酔った勢いで電車でスリをしてしまい逮捕されたらどうすればいい?
金曜になると、多くのサラリーマンが飲みに出かけ、酔っ払って家に帰る光景を目にします。仕事のストレスを週末に発散する方が大変多くいらっしゃるということでしょう。
しかし、お酒を飲み過ぎてしまったことで、犯罪を犯してしまうというケースがあります。
実は、被疑者のご家族が週末になると弁護士事務所に急遽かけこんで、「家族がスリで捕まった」というご相談を受けることがあります。酔っ払った勢いで電車内や路上にて盗みをしてしまい、逮捕されたというご事情です。
そこで、今回は酔っ払って電車内でスリをはたらいてしまった場合の窃盗罪について解説します。
1.スリは何罪に問われる?
(1) スリは窃盗罪
スリのように、他人の所持品を盗む行為は「窃盗罪」が成立します。窃盗罪は、刑法235条に定められた犯罪です。
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
窃盗罪の代表例としては、スリの他にも、万引き・空き巣などがあります。
これらは「窃盗罪」とは違う一般名称がついていることから軽く見られがちですが、いずれも10年以下の懲役の可能性もある犯罪です。
(2) 窃盗罪の量刑相場
実際上、窃盗罪は懲役の場合で3年以下のケースが多く、罰金刑の場合でも20-30万円以下の罰金が多くなっています。
もちろん、これは事件の内容にもよるため、これ以上の重さになること十分に考えられます。したがって、一応の目安程度に考えておきましょう。
窃盗罪の場合、犯行の悪質性だけでなく、被害金額の大きさが量刑に影響します。数千円、数万円であれば罰金で済む可能性も高いですが、数十万、数百万といった場合には懲役刑になる確率もあがるということです。
また、他の犯罪と同様に、初犯よりも再犯の方が刑罰は重くなります。スリ行為の場合、何度も犯行を繰り返しているケースでは、常習性が高いと判断され刑罰も重くなってしまうでしょう。
(3) 酔っ払っていたという理由で無罪となるか
刑法39条には、「心神喪失者の行為は、罰しない。」「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」との規定があります。
心神喪失者とは、行為の善悪や是非について判断ができない状態の人、心神耗弱者とは、行為の善悪や是非について判断が著しく困難である状態の人を指します。
精神障害のある人などを想定して作られた規定ですが、酩酊、いわゆるお酒に酔った状態の人も対象となります。
しかし、酩酊(=お酒に酔った状態)の場合でも、「少し酔っているな」「今日はいつもより酔っ払っているかも」くらいの意識があれば、39条の適用外となります。
この場合は、責任能力があると判断され、スリを働いた場合は窃盗罪が成立するでしょう。
また、仮に記憶がないくらいに泥酔していたとしても、スリを行ったという事実は「窃盗行為を行うだけの多少の意識があった」と認識されます。
酔っ払っていたからといって「否認」を続けると、情状は悪化する可能性が高いので注意しましょう。
以上のように、酔っ払ってスリを働いた場合であっても、無罪とはならないと考えるべきでしょう。
[参考記事]
心神耗弱、心神喪失で無罪になるのはなぜ?
2.スリで逮捕後の処遇
酔っ払ってスリをしてしまった際、被害者や周囲の人が気づいた場合は現行犯逮捕となるでしょう。
他方、被害者が家に帰ってから犯行に気づいた場合は、後で後日逮捕となるケースがあります。
(1) 微罪処分
軽微な事案については、警察に検挙されたとしても検察には送致されず、警察で処分を完結させることがあります。これを「微罪処分」といいます。
微罪処分になるための要件としては、窃盗金額が低額(目安として2万円以下)であること、初犯であること、犯行態様が悪質でないことが挙げられます。
[参考記事]
微罪処分になる要件とは?呼び出しはあるのか、前歴はつくか
(2) 微罪処分にならない場合は逮捕・起訴の可能性
もっとも、犯行の態様等から微罪処分で済まされないケースもあります。
窃盗に関する事実を否認している場合や、スリという犯行態様を重く捉えられた場合(常習犯、反省の色なし等)、あるいは初犯ではなかった場合が想定できます。
この場合、逮捕から48時間以内に検察に送致され、その後24時間以内に勾留請求を行うかどうかが判断されます。勾留請求が行われた場合には、そこから最大で20日間身体拘束が続く場合もあります。
勾留請求が行われない場合は、釈放されてその日のうちに帰宅できますが、勾留が決定した場合には長く勾留されることになるため、社会生活にも影響が生じえます。
つまり、会社や学校を休まなければいけなくなり、結果的に周囲に逮捕がバレて生活しづらくなることが起こりえます。
勾留期限が終わる頃、検察は起訴をするかどうかの判断を行い、不起訴となればそこで事件は終了です。起訴となれば、裁判が約1ヶ月後に開始されます。
このように、微罪処分とならなかった場合は、勾留・起訴の可能性も十分にあります。
泉総合法律事務所では勾留決定を免れるための勾留阻止の活動も行っていますので、ぜひご依頼ください。
窃盗罪の場合、微罪処分で済まされることが多くなっています。ところが、スリの場合、被害者が犯行に気づかないケースが多く、現行犯逮捕で捕まる確率は低いとされています。よって、犯人が他にも犯行を行っている可能性があり、微罪処分ではなく、しっかりと捜査を行い他にも余罪がないかチェックされることが通常です。
そのため、窃盗罪の中でもスリについては、重い処分が行われる可能性が高い犯罪となっています。必ず重い判断が下されるとは限りませんが、窃盗罪の中の類型でいうと比較的重い判断が下されることが多いということです。
そのため、早期釈放や不起訴を勝ち取るためには、適切な弁護活動が必要です。
3.スリで逮捕された場合の刑事弁護
では、酔っ払った状態でスリをしてしまい逮捕された場合、前科を避けて早期釈放・不起訴にしてもらうためにはどうすればよいのでしょうか。
逮捕が行われた後は、できる限り早く被害者と示談をまとめることが大切です。被害者に被害金額を弁償・私物を返納し、誠意ある謝罪と示談金を受け取ってもらうことで、早期釈放・不起訴処分を目指すことになります。
示談は、起訴・不起訴や量刑を検察官が判断する際の考慮すべき材料となります。示談が成立している場合としていない場合とでは起訴の確率は大きく変わってきます。
示談は、当事者同士でもできると考えるかもしれません。
確かに、当事者同士が以前からの知り合いで連絡先を知っているのであれば、それも不可能ではありません。しかし、スリの事件では被害者の連絡先を知らないことがほとんどですし、そもそも被害者は加害者と直接話したくないものです。例え家族であっても、怒りや恐怖心から面会を拒否するケースが多いでしょう。
この点、弁護士であれば「話をしてもいい」と言ってもらいやすくなります。第三者である弁護士が代理人となることで、示談成立もスムーズに進みます。
トラブルを避けるためにも、窃盗事件は当事者同士だけで解決しようとせず、法律のプロである弁護士に解決を任せることをおすすめします。→示談したい
4.スリをしてしまったら弁護士に相談を
刑事事件とは無関係のサラリーマンでも、たった一夜の飲酒がきっかけで事件を起こしてしまう可能性はあります。
仮に酔っ払って事件を起こしてしまうと、目が覚めたら大変なことになっています。自分でもどうしたらいいか分からないと困惑してしまうこともあるでしょう。
もしそんな事態に陥ってしまった、あるいは家族が刑事事件を起こしてしまった場合には、弁護士にご相談ください。
被害者と早期に示談をすることで、起訴を回避できる可能性が高くなります。また当事者同士で話し合おうとするのはほとんど不可能ですので、間にプロを挟んで示談交渉を進め行くのが必須でしょう。
スリなど窃盗事件でお悩みの場合には、どうぞお早めに泉総合法律事務所にご相談ください。