刑事弁護 [公開日]2021年12月1日[更新日]2021年12月1日

誤認逮捕とは|警察官をクビにする、訴えることはできる?

捜査機関は、犯罪を犯したと思われる者を逮捕することがあります。

その際、まれに真犯人ではない者を逮捕してしまうケースがあります。この場合、逮捕された者は損害賠償を請求できるのでしょうか。また、誤認逮捕した警察官は処分されるのでしょうか。

1.誤認逮捕について

(1) 誤認逮捕とは

誤認逮捕とは、真犯人でない者を逮捕することを指します。

冤罪と似ていますが、意味は少し異なります。

冤罪は「濡れ衣を着せられること」を意味し、無実の罪で疑われる・逮捕される、無実の罪で有罪判決を課される場合などを広く含みます。
誤認逮捕は、有罪か無罪か判断するよりはるか前の逮捕段階で犯人を見誤った場合に起こることです。

あらぬ疑いにより不利益を受ける点で、両者は共通するでしょう。

(2) なぜ誤認逮捕は起こり得るのか

誤認逮捕が起こることはあまりありませんが、0ではありません。なぜ誤認逮捕は起こり得るのでしょうか?

逮捕は、犯罪が起きた場合に、犯人と疑われるものを対象に行われます。つまり、その者が犯人である確証はない状態で逮捕は行われるのです。

そもそも「逮捕」は、後の起訴・不起訴の判断や裁判のために、犯人と疑われる者の逃亡を防いだり証拠の隠滅を防いだりするために行われます。真犯人か否かというのは、後に裁判で判明するものなので、逮捕した者が真犯人ではないといったことは起こり得るのです。

たしかに、捜査機関は通常逮捕する場合は、その前に入念に捜査をしますし、また、通常逮捕に際しては裁判官の審査を経るのが通常ですから、誤認逮捕が行われる可能性は低いです。

しかし、捜査機関は全ての証拠を収集できているわけではないので、逮捕時点の証拠に基づき、真犯人でない者を逮捕してしまう時はあります。また、裁判官は捜査機関から提出された資料を基に審査を行いますから、裁判官が誤認逮捕を防ぐことは不可能に近いです。

2.誤認逮捕が起こり得るケース

(1) 捜査機関の勘違いや虚偽の被害届・告訴状が出された場合

あまりないケースですが、自分に恨みを持つ者が虚偽の被害届を出したり犯罪をでっち上げたりした場合には、誤認逮捕の危険があります。虚偽の証拠を作り上げたうえで、不利益な事実を推認させるなんらかの物証が存在する場合には、誤認逮捕が起こる可能性があるでしょう。

最近の事例だと、他人を唆して虚偽の110番通報をさせて誤認逮捕がされたケースがあります(東京地判令和2年5月26日LEX/DB25584124)。

また、防犯カメラに映った犯人と異なる人物を逮捕してしまったケースがあります(山口地判平成29年1月18日LEX/DB25545306)。

その他にも、身代わり犯人が自首した場合の逮捕も、誤認逮捕と言えるでしょう。

(2) 誤って現行犯逮捕がされた場合

犯人でないのに、周囲の人の勘違いで犯人とされてその場で現行犯逮捕されるケースです。痴漢冤罪事件の場合は、このように誤認逮捕されることがあり得ます。

現行犯逮捕をするには先述の通常逮捕と異なり、裁判官の審査は不要であり、また捜査機関に限らず私人でも行うことが可能なので、類型的に誤認逮捕が起こりやすいといえるでしょう。
しかし、「その場で犯人と疑われ警察署に連れてかれたが、身の潔白を証明することができた」なら、逮捕は免れることの方が多いでしょう。

とは言え、捜査機関が証拠を偽造して犯罪をでっち上げたケースでは誤認逮捕されると思われます。

誤認逮捕を行った警察官はクビになる・処分されるか?

先述のように、逮捕は真犯人でない者に対しても行われる可能性のあるものです。また、逮捕が適法か違法かは逮捕当時の証拠に基づき判断され、後に誤認逮捕と明らかになったとしても逮捕が違法となるわけではありません。したがって、誤認逮捕であるからと言って警察官がクビになったり処分を受けたりするわけではありません

とはいっても、警察官が証拠を捏造するなどした場合には、違法な逮捕であり、これを行った警察官がクビになったり、刑事処分を受けたりすることになるでしょう

なお、警察官個人を訴えることもできないとされており、誤認逮捕があって損害を被った場合、訴える相手は国になります(最判昭和30年4月19日民集第9巻5号534頁)。

3.誤認逮捕されたらどうする?

繰り返しますが、誤認逮捕されるケースというのは少ないです。
例え犯人ではないかと疑われても、客観的証拠からその疑いが晴れることもありますし、また、捜査機関もある程度犯罪の疑いが深まった場合に逮捕を行うためです。

加えて、「犯罪を疑われ警察署まで行くなどしたが、結局逮捕はされなかった」ということも多いでしょう。

しかし、誤認逮捕が行われる可能性は0ではありません。万が一逮捕されてしまった場合には、どうすれば良いのでしょうか。

(1) 弁護士に相談する

誤認逮捕されたら、とにかく弁護士に相談しましょう。

いくら自分が犯人でないといっても、捜査機関はあなたが犯人と思っているわけですから、すぐに疑いは晴れないことも多いでしょう。その場合、法律の専門家である弁護士を呼び、疑いを晴らしてもらうべきです。

弁護士を呼べば捜査機関を説得することはもちろん、身体拘束されているあなたや家族に代わって、犯人ではないことを裏付ける証拠等を収集してくれます。

誤認逮捕の後に起訴されることがあれば大変です。刑事手続きにおいて冤罪は最も避けなければならないものですので、これを避けるためには弁護士の力が必要です。

(2) 損害賠償を請求する

起訴後無罪判決が出された場合には、刑事補償法により補償を請求できますが、これは誤認逮捕には該当しません。

誤認逮捕された場合、直ちに損害賠償を請求できるというわけではなく、被疑者補償規定により、身体拘束された期間1日につき1,000円以上1万2,500円以下の補償を受けることが出来ます。しかし、これは検察官の裁量によるところが多いので十分な救済手段とはなっていないのが実情です。

また、これとは別に損害賠償を国に請求するにしても、先述のように誤認逮捕=違法とはならないため、請求は困難な場合が多いです。

したがって、誤認逮捕された場合は専門家たる弁護士に相談しながらどのような手段をとるか判断をするべきです。

4.まとめ

誤認逮捕でもそうでなくても、「逮捕」された場合には身体拘束をされてしまいます。
逮捕・勾留から一日でも早く解放されるためには、どうぞお早めに弁護士までご相談ください。

刑事事件コラム一覧に戻る