暴力事件 [公開日]2018年5月22日[更新日]2023年4月21日

酔っ払って傷害事件・暴力事件を起こした場合の刑事弁護

「居酒屋で酔っ払い、喧嘩となって暴力を振るってしまい警察に被害届を出された」「酒の席で傷害事件を起こしてしまったが、酔っ払っていて覚えていない」
こういったサラリーマンや、そのご家族の方が当事務所へご相談に見えることがあります。

酔っ払った状態での暴力事件では、被疑者の罪・判決はどうなるのでしょうか。
「覚えていない」と否認することで、責任能力や故意が認められず無罪になることはあるのでしょうか?

この記事では、「酔っ払って殴った」等、泥酔の状態での暴力事件・傷害事件の刑事弁護や示談について解説します。

1.暴行と傷害の違い

暴力事件には、大きく分けて「暴行罪」に当たる事件と、「傷害罪」に当たる事件があります。

暴行罪は、相手に暴力を加えたものの、怪我を負わせなかった場合に成立する罪です。
2年以下の懲役、30万円以下の罰金、拘留又は科料が科せられます。

傷害罪とは、相手に暴行を加えて、結果怪我を負わせた場合(例えば、出血した、患部が腫れた、骨折した、病院で治療を受けたなど)に成立する罪です
15年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。

刑法208条 暴行罪
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑法204条 傷害罪
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

また、通報で駆けつけた警察官に手を出してしまった場合、公務執行妨害罪が成立する可能性もあります。
その場合は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処せられます(刑法95条)。

以下では、暴行事件と傷害事件をまとめて「暴力事件」と表記します。

  • 2.酔っていて覚えていない場合でも逮捕される?

    暴力事件を起こしたときに、逮捕・勾留されるか否かは、逃亡の恐れ・証拠隠滅の恐れの有無によりますから、飲酒酩酊していたというだけで逮捕・勾留されるわけではありません。
    ただ、事件の現場で、酩酊の度合いが酷ければ、警察官としては逃亡の危険があると判断する場合が多いでしょうから、逮捕に踏み切る可能性は高いと言えるでしょう。

    また、逮捕後、検察官のもとに送られるのは翌日です。留置場で一晩眠り、酔いも覚めた状態で検察官から取り調べを受けます。

    そこで、実際に暴力事件を起こしたことは明らかであるのに、「泥酔していたから覚えていない」と記憶がない旨の供述をしたり、「酔っ払っていたとはいえ自分がそのようなことをするわけがない」などという否認を続けたりすると、反省の意志がない・逃亡や証拠隠滅の恐れがあると受け止められ、逮捕・勾留される可能性が高くなります

    逮捕、そして引き続きの勾留となれば、最大で23日間の身体拘束となります。
    この間は当然会社などを欠勤することになりますので、無断欠勤を理由に解雇されたり、逮捕の事実が知れて懲戒解雇されたりしてしまう可能性も出てきます。

    [参考記事]

    容疑を否認し続ける・供述調書の嘘がバレるとどうなるか?

    なお、酒に酔っていたことで、「心神喪失者」として無罪となったり、「心神耗弱者」として刑が減軽されたりする可能性は0ではありません(刑法39条)。
    ただ、これらが認められるのは、「複雑酩酊」「病的酩酊」と呼ばれる異常な酩酊状態となった場合に限られ、「酔っ払って覚えていない」という程度では、問題にもされません。

    そもそも、被害者に暴行を加えている時点での責任能力の有無が問われているので、酔いが覚めてから記憶が残っていなくとも、犯罪の成立には影響しないことが原則です。

  • 3.飲酒酩酊は示談金・慰謝料の額に影響する?

    飲酒酩酊していたことが、民事訴訟における示談金や慰謝料の金額に影響することは通常はありません。

    仮に責任能力が認められないほどの酩酊状態であっても、飲酒によって自らそのような状態を招いた点に過失がある以上、他人に与えた損害を賠償する責任は免れないとするのが民法の定めだからです(民法713条但書)。

    また示談交渉における慰謝料は、あくまでも当事者の合意によって決まりますが、加害者が酔っていたことを理由に慰謝料の減額に応じてくれる被害者は、通常は考えられないでしょう。

4.酔っ払って覚えていない場合の刑事弁護

(1) 犯行を認めるか否かの判断

暴行・傷害事件の嫌疑をかけられているけれど、酔っ払って覚えていないという場合、どのように対応するかは慎重に判断する必要があります。

「覚えていない」ことが事実である限り、「暴行したことを思い出した」「暴行したことを覚えています」と、嘘の供述をするべきではありませんし、嘘の供述をする必要もありません。
ただ、暴行の記憶が欠落していても、被害者・目撃者の供述や防犯カメラの動画などから、明らかに暴行事件を起こしているというケースでは、「記憶はないけれど、暴行をした事実は認めて争わず、反省・謝罪の意志を示す」ことが得策という場合もあります。

その方が、早期の示談成立が可能となり、逮捕・勾留を回避できたり、仮に逮捕・勾留されても身体拘束期間が短くて済んだりする可能性が高くなるからです。

起訴猶予処分を勝ちとることができれば、前科もつかなくて済みます。

もちろん、このような判断は、刑事弁護に詳しい弁護士に相談して、犯罪事実を認めたときに予想される処分内容(起訴されるか否か、起訴された場合は公判請求か略式命令請求か、公判請求された場合の量刑はどの程度か)を見極めたうえで行うべきです。

例えば、殴られた被害者の顔が腫れた、打撲した等、比較的軽傷の事件であれば、早々に犯行を認めてしまった方が良い場合も多いでしょう。
しかし、被害者が入院したままだったり、意識が回復していなかったりという場合には、安易に犯行を認めれば、実刑判決など重い処罰を受けたうえに、多額の賠償金支払義務を負うことになりかねず、その決断が一生を左右しかねません。

検察官の取り調べへの対応については、刑事弁護に詳しい弁護士のアドバイスを受け、十分に熟慮しながら検討するべきでしょう。

(2) 被害者との示談交渉

暴力事件を起こした場合、早期の釈放や不起訴となるためには「示談」が非常に重要になります。

被害者との示談が成立した場合、示談金支払いで被害が回復しており、示談書の宥恕文言(※)から被害者の処罰意思がなくなったことが明らかとなるため、検察官は、罪が明らかであったとしても不起訴処分(起訴猶予)で終わらせる可能性が高いです。
※宥恕(ゆうじょ)とは、許すことです。「処罰を望みません」、「寛大な処分をお願いします」などの記載を指します。

不起訴処分となれば、勾留から直ちに釈放をされるだけではなく、前科もつきません。
さらに、起訴される場合にも、示談により公判請求(公開の法廷での裁判)ではなく、略式命令請求(公判を開かず書面審理だけで罰金または科料の刑罰を課す手続き)にとどめられる可能性もあります。

公判請求され有罪判決が想定されるときでも、示談成立は有利な情状として斟酌されるので、懲役刑となっても執行猶予が認められたり、刑が減軽されたりする可能性が高くなります。

このように、暴行罪や傷害罪のような被害者が存在する犯罪では、示談の重要性は高いです。

しかし、被疑者が直接被害者と会って示談交渉を行うことは現実的ではありません。
特に暴力事件の場合、被害者は被疑者に対し恐怖心を抱いていることも多く、被疑者からの直接の連絡は逆効果を招かないとも限りません。

よって、示談交渉は弁護士に一任する必要があります。
弁護士は被害者の心情に寄り添い、被疑者からの反省を真摯に伝え、適切な示談書の作成から検察官への示談書提出までスムーズに進めていくことができます。

[参考記事]

刑事事件の示談の意義・効果、流れ、タイミング、費用などを解説

5.まとめ

刑事事件は自分とは無関係だと思っていても、酔った勢いなどで被疑者(加害者)になってしまう可能性は誰にでもあります。

酔っ払ったことによる暴力事件の弁護は、刑事事件の解決に長けた泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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