改正ストーカー規制法成立(GPS機能を用いたストーカーの禁止)
2021(令和3)年5月18日、ストーカー規制法(正式名称:ストーカー行為等の規制等に関する法律)を改正する法律が成立しました。
改正された点は、次の4点です。
①GPS機器等を用いた位置情報を承諾なく取得する行為等を、新たに禁止
②見張り行為などが禁止される場所に、被害者等が現に所在する場所の付近を追加
③被害者等が拒否したにもかかわらず、連続して文書を送付する行為を新たに禁止
④禁止命令等の文書の加害者への交付は「送達」によるとする
②③は、2021(令和3)年6月15日から、①④は、同年8月26日から施行されます。
この記事では、改正された内容と、その改正理由を説明します。
1.GPS機器により位置情報を取得する行為などの禁止
ストーカーの加害者が、被害者の車に無断でGPS機器を取付け、携帯電話などを通じて車の位置情報を取得していたという事件が2件摘発され、ストーカー規制法が禁ずる「見張り行為」(同法2条1項1号)だとして起訴されました。
ところが、この2件の事件につき、2020(令和2)年7月30日、最高裁は、GPS機器により位置情報を取得する行為は「見張り行為」に該当しないと判断したのです(※最高裁令和2年7月30日判決(事件番号平成30年(あ)1529号)・最高裁令和2年7月30日判決(事件番号平成30(あ)1528号)。
改正前のストーカー規制法の条文は、次のように規定されています。
第2条1項1号(抜粋)
住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし(以下略)
これらの事案では、いずれも駐車中であった被害者の車両にGPS機器を取り付け、そこからは離れた場所(加害者の自宅など)で位置情報を取得していました。
最高裁は、法が禁止する「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するためには、GPS機器等を用いる場合であっても、被害者等の「住居等」の付近という一定の場所において、同所における被害者等の動静を観察する行為が行われることを要するとして、見張り行為に該当しないとしたのです。
つまり法文に忠実に、「見張り行為」も、見張りの対象となる「被害者の動静」も、共に住居等の付近という一定の場所に限定されることを要求したのです。
しかし、2000(平成12)年の規制法制定から20年を経て、誰でも手軽にGPS機器等を入手可能となった社会の変化を踏まえれば、電子機器等を使用して被害者の情報を取得する行為も禁止するべきことは言うまでもありませんでした。
そこで、今般、法改正により、GPS機器での位置情報探索・取得行為を「位置情報無承諾取得等」行為として禁止したのです(改正法第2条3項4項、第3条)。
改正法施行後は、GPS機器での位置情報探索・取得行為を反復することは、禁止される「ストーカー行為」に該当し、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります(第18条)。
2.見張り行為などが禁止される場所の追加
改正前は、「見張り行為」だけでなく、「押しかける行為」「みだりにうろつく行為」は、禁止対象が「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所」に限定されていました(旧法第2条1項1号)。
しかし、例えば、①被害者の車にGPS機器を取り付け、位置情報を取得して、被害者が現在いる店舗に押し掛けた事例、②ネットに公開されている行事の予定を基に、被害者が行事で訪問していた他校に押し掛けた事例などは、「その通常所在する場所」に該当しないので禁止行為として摘発できません。
そこで、被害者らが「現に所在する場所」を見張り、押しかけ、うろつくことも禁止対象としました(改正法第2条1項1号)。
これらの行為も、反復すれば、「ストーカー行為」として1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です(第18条)。
3.文書の連続送付を禁止
改正前は、「電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること」は禁止されていました(旧法第2条1項5号)。
しかし、文書の送付は禁止対象に含まれていないので、文書を郵送する行為や被害者の郵便受に投函する行為は摘発できませんでした。
そこで、拒否されたにもかかわらず、連続して文書を送付する行為も禁止対象としました(改正法第2条1項5号)。
これも反復すれば、「ストーカー行為」として、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です(第18条)。
4.禁止命令等の文書の「送達」
都道府県公安委員会は、つきまといや見張り行為などを続ける者に対して、これら行為の反復を禁じる「禁止命令」を発することができ、さらにこれを防止するために必要な命令(例えば、送りつけた写真のネガの廃棄など)も発することができます(第5条)。
これら禁止命令等の有効期間は1年ですが、1年ごとに更新が可能です(同第5条8項乃至10項)。
この禁止命令等を発する場合は原則として、「禁止等命令書」を加害者に「交付」するものとされ(ストーカー行為等の規制等に関する法律施行規則第5条1項)、有効期間を延長する場合も、やはり「禁止命令等有効期間延長処分書」加害者に「交付」するものとされていました(同規則第10条)。
しかし、加害者が書類の受取を拒否したり、行方不明となって交付できない事例では、禁止命令等やその延長の効力を発生させることができない場合があるとの難点が指摘されていました。
そこで、これらの書面は「送達」という方法で加害者に交付することに改めました(改正法第5条11項)。
「送達」とは、民事訴訟などで用いられる特別な書類の交付方法であり、受取を拒んでも、加害者の住居に届けるだけで交付したものと扱うことや、行方不明の場合に裁判所に書面を掲示することで交付したものと扱うこと(「公示送達」と言います)が可能になります。
5.まとめ
改正法により、これまで摘発できなかったストーカー行為を立件できるようになり、禁止命令等も、より実効的に運用できることが期待できます。
ストーカー行為の被害に悩んでいる方は、禁止命令の申立や刑事告訴につき、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
また、自分がストーカー行為をしてしまい、今後の摘発を心配されている方や現に禁止命令等を受けている方も、弁護士に相談してください。
二度とストーカー行為に走らないためにも、必要以上に不利益な処分を受けないためにも、真摯に対応策を検討することをお勧めします。