野に捜査される危険性が高まるためです。

意に反して殺意があったことを認めさせられることを避けるためには、捜査機関が不当な自白強制を行わないよう弁護士が取り調べ状況を監視することが有効です。

また、示談や被害弁償については、原則として弁護士でなければできません(当事者同士の示談交渉は感情的衝突の恐れがあり不可能と言って良いでしょう)。
そして、殺人未遂である以上、被害感情が大きいことが一般的であり、謝罪しないまま時間が空けば空くほど、被害者の印象は悪くなります。

被害者の心象が悪くなると、そもそも示談のための連絡先を教えてもらえないという事態も生じ得ます。重大事件であればあるほど、早めの弁護活動開始が必須なのです。→示談したい

4.刑事事件の相談、示談交渉は泉総合法律事務所へ

殺人未遂について解説しましたが、実際「こんなことで殺人未遂になるのか」と思われるようなケースもあり、そのまま起訴されれば、裁判員裁判となるだけでなく、実刑判決の可能性も秘めている犯罪類型です。できることならば、早期に示談を行うことで起訴前に処分を軽くするのに有利な事情を揃えておきたいところです。

量刑の重さや、執行猶予が付くか否かは、今後の人生を大きく左右するものとも言えます。弁護士としてできる弁護活動は多くありますので、もし殺人未遂を疑われた場合には、とにかく早めに弁護士を探し、示談交渉を含めた刑事弁護を依頼しましょう。

泉総合法律事務所では、刑事事件の初回無料相談を受け付けています。先述の通り、お困りの方はどうぞお早めにご連絡ください。

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