実刑か執行猶予か?否認の共犯事件の争い方~脅迫で逮捕された場合~
1.否認事件弁護の実録(脅迫罪)
(1) 概要
1名が脅迫を首謀して、もう1名がそれを手伝ったとの内容で逮捕・起訴され刑事裁判となった案件で、脅迫の首謀者とされた被告人の公判弁護を担当したことがありました。
首謀者とされた被告人にはすでに私選弁護人がついていたのですが、その私選弁護人に不安をいだき、紹介者を介して泉総合法律事務所に弁護依頼があったのです。
首謀者とされた被告人は、脅迫事件に関与したことは認めるものの、首謀者はもう一人の共犯者だと主張していました。
共犯事件は通常同じ公判で審理されますが、首謀者とされない従犯(協力者)の被告人が起訴事実を認め、首謀者とされた被告人が起訴事実を否認している場合には、別々に審理されます。
泉総合法律事務所に弁護依頼が来たのは、従犯とされた他の1名の共犯者が執行猶予判決を得て判決が確定した後でした。そうなると、通常であれば、脅迫の首謀者とされた被告人は首謀者と認定され、実刑判決は十分ありうると考えられました。
(2) 裁判所の見解
裁判所は、被告人が起訴事実を認めている場合には、被告人は反省していると考え、被告人が否認していてかつ証拠がある場合には、被告人は反省していないと受け止めるものです。
脅迫は、被害者との間で示談が成立していれば執行猶予付き有罪判決が確実視されます。しかし、本件では被害者の被害感情が強いため示談ができず、犯行態様も悪質で執拗と評価されるものでした。
(3) ポイントは他の共犯者の供述
有効な弁護方針が決まらない中、先に執行猶予判決を受けたもう1名の共犯者が、実は自分が犯行を主導した首謀者だと供述しているとのことが担当弁護士に伝わってきました。
そこで、その共犯者が実際にそのようなことを供述しているのかどうか、直接弁護士だけが会って確認することにしました。
その共犯者から詳しい話を聞きながら、手元にあった客観的証拠も付き合わせ、その方の供述が確かなものかどうか確認していきました。その結果、本当の首謀者は共犯者の方で間違いないと考えました。
その共犯者が述べたことが真実であること、自らの意思で述べたことを後で撤回されないよう、公証人役場で宣誓供述書にしてもらうことにしました。
・宣誓供述書とは
宣誓供述書は、本人が供述したことを文書にしたものについて、公証人の前で本人に内容が間違いないことを述べてもらい、公証人がその点を証明する書類です(あまり作成することはない文書です)。
本件では、この宣誓供述書を裁判所に証拠として提出するとともに、脅迫の従犯と認定された共犯者を証人申請しました。
結果、共犯者に対して、担当弁護士から証人尋問の主尋問を行い、首謀者は証人自身であり被告人は従犯(協力者)であるとの証言を得ることができました。
(4) 検察官の見解
証人尋問と被告質問を終え、最後に、検察官が「論告求刑」という検察官の考え・主張を述べ、弁護人は弁論要旨という弁護側の主張・考えを述べて結審となります。これは、刑事裁判の通常の流れです。
検察官の論告求刑の内容は従来通りの主張を維持したもので、被告人は首謀者であり実刑を科すべきだとの内容でした。
検察官が実刑を科すべきだと主張するときは、実刑という言葉を端的に使うこともあれば、施設内矯正、施設内処遇やそれに類する言葉を使うのが通常です。
これを、弁護士は通常「実刑サイン」と呼んでいます。
検察官の実刑サインが出ると、裁判所も多くの場合には実刑判決を下すことが多いです。これは、検察官は検察官で過去の事件のデータベースを参考に実刑にすべきかどうか、実刑なら何年の求刑をすべきかを決めており、裁判所は裁判所で独自のデータベースで過去の事件の判決例を参考にして判決を下すため、結果として検察官が実刑サインを出すと裁判所も実刑判決を下すことが多くなる仕組みになっているからです。
(5) 判決言い渡し、執行猶予の逆転判決
通常、結審から2週間後に判決言い渡しとなります。
判決言い渡しは、被告人は脅迫の首謀者ではなく従犯(協力者)であり、首謀者は他の共犯であるとの認定となり、検察官の実刑サインにもかかわらず、本件は執行猶予付き有罪判決となりました。
今回の執行猶予判決について、検察官控訴はありませんでした。
2.共犯事件の特徴
共犯事件では、共犯者がお互いに罪を軽くしようとして、他方が首謀者で自分は従犯(協力者)と主張し、お互い他方に首謀者を押し付けあうことが多々あります。
これは、警察官、検察官、弁護士、裁判所も承知のことですので、検察官が取り調べをする時はこの点に念頭に置いて、共犯者間の罪の押し付け合いがないかどうかを慎重に見極めて起訴をするものです。
弁護士も同様に、共犯者間の罪の押し付け合いがないのかを留意点として、他の共犯者の言い分、弁護している被告人の言い分を吟味して判断します。
今回の案件では、弁護を担当している共犯者の言い分と客観的証拠との関係から、共犯者間の罪の押し付け合いはあると判断していました。それを立証して裁判所に納得してもらうことは厳しい事案でしたが、分離された公判で従犯と主張し執行猶予判決を先に取り付けた共犯者が、自らの保身(執行猶予判決)を得ることができたことから、真実を述べる気になったことで、首謀者ではないとの被告人の主張が裁判所に認められて、被告人の執行猶予判決を得ることができました。
3.刑事裁判は泉総合法律事務所にお任せください
泉総合法律事務所は、在籍しているどの弁護士も様々な刑事事件に取り組んでおりますので、刑事事件に関与して逮捕されたり起訴されたりした場合には、是非ともご相談・ご依頼ください。
また、このコラムは実際の弁護活動をもとに修正を加えておりますので、その点ご了承お願い致します。