刑事弁護 [公開日]2020年3月10日

容疑を否認し続ける・供述調書の嘘がバレるとどうなるか?

皆さん誰もが「容疑者は容疑を否認しています。」というニュースをみたことがあると思います。

実際、逮捕・勾留されてしまったけれど、「容疑を否認し続ければ釈放されるのではないか?」「容疑は認めざるを得ないけれど、細かい事情は適当な嘘でごまかせるのではないか?」などという気持ちになる方もいるでしょう。

実際に犯罪を犯し、逮捕・勾留されたにもかかわらず、容疑者が容疑を否認し続けることは、その被疑者にとって利益となるのでしょうか?それとも不利益となるのでしょうか?

また、実際に犯罪を犯し、その容疑を認めている場合でも、取り調べに対して、虚偽の供述をし、事実でない内容が供述調書に録取され、後にそれが虚偽であることが発覚したケースは、容疑者にとって、どのような不利益をもたらすのでしょうか?

※なお、「容疑者」、「容疑」とは、マスコミ用語であり、法的に正しくは「被疑者」、「被疑事実」ですが、この記事では、わかりやすく「容疑者」、「容疑」の呼び名を使います。

1.事実でない容疑は認めてはならない

まず、あなたが犯罪を犯した事実がないのであれば、何があっても容疑を認めてはいけません
取調官から、容疑を認めれば「軽い処分で済む」、「すぐに釈放してやる」などと言われても、それを信じてはいけません。

一旦、虚偽の自白をし、その内容を録取した供述調書をとられてしまうと、後に、その内容が事実でないと明らかにすることは至難の業です。身に覚えのない犯罪で処罰されてしまいますので、絶対におすすめできません。

2.犯行が事実であるときは容疑を認めるべきか

他方、現実に、あなたが犯罪を犯し、身に覚えのある容疑で逮捕された場合は、素直に自白するべきかどうか、慎重に考える必要があります。

逮捕状は、捜査機関から提出された証拠に基づき、犯罪の嫌疑と逮捕の必要性を裁判所が審査したうえで発布されますから、何らの証拠もなく逮捕されるという事態は考え難いことです(もちろん、人違いなど、証拠があっても、その評価を誤っているケースは多々あります)。

ただ、逮捕は「捜査」、即ちこれから証拠を探し、集める活動をするために行うものですから、この段階では、起訴するに足る証拠がないケースはもとより、勾留請求するに足る証拠もないケースは珍しくありません

その場合には、否認を貫き通せば、あるいは勾留請求されずに釈放されたり、不起訴処分となったりする可能性はあります。

どのような対応をとるべきかは、弁護士と接見して助言を得るべきでしょう。

3.証拠が明らかなときに容疑を否認し続けると

逆に、逮捕の段階から、かなりの証拠を集められているケース、自白が不要なほどの決定的な証拠を握られているケースでは、容疑を否認し続けることで、かえって以下のような不利益を生じる可能性があります。

(1) 勾留される可能性が高まる

勾留とは、逮捕に続く長期(原則10日間。最大で20日間)の身体拘束です。

容疑が明らかな証拠があるにもかかわらず、容疑を否認し続ける場合、検察官は罪証隠滅・逃亡のおそれがあると考え、勾留請求を行うでしょう。

勾留請求を受けた裁判官は、以下の基準に沿って勾留を認めるか否かを判断します。

刑事訴訟法60条
「裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。」
第1号「被告人が定まった住居を有しないとき。」
第2号「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」
第3号「被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」
注:「被告人」とありますが、この規定は、容疑者(被疑者)にも準用されます。

以上からわかるように、容疑を否認していること、それ自体は勾留を認める要件とされていません。

しかし、容疑を否認し続けることで、裁判官に罪証隠滅をするおそれ(第2号)や、逃亡のおそれ(第3号)が推認されてしまうことが多々あります。そのため、容疑を否認すると、勾留される可能性が高まるというわけです。

勾留の要件については次の記事をお読みください。

[参考記事]

逮捕後の勾留の要件とは?勾留の必要性を否定して釈放を目指す

(2) 反省していないと思われる

捜査機関が犯罪に関する明らかな証拠を押収している場合に、容疑を否認すると、当然のことですが反省をしていないと判断されます。

犯罪事実が明らかであるのに反省していないのですから、検察官が起訴するか否かを判断する際に否認していることを不利な事情として考慮し起訴をする可能性が高いでしょう。

また、裁判においても同様で、犯罪事実が明らかであるのに容疑を否認していると、量刑が重くなります

(3) 示談ができない

犯行が事実であるなら、不起訴処分を得たり、量刑を軽くしたりするために、被害者との示談を成立させることが重要です。

しかし、示談は、被害者に犯行を謝罪して、その許しを得ることですので、容疑を否認し続けるなら、示談交渉をする余地がありません。

4.黙秘を続けるとどうなる?

このように、明らかな証拠があるのに否認をすると不利益を受けるという事情は、否認だけではなく、黙秘権を行使した場合にも当てはまります。

憲法38条は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」としており、国民に黙秘権を保障しています。
さらに刑事訴訟法第198条2項は、容疑者は取り調べの際に、利益不利益を問わず、自己の意思に反する一切の供述をする必要がないと定めています。

このように、黙秘権行使は、必ずしも否認と一致しません。犯罪事実を認めた上で供述を拒否することも自由だからです。

さて、このように憲法と法律で保障された黙秘権の行使を、容疑者に不利益に扱うことは本来許されないはずです。

しかし、黙秘されてしまうと、捜査の手がかりを掴むことができないため、捜査機関は、黙秘権行使をもっとも嫌がります。供述させるために厳しい対応となり、苛烈な取り調べを受けることになります。

しかも、明らかな証拠がある場合に黙秘権を行使すると、事実上、否認と同様に受けとめられ、反省していないとの印象を抱かれてしまい、勾留により身体拘束が長くなったり、量刑上の不利益を受けたりする危険があります。

この点、捜査機関も、裁判所も同じなのです。裁判官は、自白すれば有利に扱うだけで、黙秘を不利に扱うわけではないと説明をすることが通常ですが、それは詭弁だという強い批判もあります。

黙秘権が保障されていると言っても、実態は、このような有様ですから、黙秘するか否か、いったん始めた黙秘を貫くか否かは、弁護人と十分に打ち合わせをして方針を決めるべきです。

[参考記事]

黙秘権を行使すると不利?警察の逮捕・取調べと被疑者の人権

5.供述調書に嘘を記載させるとどうなる?

供述調書とは、取調官が作成する、被疑者・被告人・第三者(参考人)の供述を録取した書面です。

供述調書は、刑事事件の手続上、重要な証拠として取り扱われ、その記載内容は、①起訴・不起訴の判断、②起訴後の裁判における有罪・無罪の判断、③有罪判決の量刑判断に大きな影響を与えます。

もっとも、被告人には黙秘権があるため、供述を拒否できます。また、調書を作成しても署名又は押印を拒むことができます。

刑事訴訟法197条
第3号「被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。」
第4号「 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。」
第5号「被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。」

検察官が起訴・不起訴の判断をする際には、被告人の供述を録取した書面は、無条件に判断の資料となります。

したがって、供述調書に虚偽の事実が記載されていると、事実でない犯罪で起訴されることになりかねません。

他方、これを起訴後の裁判で証拠とするには、被告人の署名又は押印があることを前提としたうえで、次の(A)(B)(C)(D)の場合に限ります。

(A)証拠とすることに被告人の同意がある場合(326条1項)
(B)被告人に不利益な事実の承認を内容とする場合(322条1項本文)
(C)特に信用するべき状況下で供述された場合(322条1項本文)
(D)他の供述の証明力を争う証拠とする場合(328条)

捜査段階で嘘の供述をして、それが供述調書に記載され、署名・押印をしてしまえば、上の(B)、(C)、(D)のように、被告人が証拠とすることに反対したとしても、検察側は裁判の証拠として提出することができるのです。

署名・押印があることで、たしかに被告人が語った内容であることが担保されていますから、実は、あれは嘘でしたと言っても、裁判官に信用されることは、まずありません。
したがって、真実ではない事実に基づいて処罰されてしまう危険があります。

逆に、供述調書に記載された内容が嘘であると明らかになった場合は、どうでしょうか?

被告人が公判で無罪を主張するなど事実を争っていた場合、検察側は虚偽内容の供述調書を証拠申請し、「被告人は捜査段階で嘘をついていたことが判明した人物である。今も嘘をついている可能性は高い。」と主張するでしょう(前記(D)を御参照)。

いずれにしても、嘘の供述調書を残すことは、有利には作用しないのです。

刑事訴訟法第322条第1号
被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。(以下略)

なお、証拠偽造罪(刑法104条)は「他人の刑事事件に関する証拠」を偽造した場合を処罰するので、容疑者が虚偽の事実を述べて調書を作成させても証拠偽造罪には該当しません。また偽証罪(刑法169条)は「宣誓した証人」が主体なので、偽証罪にも該当しません。

6.取り調べを受ける際の注意点

(1) 嘘はつかない

上に説明したように、嘘をつくことは基本的にデメリットにしかなりません。

取り調べにおいて、供述するかどうかは自由ですが、積極的に嘘をつくことはしないようにするのが無難です。

(2) 供述調書の内容をしっかり確認する

先述のように、取調官から、供述調書の内容が正しいか否か確認を求められますが、これをしっかり確認することが大切です。

もし、供述記載内容に誤りがあれば、これを訂正してもらい、足りない部分があればこれを加えてもらうよう求めるべきです。

絶対に、不正確な内容の供述調書に署名・押印してはいけません

(3) 弁護士の助言を受ける

被疑者・被告人には弁護士依頼権があります。そのため、取り調べに不安があるならば、何を話すべきか等の細かい点を弁護士に相談するべきです。

弁護士は被疑者の味方です。依頼者に対し、容疑を否認・黙秘するべきか否かの助言等、被疑者を全力でサポートしてくれます。

7.まとめ

身に覚えのある犯罪の明らかな証拠があるにもかかわらず、取り調べにおいて、容疑を否認するのは、あまりお勧めできません。また、取り調べで積極的に嘘をつくのは、百害あって一利なしです。

もっとも、取り調べにおいて、否認するべきか、黙秘すべきか、事実を話すにせよ何を話すべきかの判断に困る場合が多いと思います。その場合は、弁護士と接見・相談して、具体的な助言を得るべきです。

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