小児性愛者の性犯罪(子どもに対する強制わいせつ)
「子どもに性的な行為をして逮捕され、犯罪者となってしまった。」
そんな方の中には、少なからず「小児性愛者」がいると言われています。小児性愛は個人の嗜好ではなく、小児性愛障害という一種の精神障害だとされています。
この記事では、小児性愛障害とは何か、小児性愛障害者の行為はどのような犯罪となるのか、子どもへの性犯罪で逮捕された場合の対処法について解説します。
1.小児性愛障害とは?
(1) 小児性愛障害は精神障害の一種
小児性愛障害とは、子どもに対して性的欲求を抱く、精神障害の一種です。
MSDマニュアル(※米国の製薬会社であるメルク・アンド・カンパニー社による、100年以上の歴史を誇る医学事典。医学分野では世界的なスタンダードとなっています)によれば、小児性愛障害は、通常13歳以下の小児を対象とした、反復的で性的な興奮をひき起こす、強い空想・衝動・行動を特徴とする障害とされています。
小児性愛障害者は男性に多く、性的な欲求対象が女児だけの者、男児だけの者、両性が対象の者が存在します。
同マニュアルにおける小児性愛の診断基準は以下のとおりです。
- 通常13歳以下の小児を対象とする、反復的で性的興奮を引き起こす強い空想、衝動、行動を経験していること
- 小児に対する関心のために強い苦痛を感じているか、日常生活に(職場、家庭内、または友人関係で)支障をきたしている、もしくは衝動を行動に移していること
- 本人が16歳以上で、かつ対象となる小児より5歳以上年上であること(例外あり)
- 以上のような状態が6カ月以上続いていること
なお、小児性愛障害者の多くは反社会的パーソナリティ障害を伴います。
小児に対する性的欲望を実現するために、他人に害を及ぼすことに無頓着で、他者の感情や利益、法律を軽視するとされています。
日常的に子どもと接する教師、スポーツのコーチ、シッターといった職業に就いている者の中にも、小児性愛障害者は存在しています。むしろ小児性愛障害者は、自分の欲求を満たすために、子どもに接することができる職業をあえて選択しているケースもあるようです。日本でも、教師による生徒への性犯罪は珍しくない状況です。
文部科学省の調査では、わいせつ行為やセクハラで懲戒処分を受けた公立学校教員は、2019年度が273人、2020年度は200人であり、そのうち児童生徒を被害者とするものが、2019年度は126人(46%)、2020年度は96人(48%)と半数近くを占めています(「わいせつ処分教員200人 前年度比減も、依然多く―文科省」時事ドットコムニュース)。
このような状況から、2021年「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」、通称「教育職員性暴力等防止法」が成立し、2022年4月1日から施行されることになりました。
これまで児童生徒に対する性暴力などで教員免許が失効した教員でも免許の再取得は容易でしたが、この法律によって再取得の可否を厳しく審査することになり、さらに、このような教員に関する情報のデーターベースが整備されることになりました。
このような特別な対策を必要とするほど、教師による性犯罪は蔓延しているのです。
(2) 治療方法はあるのか?
「認知の歪み」を認識させる
小児性愛障害に対し、我が国で行われている治療方法の主流は「認知行動療法」です。
性犯罪者の多くには「認知の歪み」が認められます。「認知の歪み」とは、例えば、痴漢の犯人が「痴漢をされている女性が抵抗しないのは、痴漢をされたいからだ」と考えたり、「女性の中には、痴漢をされても平気な者が数多くいる」と考えたりするように、およそ常識的には考えられないような「歪んだ認識」を持っていることを指します。
小児性愛障害者の場合、「子どもは性的な行為をされることを喜んでいる」「子どもの方から自分を誘っているのだ」などと、本気で認識しているのです。
そこでまずは、このような認識が誤りであることを、小児性愛障害者に自覚させる必要があります。
行動を変容させる
そのうえで、子どもに対する性的欲求を生じたときに自分でどのように対処するべきか?子どもに対する性的欲求を生じないようにするにはどうするべきか?を考え、学ばせるのです。
例えば電車内で子どもに性的欲求を感じたならば、「欲求を我慢する」のではなく、「直ちに電車を降りる」という回避行動を徹底するのです。
駅と駅の間が長くて、すぐに降りることができない場合は、子どもに性的欲求を感じたら、例えば、心の中で「自分は大丈夫。何もしない。大丈夫。」と繰り返しながら、深呼吸を50回行うことをルールとして、これを実践するようにするのです。
欲望を感じたときに、自分が最悪の行動を選択してきた過去を認識し、別個の回避行動を選択できるよう訓練すると言えば、わかりやすいでしょう。
引き金を避ける
小児性愛障害者による犯罪の再発を防止するのに、もっとも重要なことは、そもそも「子どもを避ける」「子どもと接触する機会を持たない」ことに尽きます。
子どもへの欲求が生じる背景には、肉体的疲労、精神的ストレス、性的欲求不満などが横たわっており、そのような状態が子どもへの性犯罪を生じさせる「トリガー(引き金)」となっていますが、最大のトリガーは子どもとの接触であることに間違いはありません。
そこで、再発を防止するには、最大のトリガーである「子どもと接触する機会」を持たないことが一番重要なのです。
2.子どもへわいせつ行為はどんな罪に問われるのか?
では、小児性愛障害者が子どもに性的な行為をしてしまった場合、どのような犯罪となるのでしょうか?
問われる可能性のある犯罪は次のとおりです。
- 児童買春・児童ポルノ禁止法違反
- 青少年保護育成条例(淫行条例)違反
- 強制わいせつ罪
- 強制性交等罪
なお、近年、性犯罪、とりわけ子どもを被害者とした性犯罪に社会が向ける目は非常に厳しいものがあり、起訴されてしまう可能性は高く、量刑も重くなる傾向が指摘されています。
(1) 児童買春罪
児童(18歳未満の者)や親らに金銭や物品などの対償(経済的な対価)を渡すなどして、児童と性交や性交類似行為をしたり、児童の性器等を触ったり、児童に自分の性器等を触らせたりする行為は「児童買春罪」となり、5年以下の懲役刑又は300万円以下の罰金刑に処せられます(児童買春・児童ポルノ禁止法4条)。
性交類似行為とは、性交に準じた口淫、手淫、肛門性交などの性的行為です。
これは性的虐待・搾取から児童を保護するための法律なので、たとえ児童の同意があっても犯罪となります。
[参考記事]
児童買春・援助交際の罪|逮捕される?初犯での処罰内容は?
[参考記事]
児童ポルノ禁止法とは?児童ポルノと児童買春の規制
(2) 淫行条例違反
各自治体は、青少年(18歳未満の者)との、みだらな性的行為を禁じる青少年保護育成条例、通称「淫行条例」を制定しています。
東京都の淫行条例では、「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。」とされ、違反には、2年以下の懲役刑又は100万円以下の罰金刑が課せられます(同条例第18条の6、第24条の3)。
ここに「みだらな性交又は性交類似行為」とは、①青少年を誘惑・威迫・欺罔・困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交・性交類似行為、②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交・性交類似行為を指します(参考①警視庁「淫行」処罰規定|参考②最高裁昭和60年10月23日判決)。
判断力の未熟な青少年を保護するための条例ですので、その同意があっても犯罪が成立します。
[参考記事]
青少年保護育成条例違反とは?逮捕後、不起訴のためにできること
(3) 強制わいせつ罪(刑法176条)
強制わいせつ罪が成立するのは、次の場合です。
①13歳以上の者に暴行・脅迫を用いて、わいせつな行為をした
②13歳未満の者に、わいせつな行為をした
わいせつな行為とは、被害者の性的な羞恥心を害する行為です。13歳未満の被害者については、その同意があっても犯罪が成立します。
強制わいせつ罪では、6月以上10年以下の懲役刑に処せられます。
[参考記事]
強制わいせつ罪で逮捕された!不起訴に向けた弁護活動
(4) 強制性交等罪(刑法177条)
強制性交等罪が成立するのは、次の場合です。
①13歳以上の者に、暴行又は脅迫を用い性交等(性交、肛門性交、口腔性交)をした
②13歳未満の者に性交等をした
13歳未満の被害者については、その同意があっても犯罪が成立します。
強制性交等罪では、5年以上の有期懲役刑に処せられます。
[参考記事]
不同意性交等罪とは? 刑法改正による強制性交等罪からの変更点を解説
3.「小児性愛障害だから」という言い訳はできない
小児性愛障害者と診断されても、それが加害者に有利な事情として考慮され、不起訴処分となったり、刑が減軽されたりすることはありません。
小児性愛障害との診断がなされたということは、当然、過去に小児に対して性的行為に及んだという事実があり、しかも今後も繰り返す危険性があるということですから、有利な事情となるはずがなく、むしろ加害者に不利で刑事処分を重くする事情と言えます。
ただ小児性愛障害であるという事実を自覚し、積極的に治療を受ける姿勢を示すことができるならば、それは有利な事情として斟酌してもらえる可能性はあります。
そこで、できれば検察官が起訴不起訴の判断をする前の段階、少なくとも裁判所の審理が行われる前の段階で、小児性愛障害の治療のために通院を開始していることが望ましいと言えます。
そのためには、当然、釈放されていなければなりませんから、早期に弁護士を選任し、勾留や勾留延長を阻止する、勾留満期において処分保留での釈放を獲得する、起訴されたなら保釈を実現するといった弁護活動を展開してもらうべきです。
その前提として、弁護士によって、速やかに子どもの保護者との示談を成立させることも重要です。
刑事弁護の経験が豊富な弁護士であれば、病院の選定・紹介もお願いできるでしょう。小児性愛障害を治療し、罪を繰り返さないことを目指しましょう。
4.まとめ
性犯罪に対する刑事処分は厳しさを増す一方です。
泉総合法律事務所は、性犯罪を含む刑事事件の弁護に注力しています。
被疑者となってしまいお困りの方は、是非一度、当事務所の無料相談をご利用ください。